近年、BtoB(企業間取引)のEC市場は拡大傾向にあります。経済産業省が実施した令和4年度の電子商取引に関する市場調査によると、2022年のBtoB ECの市場規模は420兆2,354億円で、過去最高を記録しています。
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EC市場にチャンスがあることは理解していながらも、具体的にどのような戦略を立てるべきかわからず、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、BtoB ECサイトの基礎知識やメリットとデメリット、成功のポイントなどを詳しく解説します。EC市場への参入をお考えの方だけでなく、すでに参入済でシェアの拡大を目指したい方も、ぜひ参考にしてください。
BtoB ECとは
「BtoB EC」とは、企業間の商品やサービスの取引をオンライン上で行うビジネスモデルを指します。
インターネットを活用したECサイトを通じて、効率的かつ迅速にビジネスプロセスを実行することが可能です。このモデルは、注文処理、支払い、物流の最適化を促進し、ビジネスのデジタル変革を支援するシステムや仕組みを包括しています。
では、BtoB ECの取引形態や種類はどのようなものがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
BtoB ECの取引の形
BtoB EC市場における取引形態は、主に「EDI」と「BtoB ECサイト」の2種類に分けられます。
EDI
EDI(Electronic Data Interchange)とは、電子データ交換を意味しており、企業間取引において文書や情報をデジタル形式でやり取りするシステムを指します。
BtoB取引においては、頻繁に発生する受注・発注や請求・支払い、納品・出荷プロセスを自動化し、伝統的な紙ベースの文書や電話による手続きを大幅に削減します。これにより、取引の効率化が図られ、手作業によるミスのリスクも減少します。
EDIは、専用の通信回線を使用して取引先と直接つながり、セキュリティレベルが高いのが特徴です。しかし、システム間の互換性や設定の複雑さが課題となることがあります。
また、ISDNのサービス終了に伴うインターネット回線への移行や、柔軟性と拡張性の点でオンラインのBtoB ECプラットフォームに劣る場合もあり、汎用性の高いBtoB ECサイトへの移行を検討している企業も多くあります。
BtoB ECサイト
BtoB ECサイトは、インターネットを介して法人顧客に製品やサービスを提供するデジタルプラットフォームを指します。BtoBビジネスのEC化は、従来のような対面や書類による取引からデジタル取引への大きな転換点となり、ビジネスの効率化と範囲拡大を実現しています。
多くのBtoB ECサイトでは、顧客エンゲージメントを高めるための先進的なマーケティングツールが組み込まれているものもあり、企業にとって新たな顧客基盤の構築や市場拡大の重要な手段となっています。
BtoB ECの種類
BtoB ECは主に、次の2つのカテゴリーに分けられます。
- クローズド型BtoB EC
- スモール型BtoB EC
クローズ型BtoB EC
クローズド型BtoB ECは、特定の顧客だけがアクセスできる専用ECサイトであり、EDIを含むこともあります。
このタイプのECサイトにアクセスするためにはログインが必要で、一般のユーザーは閲覧や利用ができません。また、顧客ごとに異なる価格設定が可能で、特定の取引量や得意先に対して割引や特別価格を提供できるのが特徴です。
スモール型BtoB EC
スモール型BtoB ECは、一般的なBtoC ECサイトのようにオープンな構造を持つサイトです。誰でも利用可能で、新規取引先の開拓も期待できます。また、構築が比較的容易で、既存のBtoC ECサイトのプラットフォームを活用できる点も魅力といえます。
代表的なスモール型BtoB ECの事例として、オフィス用品を提供する「アスクル」や、事業者向け工業用間接資材を提供する「モノタロウ」があげられます。
