「SaaSという言葉はよく聞くけれど、いまいちピンときていない」 「業務効率化のために、SaaSの導入を検討しているが、メリットとデメリットがわからない」
【無料】事業フェーズに適したKPI選定ができていますか?
本テンプレートを使えば、必要な数値を入力するだけで「月末MRR(月次経常収益)」や「新規MRR」、「Quick Ratio」などのKPIが自動的に算出されます。今すぐ自社に合った適切なKPIを設定し、プランや施策を改善してみましょう!
このような悩みを抱えている方は、じつは多いのではないでしょうか。
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する昨今、クラウドサービスの利用が急速に広がっています。なかでも不可欠なのが、SaaS(サース)です。
SaaSとは「Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア」という意味で、インターネット経由で利用できるソフトウェアを指す言葉です。
SaaSは、業務効率の向上やコスト削減など、さまざまなメリットをもたらす一方で、知っておきたいデメリットも存在します。
本記事では、SaaSの基本的な概念から、メリット・デメリット、選定・導入のポイントまで、SaaSについて体系的に解説します。
SaaSを正しく理解し、戦略的に活用することで、ビジネスの生産性向上とイノベーションの促進につなげていきましょう。
SaaS事業を成長!KPIテンプレートとSaaS用語解説集
SaaSはKPIの設定と観測によってPDCAを回すことで収益効果に直結しやすい特徴があります。このテンプレートを利用しプランや施策を改善しましょう!
- KPIの自動算出
- SaaS KPI設計の作成と確認
- 直近のサマリーの把握
- 実績進捗の視覚的な把握
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
1. SaaSの基本を理解する
まず、SaaSの基本的な概念から、確認していきましょう。
1-1. SaaSの定義
SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供する形態のことです。
SaaSの読み方は「サース」ですが、日本の一部の書籍などで「サース、サーズ」と2つの読み方が併記されているケースも見られます。
そのため、サーズと読んでも間違いとはいえませんが、英語のネイティブスピーカーは「サース」と発音するのが一般的です。
1-2. SaaSの利用方法
SaaSの利用者は、Webブラウザなどを通じてソフトウェアにアクセスし、必要な機能を利用します。
ソフトウェアはベンダー(提供元)が管理するサーバー上に設置され、利用者はそれを借りて使うイメージです。
この「SaaS」という用語および概念が広く知られるようになったのは、2000年代半ば以降です。
それ以前のソフトウェア導入では、利用者自身がソフトウェアを購入し、自社のコンピューターにインストールして使用していました。
一方、SaaSでは、ソフトウェア自体を購入する必要はありません。SaaSの特徴は以下に続きます。
1-3. SaaSの特徴
SaaSには、以下のような特徴があります。これらの特性により、利用者はソフトウェアを手軽に活用できるようになりました。
【SaaSの特徴】
- インターネット経由でアクセス可能:ソフトウェアの機能に、インターネット経由でアクセスできます。Webブラウザを使って利用するほか、専用のアプリケーション経由でアクセスするケースもあります。
- ベンダーがソフトウェアを管理:ソフトウェアはベンダーが管理するサーバー上に設置されており、バージョンアップやセキュリティ対策もベンダーが行います。
- データもクラウド上に保存:SaaSで扱うデータは、ベンダーが管理するクラウド上に保存されます。利用者は自社でデータを保管する必要がありません。
- サブスクリプション型の課金:多くの場合、購入(買い切り)ではなく、利用した分だけのサブスクリプション型の課金となります。月額や年額での支払いが一般的で、必要なくなれば解約できます(解約手数料が請求されることはあります)。
1-4. SaaSを支える技術
SaaSの実現には、クラウドコンピューティングをはじめ、さまざまな技術が活用されています。以下をご確認ください。
【SaaSを支える技術の例】
- クラウドコンピューティング:いわゆる「クラウド」のことで、ソフトウェアを含むコンピューターリソースを、インターネットを通じて提供する技術です。SaaSを支える基盤となっています。
- Web API:ソフトウェアの機能をWebサービスとして公開するための仕組みです。外部のシステムからソフトウェアの機能を利用できるようにします。
