フリーミアムモデル完全ガイド

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Jeff Cox
Jeff Cox

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各企業では、コストを削減しながら新規顧客を獲得するための新たな方法を常に模索しています。しかし、多くの場合この2つの目標は相反する関係にあり、コストを増やさずに顧客を獲得するのは簡単なことではありません。

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しかも、消費者の情報収集能力が向上し、従来のマーケティング手法にうさんくささを感じる人が増えたことで、この両立はますます困難になってきています。消費者は商品やサービスの価値に納得してから購入の判断を下したいと考えています。そこで、商品やサービスをリードに購入してもらうには、情報提供と関係構築に多くの時間をかけることになり、そのためには有料の広告を掲載したり、営業担当者によるデモを実施したり、他にもさまざまなマーケティング活動に取り組んだりするのが一般的です。

しかし、新規顧客の獲得にフリーミアムモデルを活用すれば、営業やマーケティングの担当者が情報提供の手間をかけなくても、リードが自社のサービスの情報を自分で入手できるようになるので、新規顧客の獲得に必要なコストを抑制することができます。

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    フリーミアムの定義

    フリーミアムモデルによる新規ユーザーの獲得では、アカウントの料金を支払うかどうかによって、ユーザーを無料プランとプレミアムプランの2つの段階に分類します。無料プランのユーザーは、サービスを無料で利用できる代わりに一部の機能にしかアクセスできません。一方、プレミアムプランのユーザーはより多くの機能にアクセスできますが、アカウントの利用料を支払う必要があります。

    フリーミアムモデルの導入の主な目的は、自社の顧客獲得単価を減らすことです。アカウントの利用登録に必要な費用をなくすことで、新しいユーザーがサービスの利用を始めるためのハードルを下げることになります。そしてその結果、従来のように有料のマーケティングチャネルや複雑な営業プロセスにコストを費やしすぎることなく、無料プランのユーザーに実際に利用してもらいながら、サービスの価値のアピールとユーザーの信頼の獲得に集中できるようになります。

    フリーミアムモデル

    フリーミアムモデルを導入すれば、自然な形でリードナーチャリングを進めることができます。ユーザーはマーケティングキャンペーンを目にしたり、営業担当者とやり取りしたりしなくても、自社のサービスの情報を自分で集められるようになります。無料プランのユーザーは、サービスの利用を続けているといずれ無料アカウントの利用上限に達します。そして、すべての機能を利用してサービスのメリットをフル活用できるように、プレミアムアカウントに申し込むかどうかを決めることになります。

    フリーミアムモデルの導入を成功させるには、サービスの利用に何らかの制限を設ける必要があり、そのためには次のような複数の方法が考えられます。

    • 機能の制限:追加機能の実装、既存の機能の強化、いつでも購入できる有料オプション(ゲームのレアアイテムなど)の提供
    • 利用上限:ストレージの使用量や毎月の利用金額、データの処理量の上限
    • サポートの制限:各プランで利用できるカスタマーサービスやサポートリソースの差別化

    サービスのアクセス権や使用量に上限を設定し、無料ユーザーにストレスを与えることで、プレミアムプランへのアップグレードを促すことができます。

    また、アップグレードをさらに促進できるように、サービスの利用制限はいくつか組み合わせて設定するのが一般的なので、さまざまな組み合わせを工夫してみることをお勧めします。ここで重要なのは、サービスの利用制限を設定してユーザーがもっとサービスを利用したいと思うようにしつつ、使えない機能が多すぎてサービスの価値が伝わらないということがないように適切なバランスを判断することです。そのためには、顧客のニーズを熟知し、サービスから得られる価値を正しく理解しておく必要があります。

    フリーミアムモデルを採用しているサービスの具体例

    フリーミアムの定義と仕組みについて説明したところで、ここからは企業向け、あるいは一般ユーザー向けのサービスで採用されているフリーミアムモデルの具体例を見ていきましょう。

