ダイレクトマーケティングとは、顧客にダイレクトメールなどを通じたプロモーションを行い、顧客の直接的な(ダイレクト)レスポンスを得るマーケティング手法です。マスマーケティングに対抗し「顧客1人ひとりに向き合うマーケティング」という意味を込めて1960年代に誕生しました。
半世紀以上を経た現代でも、「主役は商品ではなく”顧客”である」「勘に頼るのではなく”科学的なアプローチ”をとる」というダイレクトマーケティングの考え方は有効です。さらに、その手法はデジタル化に伴い進化を遂げ、今後により普及することが予想されます。
本記事ではダイレクトマーケティングの基礎やメリット、実践における注意点などを紹介します。
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ダイレクトマーケティングの定義と特徴
ダイレクトマーケティングはダイレクトメールと混同されたり、通信販売に限定されるなど、誤解されているケースもあります。そこで、はじめにダイレクトマーケティングの定義を押さえておきましょう。
アメリカのダイレクトマーケティング協会は、ダイレクトマーケティングを以下のように定義しています。
ダイレクトマーケティングとは、1種類またはそれ以上の広告媒体を使用して、レスポンスや取引をもたらす双方向性のあるマーケティングのシステム。レスポンスや取引は発生する場所を問わず、測定可能でデータベースに蓄積されるものとする。 |
以上の定義から、ダイレクトマーケティングの特徴を以下の3点にまとめることができます。
- 企業と見込み客・顧客の間に”直接的”かつ”双方向的”な関係を築く
- さまざまな広告媒体を使用する
- 見込み客・顧客の反応が測定され、データベースに蓄積される
1.企業と顧客の間に、直接的かつ双方向的な関係を築く
ダイレクトマーケティングは、ダイレクトメールをはじめカタログ、SNSなどさまざまな媒体を使用します。各媒体はマス広告のように全方位に向けてではなく、関心を持っている見込み客や顧客に向けて情報を提供して提案を行い、レスポンスを求めます。
そして、提案とレスポンスを積み重ねることで長期的な関係を構築できます。この関係性を踏まえて、以下のアクションが可能となるのです。
- メッセージの内容を見込み客に最適化する
- 類似の製品を紹介する
- 消耗品を購入した顧客に対して、再購入時期にオファーを行う
2.さまざまな広告媒体を使用する
ダイレクトマーケティングの第1の目的は、見込み客・顧客からのレスポンスを得ることです。そのため、相手に合わせてダイレクトメールやWeb広告、メールマガジン、カタログなどさまざまな媒体を活用します。
Webサイトと連動させると、見込み客・顧客の行動をさらに正確に追跡でき、より潜在的なニーズに沿った提案が可能になります。
3.見込み客・顧客の行動がデータベースに蓄積される
見込み客・顧客からのレスポンスを求めるダイレクトマーケティングでは、メールの開封率を始め、あらゆるタッチポイントでのデータ取得が可能です。
取得されたデータは、見込み客・顧客1人ひとりを理解し、コミュニケーションを最適化するために活用するとともに、マーケティング施策を改善するためにも活用します。
ダイレクトマーケティングとマスマーケティングの違い
元々「ダイレクトマーケティング」という言葉は、1960年代、マスマーケティングが消費者1人ひとりを大切にしていないという批判から生まれました。
今日ではダイレクトマーケティングとマスマーケティングはかならずしも対義的な関係ではありません。
両者を比較しつつ、ダイレクトマーケティングとマスマーケティングの違いを整理しておきましょう。
【マスマーケティングとダイレクトマーケティングの違い】
相違点 |
マスマーケティング |
ダイレクトマーケティング |
市場 |
潜在顧客・不特定多数 |
特定の見込み客・顧客 |
販売場所 |
店舗 |
Webサイト・マスメディアなど |
アプローチの仕方 |
商品を宣伝する |
見込み客を発見し、購買意欲を醸成し、維持する |
広告の目的 |
広く認知してもらう |
行動を起こしてもらう |
コミュニケーション |
一方向的・一斉に伝達 |
双方向的・対象に合わせて最適なメッセージを送信 |
効果の測定方法 |
間接推定 |
直接測定 |
今日ではダイレクトマーケティングであっても認知度を上げるためにマスマーケティングの手法と併用する企業も増えています。
その代表的な例として、TVCMを利用するベネッセやオイシックス、新聞の折り込み広告を活用するユーキャンなどがあります。
ダイレクトマーケティングに欠かせない6つの手法
ダイレクトマーケティングでは、見込み客・顧客との双方向的なコミュニケーションがカギとなります。ダイレクトマーケティングで使われる代表的な手法には、以下のものがあります。それぞれの手法のメリットも整理しておきましょう。