- HTML5/CSS3:Webブラウザ上でリッチなユーザーインターフェースを実現するための技術です。SaaSのユーザビリティ向上に貢献しています。
- Ajax(Asynchronous JavaScript + XML):Webページの一部だけを更新する技術で、SaaSでもよく活用されています。ページ全体を再読み込みすることなく、スムーズな操作性を実現します。
- JSON (JavaScript Object Notation):軽量なデータ交換フォーマットです。SaaSでは、異なるシステム間でデータをやり取りするために利用されます。
- シングル サイン オン(SSO):1つのIDとパスワードで複数のサービスにログインできる仕組みです。SaaSを含む複数のクラウドサービスを使う際に、利便性を高めることができます。
これらの技術の発展により、SaaSはより高度で利便性の高いサービスへと進化を遂げてきました。
※より詳しく知りたい方は、以下の関連記事もご参照ください。
1-5. 代表的なSaaSの例
続いて、代表的なSaaSの例を見てみましょう。
業種や業務によって、さまざまなシーンでSaaSが活用されていることがわかります。
【代表的なSaaSの例】
- Google Workspace:文書作成やスプレッドシート、プレゼンテーション資料の作成などが可能なオフィスアプリケーションです。メールやカレンダー、ビデオ会議など、コラボレーションのための機能も充実しています。
- Adobe Creative Cloud:デザインやイラスト制作、映像編集などのクリエイティブ系ソフトウェアをSaaSとして提供しています。常に最新バージョンのツールを利用できます。
- Chatwork:国内最大級のビジネス チャット ツールです。タスク管理、ファイル共有などの機能も備えています。仕事のコミュニケーションの効率化に広く導入されています。
- HubSpot:CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツール、SFA(営業支援システム)として知られるSaaSです。見込み客の創出から醸成、顧客化までのプロセスの支援や営業活動のサポートなど、多岐にわたる機能を提供しています。
1-6. SaaSの市場規模と成長性
SaaSの市場は年々拡大しており、今後もさらなる成長が見込まれています。企業のデジタル化が進むにつれ、SaaSの重要性はますます高まるでしょう。
実際のデータでは、下グラフの黄緑色部分(棒グラフの最上部)が、SaaSです。
【世界のパブリッククラウドサービス市場規模 (売上高)の推移及び予測】
IaaS(Infrastructure as a Service):インターネット経由でハードウェアやICTインフラを提供。
CaaS(Cloud as a Service):クラウド上で他のクラウドのサービスを提供。
PaaS(Platform as a Service):インターネット経由でアプリケーションを実行するためのプラットフォームを提供。
SaaS(Software as a Service):インターネット経由でソフトウェアパッケージを提供。
上記の実績値を見ると、2018年の799億ドルから2021年には1,399億ドルと、じつに3年で175%の成長率となっています。
なお、上グラフに登場しているIaaS・CaaS・PaaSといった類語については、後ほど詳しく解説します。
2. SaaSのメリットを知る
「拡大を続けているSaaSって、何がそんなにいいの?」 という素朴な疑問が浮かんでいる方もいるでしょう。
SaaSには、利用者にとってさまざまなメリットがあります。ここでは、SaaSのポジティブな側面を掘り下げながら、SaaSへの理解を深めていきましょう。
- 初期コストの削減
- 導入のスピードと簡便性
- どこでも利用可能
- 常に最新バージョンを利用可能
- 高度なセキュリティ
2-1. 初期コストの削減
1つめのメリットは「初期コストの削減」です。
SaaSを利用すれば、ソフトウェアの導入にかかる初期コストを大幅に削減できます。従来のようにソフトウェアを購入する必要がなく、必要な機能を必要な分だけ利用できるからです。
【SaaSによる初期コスト削減のポイント】
- ソフトウェアライセンス費用が不要:SaaSではソフトウェア自体を購入しないため、高額なライセンス費用がかかりません。利用した分だけの課金になります。
- ハードウェア購入費用が不要:ソフトウェアを動作させるためのサーバーなどのハードウェアを自社で用意する必要がありません。その分の初期投資を抑えられます。
- システム構築のコストを削減:SaaSはすでに構築済みの環境を利用するため、自社でシステムを構築する必要がありません。構築にかかるコストを大幅に減らせます。
