顧客の購買プロセスを見える化した「カスタマージャーニー」は、マスメディアの時代から重視されてきた概念です。一部では、現代の多様化する顧客行動に当てはまらないといわれていますが、現在も買い手の理解を深めるために活用できる点は変わりません。
【7種のテンプレ付き】カスタマージャーニーを実務に活かすための入門ガイド
業務ですぐに使える実用的な7種類のカスタマージャーニーマップ・テンプレート付き入門ガイド
- カスタマージャーニーマップ作成の5つのメリット
- カスタマージャーニーマップ作成前の準備
- 7種類のカスタマージャーニーマップ・テンプレート
- カスタマージャーニーアナリティクス機能の活用事例
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
現代のマーケティングにおいてカスタマージャーニーを活用するには、より顧客目線を主軸にして、購買プロセスを分析し、カスタマージャーニーマップを作成する必要があります。
カスタマージャーニーマップとは、顧客の行動やその時の心理を時系列に並べてビジュアル化し、わかりやすく可視化したものです。行動だけでなく心理まで踏み込んでいるのがポイントで、チームでの顧客インサイトについての共通認識をとりやすくなるでしょう。また、施策実行後における効果検証の指針にもなるため、マーケティング戦略やアクションプランの改善にも効果を発揮します。
本記事では、企業によるカスタマージャーニーマップの作成事例5選と、作成する際のポイントを紹介します。ぜひ参考にしてください。
企業によるカスタマージャーニーの事例
カスタマージャーニーマップは、購買プロセスの各フェーズで、顧客の行動や感情に合わせた営業・マーケティング施策を考えるうえで役立ちます。
ここでは、5つの優れたカスタマージャーニーマップの作成事例をご紹介します。
海外旅行計画者のカスタマージャーニーマップ
引用:顧客の行動パターンを理解するためのカスタマージャーニーマップ入門 _ Web担当者Forum
「Web担当者Forum」内でカスタマージャーニーを解説したコラムに掲載されているカスタマージャーニーマップです。
「友人と2人で海外旅行を計画している日本人が初めてAirbnbで宿泊先を探す」というペルソナを想定し、「宿泊候補を探す→宿泊先を決める→宿泊地に行く→宿泊地を評価する」という流れの中で、各タッチポイントにおける行動やその際の思考、感情や心理といったものをひとつのマップにまとめたものです。
感情の起伏の様子が矢印で表現されており、その流れに沿って適切なサービスを考えることができます。このように、カスタマージャーニーの流れをビジュアル化できるのが、カスタマージャーニーマップの優れた点です。
旅行代理店利用者のカスタマージャーニーマップ
引用元:Anatomy of an Experience Map - UX Articles by UIE(英語)
Rail Europe(レイルヨーロッパ)という北米の旅行代理店が、サービス向上を目的として作成したカスタマージャーニーマップです。
「欧州旅行を計画する→移動手段を調べる→電車のチケットを予約する→現地に行く→電車で移動する→旅を終える」という一連の顧客行動が可視化されています。
ペルソナの時間軸ごとのステージ、さらには各タッチポイントにおける行動、その際の思考や感情体験、そこから得られる洞察と改善点がきれいにまとまっています。イラストを豊富に使用しており、顧客の動きがひと目でわかるようになっています。
食器棚メーカーのカスタマージャーニー マップ
〇AsIsカスタマージャーニーマップ
〇ToBeカスタマージャーニーマップ
引用元:【テンプレート付き】カスタマージャーニーマップの正しい作り方&活用事例
株式会社パモウナが、Webサイトをリニューアルするにあたってカスタマージャーニーを設計し、コンバージョン199%アップに成功した事例です。この事例では、株式会社リオが運用するDESIGN αのカスタマージャーニーテンプレートが使用されています。
カスタマージャーニーの設計前に、まずは定性調査として食器棚の購入者や購入検討者へのインタビューを実施。さらに、店舗を実際に訪問してユーザーの行動を観察、店員へヒアリングを行うなど、利用者や店舗から直接声を徹底して集めることで、ペルソナ像を明確にしています。
カスタマージャーニーマップの作成では、「現在の状況と課題を導き出す=AsIs」と「理想の解決策を見つけ出す=ToBe」の2種類に分け、それぞれ組み立てているのが特徴的です。入念に調査されたペルソナ像をもとに、現状のユーザーの心理状態をマップに書き表すことで課題を明確に(Asls)。次に、ユーザーの課題が解決された理想の状況を想定して書き表すことで、具体的な解決策を導き出せます(ToBe)。
