金融機関から資金を調達する際は、企業の収益性や資産の有無など「安定」が求められます。しかし、収益が不安定な創業間もないベンチャー企業にとってはハードルが高い場合が多いでしょう。
一方、ベンチャーキャピタルは企業の安定性よりも「将来性」に重きを置いて投資するため、収益力に不安があるベンチャー企業でも資金調達できる可能性があります。
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターが発表した「ベンチャー白書2020 」によると、ベンチャーキャピタルから資金調達を経験したベンチャー企業の割合は全体の約 4割 にのぼっています。現在、多くの企業にとって、ベンチャーキャピタルの存在は身近になっているようです。
ただ、これからベンチャーキャピタルからの資金調達を実施しようと考える経営者にとっては、わからないことが多いと思います。ベンチャーキャピタルはどのような判断基準で投資を決定するのか。ベンチャーキャピタルからの資金調達を受けるべき企業の特性とは。実際に投資を相談したい場合はどうやってコンタクトすればいいのか。
実は当社HubSpotも、約34億円(3,000万ドル)規模のベンチャーキャピタルファンド「HubSpot Ventures」を2018年に設立しており、独自の基準で投資判断し、運用しています。投資判断の基準は各社様々ありますが、一例としてHubSpotの判断基準をご紹介します。
合わせて、本記事ではベンチャーキャピタルの基本的な仕組みや、その他の資金調達法との違い、ベンチャーキャピタルを活用するメリット・デメリット、資金調達を実施するまでの流れを解説します。ぜひ参考にしてみてください。
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ベンチャーキャピタルとは?
ベンチャーキャピタルから資金調達する最大のメリットとして、銀行からの資金調達と違い「返済義務がない」ことがあげられます。
しかし、どうしてこのような仕組みで運用できているのでしょうか?その理由を知るためには、まずはベンチャーキャピタル特有のビジネスモデルを理解する必要があります。
ベンチャーキャピタルの投資スキーム
ベンチャーキャピタルの投資スキームは、大体は以下のような流れになっています。
1)ファンドの組成
ベンチャーキャピタルがさまざまな事業会社、金融機関、機関投資家から出資を募り、投資に必要な資金を確保して投資を行うファンドを組成します。
2)投資
さまざまな手段を駆使して発掘したベンチャー企業とのマッチングを行い、審査を通過した企業にファンドから投資を行います。この時、VCは投資の対価として投資企業の株式を取得します。
3)育成・支援
投資先にノウハウ、人材などさまざまな情報提供をしながら成長を支援します。
4)イグジット
投資したベンチャー企業が株式上場、またはM&Aなどで保有株式を売却することを「イグジット(EXIT)」と呼びます。ファンドは株式を売却することによって、投資のリターンである「キャピタルゲイン」を得ます。
ベンチャーキャピタルは投資先が上場することでキャピタルゲインを得る
ベンチャーキャピタルは原則として、株式上場を目指す企業に投資します。投資の対価として企業の株式を取得し、投資先がイグジットするまでファンド内で株式を保有します。
そして投資先がイグジットすると株式を売却して、その時点ではじめてキャピタルゲインを得られます。このため、金融機関から借り入れる融資と違い、返済する義務が生じません。
ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討すべき企業とは?
ベンチャーキャピタルからの資金調達を考えるべきか、否か判断する基準はどこにあるのでしょうか?