- 運用・保守費用の負担が軽減:ソフトウェアの運用・保守は基本的にベンダー側で行われるため、自社での運用・保守にかかる費用負担を軽減できます。
2-2. 導入のスピードと簡便性
2つめのメリットは「導入のスピードと簡便性」です。
SaaSは導入までのスピードが速く、手軽に利用を開始できるのも大きな魅力です。ソフトウェアのインストールや環境構築が不要または容易なため、すぐに業務で活用できます。
【SaaSの導入がスピーディーで手軽な理由】
- インストール作業が不要(または容易):Webブラウザからアクセスして利用するSaaSの場合、利用者側でのインストール作業は必要ありません。専用アプリが必要な場合でも、ダウンロードとインストールの手順はシンプルで、ITスキルがなくても簡単に行えます。
- 環境構築の手間が省ける:ソフトウェアを使うための環境構築は、ベンダー側ですでに完了しています。利用者側で環境を用意する手間が省けます。
- 即時に利用開始可能:多くの場合、アカウントを取得したらすぐに利用開始できます。導入決定から実際の運用までのタイムラグを最小限に抑えられます。
- 自社での管理工数を削減:ソフトウェアのバージョンアップや不具合対応などの管理業務は、ベンダー側で行われます。自社での管理にかかる工数を大きく減らせます。
- 少人数でも導入可能:SaaSは少人数でも手軽に導入できるため、大規模なシステム部門を持たない中小企業でも活用しやすいメリットがあります。
2-3. どこでも利用可能
3つめのメリットは「どこでも利用可能」です。
SaaSはインターネットを通じて利用するため、場所を問わず利用可能という大きなメリットがあります。
社内だけでなく、出先や自宅からもアクセスできる点は、働き方の柔軟性を高めるうえで重要なポイントです。
【SaaSのアクセス性の高さがもたらすメリット】
- リモートワークを促進:自宅からもSaaSにアクセスできるため、場所を選ばない柔軟な働き方が可能です。リモートワークの導入・推進に役立ちます。
- 出張先での利用が可能:出張中でもSaaSを利用できるため、出先での業務効率を高められます。出張先から社内システムにアクセスする手間も省けます。
- モバイルデバイスでの利用:スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイスからSaaSを利用できます。外出先でもリアルタイムに情報を確認したり、入力したりできます。
- 拠点間でのデータ共有:SaaSはクラウド上で動作するため、データも一元管理されます。拠点の異なる従業員同士でもスムーズにデータを共有できます。
- 災害時の事業継続性向上:災害でオフィスが使えなくなった場合でも、SaaSであれば自宅などから業務を継続しやすくなります。
2-4. 常に最新バージョンを利用可能
4つめのメリットは「常に最新バージョンを利用可能」です。
SaaSでは、ベンダー側での定期的なバージョンアップにより、新機能の追加や不具合の修正などが随時反映され、ソフトウェアは常に最新の状態に保たれます。
利用者は常に最新の機能を使えるというメリットがあります。
【SaaSで最新バージョンを使えるメリット】
- 新機能をタイムリーに活用可能:ソフトウェアの改善や機能追加は、ベンダー側ですべて行われます。面倒なバージョンアップ作業は不要で、いつでも最新の機能にアクセスできます。
- トラブル対応も迅速:ソフトウェアの不具合もベンダー側で迅速に修正されます。自社で対応する必要がないため、トラブルによる業務への影響を最小限に抑えられます。
- バージョン管理の手間を削減:ソフトウェアのバージョンを利用者側で管理する必要がありません。異なるバージョン間の互換性などを気にする必要もなく、管理の手間を省けます。
- 最新セキュリティ対策の恩恵:セキュリティ対策もベンダー側で最新の状態に保たれます。自社で個別にセキュリティ対策を講じる手間を減らせます。
- 他社に後れを取らない:常に最新バージョンを利用できるので、競合他社に対する競争力を維持しやすくなります。SaaSベンダーが提供する新機能を積極的に活用すれば、優位性の確立につながるでしょう。
2-5. 高度なセキュリティ
5つめのメリットは「高度なセキュリティ」です。
多くの場合、自社でセキュリティ対策を講じる場合と比べて、SaaSでは高いセキュリティレベルが期待できます。
データの暗号化や厳格なアクセス管理など、ベンダー側できめ細かいセキュリティ対策が施されているためです。
SaaSのセキュリティ対策はベンダーによっても異なりますが、一般的には以下のような施策が講じられています。
【SaaSにおけるセキュリティ対策の例】
- データの暗号化:SaaS上のデータは暗号化されており、不正アクセスされてもデータを読み取られるリスクを最小限に抑えられます。通信経路の暗号化も行われます。
