リテンションマーケティングとは、既存顧客と信頼関係を築くための取り組みのことです。新規顧客の創出が難しくなっているといわれている現代では、既存顧客と長く付き合うための施策に注目が集まっています。リテンションマーケティングは、その施策のひとつです。
顧客のニーズに合わせた情報提供やサポートによって価値を感じてもらい、良好な関係を築くのがリテンションマーケティングの基本です。
本記事では、リテンションマーケティングの概要、注目されている理由、得られる効果、具体的な手法、成功に導くためのポイントを解説します。
リテンションマーケティングとは?
リテンションマーケティングとは、顧客と良好な関係を築くことを目的としたマーケティング手法です。顧客に価値を提供して信頼関係を築くことで、結果的に企業の利益につなげます。
キャンペーンやクーポンの配布、商品・サービスの利用に関するアフターサポートなど、リテンションマーケティングの手法は多岐にわたります。その際に意識すべきポイントは、顧客のニーズに合った施策を検討することです。
リテンションマーケティングをきっかけに、顧客のニーズについてあらためて考えることは、自社のマーケティング戦略の見直しにもつながります。
リテンションマーケティングが注目されている理由
あらゆる商品やサービスがあふれている現代では、商品・サービスそのものの価値だけでなく、購入前から購入後のフォローアップにいたる過程で質の高い顧客体験を提供することが求められます。
マーケティング施策も顧客を主体に設計することが重要で、リテンションマーケティングはその手法のひとつといえます。
顧客のニーズに沿った価値提供を継続することで、顧客との関係性が長く続きます。結果として、企業の中長期的な成長につながるという視点を持ちましょう。
リテンションマーケティングで得られる効果
ここでは、リテンションマーケティングで得られる効果を解説します。
- 既存顧客のLTVが向上する
- 優良顧客の醸成につながる
- 顧客ロイヤルティが高まり新規顧客の創出も期待できる
- 休眠顧客へのアプローチができる
- フィードバックによるサービス改善ができる
既存顧客のLTVが向上する
リテンションマーケティングにより、リピート顧客が増えるとLTV(顧客生涯価値)が向上します。LTVとは、1人(または1社)の顧客が取引開始から終了までにもたらす利益を示す指標です。
LTVの計算式は「顧客単価×粗利率×購入頻度×(取引期間?顧客の維持コスト)」です。
既存顧客に商品・サービスをリピートしてもらえれば、顧客単価や粗利率などが向上するため、LTVも向上します。現代では、人口減少などによって新規顧客の創出が困難といわれています。安定的に収益を確保していくために、LTVの向上が重要となるでしょう。
LTVについて詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
優良顧客の醸成につながる
優良顧客は、長期的に商品・サービスを利用してくれることから、上位のサービス(アップセル)や関連商品(クロスセル)につながる可能性があります。
優良顧客を醸成するには、日頃から地道に有益な情報などの価値を提供することが大切です。ときには、限定クーポンや顧客限定のイベントなどの特別な体験を提供して、顧客満足を高めましょう。
顧客ロイヤルティが高まり新規顧客の創出も期待できる
リテンションマーケティングにより顧客ロイヤルティが高まれば、口コミやレビューによって新規顧客の創出につながります。顧客ロイヤルティとは、顧客が特定の商品・サービスや企業に対して愛着や信頼を感じ、継続的に利益をもたらしてくれることです。
新規で商品・サービスを利用する際に、購入者のレビューやSNSの投稿を参考にする消費者も多く存在します。顧客ロイヤルティを高めることは、既存顧客との関係構築だけでなく、間接的に新規顧客を創出することにもつながります。
顧客ロイヤルティについて詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしましょう。
休眠顧客へのアプローチができる
リテンションマーケティングの手法のなかには、利用が遠ざかっていた休眠顧客へのアプローチがあります。休眠顧客とは、過去に商品・サービスの利用があったが、その後一定の期間利用をしていない顧客のことです。
休眠顧客がCRMツールの利用をしていたのであれば、利用履歴やログイン履歴を参考にして、なぜ利用されなくなったのか分析を行います。そして、使い方がわからず利用されなくなったのであれば、利用方法や活用事例などを配信してアプローチします。さらに、限定特典やキャンペーンの情報を提供して、再び自社に目を向けてもらいましょう。
フィードバックによるサービス改善ができる