    1. Zapier(企業向けサービス)

    企業向けのサービスは、規模の大きい組織が抱えるビジネス上の複雑な問題を広範囲にわたって解決できるように開発されており、豊富な機能を備え、利用料が高額になるのが一般的です。

    そのため、企業向けのサービスでフリーミアムモデルを導入する場合、利用制限の体系が複雑になります。こうした利用制限の複雑さやサービスの利用料の高額さによりユーザーにアップグレードを促すには、より強い動機付けが必要です。その具体例として、Zapierが採用しているフリーミアムモデルを見てみましょう。

    Zapierとは、各種デジタルツールを連携し、「Zap」と呼ばれるワークフローで一連の業務を自動化できるウェブアプリです。利用登録者を増やし、試用ユーザーにサービスの使い勝手を少しだけ体感してもらえるように、Zapierのフリーミアムモデルでは、さまざまな種類の利用制限を導入しています。

    Zapier Price Comparison

    機能の制限

    新しく利用登録したユーザーは、1つのステップで構成されるZapを最大5つまでしか作成できません。この「1つのステップ」には、最初のトリガー(例:Googleフォームで実施しているアンケートの回答が届く)とその後に続く1つのタスク(例:回答のデータをEメールの連絡先のデータベースに転送する)のみを含めることができます。しかし、有料プランにアップグレードすれば、より高度な機能を使って複数のステップで構成されるZapを作成できるようになり、さらに複雑な自動化が可能になります。

    この戦略は、まず1ステップのZapをユーザーが使えるようにすることでZapierの便利さを体感できるようにしつつ、もっと高度な機能を使ってみたいと思わせるのに非常に効果的です。

    また、「プレミアムアプリ」と呼ばれる一部のアプリについては、プレミアムユーザーのみが連携できるように制限されています。そのため、たとえばPayPalやMagento、Facebook広告プラットフォームなどのアプリを連携してZapを作成したいユーザーは、プレミアムプランのいずれかにアップグレードすることが必要です。プレミアムプランで連携できるアプリは広く使われているものばかりなので、ユーザーの多くがプレミアムプランのアプリ連携を使用するためにアップグレードしたくなると考えられます。

    利用上限

    一部の機能に利用条件を設定するだけでなく、Zapierはユーザーに利用量の上限も割り当てており、以下の3つの項目で上限を設定しています。

    • Zapの数とタスクの回数:Zapが2つのアプリ間でデータをやり取りする際、必ずタスクが発生します。Zapierの利用開始直後の無料ユーザーは、作成した5つのZap全体でタスクを毎月100回しか実行できません。この上限は、第1段階のプレミアムプランにアップグレードするとZapが毎月20個まで、タスクが1,000回までに拡大されます。さらにアップグレードを続けると上限も引き上げられ、最高ランクのプランではZapの数は無制限、タスクの回数は毎月5万回になります。
    • データの同期間隔:Zapが新しいデータをチェックする間隔は、最初は15分おきからスタートし、第2段階のプレミアムプランにアップグレードすると2分間隔まで短縮されます。
    • ユーザー数:1つのアカウントからログインしてZapierを使える人数にも上限があります。そのため、規模の大きい組織に対しては、最高ランクのプレミアムプランにアップグレードしてもらえるように、フォルダーの共有や複数のユーザーによる同時ログインなど、共同作業に便利な機能が提供されています。

    こうした利用上限を設定するのは、有料ユーザーの獲得を促進するうえで非常に効果的であり、サービスの便利さをユーザーにアピールしつつ、最終的にもっと多くの機能を使ってみたいと思わせるという目標はどれも共通しています。Zapierのフリーミアムモデルは、機能が複雑で料金が高額なサービスの収益アップを目的として、無料ユーザーにプレミアムプランへのアップグレードを勧めるためにターゲットを絞りながら包括的に働きかけていく絶好の事例と言えます。