- アクセス管理の徹底:ユーザーごとにアクセス権限を設定でき、不要なアクセスを制限できます。ID・パスワードに加え、多要素認証を導入しているサービスもあります。
- 定期的なセキュリティ監査:ベンダーは定期的にセキュリティ監査を実施し、脆弱性の有無をチェックしています。監査結果をもとにセキュリティ対策を強化しています。
- 物理的なセキュリティ対策:SaaSベンダーのデータセンターでは、厳重な入退室管理やサーバーの冗長化(予備サーバーの準備)など、フィジカル(物理的)セキュリティ対策にも力を入れています。
- 専任セキュリティスタッフの配置:多くのSaaSベンダーでは、セキュリティに特化した専門スタッフを配置し、高度なセキュリティ対策を講じています。
3. SaaSのデメリットも理解する
SaaSにはさまざまなメリットがある一方で、デメリットについても理解しておく必要があります。
デメリットを十分に理解し、対策を講じることが、SaaSを有効に活用するうえで欠かせません。
- カスタマイズの制限
- ベンダーへの依存
- データ管理の懸念
- 長期的なコストの増加
- インターネット接続が必須
3-1. カスタマイズの制限
1つめのデメリットは「カスタマイズの制限」です。
SaaSでは、利用者の希望でカスタマイズできる範囲が、限られています。ベンダーが提供する標準的な機能の中から、必要なものを選んで使うことが基本です。
自社に、業界特有の業務フローや固有の業務ルールがある場合、SaaSの標準機能では不十分なことがあるため、注意が必要です。
【SaaSのカスタマイズ制限の具体例】
- ワークフローや入力フィールドの変更不可:SaaSで提供される標準的なワークフローや入力フィールドを、自社の業務に合わせて変更できない場合があります。
- 他システムとの連携制限:自社の他システムとの連携が必要な場合、SaaSのAPIが提供する範囲内でしか連携できないケースがあります。
- 機能の追加開発の困難さ:自社に必要な機能がSaaSに含まれていない場合、通常は個別の追加開発はできないケースが多いでしょう。
カスタマイズの制限は、SaaSを導入する際の障壁となりやすいデメリットです。自社の業務要件を満たせるかどうか、十分に検討する必要があります。
3-2. ベンダーへの依存
2つめのデメリットは「ベンダーへの依存」です。
SaaSを利用すると、ソフトウェアの提供元であるベンダーへの依存度が高くなります。ソフトウェアの機能や性能、セキュリティ、稼働性など、サービスの品質はベンダーに大きく左右されるのです。
サービスの継続性もベンダーの経営状況に依存します。万が一ベンダーが倒産したり、サービスを終了したりした場合、自社の業務に大きな影響が出る可能性があります。
【ベンダーへの依存によるリスク】
- サービス内容の変更:ベンダーの都合によるサービス内容の変更により、自社の業務に支障をきたす可能性があります。
- 価格改定による負担増:ベンダーによる価格改定で、SaaS利用のコストが増大するリスクがあります。
- システム障害による業務停止:システム障害が発生し、ベンダーが速やかに復旧できない場合、自社の業務が停止するリスクがあります。
- サービス終了による業務停止:ベンダーがサービスを終了した場合、代替サービスへの移行が間に合わず、業務が停止するリスクがあります。
- ベンダーの倒産による損失:ベンダーが倒産した場合、預け入れたデータが消失したり、サービスが停止したりするリスクがあります。
- サポート品質の低下:ベンダーの経営状況によっては、サポート品質が低下し、問題解決に時間がかかるリスクがあります。
ベンダーへの依存は、SaaS利用における重大なリスクのひとつです。ベンダーを選定する際には、サービス品質や経営状況を十分に見極める必要があります。
3-3. データ管理の懸念
3つめのデメリットは「データ管理の懸念」です。
SaaSでは、利用者企業のデータがクラウド上で管理されます。つまり、自社の重要なデータを、SaaSベンダーに預ける形になるのです。
とくに、機密情報を扱う際には、データ管理に関するリスクを十分に認識しなければなりません。
【SaaSにおけるデータ管理の懸念事項】
- データの機密性:SaaSベンダーが機密性を十分に確保できない場合、情報漏洩のリスクがあります。
- データの所在:クラウド上でデータが管理されるため、データが物理的にどこに保存されているかが把握しにくくなります。
- データの完全性:SaaSベンダーの管理ミスや、システム障害によって、データの完全性(正確さや一貫性)が損なわれるリスクがあります。
- データの可用性:SaaSベンダーのシステム障害やネットワーク障害により、データにアクセスできなくなる可能性があります。