BtoB ECとBtoC ECとの違い
BtoB ECとBtoC ECには、次のような違いがあります。
BtoB EC:「企業」対「企業」の取引
BtoB ECは企業間の取引になるため、BtoC ECとはシステムの構築方法が異なります。
■ID:
複雑なID構造が一般的で、企業、部署、担当者ごとに個別に紐づけられたIDが使用されます。これは、企業間の取引を管理し、アクセスを制御するための必要性から生まれています。
■商品の表示・価格:
クローズド型の場合、企業ごとに異なり、取引条件や取引量に応じて個別の価格設定が行われます。つまり、異なる企業間で同じ商品でも価格が異なることがあります。
■カート:
複数の商品をカートに同時に投入することができ、大口の注文を容易に処理できるのが特徴です。
■決済方法:
クレジットカードや代金引換だけでなく、掛売り(後払い)にも対応しています。
BtoC EC:「企業」対「消費者」の取引
BtoC ECは、企業と一般の消費者との取引になります。システム構築の主な特徴は次の通りです。
■ID:
個人単位の単一IDが一般的に使用され、消費者個人のアカウントで商品の購入が管理されます。
■商品の表示・価格:
全会員に対して同一であり、個別の価格設定は存在しません。つまり、同じ商品はどの顧客に対しても同じ価格で提供されます。
■カート:
商品ごとに単品をカートに投入する形式が一般的で、個別の商品を選んでカートに追加することが通常です。
■決済方法:
クレジットカードや代金引換など、一般的な個人消費者向けの方法が使用されます。
BtoB ECの市場動向と注目されている背景
ここでは、経済産業省が提供する統計データを基に、2022年のBtoB EC市場の最新動向と、その成長を支える背景にある要因を詳しくみていきます。
BtoB ECの市場動向
経済産業省の最新の調査によると、2022年のBtoB EC市場は、過去最高の420兆2,354億円に到達し、2021年の372兆7,073億円から12.8%の増加を見せました。
小売業などの「その他」を除く全体のEC化率については37.5%に上り、これは前年から1.9ポイントの上昇です。
さらに、業界ごとにEC化率の割合を見ると、製造業がとくに目立ち、「食品」は70.7%、「輸送用機械」は76.7%、「電気・情報関連機器」は66.3%、「繊維・日用品・化学」は49.9%となっています。
一方で、BtoC ECの市場規模は2022年に22兆7,994億円となっており、BtoB EC市場がBtoC市場の約19倍の規模であることがわかります。
BtoBは1回あたりの発注金額がBtoCよりも高額になることが、市場規模が大きい理由の一つです。また、EC化率が特に高い製造業では、特定の部品や資材などを定期的に仕入れるため、EC化することで受発注しやすい点も市場規模の拡大につながっているといえるでしょう。
BtoB ECが注目されている背景
BtoB ECは、働き方改革やデジタルデバイスの普及などを背景に急成長しています。ここでは、いくつか代表的な理由を取り上げてBtoB市場の現状を見ていきましょう。
働き方改革の推進とその影響
2019年からスタートした働き方改革の主要な目標は、長時間労働の是正と柔軟な働き方の実現です。これにより、企業は働き方の変革と生産性向上を推進する流れになりました。
具体的には、アナログ業務のデジタル化により業務プロセスを効率化し、人的コストの削減が可能となりました。
特に、受発注業務や請求書処理のデジタル化が進展しており、BtoB EC市場の急速な成長の要因の一つとなっています。
IT基盤の強化とデジタルデバイスの普及
ITインフラの整備とデジタルデバイスの普及は、BtoB EC市場の拡大に貢献しています。
全国的に広まるインターネット環境と、PCだけでなくスマートフォンなどの多様なデバイスの利用が増加したことが、市場の拡大を促しています。多くの人々がシステムに簡単に接続し、業務を効率的に行えるようになったことが、BtoB EC市場の成長の背後にある要因とされています。
事業継続計画(BCP)の強化と実装