    2. Spotify(一般ユーザー向けサービス)

    企業向けのサービスでは、利用制限を何重にも設定した複雑なフリーミアムモデルで、ユーザーにストレスを与えながらプレミアムプランへの移行を促すことが必要な場合が多いのに対し、一般ユーザー向けのサービスでは、フリーミアムモデルを比較的シンプルに構築することができます。

    フリーミアムモデルを導入することのメリットが最も大きいのは、モバイルアプリやウェブアプリです。そのイメージをつかむための具体例として、ここではSpotifyのユーザー獲得戦略を見てみましょう。Spotifyとは、スマートフォンやパソコンで好きな音楽をストリーミング再生できる一般ユーザー向けアプリです。アプリには、楽曲の保存やプレイリストの作成と共有、新しい楽曲の発見といった機能も搭載されています。Spotifyでは、多くのユーザーの心をとらえるために、この記事で解説しているフリーミアムモデルの中でもシンプルなバージョンを導入しています。

    spotify-freemium-example

    機能の制限

    Spotifyのような一般ユーザー向けのサービスは、企業向けのサービスと比べてシンプルになりがちとはいえ、使える機能を限定して、無料プランからプレミアムプランへのアップグレードを促す方法はいくらでも考えられます。Spotifyの場合、無料プランのユーザーは、ほとんどのアルバムやプレイリストのほか、おすすめのラジオ局をストリーミングでシャッフル再生できますが、曲と曲の間に広告が表示されます。また、好きな曲だけを選んで再生することはできません。

    これに対し、プレミアムプランのユーザーはより高度な機能を利用でき、自由に音楽を楽しめるようになります。プレミアムプランのユーザーが利用できる主な機能は以下のとおりです。

    • ストリーミング楽曲の音質の向上
    • 再生する楽曲の選択
    • オフラインでも使えるプレイリスト
    • Spotify Connect(Spotifyをテレビやスマートスピーカーなどのデバイスと接続できる機能)

    このように、Spotifyの無料ユーザーは多くの機能の利用を制限されていますが、たとえ限られた機能しか利用できなくてもSpotifyから多くのメリットを得られることは変わりません。とはいえ、プレイリストの再生中に特定の楽曲に切り替えられないなどの制約があることで、ユーザーはプレミアムプランに移行しないと使えない機能があると常に意識させられることになります。

    利用上限

    機能に対する制限に加え、Spotifyではサービスの利用量についても上限が設定されています。たとえば、無料プランのユーザーは1時間に4曲までしか楽曲をスキップできません。この上限はプレミアムプランにアップグレードすると完全になくなり、楽曲を無制限にスキップできるようになります。スキップできる楽曲の数に上限があるのは、Spotifyの売りの1つである「新しい音楽との出会い」を期待しているユーザーにとって、大きなストレスとなる場合があります。また、スキップの上限に加えて、無料ユーザーはプレイリストをシャッフル再生でしか聴くことができません。これは好きな曲を選んで聴きたいというユーザーにとって、アップグレードへの動機付けを強める大きな要因となります。

    さらに、先ほども触れたように無料ユーザーには楽曲の間で広告が配信されますが、プレミアムプランにアップグレードすればすべての楽曲を広告なしで聴けるようになります。ほとんどのユーザーにとっては、これだけでもアップグレードの動機として十分かと思います。

    以上のように、Spotifyのアプローチは企業向けのサービスと比べて全体的にシンプルではあるものの、基本的な考え方は変わりません。無料ユーザーは限られた機能からでもサービスの価値の一部を体感できますが、プレミアムプランへの切り替えを検討しているユーザーは機能制限にストレスを感じ、制限を解除するためにアップグレードする可能性が高くなると考えられます。

    3. TuneIn(一般ユーザー向けサービス)

    TuneInは、ラジオ番組やポッドキャスト、イベントの生放送をテレビやパソコン、タブレットやスマートフォンといった多種多様なデバイスでストリーミング再生できる一般ユーザー向けアプリで、フリーミアムモデルを採用しています。