SaaSの利用を検討する際は、これらのデータ管理面での懸念事項を十分に理解し、自社の情報セキュリティポリシーに照らし合わせて、慎重に判断することが肝要です。
3-4. 長期的なコストの増加
4つめのデメリットは「長期的なコストの増加」です。
SaaSは、初期投資を抑えられるメリットがある一方で、長期的に利用し続けると、トータルコストが高くなる可能性があります。
また、SaaSでは、ソフトウェアの所有権を得ることができません。つまり、SaaSを利用し続ける限り、利用料金を支払い続ける必要があるのです。
【SaaSの長期利用によるコスト増加の例】
- ユーザー数の増加:ユーザー数に応じた課金体系の場合、ユーザー数の増加に比例して、毎月の利用料金が増大します。
- 機能やプランのアップグレード:SaaSの機能拡張や上位プランへの移行に伴い、追加の利用料金が発生することがあります。
- ストレージ容量の追加:データ量の増加に応じて、ストレージの追加費用が発生する場合があります。
- 割引期間の終了:初期の割引価格が適用される期間が終了し、通常価格に移行することで、コストが増加するケースがあります。
SaaSの導入を検討する際は、短期的なコストメリットだけでなく、長期的な視点でトータルコストを試算することが重要です。
3-5. インターネット接続が必須
5つめのデメリットは「インターネット接続が必須」です。
SaaSはインターネット接続を前提としたサービスです。つまり、インターネットに接続できない環境では、SaaSを利用できません。
【インターネット接続に依存することによる問題】
- ネットワーク障害による業務停止:インターネット接続が切断された場合、SaaSの利用が困難となり、業務が停止してしまう恐れがあります。
- 回線速度の影響:インターネット回線の速度が遅い場合、SaaSの動作が遅くなり、業務効率の低下を招く可能性があります。
- モバイル環境での制限:モバイルデータ通信を利用する場合、通信量の制限により、SaaSの利用が制限される可能性があります。
- セキュリティリスクの向上:インターネット経由でのアクセスは、セキュリティリスクが高くなる傾向があります。
SaaSの導入を検討する際は、インターネット接続環境やリスク対策について、十分な検討が必要不可欠です。
4. SaaSと関連用語の違いを整理する
SaaSのメリット・デメリットが理解できたところで、関連用語との違いを整理しておきましょう。
SaaSと関わりの深い用語として、オンプレミスやIaaS、PaaSなどがあります。
違いを理解しておくことで、自社に最適なサービス形態を選択しやすくなるでしょう。以下でそれぞれ解説します。
- オンプレミスとの違い
- IaaS・PaaS・CaaS
- DaaSやMaaSなど新しい「XaaS」
4-1. オンプレミスとの違い
オンプレミスとは、サーバーやデータベースなどの情報システムを、クラウドではなく社内のコンピューターで運用することです。
クラウドサービスやSaaSが登場する前の、従来の運用方法が、オンプレミスとなります。
【SaaSとオンプレミスの違い】
項目 |
SaaS |
オンプレミス |
---|---|---|
導入コスト |
◎ 初期コストを抑えられる |
△ 初期コストが高い |
カスタマイズ性 |
△ カスタマイズに制限がある |
◎ カスタマイズの自由度が高い |
運用管理 |
◎ ベンダーが運用管理を担当 |
△ 自社で運用管理を行う必要がある |
アップデート |
◎ 自動的にアップデートされる |
△ 自社でアップデートを行う必要がある |
セキュリティ対策 |
◎ ベンダーが対策を行う |
△ 自社で対策を行う必要がある |
スケーラビリティ(拡張性) |
◎ 利用者数や処理量に応じて柔軟に拡張可能 |
△ システム拡張にはハードウェアの追加が必要 |
災害対策 |
◎ ベンダーが災害対策済みのデータセンターで運用 |
△ 自社での災害対策が必要 |
モバイル対応 |
◎ インターネット経由でモバイルからもアクセス可能 |
△ モバイル対応には追加の開発が必要なことが多い |
SaaSは、初期コストの低さ、自動アップデート、高度なセキュリティ対策など、多くの面でメリットがあります。
一方、オンプレミスは、カスタマイズの自由度の高さがメリットとなります。それ以外のポイントでは、初期コストや運用管理の手間、モバイル対応の難しさなど、デメリットも多くあります。
ただし、これらのメリット・デメリットは一般的な傾向を示したものであり、個々のSaaSやオンプレミスのシステムによって、状況は異なります。
自社のニーズや要件に合わせて、適切な選択をすることが重要です。
たとえば、SaaSではなくオンプレミスが適しているケースとして、極めて高度な機密情報を扱う場合が挙げられます。ベンダー以上のセキュリティ対策を自社で施す必要があり、そのための技術力も兼ね備えている場合が該当します。