- メール
- Web広告
- SNS
- レコメンデーション
- 電話
- ダイレクトメール
1.メール
メールはメールマガジンへの登録など、比較的早い段階から見込み客とのコンタクト手段として活用することができます。
メルマガのほかにも、顧客の購入履歴などを元に対象を限定したメールや購入後のフォローアップメールなど、場面や対象に合わせた多様な使い方ができます。
またメールマーケティングには、以下のメリットがあります。
- 簡単に始められる
- 費用対効果が高い
- レスポンスが早い
- テストが簡単に行える
- パーソナライゼーションが簡単にできる
- Webサイトにリンクできる
見込み客1人ひとりの興味や課題に対応したコミュニケーションを行うために、マーケティングオートメーション(MA)を活用することで、メールマーケティングをさらに効率的に行うことができます。
マーケティングオートメーションについては、以下の記事でも詳しく説明しています。興味のある方は参考にしてください。
2.Web広告
電通の発表によると、2020年の広告費の媒体別構成比は、4マス広告(TV、新聞、雑誌、ラジオ)が36.6%であったのに対し、Web広告費は36.2%と、ほぼ4マス広告に迫る勢いで伸びています。
Web広告の主なメリットとして、以下の3点があります。
- 少ない予算で始められる
- ターゲットとするユーザーに配信できる
- 広告効果を検証できる
Web広告の中でも、行動を促すことを目的とするダイレクトレスポンス広告と、ブランディングを目的としたブランディング広告がありますが、ダイレクトマーケティングにはダイレクトレスポンス広告が利用されます。
3.SNS
SNSは各プラットフォームによって、ユーザーの年代や性別などターゲティングがしやすいという特徴があります。SNSを利用してダイレクトマーケティングを行う場合のメリットとして、以下の3点があります。
- 見込み客や顧客に最適なプラットフォームで運用し、フォロワーとして自社のファンを集められる
- 見込み客や顧客に最適なプラットフォームで広告配信が行える
- キャンペーンなどがリアルタイムで拡散しやすく、行動をうながしやすい
4.レコメンデーション
レコメンデーションとは、ECサイトやWebサイトなどで、過去のデータから、顧客の興味・関心のありそうな情報を提供することを指します。
レコメンデーションの活用によって、以下のメリットが得られます。
- 顧客の潜在的なニーズを顕在化できる
- 顧客はからの信頼感が得られる
- 顧客はショッピング行動やWebサイト回遊などを楽しめる
5.電話
電話を活用したテレマーケティングは、デジタル時代になっても利用価値は高いです。見込み客・顧客と直接対話するテレマーケティングには、以下の強みがあります。
- 相手の感情の動きに合わせた対応ができる
- PCと連携させて共同作業ができる
- 幅広い年代を対象にできるため、市場到達率が高い
6.ダイレクトメール
ダイレクトメールは、一般的に対象者全員に同じダイレクトメールを一斉に送付するものです。それをベースに、見込み客・顧客に合わせて、内容やアプローチの方法をカスタマイズするのがダイレクトマーケティングにおけるダイレクトメールの特徴です。
ダイレクトメールは5:2:2:1の法則が有効といわれます。この法則は、ダイレクトメールを構成する4つの要素であるターゲット、オファー、タイミング、クリエイティブの重要度は5:2:2:1であるというものです。
見込み客に合わせて内容やアプローチ方法を変えるダイレクトマーケティングの手法をダイレクトメールにも取り入れ、ターゲットに合わせたオファーを行うことで、より高い効果が期待できます。
オフラインのダイレクトメールには、3つのメリットがあります。
- 商品サンプルを封入できる
- 高級感のあるカタログやパンフレットを通じて高額商材の提案ができる
- 手元に残るため何度も読み返してもらえる
ダイレクトマーケティングの3つのメリット
ダイレクトマーケティングのメリットは、以下の3点に整理できます。
- 費用対効果が高い
- 効果を測定しながら施策の改善ができる
- 顧客と長期的な関係を構築できる
メリット1 費用対効果が高い
ダイレクトマーケティングを行う対象は、自社の製品やサービスに関心を持っている見込み客や、過去に購入履歴のある顧客です。
最初にWebサイトやブログを通じて、潜在的な見込み客に価値ある情報を提供します。さらにコンテンツを通じて自社の製品やサービスに関心を持つ見込み客のデータベースを作成。Webサイトの閲覧履歴なども踏まえて、見込み客に最適な提案を行います。
またWeb広告も、見込み客に合わせて最適な媒体に、最適な訴求内容で広告を配信できます。
このようなプロセスを経ているため、ターゲットに合った最適なアプローチが可能となり、費用対効果の高い施策を取れます。