    機能の制限

    TuneInのプレミアムプランと無料プランで使える機能の違いとして最も大きいのは、無料ユーザーがスポーツの試合の生中継を聴くことができないところです。TuneInのバリュープロポジションは、さまざまなデバイスで番組を簡単に聴けることなので、無料ユーザーにアップグレードを促すには絶好の手段であると言えるでしょう。というのも、ラジオ番組やポッドキャスト、音楽やスポーツの試合を自分にとって都合のよい方法で聴きたいと思う人であれば、車を運転しながらラジオ番組を無料で聴くのと同じように、スポーツの生中継も聴きたいと思うはずだからです。

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    利用上限

    さらに、TuneInでは無料ユーザーにプレミアムプランへのアップグレードを促すための利用制限として、ディスプレイ広告を表示したり、楽曲やエピソード、番組の合間にコマーシャルを挟んだりしています。

    4. Evernote(企業向け、一般ユーザー向けのサービス)

    Evernoteは、複数のデバイスから各「ノートブック」にメモを書き留めることができるメモ作成、整理用アプリで、外出先でもメモを取ったり文章を書いたりすることができます。

    機能の制限

    無料プランであるEvernoteベーシックの機能は、デジタルノートの基本的な機能以上のものを求めるユーザーにとってはかなり限定されたものになっています。また、Evernoteベーシックのユーザーがカスタマーサポートを利用する場合、オンラインフォーラムで情報を自力で探すしかありません。さらに、ノートブックの共有による共同作業や、Evernoteのオフライン使用といった有料プラン用の機能を使うこともできません。

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    利用上限

    Evernoteベーシックでは、ノートの同期ができるのは2つのデバイス間に限定されます。一方、プレミアムと法人向けのプランでは、同期可能なデバイスの数に制限はありません。情報ネットワークがますます広がりを見せる昨今、複数のデバイスやメディアでメモを取れるかどうかの違いは、ユーザーの作業効率に大きな影響を与える可能性があります。

    さらに、Evernoteベーシックではノートの上限サイズや1カ月にアップロードできる容量も制限されています。

    フリーミアムと無料トライアルの違い

    さて、フリーミアムモデルの定義と具体的な運用例について見てきたところで、「無料トライアルだけではダメなの?」と疑問に感じていらっしゃるかもしれません。

    これは多くの企業でも検討することになる問いであり、その答えは各企業の目標やターゲットオーディエンス、サービスの種類に応じて変わってきます。

    では、フリーミアムと無料トライアルの違いはどこにあるのでしょうか?

    無料トライアルの目的は、フリーミアムと同じく顧客獲得コストを引き下げることであり、サービスの紹介と導入支援を通じてリードを顧客化していきます。しかし、フリーミアムと無料トライアルは次の2つの点に違いがあります。

    • フリーミアムモデルの場合、無料プランを利用できる期間に制限はありません。一方、無料トライアルでは、サービスを利用できる期間が(1週間などに)限定されます。
    • 無料トライアルでは、ユーザーにサービスの(ほぼ)すべての機能を提供します。これに対し、フリーミアムモデルの無料ユーザーは、サービスに含まれる機能の一部しか利用できません。

    こうした違いは2つのシステムにそれぞれ固有のメリットとデメリットをもたらします。

    無料トライアルモデルのメリット

    無料トライアルを実施するメリットのうち、特にわかりやすいものは、ビジネスに直接的な収益をもたらすことのないライトユーザーに対して、サポートを提供する必要がないという点です。無料トライアルの終了後、ユーザーは有料アカウントの利用登録をするか、解約するかを選ぶことになるので、サービスのエンゲージメント率が高くなります。というのも、無料トライアルの後に残った有料ユーザーはサービスを無料で利用しているわけではないので、できる限り多くの価値をサービスから引き出そうとする傾向が強いからです。サービスのエンゲージメント率が高ければ、顧客がサービスを利用する期間も長くなり、継続的に得られる収益も多くなります。