具体的には、金融や医療に関連する個人データや、要配慮個人情報(*1)を扱う業務などがあります。
*1:配慮個人情報とは、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」とされています。
出典:個人情報保護委員会「要配慮個人情報に関する政令の方向性について」
4-2. IaaS・PaaS・CaaS
IaaS(アイアース)、PaaS(パース)、CaaS(キャース)は、どれも、SaaSと同じくクラウドサービスのモデルの一種です。
- IaaS(Infrastructure as a Service):仮想マシン、ストレージ、ネットワークなどのインフラリソースをサービスとして提供します。利用者は、これらのリソース上に自分でOSやミドルウェア、アプリケーションをインストールして使用します。
- PaaS(Platform as a Service):アプリケーション開発・実行環境をサービスとして提供します。利用者は、プログラミング言語やフレームワーク、ライブラリなどの開発ツールを使って、アプリケーションを構築し、PaaS上に配置して実行できます。
- CaaS(Container as a Service):コンテナ技術を用いてアプリケーションを実行するための環境をサービスとして提供します。利用者は、自分のアプリケーションをコンテナという独立した実行環境に納め、そのコンテナをCaaS上で動作させることができます。
SaaSとの主要な違いは、提供されるサービスの粒度です。
SaaSはエンドユーザー(一般利用者)向けのアプリケーションを提供するのに対し、IaaS・PaaS・CaaSは、開発者やシステム管理者向けのインフラやプラットフォームを提供します。
4-3. DaaSやMaaSなど新しい「XaaS」
SaaSの登場以降、DaaS(Desktop as a Service)やMaaS(Mobility as a Service)など、新しい「XaaS」と呼ばれるサービス形態が登場しています。
以下に一例をご紹介します。
【新しいXaaSの例】
- DaaS(Desktop as a Service):仮想デスクトップ環境をサービスとして提供します。利用者は専用端末を必要とせず、どの端末からでも自分のデスクトップ環境を利用でき、場所を選ばずに働けるようになります。
- MaaS(Mobility as a Service):交通手段の検索、予約、決済などをワンストップで提供するサービスです。電車やバス、タクシー、レンタカーなどの複数の交通サービスを統合し、シームレスな(継ぎ目のない)移動体験を実現します。
- DBaaS(Database as a Service):データベース機能をサービスとして提供します。利用者は、データベースの構築や運用管理を気にすることなく、必要な分だけデータベースを利用できます。
- BaaS(Backend as a Service):モバイルアプリやWebアプリのバックエンド機能をサービスとして提供します。認証、データ管理、プッシュ通知など、アプリ開発に必要な共通機能を提供します。
- FaaS(Function as a Service):関数(プログラムの一部)を実行するための環境をクラウドサービスとして提供します。これにより、サーバーの管理や設定を気にすることなく開発・運用に専念できます。
- NaaS(Network as a Service):ネットワーク機能をサービスとして提供します。ネットワークの構築や運用管理を外部に委ねることで、効率的なネットワーク環境を実現できます。
5. SaaSの選定と導入のポイント
SaaSの導入を成功に導くには、選定・導入のプロセスにおける適切な対応が不可欠です。
ここでは、SaaSの選定から導入までのポイントをご紹介します。各ポイントを押さえることで、SaaSをスムーズに活用できるでしょう。
- 自社に適したサービスを選ぶ
- ベンダーの信頼性を確認する
- 移行コストと必要な労力を見積もる
- 関係部門を巻き込む
- 社内ルールを整備する
5-1. 自社に適したサービスを選ぶ
1つめのポイントは「自社に適したサービスを選ぶ」です。
SaaSは数多くのサービスが存在するため、自社のニーズに最も合致するサービスを、見極める必要があります。業務要件との適合性や、拡張性、セキュリティなどを総合的に判断しましょう。
【SaaS選定の着眼点】
- 業務要件との適合性:自社の業務要件に適合したサービスを選びます。必要な機能が網羅されているか、業務フローに沿った運用が可能かなどを確認します。
- カスタマイズ性:自社の業務に合わせて、どこまでカスタマイズできるか確認しておきます。設定変更やアドオン機能の追加など、柔軟性の高いサービスが望ましいでしょう。