BtoB ECの重要性が高まっている背景の一つに、事業継続計画(BCP)の策定とその実施もあります。
BCPは、自然災害やテロ攻撃など予期せぬ緊急事態に備え、事業の中断を最小限に抑え、迅速な事業再開を目指す計画です。
とくに新型コロナウイルスのパンデミックは、資材の調達困難や原材料の価格高騰といった新たな課題をもたらしました。このような状況下で、BtoB ECは取引データをクラウド上で安全に保管・管理することで、事業の継続性を支える重要な役割を果たしています。
災害や緊急事態が発生した際にも、事業活動を継続しやすくするため、多くの企業がBtoB ECへの注目と投資を強化しています。
BtoB ECを導入するメリット
BtoB ECを導入すると、企業には次のようなメリットがあります。
新たな顧客層の開拓
BtoB ECを導入すると、企業は地理的な制限を越えて、もっと広い範囲の顧客にアクセスできるようになります。
インターネットさえあれば、どこからでも企業の情報を伝えることができ、新たな顧客創出が容易になります。さらに、オンラインでの強い存在感を築くことで、競合他社に対する優位性を確立できるチャンスも生まれます。
受注チャンスと売上の増加
BtoB ECでは、営業時間に関わらず24時間365日発注が可能なため、顧客の要望に迅速に応えられるようになります。
オンラインでの注文プロセスは効率的で、顧客側の工数も削減できるため、満足度の向上も期待できるでしょう。
業務負担の軽減につながる
BtoB ECを活用することで、手動でのデータ入力や確認作業が不要になり、業務の効率が上がります。また、電話やFAXでのやり取りで発生する誤解や、文字の読み間違いによるミスが減り、業務の品質が全体的に向上します。
これにより、従業員はより重要な業務に集中できるようになり、生産性が高まります。
BtoB ECを導入するデメリット
企業にBtoB ECを導入する際は、次のようなデメリットがあることも認識しておきましょう。
初期投資と導入コストの考慮
BtoB ECを立ち上げる際には、高額な初期投資と導入コストが必要です。システムを構築するためには、数百万円から数千万円の費用がかかることもあり、これは多くの企業にとって大きな負担となるでしょう。
また、各企業の業界特有の商慣習や取引形態に合わせたカスタマイズが必要になることが多く、さらなるコスト増加につながります。
BtoB ECを導入する際には、これらのコストを事前に慎重に評価し、長期的なROI(投資収益率)を考慮する必要があります。
既存顧客への適切な対応とフォローの必要性
既存の顧客にとって、取引方法が変わることは大きな変化です。新しいシステムの導入によって混乱が生じないよう、事前に変更点を詳しく説明し、十分なサポートを提供する必要があります。
FAXや電話からのオンラインへの移行は、とくにサポートが必要とされ、説明資料やデモサイトの用意などが求められます。顧客の不安を和らげ、新しいシステムへの移行をスムーズにするための手厚いフォローが必須となるでしょう。
BtoB ECの構築方法
BtoB ECの立ち上げには、いくつか異なるアプローチがあります。主な方法は、次の4つです。
- ASP型
- パッケージ型
- クラウド型
- フルスクラッチ型
ASP型
ASP型では、カート企業が提供するECプラットフォームをレンタルし、自社のECサイトを展開します。
この方法は、低い初期投資でスタートできる点が魅力です。定額料金で利用できるサービスもあり、初期段階での費用を抑えたい企業に適しています。
ただし、提供される機能やデザインのカスタマイズには限りがあり、完全に独自のシステムを築くことは難しいかもしれません。
パッケージ型
パッケージ型は、市販されているECサイト構築用のソフトウェアパッケージを購入し、それをベースにECサイトを構築する方法です。
高度なカスタマイズが可能で、自社のニーズに合わせて機能を追加できる点が大きな魅力です。
しかし、パッケージの購入とカスタマイズ作業には高い初期コストがかかり、通常100万円以上の投資が必要になることがあるため、大手企業向けのシステムと言えるでしょう。