    加えて、無料トライアルではユーザーが顧客化する割合が非常に高くなることが多く、特に無料トライアルの利用にクレジットカードの登録が必要な場合には顕著に見られます。フリーミアムモデルでは、有料ユーザーへの転換率が通常2~5%の範囲に留まるのに対し、無料トライアルでクレジットカードの登録を必要とする場合、転換率は30%前後かそれ以上になります。この理由としては、フリーミアムではユーザーが一部の機能しか利用できないのに対し、無料トライアルではサービスに含まれるすべての機能を利用できること、またクレジットカードの登録が必要な無料トライアルでは獲得できるリードの人数こそ少なくなるものの、獲得したリードの質が非常に高くなることが考えられます。

    フリーミアムモデルのメリット

    フリーミアムモデルと無料トライアルでは、目標や実施方法に重なる部分があるものの、顧客にとって利用しやすい傾向にあるのはフリーミアムモデルです。無料トライアルでは利用登録にクレジットカードが必要な場合が多いうえ、無料で利用できる期間が限られており、その後はサービスの利用を続けるかどうか判断しなければならないので、申し込みにあたってかなりのプレッシャーが伴います。一方、フリーミアムの場合、心の準備ができないまま購入の判断を迫られることがなく、サービスのさまざまな機能を試すことができるので、新しいユーザーにプレッシャーを与えることはありません。

    また、フリーミアムでは、ユーザーのニーズに合わせてサービスの機能を拡張できるというメリットもあります。利用登録をしたばかりのユーザーはサービスの機能をすべて必要としているとは限りませんが、ビジネスの成長に伴い、ニーズが増えてくる場合もあります。すると、別のサービスに乗り換える方が負担が大きくなるので、自社のサービスがユーザーの通常の業務フローに組み込まれやすくなり、無料プランに設定した機能制限の効果がさらに高まります。

    こうしたメリットの具体例として挙げられるのが、Dropboxのフリーミアムモデルです。Dropboxでは、利用開始直後のユーザーに2GBのストレージを無料で提供しており、Dropboxの便利さに気付いたユーザーが自分のアカウントにファイルを次々に追加するようになると、ファイルの保存や共有にDropboxを使うのが当たり前になります。そして、ストレージの使用量が2GBの上限に達する頃には、今さら新しいサービスに乗り換えてすべてのファイルを別の場所へ移すのが難しくなっているので、最終的に有料でストレージを追加することになります。

    さらに、無料トライアルではなくフリーミアムモデルを導入することで得られるもう1つの大きなメリットは、フリーミアムのサービスが無料トライアルよりも共有しやすい点です。少ないコストでサービスの利用をすばやく拡大していくには、既存ユーザーの口コミを利用することが有効な方法の1つであり、フリーミアムではそれが特に簡単になります。というのも、フリーミアムモデルでは獲得できるリードの人数が多くなり、口コミを通じて幅広いオーディエンスにアプローチできるチャンスが増えるからです。このように、たとえ自社に直接的な収益をもたらさないとしても、無料ユーザーは自社のサービスを周囲の人に紹介することでビジネスの成長に貢献してくれる可能性があります。

    フリーミアムモデルの場合、無料プランから有料プランへの転換率は低めになるものの、ターゲットオーディエンスの規模が非常に大きくなります。そのため、フリーミアムモデルの口コミの効果は、無料トライアルよりも多くの収益やユーザー獲得の可能性をもたらしてくれます。

    フリーミアムと基本プレイ無料の違い

    基本プレイ無料とは、ビデオゲームの販売に使用されるフリーミアムモデルの一種です。基本プレイ無料のゲームでは、プレイ開始にあたってユーザーが料金を支払う必要はなく、最初からゲーム内のすべてのコンテンツを利用できますが、ゲームのプレイを続けるにはディスプレイ広告を閲覧したり、友人にプレイするよう勧めたり、クエストを完了したりすることで、料金の代わりとなる対価を支払う必要があります。

