希少性の原理をマーケティングに生かした8社の事例

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戸栗 頌平(とぐり しょうへい)
戸栗 頌平(とぐり しょうへい)

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学校で経済学の基礎を習った人は、次のような法則を覚えているかもしれません。

希少性の原理をマーケティングに生かした8社の事例

それは、供給が少なくて需要が多い商品は価格が上がる、というもの。そう、需要と供給の法則です。

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このような基本的な法則の話を持ち出したのには理由があります。商品の需要と供給が変化することで、希少性の原理が作用し始める場合があるからです。

希少性の原理は、人間の心理をつかさどっている原理の1つとして、Robert Cialdini氏が打ち出しました。商品、オファー、コンテンツなどがレアで入手困難になるほど、その価値が高く感じられる、という原理です。この商品はもうすぐ手に入らなくなる、と思ったときの方が、そのような希少性を感じなかったときよりも、購入へと動く可能性が高まります。

企業も、フォームへの入力や商品の購入など、目的の行動を起こしてもらうために、希少性の原理を生かすことができます。たとえば、KAYAKをはじめとする航空券予約サイトでは、検索結果の中に、この価格で買える航空券は残り数席のみ、という表示が出ることがよくあります。

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周知のとおり、航空券は価格が大きく変動しますので、安く買えそうな曜日や時間が来るまで予約を待とうとする人もいます。そこで、この価格で買えるのは残りわずか、ということを認識させれば、待ったあげくに価格が上がるというリスクを負うのはやめて、今すぐに買わなくてはという気になります。

以上が希少性の原理の概要です。ここからは、希少性の原理をマーケティングや販売にうまく生かしている8社の事例を見ていきましょう。

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希少性の原理を生かしている8社の事例

1)Snap Inc.

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出典:Spectacles

一定の時間でメッセージが消えるソーシャル メディア アプリ「Snapchat」を手がけるSnap Inc.は、「Snapchat Spectacles」というカメラ付きサングラスを2016年9月に発表しました。サングラスをかけたままで10秒間の動画を録画できるというものです。

しかし、当初この商品は、ネット通販や小売店では取り扱いがなく、「Snapbot」という自動販売機でしか買えませんでした。Snapchatのカラーに塗られたこの自販機は移動式で、全米各地にランダムに出没しました。

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出典:Phandroid

自販機の出没場所について、事前の予告はありません。今どこにあるかという情報は、主にSNSで広がりました。そして、その日の販売分が売り切れになる前に買いたいと思った人が、長い行列を作りました。

現在では、ネット販売や期間限定ショップでもSpectaclesを買えますので、自販機の前に頑張って並ぶ必要はありません。しかし、自販機のみを使った最初の策は、希少性の心理に対するアプローチとしてユニークでした。自販機が自分の街に来ているその日のうちしかSpectaclesを買えません。売り切れになる前に、誰よりも早く手に入れなくてはという気になります。

しかも、その希少性から、我がHubSpotも含めて、皆がこぞってSpectaclesを話題にしました。ユニークな販売手法がブログ記事やSNSで取り上げられた結果、この商品への関心にいっそう火が付きました。

Spectaclesの売上について、現時点の確たる数字はわかりませんが、MediaKixの推定によると、2020年にはSpectaclesの売上は50億ドルに達するとのことです。

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2)Google

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出典:OptimiseWeb

かつて、GoogleのSNS「Google+」にぜひとも参加したいと皆が思っていた時期がありました。2011年6月に始まったGoogle+は、当初は完全招待制でした。既に参加している友達かGoogleからの招待がないと参加できなかったのです。

このように門戸が狭められている中、わずか2週間で1000万人のユーザーがGoogle+に登録しました。その後、2011年9月からは、Googleのアカウントを持っていれば誰でも参加できるようになり、それからの1年間で4億人が登録しました。デイリー アクティブ ユーザーは1億人以上となり、ユーザーの注目を巡って他の大手SNSと争う存在になりました。

現在では、Google+には当時のような話題性はありません。近年のGoogleは、YouTubeやGmailなど、広く使われている同社の各種プロダクトとGoogle+との結び付きを緩める策を講じつつあります。しかし、Google+が始まった当初は、招待の供給が少なかったことが需要の高まりを生み、膨大な数の登録へとつながりました。

3)任天堂

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出典:TechCrunch

任天堂が2006年に発売したゲーム機「Wii」は、またたく間に人気商品となりました。米国で2006年11月に発売された当初は、一刻も早くWiiを何とか手に入れようと、人々が行列を作ったほどです。しかも、熱狂はそのときだけではありません。

それから3年近くにわたって、Wiiは飛ぶように売れ、ゲーム販売店では品薄が続きました。任天堂が供給力を高め、月間生産台数を180万台、さらには240万台と増やしていったにもかかわらずです。

その後、ついに供給が需要に追いついた頃、Wiiの販売台数は4800万台に達していました。当初の月産台数が少なかったことから、今すぐにもっと買いたいという欲求を顧客に抱かせることに成功しました。

人々は、希少性の心理によって、チャンスがあったら何としてもWiiを買いたいという気になりました。Wiiを手に入れるためには、配達ドライバーの後をつけて、小売店に商品が入荷するタイミングを探り出せ、という発言をNintendo of Americaの幹部がしていただけになおさらです。

4)Starbucks

Starbucksがメニューに「ユニコーンフラペチーノ」を加えたことに、コーヒー愛好者からは非難の声が上がりました。ユニコーンフラペチーノは、クリームやパウダーが入ったフルーツフレーバーのドリンクで、Instagramによく似合う派手な色合いです。

