アンカリング効果は、心理学や行動経済学において認知バイアスのひとつとして知られている現象です。マーケティングにアンカリング効果をうまく活用すると、消費者が商品やサービスを購入するハードルを下げる効果が期待できます。
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本記事では、アンカリング効果の概要や混同されやすい心理学用語との違い、活用方法などをわかりやすく解説します。
アンカリング効果とは
ここでは、アンカリング効果の意味やフレーミング効果との違いについて解説します。
アンカリング効果の意味
アンカリング効果とは、意思決定において、最初に提示された情報がその後の判断に影響を与える現象です。心理学や行動経済学において、認知バイアスのひとつとして知られています。
例えば、ある商品の通常価格と割引後の価格が記載されていた場合、最初に提示された金額(通常価格)がアンカーとなり、割り引かれた後の金額を安いと感じることがあります。通常価格が基準となって、割引後の価格が、よりお得に感じられる効果をもたらしているというわけです。
アンカリング効果は、船の錨(いかり)を意味する「アンカー」から名付けられました。錨には、船が流されないようにする役割があり、最初に提示された情報が錨のように固定されることからアンカリング効果と名付けられました。
フレーミング効果との違い
フレーミング効果は、心理学や行動経済学の概念のひとつであり、情報の提示方法や言い回しによって、受け取った人の判断や意思決定が変わる現象を指します。
例えば、ある薬が効果的であるとする情報を伝える際に、「副作用が10%ある」というネガティブな表現の仕方と、「副作用が90%ない」というポジティブな表現を用いる場合では、受ける印象が異なります。前者の表現では副作用の危険を感じやすく、後者の表現では薬が安全であると感じやすくなるでしょう。
フレーミング効果が、1つの事実を異なる枠組みで提示するのに対して、アンカリング効果は最初に判断基準そのものを提示するという違いがあります。
アンカリング効果の具体例
ここでは、日常でよく見られるアンカリング効果の具体例を3つ紹介します。
- 商品価格
- 契約交渉
- 飲食店のメニュー
商品価格
スーパーやドラッグストアなどで、通常価格と割引後の価格を記載しているのは、アンカリング効果を狙ったものです。
通販番組でも、先に高めの金額を伝えてから、「今回は特別に20%割引します」、「オプションをつけます」と宣伝します。先に金額の高い「通常価格」を伝えることで、割引後の価格がより魅力的に感じられるためです。
契約交渉
最初に提案した金額や条件が良い場合、その後の交渉で金額や条件を下げられたとしても、最初の提案内容が基準となるため高めの水準で決着しやすくなります。
例えば、営業で契約金額を提示する際は、まず想定よりも高めの金額を提示してから、実際に契約してもらいたい金額を提示します。相手にとっては、最初の提示金額が基準となって、2回目に提示した金額が受け入れられやすくなるためです。
飲食店のメニュー
飲食店のメニューでは、少し高価な特別メニューをあえて掲載している場合があります。これは、高価な料理が先に目に入るよう目立たせておくことで、通常メニューの価格が相対的に安く感じられるよう工夫されている例です。
アンカリング効果を活用する際のプロセス
ここでは、アンカリング効果をマーケティングで活用する際の4つのステップを解説します。
- 情報を集める
- 基準を設定する
- 基準となる高価な商品やサービスをつくる
- 検証と改善を行う
1. 情報を集める
まずは、アンカリング効果の基準となる商品やサービスの価格を設定するために、情報を集めます。
アンカリング効果を狙うには、通常の商品やサービスよりも高付加価値・高価格のものを基準として設定する必要があります。しかし、相場から大きく乖離すると効果が薄れてしまいます。市場の状況や競合他社の価格といった事実確認を十分に行いましょう。
2. 基準を設定する
次に、アンカリング効果の基準となる価格を設定します。前のステップで調べた市場のニーズや競合他社の価格などを参考に、高価格帯の商品やサービスの価格を設定します。
3. 基準となる高価な商品やサービスをつくる
基準が決まったら、既存の自社商品やサービスより高価なプランをつくります。高価なメニューを取り入れることで、元からある通常価格のメニューがお得に感じられ、購入のハードルが下がります。
4. 検証と改善を行う
導入後は、アンカリング効果の成果を検証します。顧客の反応や売上データを定期的に分析し、戦略の効果を評価することが大切です。
戦略や基準を見直して改善するサイクルを繰り返し、戦略の最適化を図りましょう。その結果、顧客の要望や市場の変化に柔軟に対応できます。
アンカリング効果を活用する際の注意点
アンカリング効果はマーケティングを行う上で有効なツールとなりますが、注意が必要な点もあります。特に、次の3点には注意しましょう。
- 価格表記は明確にする
- 過度な使用は避ける
- 効果が出ないケースもある
価格表記は明確にする
消費者の誤解を招く可能性がある価格表記は逆効果になるため、行わないようにしましょう。通常価格と割引価格を記載する「二重価格表示」は、よく使われる手法ではありますが、景品表示法に抵触するおそれがあるため注意が必要です。
別種の商品の価格を比較対象の価格として表示したり、比較対象の価格が実際とは異なったりする場合は、景品表示法違反となる可能性があります。
例えば、メーカー希望価格がないのに、「メーカー希望価格から2割引」と記載してはいけません。実際とは異なる情報であり、景品表示法違反となるためです。また、法律に違反していなくても信用を失うおそれがあるため、誤解を与えないわかりやすい表記を心がけましょう。
過度な使用は避ける
アンカリング効果を頻繁に狙うと、消費者が特別感を失い、効果が薄れる可能性があります。特別な状況や戦略において効果的に導入することが重要です。セール期間や新商品の発売時など、限定的にアンカリング効果を活用しましょう。
効果が出ないケースもある
消費者が相場を把握している商品やサービスでは、アンカリング効果が発生しにくい場合があるので注意が必要です。
アンケートなどで認知度や利用率などを調査し、どの商品やサービスにアンカリング効果を活用するのかを見極めることが大切です。
アンカリング効果を適切に活用しよう
マーケティング戦略にアンカリング効果を取り入れることで、消費者に「お得感」を持ってもらい、購買意欲を高める効果が期待できます。ただし、価格の表記方法は景品表示法違反になる可能性もあるため、注意が必要です。
また、あくまでも消費者が満足感を持って商品やサービスを購入ができることが大前提であり、買ってから後悔するようなやり方は信頼を失います。
アンカリング効果が出やすい商品やサービスを見極め、適切なタイミングで活用しましょう。