リテンションマーケティングでは、次のような場面で顧客からのフィードバックを得られます。
- SNSで発信されたコメント
- カスタマーサポートに寄せられた問い合わせ
- カスタマーサクセスの取り組みで得られた顧客の声
質の高いフィードバックが蓄積されれば、既存の商品・サービスの改善点が明確にできます。フィードバックを参考にして、より良い商品・サービスに改善しましょう。
リテンションマーケティングの具体的な手法
ここでは、リテンションマーケティングの具体的な手法を解説します。
- SNS
- メール配信
- レコメンド
- プッシュ通知
- リテンション広告
- カスタマーサポート
- カスタマーサクセス
- オフラインイベント
SNS
TwitterやInstagramなどのSNSを活用した手法です。
SNS施策の一例は次の通りです。
- 商品・サービスに関する有益な情報の発信
- 企業を身近に感じてもらう社内情報の発信
- 口コミを残している顧客への返答
拡散力の高いSNSは、顧客ロイヤルティの向上や新規顧客の創出につながります。有益な情報の発信を続けて、顧客との関係を構築しましょう。
メール配信
既存顧客に有益情報のメール配信を行う手法です。顧客全員に同じ内容を配信するのではなく、購買履歴などに応じた内容を配信することで効果を発揮します。
メール配信施策の一例は次の通りです。
- 初回購入から日が浅い顧客にクーポンメールを配信する
- サービス利用を開始したばかりの顧客に利用方法のメールを配信する
- 購入から一定期間過ぎた顧客にクーポンやキャンペーンメールを配信する
メール配信後は開封率やクリック率、CVR(コンバージョン率)などのデータを取得して、分析と改善を繰り返しましょう。
レコメンド
レコメンドとは、顧客の購入履歴や閲覧履歴などをもとに、WebサイトやECサイトで顧客に最適なサービス・商品をおすすめする手法です。Amazonなどで見られる、「あなたにおすすめの商品」「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」などがレコメンドです。
レコメンドは一般的にツールを導入して利用します。顧客満足度を高めるためにも、レポート機能が着いたものをおすすめします。レコメンドを上手に活用すれば、上位の商品・サービスを利用してもらうアップセルや、関連商品を購入しもらうクロスセルにつなげられるでしょう。
プッシュ通知
プッシュ通知は、アプリケーションの休眠顧客に有効な手法です。スマートフォンの画面に、お得情報やイベント情報を通知して、定期的な起動を促します。
プッシュ通知施策の一例は次の通りです。
- 【まもなく終了】年末限定セール
- 【本日限り】お得なキャンペーン実施中
- 【期間限定】割引クーポン配信中
特にスマートフォンのアプリケーションは、手軽にダウンロードできる反面、継続して利用される割合は少ないといえます。プッシュ通知はメール配信と比較して、顧客がアプリケーションを開く手間がありません。開封されやすいプッシュ通知は、休眠顧客に対して起動を促すのに最適です。
リテンション広告
リテンション広告とは、アプリケーションの利用促進や休眠顧客にもう一度使ってもらうための広告です。広告効果計測SDKを実装すると、アプリケーションの起動状況や課金状況などのユーザーのイベントデータを取得できます。
イベントデータから、30日以上休眠しているユーザーなどのセグメントを作成して、そのセグメントに応じた広告を配信します。例えば、30日以上休眠しているユーザーに対して、限定イベントやキャンペーン情報などの広告を配信して、アプリケーションの起動を促すなどの方法があげられます。
ただし、広告を出稿するプラットフォームによって、設定できる条件は決まっているので注意しましょう。
カスタマーサポート
カスタマーサポートとは、顧客からの質問や要望を受け付ける窓口です。顧客と良好な関係を築くにはアフターフォローが欠かせません。カスタマーサポートにより、顧客が抱える疑問や不明点を解決し、関係性を築きます。
顧客の利便性を高めるために、メールや電話だけでなくラインやチャットサービスなどの用意も効果的です。また、顧客の声を集め、商品・サービスの改善につなげられるメリットもあります。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、顧客の抱える課題を解決して成功体験に導くサポートを実施します。受動的なカスタマーサポートとは違い、顧客に対して能動的に活動を行います。
カスタマーサクセスの活動の一例は次の通りです。
- オンボーディング:初回利用時のサービスの使い方を説明する
- アダプション:サービスの活用度を高める
- アップセル・クロスセル:サービスの利用単価を高める
オフラインイベント