数日限定で販売することを同社がウェブサイトで発表したところ、ユニコーンフラペチーノを注文する利用客が店鋪に殺到し、早々に売り切れとなりました。売上の数字は不明ですが、Instagramには#unicornfrappuccinoというタグの投稿が約16万件もあります。

Starbucksが期間限定の取り組みを多数の注文とソーシャルメディアのエンゲージメントにつなげている例としては、レッドカップもよく知られています。年末のホリデーシーズンの間だけ、特製の赤いカップでドリンクを提供するというものです。

利用客に来店してもらって、#RedCupsというタグで写真をSNSに投稿してもらうのが狙いです。こちらの例は、通常のフードやドリンクに希少性を持たせていることがミソです。

5)Girlfriend Collective

Girlfriend Collectiveは、あるシンプルなオファーを期間限定で実施しました。送料さえ負担すれば、100ドルのレギンスを無料で送ってもらえるというものです。応募者に義務づけられたのは、Girlfriend CollectiveのウェブサイトへのリンクをFacebookでシェアすることだけでした。

この頃、Girlfriend Collectiveはウェブサイトを立ち上げたばかりでした。そこで、広告にかかる予算をすべて商品の生産に回せるよう、女性の消費者にレギンスの情報を広めてもらおうとしていたのです。

よくよく考えてみると、これは賢明な手法です。結局のところ、レギンスの無料進呈を宣伝するFacebookの広告と、友達の半数がニュースフィードで勧める情報と、どちらの方が信じる気になりやすいでしょうか。

この手法のおかげで、Girlfriend Collectiveは、キャンペーンの初日だけで1万足のレギンスを「販売」し、膨大なファンと話題性という副産物も得られました。「数量限定」と「無料」というワンツーパンチによって、このオファーは実に魅力的なものになりました。私もこのオファーに魅せられた1人です。

6)Groupon

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出典:Groupon

Grouponは、さまざまな企業と提携した割引サービスの提供と引き換えに、新規ユーザーを獲得し、売上を分け合っています。このサイトでは、上の画像のように、クーポンに期間限定販売と表示されていることがよくあります。このお得な機会を見逃さずに今すぐ購入するよう、閲覧者に促すための手法です。

このサイトは、買う気を起こさせるための心理学の手法をほかにも組み合わせています。下の例をご覧ください。

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この例では、期間限定であることと、既に購入して高く評価している人が600人近くいることを明示しています。つまり、希少性の原理とソーシャルプルーフを使って、閲覧者を購入へと誘おうとしています。こうした戦略が功を奏し、Grouponの近年の売上高は30億ドルを超えています。

7)Spotify

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出典:Geek

音楽ストリーミングのSpotifyが最初にサービスを始めたとき、英国だけは、友達やSpotifyからの招待がなくてもユーザー登録を行うことができました。しかし、人気の高まりを受けて、英国のSpotifyも、招待を必須としました。

Spotifyがサービス開始時に世界中で取り入れたこの招待制ですが、1つからくりがあります。それは、たとえ招待がなくても、有料版のアカウントであれば誰でも登録できたという点です。Spotifyは、希少性の原理を使って、利用者のニーズを喚起し、有料で登録できる方法を示しました。現在、Spotifyを利用している1億人の半数は、有料版のユーザーです。

8)TOMS

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出典:TOMS

シューズブランドTOMSの優れたバリュープロポジションは、靴の履き心地やスタイルだけではありません。靴が1足売れるごとに、途上国の子供に靴を1足寄付するという活動を行っているのが特徴です。そして、さらに一歩進んだ取り組みとして、外部の援助機関とも提携し、売上の一部を他の慈善活動にも生かす活動を進めています。

TOMSの顧客は慈善活動に理解があるものと推測されますから、他の援助につながる靴も買ってくれそうなのは間違いありません。でも、さらにひと押しがあるとよさそうな気がします。そこで同社は、たとえばWildAidと提携して取り組んでいるパンダの保護活動では、その提携をテーマとするコーナーをサイトの中に立ち上げました。

WildAidと提携した理由や、パンダについての豆知識、パンダをテーマにしたユニークなデザインの靴などを紹介しています。

そして、そのサイトを見た訪問者が、パンダをテーマにした靴の商品情報を開くと、そこにはさりげなく、この靴の販売は期間限定だと書いてあります。つまり、かわいいパンダを救えるのも時間に限りがある、と示しているのです。

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ここでは、希少性の心理を使って、商品購入と慈善活動への協力を促すTOMSの手法が効果を発揮しています。私も、もしかしたら1足買うかもしれません。

希少性の表現にご注意を

商品のプロモーションやセールスに希少性の原理を生かすのは、買う気を起こさせるうえで効果的な作戦かもしれませんが、その表現方法を間違えないようにしましょう。たとえば、以前は豊富にあった商品が、人気の急騰によって残りわずかになった、という話の流れで希少性を訴えるのなら、すんなり受け入れてもらえるはずです。

一方、とにかく商品が少ないから今すぐ手に入れろ、というような表現で希少性を訴えた場合、さほど効果的ではないかもしれません。

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希少性の原理を生かしている企業の例をほかにご存じでしたら、ぜひコメント欄でお聞かせください。

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編集メモ:この記事は、2017年5月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Sophia Bernazzaniによる元の記事はこちらからご覧いただけます。

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