メリット2 効果を測定しながら施策の改善ができる
顧客のレスポンスごとにデータを取得できるため、効果を測定できます。 そのデータを元に施策ごとにPDCAサイクルを回すため、改善しやすくなります。
メリット3 顧客と長期的な関係を構築できる
双方向的なコミュニケーションは、初回購入が完了以降も続きます。購入後の継続的なコンタクトやレコメンデーションを行うことで、長期的な信頼関係が構築できるでしょう。また、レビューをWebサイトに反映させたり、紹介制度を活用し、新規顧客創出につなげます。
ダイレクトマーケティングを検討する際の注意点
ダイレクトマーケティングは大きなメリットがある反面、導入する場合にはリスクもあります。考慮すべきダイレクトマーケティングのリスクとして、主に以下の2点があります。
- 投資回収までに時間を要する
- ターゲットごとに手法を変える必要がある
1.投資回収までに時間を要する
質の良い見込み客のデータベースを作成するためには、時間がかかります。また、多くのユーザーに価値を提供するためのWebサイトやブログなどのコンテンツ作成にも、リソースを割かなければなりません。また、広告クリエイティブなどに投資が必要です。
またスモールスタートで始めて、テストしながら改善していくため、最初から大きな利益を出すのは難しいのも理解しておきましょう。
2.ターゲットや手法を都度見直す必要がある
ターゲットに適切なチャネルで適切な提案を行うためには、幅広いチャネルや広告クリエイティブ、提案内容を用意しなければなりません。しかしターゲットを定めて、高いコンバージョン率などを安定的に出せるようにするには、試行錯誤が必要です。
また思うような結果が出ない場合は、ターゲットそのものを見直すことも求められるでしょう。ダイレクトマーケティングを実行する際は、長期的な戦略を立て、施策を立案しましょう。
ダイレクトマーケティングが向いている業種とは?
ダイレクトマーケティングは幅広い業種で活用されています。B2C、B2B各分野でダイレクトマーケティングに向いている業種を見ていきましょう。
B2C
B2Cでは、大手の流通チャネルには乗りにくい、ニッチな分野や個人の嗜好に合わせた商品を扱う分野がダイレクトマーケティングに向いています。
代表的な業種を見ておきましょう。
- 美容・健康
- 金融サービス
- アパレル
- 教育
- 食品
特に上記のビジネスは、物販関連のEC市場は、高い伸びをみせています。
令和2年度 電子商取引に関する市場調査 |経済産業省
B2B
Webサイトやブログコンテンツを活用して質の高い見込み客を獲得し、その見込み客に適したアプローチを行うダイレクトマーケティングの手法は、B2Bでも活用できます。
特に多くの企業が業務の効率化・IT化を進めているため、以下のような業種でダイレクトマーケティングのニーズが高くなっています。
- 情報通信
- 産業関連機器
また、ダイレクトマーケティングの中でもB2B向けのECは、すでにかなりの市場規模となっています。ECというとB2Cのイメージが強いのですが、実際にはB2Bの方がより高い市場規模で推移しています。
令和2年度 電子商取引に関する市場調査 |経済産業省
B2BのECとして代表的なサービスに、製造業や建設工事事業向けの資材や工具を提供するモノタロウや、オフィス向けのPCや事務用品を提供するアスクルがあります。ともにWebサイトから簡単に受注可能な仕組みを構築しているのが特徴です。
ダイレクトマーケティングを成功に導く3つのポイント
ここまでお伝えした内容を踏まえると、顧客に直接アプローチするダイレクトマーケティングの成功のポイントは主に3つです。
- 適切なターゲティングを行う
- ターゲットごとに効果的なプロモーションを行う
- 顧客からのレスポンスを蓄積し、長期的な関係を築く
この3点を行うためには、あらゆるタッチポイントで得られた顧客情報を「データベース化」する必要があります。ここではダイレクトマーケティングで成功するために、上記3点の成功ポイントでいかにデータベースを活用するかを紹介します。
- 顧客データをターゲティングに活用する
- 顧客データをプロモーションに活用する
- CRMを通じて顧客との関係を深める
1.顧客データをターゲティングに活用する
自社にとっての優良顧客を抽出・分類する分析手法である「RFM」を使用し、ターゲティングを行います。
具体的には、顧客を以下の3つの切り口で分類します。
- R(Recently)=最近いつ購入したか
- F(Frequency)=どのくらいの頻度で購入しているか
- M(Monetary)=これまで総額でいくら購入しているか
各ポイントで、評価軸を定義し、指標としましょう。
【例】指標の例
点数 |
R(最終購買日) |
F(購買頻度) |
M(累計購買額) |
5 |
1週間以内 |
50回以上 |
100万円以上 |
4 |
1か月以内 |