それを簡易的に判断する方法として、下記のチェックリストを使って、あなたの企業がベンチャーキャピタルからの資金調達を検討する必要があるかチェックしてみてください。結果に中間やNoが多い場合は、その他の資金調達法を考える必要もあります。
資金調達を受ける?or 受けない?チェックリスト
Yes |
中間 |
No |
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株式上場を視野に入れているか? |
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銀行から融資を受けられる可能性は低いか? |
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数億円規模の調達金額が必要か? |
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合計 |
ベンチャーキャピタルからの資金調達を考えたいケース
チェックリストで「Yes」が最も多くなった場合は、ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討しましょう。「中間」が多くなった場合でも、一度ベンチャーキャピタルと接触して相談してみる価値はあります。
また「Yes」「中間」「No」に回答が分かれてしまったという場合や、判断に迷った場合は、「株式上場を視野に入れているか」どうかが最大のポイントです。視野に入れている場合は、ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討してみてください。
ベンチャーキャピタル以外の資金調達法を考えたいケース
チェックリストで「No」が一番多かった場合は、他の資金調達法を考えた方がいいかもしれません。
ベンチャーキャピタル以外に考えられる資金調達法としては、下記のような手段があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるので、自社に合う方法を比較検討するようにしましょう。
|
特徴 |
融資 |
銀行、金融公庫から資金調達する方法 審査が通りにくい、返済義務があるなどハードルが高い。経営に介入されず自由度を保てるメリットがある。 |
補助金・助成金 |
国や自治体が設ける助成金・補助金を使って資金調達する方法 返済義務がないのがメリット。デメリットは申請・支払いに時間がかかる。 |
ファクタリング |
入金待ちの売上債権を買ってもらって資金調達する方法 倒産の危機があるなど緊急を要する時は、すぐに現金化できるメリットがある。一方で、会社の信頼度を落とす可能性もある。 |
クラウドファンディング |
インターネットを通して不特定多数の人から少額の資金調達をする方法 審査や返済義務がなく手軽に資金を集められます。一方で一人ひとりからの投資は少額のため、数億円規模の資金調達はかなり難易度が高くなります。 |
ベンチャーキャピタルから資金調達するメリット・デメリットは?
ベンチャーキャピタルから資金調達するメリットと、あらかじめ押さえておきたいデメリットを詳しく解説します。
ベンチャーキャピタルから資金調達する3つのメリット
ベンチャーキャピタルから期待できる主なメリットをご紹介します。
メリット1:事業ステージに関係なく出資してもらえる可能性がある
ベンチャー企業の成長過程を初期から4ステージに分けて、「シード」「アーリー」「エクスパンション」「レーター」と言います。
ベンチャーエンタープライズセンターの投資動向調査によると、2018年度の国内総投資額のうち、約60%以上が創業間もない「シード」「アーリー」ステージの企業へ投資されています。収益力が不安定な、設立したばかりのベンチャー企業でも、資金調達できる可能性があるのが、ベンチャーキャピタルとつながるメリットの1つです。
メリット2:経営ノウハウの指導が受けられる
ベンチャーキャピタルの中には資金提供だけでなく、豊富な経験や人脈を通じて不足するノウハウや人材のマッチングなど、企業の成長をいろいろ手助けしてくれる場合があります。とくに起業が初めてという場合、コーポレートガバナンスに対する知識は学ぶところが多いでしょう。
メリット3:事業提携がしやすくなる
ベンチャーキャピタルはさまざまな事業会社や金融機関、機関投資家らとファンド組合を組成するので、必要に応じて組合員から投資先へ情報提供も行っています。ベンチャー企業に足りないリソースを確保するために、事業提携先を紹介してもらえる可能性もあるでしょう。
ベンチャーキャピタルから資金調達する2つのデメリット
ベンチャーキャピタルから支援を受ける前に、抑えておきたいデメリットをご紹介します。
デメリット1:業績次第では、早期に資金回収されるリスクも
業績が悪かったり、競合が現れたりして「将来性がない」と判断されると、早期に資金を回収されるリスクがあるので注意したいところです。資金を回収する方法としては、関連する事業を行う企業にM&Aなどの方法が挙げられます。
デメリット2:上場のコストと手間がかかる
上場する場合、それにかかるプロジェクトチームの立ち上げ、経営管理体制の整備、上場申請の手続きなど準備にかかる労力は膨大です。
また費用も抑えておきたいポイントです。JASDAQ上場の場合、監査費用、コンサルティングなど合わせて数千万円単位の費用がかかると言われています。