- スケーラビリティ(拡張性):将来的な業務量の増加や従業員数・顧客数の拡大に対応できるかを確認します。ビジネスの成長に合わせて、システムを柔軟に拡張できることが重要です。
- API連携:他システムやサービスとの連携が容易にできるよう、APIの公開状況やドキュメンテーションの充実度をチェックします。シームレスな連携によって、業務の自動化や効率化を図れます。
- モバイル対応:スマートフォンやタブレットでの利用を想定している場合、モバイルアプリの提供状況や、レスポンシブデザインへの対応状況を確認しましょう。いつでもどこでもアクセスできる利便性は、業務の生産性向上につながります。
- セキュリティ対策:取り扱うデータの重要度に応じて、セキュリティ対策が十分か確認します。暗号化やアクセス制御、物理的なセキュリティ対策などをチェックします。
- 料金体系とコスト:初期費用や月額費用、従量課金制など、コスト面での優位性も比較検討します。解約のルールや解約手数料についても、確認しておきましょう。
なお、SaaS導入の目標や社内の業務フローが整理されていない場合は、それらの整理・明文化を先に行う必要があります。以下の記事を参考にしてみてください。
5-2. ベンダーの信頼性を確認する
2つめのポイントは「ベンダーの信頼性を確認する」です。
前述のとおり、SaaSはベンダーへの依存度が高いサービスです。そのため、ベンダーの信頼性を十分に確認しておく必要があります。
【ベンダー評価の視点】
- 実績と市場での評価:導入実績の多さや、市場での評価の高さは信頼性の指標になります。他社の導入事例などを参考にしながら、ベンダーの実績を確認します。ネット上で確認できる口コミのほか、自社の取引先などから聞くオフラインでの評判も重要な情報源です。専門家や業界メディアによる評価や、受賞歴も参考になるでしょう。
- 財務状況の健全性:ベンダーの財務状況が健全かどうかを確認します。経営状況が安定していることで、サービスの継続性が担保されます。上場企業の場合は、財務諸表や株価の推移などから財務状況を確認できます。非公開の場合は、信用調査会社のレポートや、ベンダーへの直接の問い合わせを通じて、財務の安定性を確認しておくことが望ましいでしょう。
- セキュリティ・コンプライアンス対策:ベンダーのセキュリティ対策やコンプライアンス遵守状況をチェックします。信頼できる第三者機関によるセキュリティ監査や、関連法規の遵守を確認しましょう。
- サポート体制の充実度:トラブル発生時のサポート体制が整っているかを確認します。マニュアルの充実度や、問い合わせ対応の速度などを評価します。自然災害やシステム障害発生時の対応力、災害対策の取り組み状況、サービス継続計画(SCP)の有無もチェックしましょう。
- 技術的な先進性:ベンダーの技術力や先進性も重要な視点です。最新技術の取り込みや機能開発など、技術面での優位性を持つベンダーを選ぶことが望ましいでしょう。ベンダーが描く将来的なロードマップ(構想)にも注目します。継続的な機能追加や、技術革新への対応姿勢を評価しましょう。
単に機能面だけでなく、ベンダーの経営状況やサポート体制、セキュリティ対策、技術力など、多角的な評価を行うことが大切です。
信頼できるベンダーを選ぶことで、安心してSaaSを利用し、長期的な成功につなげることができます。
5-3. 移行コストと必要な労力を見積もる
3つめのポイントは「移行コストと必要な労力を見積もる」です。
SaaSへの移行には、コストと手間が伴います。データ移行や、既存システムとの連携など、移行作業の負荷を事前に見積もっておくことも大切です。
【SaaS移行時の留意点】
- データ移行と既存システムとの連携:既存システムからSaaSへのデータ移行には、データ形式の差異や移行先のデータ構造に合わせた加工作業などの工数が必要です。SaaSを導入後も既存システムとの連携が必要な場合は、API連携などの手段を確認し、連携に必要な工数を見積もります。
- 移行コストとカスタマイズ範囲の見極め:SaaS移行に伴うコストを事前に見積もります。ライセンス費用や移行作業に必要な人的リソース、トレーニング費用などを洗い出し、予算化しておきましょう。カスタマイズが生じる場合は、必要最小限の範囲に留めることでコスト増大を防ぎます。
- 運用体制の見直しとユーザートレーニング:SaaSの導入に伴い、運用体制の見直しが必要になることがあります。ユーザーサポートやトラブル対応の役割分担を整理しておきましょう。SaaSの利用には一定のトレーニングが必要なため、その期間やトレーニング資料の準備なども考慮しておきます。
- 移行スケジュールとリスク管理:SaaSへの移行スケジュールを綿密に策定します。業務への影響を最小限に抑えつつ、計画的に移行作業を進められるようスケジュール管理を行いましょう。データ消失やシステム停止などの潜在的なリスクを洗い出し、対策を立てておくことも大切です。
