シンギュラリティ(技術的特異点)とは?起こり得る時期や社会への影響を解説

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伊佐 裕也(いさ ひろや)
伊佐 裕也(いさ ひろや)

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AI(人工知能)の技術が進展するに伴い、「シンギュラリティ」という言葉が注目を集め始めています。シンギュラリティとは、AIの知能が人間に追い付く時期やタイミング(技術的特異点)を表す言葉です。

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シンギュラリティによって、AIによる仕事の代替や、ベーシックインカムをはじめとする社会制度の見直しなど、日常生活や仕事環境が大きく変わる可能性があります。そのため、AIの将来性を正しく理解しておくことは、今後のライフプランやキャリアを考えるうえで重要な意味を持ちます

本記事では、シンギュラリティの意味や概要、起こり得るタイミングなどを詳しく解説します。シンギュラリティを踏まえたAIとの付き合い方も解説していますので、ぜひ参考にしてください。

シンギュラリティ(技術的特異点)とは

シンギュラリティ(技術的特異点)とは

ここでは、シンギュラリティの意味や概要を解説します。シンギュラリティが提唱された背景もあわせて解説しますので、まずは基礎知識を押さえましょう。
 

シンギュラリティの概要

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AIの知能が人間のレベルに到達する転換点を指す言葉です。

人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル博士らが、2005年に提唱しました。レイ・カーツワイル博士をはじめとする研究者によって、人間の知能と等しくなったAIが、そのタイミングを起点として加速度的に進化を遂げることが予測されています。

ただし、シンギュラリティを迎えたからといって、単にAIが人間を超えるというわけではありません。機械が人間の思考や行動をサポートし、両者が共生するためにAIが活用されると考えられています。

さらに、時代の進展によってDX(デジタルトランスフォーメーション)がさらに加速し、AIとともに人間の本質的な在り方も変化していくことが予想されています。
 

シンギュラリティが起こるといわれている背景

シンギュラリティが提唱された背景には、2000年代初頭から始まった第三次AIブームが大きく影響しています。

第三次AIブームでは、ビッグデータ解析やディープラーニングなどの、さまざまなデータ処理技術が誕生しました。さらに近年では、機械がいままでにないコンテンツ(テキストや画像など)を生み出す「生成AI」の技術も注目を集めています。

技術の発展によって、人間の思考や行動をAIが代替できる領域が増えることが期待されています

それに伴い、シンギュラリティの提唱者たちは、半導体の集積密度が18~24か月で倍増することを表す「ムーアの法則」や、複数の技術の融合によってイノベーションが指数関数的に加速する「収穫加速の法則」を、シンギュラリティの実現要因に掲げました。

実績にもとづいた理論と、それを裏付ける技術的な進歩が相まって、シンギュラリティの実現可能性が高まりつつあります。
 

シンギュラリティはいつ起こるのか?

シンギュラリティは2045年に技術的特異点に到達するという説が最も広く知られており、「2045年問題」として、これまで世界中で度々話題となり議論されてきました。これは、前述したムーアの法則や収穫加速の法則から導き出された推測です。

一方、シンギュラリティが起こる時期については2045年以外にも諸説あります。ここでは、シンギュラリティの到達点を予測する有識者の意見を紹介します。
 

ヴァーナー・シュテファン・ヴィンジ氏の見解

ヴァーナー・シュテファン・ヴィンジ氏は、シンギュラリティの概念を世界に広めた人物で、数学者兼作家として活動しています。

同氏は1993年に、「The Coming Technological Singularity」というエッセイのなかで、シンギュラリティの概念を紹介しました。そのなかで、「I'll be surprised if this event occurs before 2005 or after 2030.(シンギュラリティは2005年以前、もしくは2030年以降に起こり得る)」という表現で、シンギュラリティの到達点を予測しています。

参考:The Coming Technological Singularity|San Diego State University(英語)
 

レイ・カーツワイル氏の見解

レイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティの提唱者の一人で、「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology(シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき)」の著者でもあります。

株式会社ワークスアプリケーションズが主催する「COMPANY Forum 2016」に登壇した際、シンギュラリティが起こる時期について、次のように発言しました。

「1981年の段階では2050年が到達点だと予測しており、2016年現在でもほとんど変わりはない。(中略)2029年には人間とコンピュータと同じレベルに達し、2030年にコンピュータが人間を追い抜く

参考:レイ・カーツワイルが語る、指数関数的な「思考」とシンギュラリティの「課題」|Biz/Zine
 

否定的な意見も存在する

シンギュラリティが起こり得る未来を想定する著名人もいれば、対照的にシンギュラリティの発生自体を否定する人物も存在します。代表的なのは、スタンフォード大学の教授であるジェリー・カプラン氏です。

韓国の国立大学KAISTが主催する特別講義「人工知能を再考する」に登壇した際、「シンギュラリティはすぐに起こるわけではない。多くの著名人による仮説は誇張されている」と指摘しました。