返済義務がない、経営支援が受けられるなどメリットも大きいベンチャーキャピタルですが、その目的が株式上場によるキャピタルゲインの場合も多いため、さまざまなリスクがあることも念頭に置いておきましょう。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるために知っておきたい3つのポイント
資金調達の意思が定まったら、ベンチャーキャピタルが重視するポイントと、実際にどのようなアクションが必要になるか解説します。
最適なベンチャーキャピタルを見つける方法
ベンチャーキャピタルにはさまざまなタイプがあります。下記のポイントを抑えて、自社に合ったVCを見つけましょう。
ポイント1:VCの投資領域と自社事業は合っているか
ベンチャーキャピタルは強い領域に特化して投資するケースが多いため、お互いの強みがマッチするかどうか、まず見極めましょう。
ポイント2:どれだけフォローしてもらえる可能性があるか
投資先にノウハウやリソースを提供するかどうかは、ベンチャーキャピタルによって異なります。フォローが必要な場合は、これらを提供しているかどうか事前に確認しましょう。
ポイント3:投資ステージが合っているか
ベンチャーキャピタルによっては、シード専門など、特定の事業ステージに絞って投資している場合があります。自分のステージがどの段階にいるのかを理解したうえで、打診相手を探す必要があります。
ベンチャーキャピタルと連絡をとる方法
ベンチャーキャピタルと接触する方法をいくつかご紹介します。
知人に紹介してもらう
ベンチャーキャピタルと知り合う方法は、知人による紹介がオーソドックスな方法の1つです。またベンチャーキャピタリストの間でも、クチコミによる投資先の発掘がさかんに行われています。
ベンチャーのイベントに参加する
最近は起業家をサポートするイベント等の機会が増えているため、そのようなチャンスを利用するのも方法の一つです。積極的に参加して、コネクションを築くといいでしょう。
直接連絡する
事業プランを持ち込み、話を聞いてもらえるよう交渉することもできます。日本ベンチャーキャピタル協会や、ベンチャーエンタープライズセンターなど団体で情報を得られるので、ぜひサイトをチェックしてみてください。
マッチングサイトを利用する
ベンチャーキャピタルとのマッチングを助けてくれるインターネットサービスも増えてきています。さまざまなタイプのベンチャーキャピタルから、自分の条件に合うところを効率的に探す手助けとなるでしょう。
ベンチャーキャピタルが投資を判断するポイント
ベンチャーキャピタルが起業を見極める時、企業のどこを見ているのでしょうか。いくつかのソースを参考に、主要なポイントをいくつかご紹介します。
ポイント1:イグジットの可能性があるかどうか
ベンチャーキャピタルのファンドには期限があるため、それまでに上場か、M&Aによるイグジットができるプランを提示できなければ投資が受けられません。通常の期限は10年ですが、それよりも早い段階で投資を終えるケースも多くあります。
ポイント2:事業計画に市場性や競合優位性があるかどうか
当然のことながら、あなたの提示するプランに魅力があるかどうかも重要です。ターゲットとする市場を明確にし、プロダクトやテクノロジーが「解決する課題」や「提供する価値」など、適切に伝える必要があります。
ポイント3:経営陣の実績や経験が豊富か
プランを実行するメンバーの経歴も重視されます。起業を成功させるには実行力が求められるため、過去に大きなプロジェクトを遂行した経験や、数回の起業経験などの実績も評価されるポイントです。
なお、HubSpot Ventureの場合は、以下5点を主要な投資基準としています。
- “Help millions of organizations grow better”というHubSpotのミッションと軌を同一にすること
- HubSpotのコミュニティに独自の価値をもたらす資質を持っていること
- 優れたSaaS形式のサービスを提供していること
- HubSpotのカスタマーコード(英語)とカルチャーコード(日本語)を体現していること
- シード、シリーズA、シリーズBラウンドのスタートアップで、既にリードインベスターがいること
サービスの成長見込みを冷静に見つつ、最も重視しているのは「HubSpotの思想と合致しているか」という点です。HubSpotのミッションを達成するために協力しあえるパートナーを探すことを1つの目的に置いているからです。
非常に定性的な判断基準と思われるかもしれませんが、同じ志を持てるかどうかを重視するベンチャーキャピタルは少なくありませんし、資金調達を受ける企業側としても重視したい部分ではないでしょうか。
資金調達だけでなく、良きビジネスパートナーとなれるベンチャーキャピタルを見つけよう
多くのベンチャーキャピタルは世の中の流れを読み、「10年後、あるいはもっと先の未来はこうなっていくであろう」という未来を見据えて、プロダクトやテクノロジーに投資します。特に、シードやアーリーステージのベンチャー企業は、成長するまでに最低でも5~10年かかることが多いため、ベンチャーキャピタルは戦略立案や人脈の紹介、採用や広報、そして精神的なサポートまで提供するパートナーでもあります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるのは簡単ではありませんし、労力もかかります。しかし、事業の強み・弱みをあらためて考え直したり、課題を解消したりする貴重な機会です。人脈づくりや情報収集に努め、企業がさらなるステップへ飛躍するチャンスをつかみましょう。