- 移行後の運用コストの試算:SaaS移行後の運用コストについても事前に試算しておきます。ランニングコストが長期的に見合うかどうかを検証し、TCO(総保有コスト:システムなどの導入・運営・管理などにかかる総費用)の観点から評価します。
SaaSへの移行は、コストと手間を要するプロジェクトです。これらの留意点を踏まえ、入念な事前準備と綿密な計画策定を行うことが、スムーズな移行の鍵となります。
5-4. 関係部門を巻き込む
4つめのポイントは「関係部門を巻き込む」です。
SaaSの導入成功には、関係部門を巻き込んで進めることが欠かせません。要件定義の段階から参画してもらい、協力体制を構築していきましょう。
【関係部門を巻き込むポイント】
- 要件定義への参画:SaaS選定の際は、関係部門の意見を積極的に取り入れます。とくに利用部門の現場の業務要件を反映させることで、実際の業務に即したサービス選定が可能になります。
- キーパーソンの選定:利用部門の中から、SaaSの活用を推進するキーパーソンを選定します。キーパーソンには、SaaSの機能や利用方法について深い理解を持ってもらい、部門内のメンバーをサポートしてもらいます。
- 移行計画の共有:SaaSへの移行計画は、関係部門と共有しておくことが大切です。移行スケジュールや、移行期間中の業務の進め方などを事前に周知しておきます。
- フィードバックの収集:SaaSの利用開始後は、関係部門からのフィードバックを定期的に収集します。改善要望や、追加の機能要件などを吸い上げ、サービスの改善に役立てます。
SaaSの導入は、関係部門の積極的な参画があってこそ成功します。
社内の巻き込み方について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。
5-5. 社内ルールを整備する
5つめのポイントは「社内ルールを整備する」です。
SaaSを活用するうえでは、社内ルールの整備が欠かせません。セキュリティポリシーや、データ管理のルールなどを明確にしておくことが重要です。
【SaaS利用時の社内ルール例】
- セキュリティポリシーとデータ管理:SaaSの利用に際してのセキュリティポリシーを定め、アクセス管理の方針やデータの取り扱い方法を規定します。また、クラウド上のデータ管理ルールを明確にし、データの保管期間やバックアップ方法を取り決めます。
- 利用環境の制限:SaaSへのアクセスを許可する端末を制限し、セキュリティリスクの高い端末からのアクセスを制御します。業務上必要な端末のみからのアクセスを許可し、私的な端末の利用は原則禁止とします。
- アカウント管理と情報資産の管理:SaaSのアカウント管理を徹底し、アカウントの発行・変更・削除のプロセスを明確にします。SaaSで扱う情報資産を定期的に棚卸しし、情報漏洩防止に努めることも大切です。
- 利用状況のモニタリングと教育・啓発活動:SaaSの利用状況を定期的にモニタリングし、不審な利用がないかチェックします。SaaSを適切に利用するための教育・啓発活動を行い、セキュリティ意識の向上とルールの遵守を徹底します。
- ルールの見直しと改善:社内ルールは、SaaSの利用状況や社内の意見を踏まえ、定期的に見直しと改善を行います。PDCAサイクルを回すことで、ルールの内容を適宜アップデートしていきます。
適切な社内ルールの整備によって、SaaSを安全かつ効果的に活用していきましょう。
6. SaaSを戦略的に使いこなそう
本記事では「SaaSとは?」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
SaaSとは、インターネット経由でクラウド上で利用できるソフトウェアを指す言葉です。以下のメリットがあります。
- 初期コストの削減
- 導入のスピードと簡便性
- どこでも利用可能
- 常に最新バージョンを利用可能
- 高度なセキュリティ
一方、デメリットとしては、以下が挙げられます。
- カスタマイズの制限
- ベンダーへの依存
- データ管理の懸念
- 長期的なコストの増加
- インターネット接続が必須
SaaSと関連用語の違いとして、以下をご紹介しました。
- オンプレミスとの違い
- IaaS・PaaS・CaaS
- DaaSやMaaSなど新しい「XaaS」
SaaSの選定と導入のポイントは、以下のとおりです。
- 自社に適したサービスを選ぶ
- ベンダーの信頼性を確認する
- 移行コストと必要な労力を見積もる
- 関係部門を巻き込む
- 社内ルールを整備する
SaaSの特性を理解し、自社の戦略に合わせて賢く使いこなすことが、これからの時代を勝ち抜くために不可欠です。本記事が、SaaS活用の一助となれば幸いです。