    フリーミアムモデルで有料プランへの転換率をアップさせるには

    フリーミアムモデルの最終的な目標が有料ユーザーを増やすことである以上、フリーミアムモデルの成果を評価するには、無料プランから有料プランにアップグレードした人の割合を表す転換率を見ることになります。

    先ほどご説明したとおり、フリーミアムモデルの転換率は平均で2~5%の間に収まるのが一般的ですが、フリーミアムモデルの効果を最大限に引き出し、転換率をアップさせるための方法があります。その方法について、順を追って説明していきます。

    1. 無料アカウントの利用制限を適切なものにする

    無料プランから有料プランへの転換率が低すぎる場合、まず見直すべきポイントの1つは無料プランです。無料プランで提供している機能は多すぎないでしょうか? ユーザーのニーズが無料プランですべて満たされてしまう状態では、有料プランにアップグレードする理由がないのは明白です。

    無料プランに含める機能を検討する際は、競合他社が参考になります。競合他社に条件を合わせる必要がないのは当然です(むしろ合わせない方がよいと思われます)が、マーケティングで適切なメッセージを発信できるように競合他社の状況を把握しておくことが重要です。

    また、サービスの利用状況に関するデータを確認し、自社のサービスをユーザーがどのように利用しているのか、ユーザーが特に価値を見出している部分はどこなのかについて認識を深めておきましょう。こうした情報は、無料プランから有料プランへの転換率をアップさせるうえで、どのような調整を行うべきか判断するための手がかりとなります。より多くのユーザーにアップグレードを促すために、無料ユーザーがストレスを感じるような機能の差別化ができるようにしましょう。

    2. すべての機能が利用できる無料トライアルも合わせて実施する

    先ほど無料トライアルとフリーミアムのメリットの違いについて説明しましたが、この2つのどちらか一方を選ばなければならないというわけではありません。すべての機能が使える無料トライアルを新規のユーザーに提供しつつ、機能が制限された永久無料のプランも提供することで、どちらのメリットも手に入れることができます。

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    たとえばTuneInでは、上の画像からわかるように、アプリの全機能を体験できるプレミアムプランの無料トライアルを無料ユーザーに提供しています。

    このように2つの手法を組み合わせると、お互いの効果を補完しあうことになり、非常に有効な場合があります。新規のユーザーに無料を提供し、自社のサービスの全機能を無制限に体験できるようにすることで、ユーザーが有料プランに申し込む前にサービスの価値をすべて確認できるようになります。

    さらに、無料トライアルの終了後、心の準備ができていないユーザーは有料プランの申し込みを強制されることがなく無料プランの利用を継続できるため、無料トライアルの解約を減らすことができます。しかも、無料トライアルですべての機能を利用した後に無料プランに移行すると機能制限がいっそう目立つようになり、制限の少ない有料プランにアップグレードし直そうという動機付けが働きやすくなります。

    3. カスタマーサクセスの実現に全力で取り組む

    フリーミアムモデルではサービスの提供が営業活動の代わりとなるので、利用登録をしたばかりの無料ユーザーが簡単かつスピーディーにサービスの価値に気付けるようにすることが不可欠になります。そのための方法として最適なのが、カスタマーサクセスの実現に取り組むことです。

    カスタマーサクセスを実現させるための方法としては、次のようなものが挙げられます。

    • カスタマーサクセスの実現を後押しするのに効果的なウェルカムEメールや導入支援のEメールシリーズを送信する
    • アプリ内の通知やプロンプトを使って重要な機能をアピールする
    • サービスに関してユーザーから寄せられそうな質問を網羅したナレッジベースを作成する
    • 専任のカスタマー サービス チームを編成し、サポート体制を強化する
    • メールマガジンで使い方のヒントやアイデアを新規のユーザーに紹介する