AIは、あくまで人間のためにある技術だと主張し、将来的な恐怖よりもAIの利活用や、それによって生じる、より良い世界を実現することについて考えるべきだと考察を述べています。

参考:人工知能の権威・Jerry Kaplan氏が発言「シンギュラリティーは来ない」|ROBOTEER
 

シンギュラリティが社会に与える影響

シンギュラリティが起こると、私たちの生活にはどのような影響が現れるのでしょうか。

今後のライフプランやキャリアを考えるうえで、AIの将来性や技術進歩は避けて通れない問題です。ここでは、シンギュラリティが社会に与える影響を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
 

1. 仕事の代替

AI技術の進展で社会に大きな影響を与え得る問題の一つが、機械による仕事の代替です。

野村総合研究所と、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究によって、理論上は2025年から2035年の10年の間に、日本の労働人口のおよそ49%が就く職業が、AIやロボットなどで代替できることが予測されています

定型的な業務ほど代替可能性が高く、その範囲は100種類以上の職種にも及ぶとされています。また、証券トレーディングなど、いわゆるホワイトカラーにあたる一部の分野でも、AIが仕事を代替する動きが出てきています。

仮にAIによる代替が進んでいくと、この先企業で働く従業員には、人間にしかできない仕事が求められるようになるでしょう。企業内の組織構造が一変したり、国による失業者の救済措置が急務になったりと、世の中が大きく変わる可能性も考えられます。

参考:日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に|野村総合研究所
 

2. いままでにない仕事の創出

2016年に公開された総務省のレポートによると、AIの進化によって新しい仕事が生まれることが予測されています。

例えば、大量のデータを解析するデータ調査官や、AIの導入支援を行うAIビジネス開発マネージャー、AR(拡張現実)のストーリーを設計するAR体験クリエイターといった仕事が出現し、需要が高まると見込まれています。

これまでにもYouTuberをはじめとする、インターネットやテクノロジーの進化によって新たに誕生した仕事があります。AIの発達によって、今後さまざまな仕事が生まれていくでしょう。

参考:人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響(情報通信白書)|総務省
 

3. 社会制度の変化

AIによって多くの仕事が代替された結果、失業者が増加した場合、いままで以上に経済格差が広がる可能性があります。それにより、ベーシックインカムの導入が真剣に議論されることも考えられるでしょう。

ベーシックインカムとは、一人ひとりの国民に必要最低限の生活費を支給する制度のことです。格差是正や多様なライフスタイルの実現といったメリットがある一方で、就労意識の低下や財源問題などの難しい課題を抱えています。
 

4. 人工物による脳や臓器の代替

シンギュラリティによって、脳や臓器が人工物で代替される可能性もあります。

2023年の現時点でも、人工ニューロンや極小のデバイスの埋め込みなど、さまざまな研究開発が進められています。AI技術がさらに発展すると、人体へのデータの保存やコピー、ソフトウェアのインストールなど、従来とは異なる世界へと変容を遂げるかもしれません。ほかにも、記憶のバックアップや複製により、記憶喪失の防止や他者との記憶共有も現実味を帯びてくるでしょう。

こうした飛躍的なテクノロジーの進化は、医療に対する人々の倫理観も変化させる可能性があります。
 

シンギュラリティを踏まえたAIとの付き合い方

現段階の技術では、AIが複雑な人間の感情を読み解くことはできません。そのため、「人と人とのコミュニケーション」にかかわる領域の仕事は、代替される可能性が低いといえます。複雑なコミュニケーションが必要な営業やコンサルティングなどの仕事が代表例です。

ほかにもAIは、表現力が求められるクリエイティブ業務も不得手だとされています。しかし、生成AI技術の登場により、機械がクリエイティブ業務の一部を担えるようになったのも事実です。この先、さらなる技術の発展によって、従来苦手とされていた対人間とのコミュニケーションも、徐々に克服されていく可能性があるでしょう。

AI技術を上手に活用しながら、顧客への提供価値の向上や独創的なアイデアの創出といった方向に、自分自身の質を高めていきましょう。AIを敵として認識するのではなく、その技術を取り入れてうまく付き合う方法を考えることが重要です。
 

シンギュラリティをはじめとするAIの将来性を正しく理解しよう

シンギュラリティは、日常生活から社会制度まで、幅広い範囲で大きな変革をもたらす可能性があります。

一方で、シンギュラリティの到来には懐疑的な意見も存在します。人間を超越した機械の誕生や、それによる人間自身の革新的な進化などについては、まだ予測段階で確実な見通しが立っていません。

いずれにしても、AI技術の進化を注視しながら、どのようにAIを活用すべきなのかを、個人や企業がそれぞれ考えることが重要になってきます。また、シンギュラリティが起きたとしても、自分たちにしか生み出すことができない価値があれば、それが強みになります。

AIの将来性を正しく理解し、自らの価値を高めていくような行動を意識しましょう。

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