このカスタマージャーニーマップから生み出されたアイデアを具体的に落とし込むことで、成果を上げるWebサイト制作につながりました。
就職活動のカスタマージャーニー マップ
引用元:顧客の行動パターンを理解するためのカスタマージャーニーマップ入門 _ Web担当者Forum
株式会社ロフトワークがクライアントの新卒採用向けWebサイトをリニューアルする際に作成したカスタマージャーニーマップです。
このカスタマージャーニーマップは、就活生と企業がワークショップを通じて共同で作成したことが大きな特徴です。ペルソナ当事者も巻き込んで作成することで、より精度の高いカスタマージャーニーマップが作成できます。
ワークショップでは、就活開始から入社までの就活生の行動や感情を、ペルソナである就活生自らが挙げ、その中から課題を抽出しました。ワークショップによってWebサイトをリニューアルする際の方向性が定まっただけでなく、社員が就活生向けのコンテンツの必要性に気づくきっかけにもなりました。
LEGOのカスタマージャーニーマップ
レゴブロックで有名なLEGO社が、Webサイトの運営の指針とするために作成したカスタマージャーニーマップです。一般的なカスタマージャーニーマップは縦軸・横軸で作られますが、LEGO社のものはホイール型のマップであることが特徴です。
ホイールは「Before(サービス体験前)」「During(体験中)」「After(体験後)」の3つのフェーズによって分けられており、顧客行動が飛行機の搭乗からフライト、フライト後になぞらえて作成されている点が非常にユニークです。このマップによって自社Webサイトでの再訪率・回遊率を高めようとしました。
顔のアイコンによってペルソナの感情が一目で分かり、顧客体験がイメージしやすい優れたカスタマージャーニーマップといえます。
HubSpot導入企業のカスタマージャーニー成功事例
HubSpotを導入いただいた企業様のなかから、ペルソナ設計やカスタマージャーニー設計により成果につながった事例を2社紹介します。
株式会社Kaizen Platform
株式会社Kaizen Platformは、セールスとマーケティング領域のDX支援を手掛ける企業です。DXコンサルティング・WebサイトのUI/UX改善・動画事業を中心に企業のサポートを行う同社は、営業力が強みであるものの、デジタルマーケティングには力を入れられていない点が課題でした。
同社ではHubSpotを導入するに辺り、精度の高いペルソナを設計し、購買プロセスから仮説を立てる方法でマーケティングを進める方針をとります。データドリブンな進め方も並行しましたが、当時の同社の環境下では非常に難易度が高く、まずはペルソナ設計・購買プロセスからの仮説立てを進めることに舵を切りました。
ペルソナの設計が机上の空論に終わらないよう、現場と直接コミュニケーションを取っている営業メンバーと連携。実態に即したペルソナと仮説を組み立てることに時間を費やしました。
設計したペルソナやカスタマージャーニーを基盤とし、そこから生まれたキーワードやメッセージを商材のタイトルやコンテンツのリード文に取り込むなどして活用。さらに、効果検証を行い、成果が見られない場合は改善するなど、精度を高めていきました。
こうした取り組みの結果としてコンバージョン数や商談数の増加を達成。さらに、HubSpotのツールを活用してメルマガ配信を行うことで、マーケティング経由のアポ数・商談数・受注件数が1年で2倍以上になるなど、大きな成果を出しています。
参考:HubSpot導入事例 | 株式会社Kaizen Platform
ピー・シー・エー株式会社
ピー・シー・エー株式会社は、経理業務に関するPC用基幹業務系パッケージソフトウェアの開発・販売・サポートを行う企業です。同社では、2018年よりデジタルマーケティンググループを発足。そこから本格的にデジタルマーケティングを実践するなかで、HubSpotを導入しました。
システムの導入段階では、まずWebサイト上におけるコンバージョンポイントの見直しから行い、ユーザー理解を深めるためにアクティビティの可視化に取り組みます。この施策によりリード数の増加には成功したものの、商談につながらないケースも多く、リードの数ではなく質への方向転換を図ります。HubSpot上にて、ユーザーの興味・関心の度合いに応じてセグメント化を行い、より関心度の高いユーザーへアプローチできるように運用の方法を変えました。