30回以上 |
50万円以上 |
3 |
4半期以内 |
10回以上 |
30万円以上 |
2 |
半年以内 |
5回以上 |
10万円以上 |
1 |
1年以内 |
1回のみ |
10万円未満 |
上記の指標を顧客リストに入力し、グルーピングします。
RFM分析を通して、RFMの全てにおいて点数の高い優良顧客が発見できます。また、「FやMが高くてもRが低いと流出する可能性が高い」など、蓄積されたデータを通して自社独自の傾向も把握できるのです。
改善策を検討する上でも「点数が高い顧客は何に価値を感じているか?」「点数の低い顧客をファンにするにはどのような何が必要なのか?」など焦点が絞れるために、改善策が見つけやすくなります。
2.顧客データをプロモーションに活用する
プロモーションの対象を見つけるのに簡単な方法として、「デシル分析」があります。
デシル分析は全顧客を10等分し、購入金額の高い順に並べ、各層を比較検討する方法です。
仮に顧客が1,000人おり、100人ずつ10等分した合計金額が、以下の表のようになったとします。
上記の例では、デシル分析によって、売上のほぼ半数が上位200人の顧客からもたらされていること、売上の80%は上位半数の顧客で占められていることなどがわかります。
3.CRMを通じて顧客との関係を深める
ダイレクトマーケティングでは、自社の顧客との良好な関係の構築が重要です。そのために求められるのが「顧客関係管理(CRM)」です。
CRMとは、顧客情報をデータベース化して、マーケティング部門や営業部門だけでなくコールセンターやカスタマーサポート部門など顧客とのあらゆるタッチポイントでの情報を共有する取り組みです。
顧客情報や購入履歴、問い合わせや苦情などのコンタクト履歴、さらに分析を通じて指標化された顧客データを一元管理します。これにより、すべての接点において、顧客1人ひとりにとって最適なコミュニケーションが可能になるのです。
CRMについては以下の記事でも詳しく説明しています。興味のある方は参考にしてください。
ダイレクトマーケティングの成功事例
ダイレクトマーケティングを活用し、企業を成功に導いた事例を紹介します。
成功事例1 Dellコンピューター
Dellコンピューターは小売店や代理店を持たず、顧客から直接要望を聞き、注文を元にコンピューターを組み立て、5~9日で顧客に届けるというビジネスモデルで成長を遂げました。
Dellコンピューターの成功の背景にある3つのポイントを押さえておきましょう。
- 店舗や販売担当者を持たないために、製品価格を競合より2割ほど低く設定
- 顧客ニーズに合わせて製品をカスタマイズ
- 短納期
成功事例2 アメリカン・エキスプレス
アメリカン・エキスプレスは、富裕層の顧客に高品質なサービスと充実した特典を提供するブランドとして知られており、顧客ロイヤルティの高さが特徴の1つです。
アメリカン・エキスプレスの成功の理由は、以下の3点が挙げられます。
- 決済まで行うクレジットカードであるため、顧客情報を自社ですべて管理
- 顧客情報を元に的確なターゲティングを行い、顧客に合わせた提案とサービスを提供
- 割高ではあっても満足度の高いサービスを提供し、高い稼働率を実現
成功事例3 アスクル
アスクルはダイレクトマーケティングの強みを活かし、主にB2Bの分野で成長を遂げています。
アスクルの成長の背景には3つのポイントがあります。
- 顧客規模別に4つの注文サイトを設け、顧客の異なるニーズに対応
- 自社が把握する顧客情報・市場情報をメーカーと共有することで、メーカーとの緊密な連携を実現
- 顧客との間に仲間的な信頼関係を構築しリピーター化を促進
以上の企業の成功は、いずれもダイレクトマーケティングの強みを十分に活用しているのがわかります。一方で、共通点として「製品やサービスの質が高く、顧客に大きな価値を提供している」ことも見流せないポイントです。
ダイレクトマーケティングで自社のビジネスをグロースさせよう!
ダイレクトマーケティングは、顧客との双方向的なコミュニケーションを確立するための効果的なマーケティング手法です。
ダイレクトマーケティングは、TVやWeb広告に多額の資本を投資する余裕のないスモールビジネスでも実践できます。古くからある手法ですが、デジタル時代に入ってより精緻な測定が可能になり、施策の効果検証と改善が行いやすくなりました。
さらにSNSの活用によって、顧客と繋がり、自社のファンを増やすこともできます。
歴史的に見ると、B2Cを中心に活用されてきたダイレクトマーケティングですが、その手法はB2Bビジネスにも展開されています。幅広いメディアを通じて、顧客との双方向的なコミュニケーションを行いながら、施策改善を通じて顧客とのリレーションを高めるダイレクトマーケティングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。