クラウド型
クラウド型では、インターネット経由でアクセスするクラウドサービス上にECサイトを構築します。物理的なインフラの準備が不要で、機能性やカスタマイズの自由度が高い点が特徴です。
システムの更新や保守も自動で行われるため、運用の手間が省けます。クラウド型の導入コストは、パッケージ型と同様に比較的高めのため大手企業向けの方法となります。
フルスクラッチ型
フルスクラッチ型は、ゼロから完全オーダーメイドのECサイトを開発する方法です。このアプローチでは、企業の細かい要望や特有のニーズをサイトに反映させることができます。
しかし、この高度なカスタマイズ性は、長い開発期間と高いコストを要します。構築費用は500万円以上となることが多く、大規模なプロジェクトや特殊な要件がある場合に選択されます。
BtoB ECにおける成功のポイントと注意点
BtoB ECを成功させるためには、どのような点に注意するべきなのでしょうか。ここでは、成功のポイントと注意点を紹介します。
顧客とのコミュニケーションが重要
BtoB ECを導入する際には、顧客とのコミュニケーションが非常に重要になります。顧客は新しいシステムや変化に対して抵抗を感じることがあり、とくに既存の顧客は、突然の変更に戸惑うかもしれません。
そのため、ECサイトの利便性やメリットをしっかりと顧客に説明し、理解と協力を得る必要があります。
さらに、顧客が選択できるように従来の取引方法もあわせて提供することが、スムーズな移行に役立ちます。これにより、顧客の不安を軽減し、新しい取引方法への移行を促進できます。
業務フローを明確にする
BtoB ECサイトを成功させるためには、事前に自社の業務フローを明確にすることが不可欠です。
業務の明確化が不十分だと、構築したECサイトが実際の運用に適合しないリスクが高まります。重要なのは、受注の入力、納期の回答、在庫や価格情報の照会などの日常業務をECサイトに反映させることです。
また、自社特有の販売方法や業務ルール、価格設定、出荷方法、在庫管理、納期の管理などを詳細に検討し、それらをシステムに組み込むことが重要です。
業務フローの全体概要や詳細なフロー図を作成することで、運用上の混乱を防ぎ、エラーや無駄の発生を最小限に抑えることができます。
さらに、基幹システムとの連携も重視し、効率的でスムーズな運用を目指すようにしましょう。
BtoB ECサイトの例
ここでは、BtoB ECサイトの運営事例を3つご紹介します。
モノタロウ
引用:モノタロウ
モノタロウは、事業者向けの工業用間接資材を取り扱うBtoB ECサイトで、1,800万点以上の商品を扱っています。
"間接資材のAmazon"と称されるほどの規模を誇り、クイックオーダ機能や豊富な商品知識を提供するコンテンツが特徴です。
BtoB EC化にすることで、従来の問い合わせやカタログからの注文方式から脱却し、1点からの発注や当日出荷・翌日配送を実現しています。
タジマヤ卸ネット
引用:タジマヤ卸ネット
タジマヤ卸ネットは、スナック菓子から生活必需品に至るまで、多岐にわたる商品群を販売するECサイトです。サイトはシンプルで使いやすく設計されており、ユーザーが求める商品をカテゴリ別に簡単に見つけることができます。
また、このサイトはセミクローズ型で運営されており、価格情報は登録メンバーにのみ公開されているのも特徴です。
MiSuMi-VONA
引用:ミスミ
MiSuMi-VONAは、製造業界に必須のFA機器や精密機械部品を提供する専門のECサイトです。数百万点の商品を扱い、カテゴリー分類や検索の絞り込み機能が優れています。
2010年から他社製品の取り扱いを開始し、製品ラインナップの拡張と販売チャネルの拡大を図っています。
BtoB ECサイトを顧客の創出や満足度の向上につなげよう
BtoBの電子商取引市場は拡大傾向にあり、新規顧客の創出に寄与しています。
企業の競争力を向上させるには、EC化による業務効率化と売上拡大が不可欠です。将来にわたってBtoB企業は、この方向性を追求し持続的な競争力を高めていくことが求められるでしょう。