こうしたリードの質の追求をするなかで、既存ペルソナの見直しも実施。マーケティング部門のみで設計したペルソナでは実態との乖離が出やすいため、より顧客と関係性の深い担当者が顧客のイメージを言語化するなど、部門を横断して設計を行っています。
また、同社ではアプローチの「タイミング」も非常に重要だと考えています。フェーズごとにペルソナが起こすアクションを想定したうえで、効果的なアプローチを行いました。具体的には、HubSpotのメール開封通知機能を用い、開封が確認でき次第架電するなど、見込み客が一番情報を知りたいタイミングで接点を作り、密度の濃い情報を届けました。
こうした、ペルソナ設計、タッチポイントの整理と部門連携による対応などの取り組みにより、同社ではMRR5倍の成長を達成しました。
2社の取り組み事例で紹介した通り、カスタマージャーニーはマーケティングの施策の成果を最大化するために欠かせません。同時に、設計後の運用時にも重要な役割を果たします。仮説立てした施策が本当に適切なのか、効果検証を繰り返し最適化することで、より高い精度のマーケティング活動を実現できます。
HubSpotのアドバンスト マーケティング レポートは、カスタマージャーニーの精度を高めるために役立ちます。ビジネスをより加速させる当社のツールをぜひお試しください。
事例から学ぶカスタマージャーニーマップの作成ポイント
カスタマージャーニーマップは、あくまでも仮説です。そのため、最初から完璧なものはできないと覚えておくと良いでしょう。まずは、部署を超えた社内のメンバーで、さまざまな視点から顧客の行動や感情を分析し、カスタマージャーニーマップに落とし込んでいきます。ここでは、その際のポイントを紹介します。
一人ではなく複数名で取り組む
カスタマージャーニーマップは、部署を超えた複数名のメンバーで行うのがポイントです。さまざまな視点を持ったメンバーが一緒に取り組むことで、新たな気づきや発見が得られます。
マーケティング部門以外にも、エンジニアやデザイナーなど、違った角度から意見が言える人物をメンバーに加えると、より効果的です。
詳細まで作り込み過ぎない
カスタマージャーニーマップを作る際には、できるだけ詳細かつ具体的なペルソナ設定が求められます。しかし、作り込み過ぎには注意が必要です。
ペルソナを詳細まで作り込むことで顧客の分類軸が細分化され、ペルソナにぴったり当てはまるユーザーはごく少数になります。対象者のボリュームが減ることで、マーケティング施策の効果が低下するリスクもあります。また、ペルソナの動きを作りこみ過ぎると、行動の変化に合わせた対応も難しくなります。
カスタマージャーニーマップを作成する際は、ある程度のボリュームが見込める範囲のセグメントに留め、細かく作り込み過ぎていないか意識すると良いでしょう。
定期的に検証・改善を行う
カスタマージャーニーマップを作成する目的は、新しい営業・マーケティング施策の立案です。そのため、カスタマージャーニーマップ自体を定期的に検証し、最新の情報に改善することが大切です。
カスタマージャーニーマップには、ユーザーのインサイトやKPIといった指標が記載されているため、効果検証を進めるうえで道標として役立ちます。事前に設計した計画と実態のズレを把握し、迅速かつ的確に軌道修正を行うことで、より質の高い体験価値の提供へとつながるでしょう。
カスタマージャーニーマップを作成して満足するのではなく、「スタート地点であると同時に立ち返るべき場所」という認識を持つことが重要です。
願望や思い込みで作成しない
カスタマージャーニーマップを作成する際は、自社にとって都合の良いストーリーを描いていないか、冷静に判断することが大切です。
「顧客はこうであるはず」「自社への関心が高いはず」という願望や思い込みをベースにカスタマージャーニーマップを作成すると、現実の購買プロセスからどんどん離れていきます。社内で仮説を立てた後は、実際の顧客を巻き込んでマップを調整するプロセスを設けるのが理想的です。
カスタマージャーニーマップで顧客理解を深めよう
カスタマージャーニーマップ作成の最大の目的は、顧客理解を深めること、そして社内での共通認識を持てる状態を構築することです。今回ご紹介した企業によるカスタマージャーニーマップの作成事例でも、顧客の行動やその時の感情が細かく分析されているのが分かります。
マーケティング、営業だけでなくカスタマーサクセス、カスタマーサポート、製品開発など様々な部門で活用していくのが理想的です。また、カスタマージャーニーマップを作成した後は、定期的なメンテナンスも忘れないようにしましょう。効果検証によってマーケティング戦略やアクションプランの改善ができてこそ、カスタマージャーニーが真の効果を発揮します。