    どの方法を選んでも、ユーザーが自社のサービスからより多くの価値を引き出せるように支援することで、無料ユーザーが有料プランにアップグレードする可能性を大きく高めることができます。

    4. 折に触れてユーザーにアップグレードを促す

    決して忘れてはならないのは、ユーザーは生身の人間であるということです。つまり、アカウントのアップグレードをさりげなく勧めても、気付いてもらえることは期待できません。むしろ、今のプランが制限付きであり、制限の少ない有料アカウントにアップグレードできるということを、事あるごとに思い出してもらう必要があります。そのためには、次のような方法が考えられます。

    • 無料ユーザーに対する機能制限の内容を、アプリ内の通知で具体的に説明する
    • 導入支援やサポートのメッセージに、アップグレードを促すCTA(Call-To-Action)を追加する
    • 有料プランで利用できる機能をユーザーに紹介するEメールを定期的に送信する

    たとえばEvernoteでは、以下の画像のように、プレミアムプランの機能について検索画面で紹介しています。

    evernote-freemium-example

    こうした手法を利用して、アップグレードに踏み切れないユーザーの背中を押すことで、有料プランへの切り替えを促すことができます。さらに、オーディエンスのセグメンテーションを組み合わせて、有料プランを紹介するEメールをレベルアップさせてもよいでしょう。その場合は、ユーザーの利用状況をチェックしたうえで、メッセージの相手への影響が大きい機能制限に言及してアップグレードを促したり、無料プランの利用上限に近づいているユーザーを対象にメッセージを送信したりします。

    5. より実践的なインサイドセールスの手法を導入する

    これは利用体系が比較的シンプルになることが多い一般ユーザー向けのサービスにはあまり有効な手法ではありませんが、大企業向けのサービスの場合、インサイドセールスの専任チームを編成すると、フリーミアムモデルによるユーザーの獲得を促し、有料プランへの転換率を向上できる可能性があります。

    自社のフリーミアム製品に合わせた効果的なインサイドセールス戦略を立てるには、インサイドセールスの担当者がすぐにフォローアップできるように、優先度の高いリードを効率よく選別する方法を確立する必要があり、その方法としては次の2つが挙げられます。

    • サービスの利用パターンを基準にする:リードスコアリングのモデルを導入し、ユーザーによるサービスの利用状況をチェックします。リードスコアリングでは、無料プランの利用上限に近づいているユーザーや、活用している機能が多いユーザーに高い点数を割り当てるようにします。一定のスコアに達したリードは自動化したプロセスでさらに選別し、アップグレードへの興味の度合いや収益の見込みを評価します。そして、インサイドセールスの担当者がリードに働きかけるタイミングを決定します。
    • 外部のデータを基準にする:自社のCRMに外部のデータを追加し、収益をもたらす可能性の高いユーザーを正しく見分けられるようにします。たとえば、大企業向けのプランに申し込む可能性のあるリードで、サービスの使い方が組織の状況に合っていないと思われるユーザー(複数の国にまたがる大規模な組織で特定の地域の営業所がサービスを利用している場合など)を特定します。

    有望なリードを特定したら、意思決定者と連絡を取って直接グレードアップを勧められるように、インサイドセールスの担当者がフォローアップを行います。

    このガイドでは、フリーミアムモデルを導入して顧客獲得単価を抑えつつ、自社のサービスのユーザーを獲得するチャンスを増やし、ビジネスの急成長を実現する方法について解説してきました。このガイドでご紹介したアイデアが皆さんのお役に立てば幸いです。

    最後に伝えておきたいのは、常にユーザーのことを第一に考え、ユーザーが自社のサービスからどのように価値を引き出しているかを理解することが重要であるということです。こうすることで、自社のサービスの便利さをアピールしつつ、無料ユーザーに「このサービスをもっと使ってみたい」と思ってもらえるような絶妙なバランスのフリーミアムモデルを構築することができます。

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