オフラインイベントにより顧客同士で悩みを解決したり、サービス・商品の知識を深めたりする手法です。
ワークショップやセミナー、顧客同士の交流会、新商品の体験会などイベントを開催します。オンラインの手法と比較すると拡散力はありませんが、商品・サービスに関する知識が深まりやすく、顧客ロイヤルティの向上にもつながりやすいです。
リテンションマーケティングを成功に導くためのポイント
リテンションマーケティングを成功させるには、成果指標の明確化や顧客分析、セグメントに合わせたアプローチなどが重要です。
ここでは、リテンションマーケティングを成功に導くためのポイントを解説します。
成果指標を明確にする
明確な成果指標を定めることで、施策の効果や改善の必要性、継続の可否などが判断しやすくなります。
代表的な成果指標は次の通りです。
- リテンションレート:既存顧客のサービスの継続率・定着率
- ユニットエコノミクス:顧客1人当たりの収益性
- チャーンレート:サービスを解約した顧客の割合
1週間・1か月・四半期・1年ごとなど、自社に合う期間を設定して成果推移を確認しましょう。
チャーンレートについて詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
顧客分析・分類を行う
リテンションマーケティングでは、顧客を分析して顧客に合ったアプローチを行うことが重要です。
そのためには、次のようなデータを収集して顧客分析・分類を実施します。
- 顧客の属性
- 過去の購入履歴
- Webサイトの訪問状況
- アプリケーションの利用状況
- メールの開封履歴
- アウトバウンド履歴
顧客データの管理や分析、分類などは専門的なスキルが必要であり、手間もかかります。そのため、分析時にはCRM(顧客管理ツール)などの導入がおすすめです。
CRMについて詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしましょう。
セグメントにあわせてアプローチする
リテンションマーケティングでは、分析をもとにした「One to Oneマーケティング」の実施が効果的です。顧客に最適化した施策を行うことで、LTVやロイヤルティの向上が期待できます。
セグメントに合わせたアプローチの一例は次の通りです。
- 良好な関係を築けている顧客に対しては、アップセルやクロスセルの提案と同時にお得なクーポンなどを提供する
- 休眠顧客に対しては、過去に開封率の高いメール内容を再構築して配信する
アプローチのポイントは、顧客に商品・サービスの利用を勧めるだけでなく、購入前から購入後まで質の高い顧客体験を提供することです。顧客のニーズに沿った提案を実施しましょう。
効果測定と改善を繰り返す
リテンションマーケティングでは、効果測定と改善を繰り返すことが重要です。
次のような流れでPDCAサイクルを回しましょう。
- 顧客分析・分類の実施
- セグメントに応じたアプローチ
- 成果指標の推移の確認
- 課題抽出と改善
効果測定と改善を繰り返すことで、マーケティング施策の精度が高まり、より良い関係を築けます。顧客に満足してもらうためにも常に改善を繰り返して、有効なリテンションマーケティングを実施しましょう。
リテンションマーケティングを実施する際の注意点
ここでは、リテンションマーケティングを実施する際の注意点を解説します。
成果が出るまでにコストがかかる
リテンションマーケティングには、導入コストやランニングコストなどがかかることを理解しておく必要があります。
必要となるコストの一例は次の通りです。
- SNS運用の代行費用
- レコメンド導入費用
- CRM導入費用
- カスタマーサクセスの人件費
正しく実施すればコスト以上の成果が期待できます。費用対効果を考慮しながら、適切に施策を実施しましょう。
長期的な運用が求められる
リテンションマーケティングは、目標に向けてコツコツと長期的に運用する必要があります。目に見える成果が出なくても、顧客分析やSNS配信、メール配信などを地道に続けましょう。
リテンションマーケティングで成果を出すには、体制の構築も重要です。専任の担当者を立てるなどして、長期的に運用できる体制を整えましょう。
リテンションマーケティングにより顧客と継続的な関係を築こう
中長期的に企業を成長させてくれるのは、信頼関係を築いた既存顧客です。あらゆる業界で競合が多い現代では、顧客と中長期的な関係を築くことは必要不可欠となるでしょう。
顧客に価値のある体験を提供し、満足度が向上した結果として、企業も成長できるという視点を持つ必要があります。
リテンションマーケティングを成功させるには、顧客理解を深めてデータ分析と改善を繰り返すことが重要です。既存顧客のニーズに沿ったアプローチを行い、信頼関係を構築していきましょう。