カスタマージャーニーは、顧客が購買に至るまでの道すじを見える化したもので、顧客理解のためのマーケティング手法として知られています。しかし近年、顧客の購買プロセスが多様化したことにより、画一的なカスタマージャーニーは「古い」「現実と合っていない」といわれることがあります。
当社HubSpotの独自調査によると、直近1年間でマーケティングの目標達成が難しくなったと感じるマーケティング従事者は、全体の73.1%にのぼることがわかりました。主な原因としては、デジタル化の進展によるチャネルの多様化などが考えられます。ジェネレーティブAIの台頭をはじめ、次々と登場する新しいテクノロジーに、情報収集が追い付かない、漠然と不安がある、といったマーケティング従事者は少なくありません。
マーケティングが高度化する昨今。これまで以上に、ニーズに合致したインパクトのある施策への投資が必要になりました。顧客理解をより深めるためにも、カスタマージャーニーを用い、俯瞰しながら顧客体験を設計することが不可欠です。
しかし、そうした背景もあるなか、「カスタマージャーニーが古い」といった声を聞くことも少なくありません。
本記事では、カスタマージャーニーが古いといわれる理由を深掘りし、最新の消費者ニーズに合わせたアップデートの方法を解説します。
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カスタマージャーニーが古いといわれる理由
まずは、カスタマージャーニーが古いといわれるようになった理由を深掘りしていきましょう。それにより、カスタマージャーニーをアップデートするヒントが見えてきます。
消費者行動が急速に変化しているから
パソコンやスマートフォンが普及する以前は、テレビやラジオ、新聞など、消費者への一方向のコミュニケーションがプロモーション活動の中心でした。消費者が購買に至る道すじもシンプルで、企業は購買プロセスの大まかな導線を設計することが可能でした。
しかし、先述した通り、現代では消費者が情報収集をする場が多様化しています。商品やサービスを認知するカスタマージャーニーの「入り口」もSNSが中心となり、企業だけでなくインフルエンサーと呼ばれる個人もプロモーション活動を行う時代に変化しています。
次第に企業が設計したカスタマージャーニーと実際の顧客行動に大きなズレが生じるようになったことが、カスタマージャーニーが「古い」といわれる大きな理由です。
購入後の設計が疎かになっていることが多いから
従来のカスタマージャーニーは、新規顧客の創出がゴールになっていました。新規顧客の増加が見込まれる間は、その手法で一定の成果をあげることが可能でしたが、人口減少の影響もあり、今後は新規顧客の創出が以前よりも困難になることが予想されています。
新規顧客の創出は、既存顧客の5倍のコストがかかるともいわれており(1:5の法則)、既存顧客との関係性強化に注力する企業は増加傾向にあると考えられます。
従来のカスタマージャーニーマップは、新規顧客の創出がゴールになっており、購買からリピートにつなげるための定着部分の設計が疎かになっていました。リピート購入が発生しなければ、常に新しい見込み客を集め続けなければなりません。新規顧客を創出するための従来のカスタマージャーニーマップから、顧客となった消費者との関係性を強化し、リピーターになってもらうまでの流れまでが盛り込まれた、最新のカスタマージャーニーマップへのアップデートが必要といえるでしょう。
パルス型消費の登場
「パルス型消費」とは、Google社が2019年に発表したインターネット時代の新たな消費行動を指します。それまで買いたいと思っていなかったものに対して、「買いたい」という購買意欲が衝動的に湧き、その流れのまま購入に至る消費行動をいいます。
SNSやスマートフォンの普及により、誰でも好きな時にオンラインショッピングを楽しめるようになりました。楽天やAmazonといったECサイトだけでなく、SNSにショッピング機能が実装されるようになったのも、ここ数年の大きな変化です。Instagramのショッピング機能では、写真内に商品がタグ付けされ、インフルエンサーが着用しているアイテムをクリックひとつで購入できます。
ショッピングをする意思がなかったとしても、何気なくスマートフォンを眺めている時間は消費行動が起こるタイミングになり得ます。こうしたなかで、企業本位のカスタマージャーニーでは消費者の気持ちの変化を捉えきれなくなっています。
パルス行動がカスタマージャーニーに与える影響を理解するために、もう少しパルス型消費について理解を深めていきましょう。
すべての購買行動でパルス型消費が起きるわけではない
近年の消費者行動では、パルス型消費が顕著に見られるようになりました。しかし、すべての購買行動でパルス型消費が起きるわけではありません。パルス型消費が起こるかどうかは、商材やターゲットなどによっても変わります。
例えば、BtoBの場合は高額な商品が多く、複数の決裁者がいる場合が多いことから、BtoCに比べてパルス型消費は少ないといえます。決裁を得るために複数の商品を比較検討し、相見積もりの取得が行われるため、担当者の一存で衝動的に契約を交わすケースは、ほぼないでしょう。
カスタマージャーニーを設計する際は、自社のビジネスの特徴に合わせて検討する必要がある点に注意が必要です。
パルス型消費の時代でもカスタマージャーニーは必要
パルス型消費に代表される衝動的な購買行動は、人によってタイミングや道すじが異なるため、綿密にカスタマージャーニーやペルソナ設定をしたところで、あまり意味がないと感じるでしょう。しかし、そう結論付けるのは少し早いかもしれません。
一見衝動的に見える購買行動でも、無意識のうちに商品を認知していたり、口コミに触れたりしている可能性が高く、潜在的な興味が顕在化した瞬間にすぐに購買に至る、というパターンは少なくないはずです。
例えば、CMや街頭広告で商品名を認知し、インフルエンサーによるPR投稿を目にして興味を持ち、SNS広告でたまたま流れてきたところで商品を購入する、というのは、本人としては衝動買いと認識しても実は複数のタッチポイントを経由しており、しっかりカスタマージャーニーを経ているのです。
商品やサービスとのタッチポイントや意思決定のタイミングは人によって異なるとはいえ、生活環境・興味関心・行動習慣などは、ある程度予測ができます。そこから、どのタッチポイントに何度触れると購買につながりやすくなるのかを考えてカスタマージャーニーの設計に臨みましょう。
その時に大切なことは、企業の都合でカスタマージャーニーを設計するのではなく、顧客の実態に合わせてストーリーを組み立てることです。顧客が今、どのような状況に置かれていて、どのような思考であるかを注意深く観察します。そして、顧客が必要とするタイミングで情報を提供できるよう、カスタマージャーニーに沿ってマーケティングストーリーを考えます。
カスタマージャーニーを企業起点から顧客起点へ変化させることが、カスタマージャーニーを最新の顧客ニーズに合わせてアップデートする一番の近道です。
カスタマージャーニーの基本を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
時代遅れにならないカスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップとは、消費者の購買プロセスを、感情の変化と共に可視化できるようにしたものです。タッチポイントが多様化し、消費者によって購買行動が異なるなかで、カスタマージャーニーマップの作り方も時代に合わせて変える必要があります。ここでは、時代遅れにならないカスタマージャーニーマップの作り方を解説します。
ペルソナのスタートとゴールを決める
まずは、ペルソナの「スタート」と「ゴール」の状態を決めます。購買・成約などの企業目線のものではなく、ペルソナにとってどのような状態がゴールなのかを考えましょう。ペルソナはどのようなニーズを持ち、そのニーズを満たすためにどのような行動を取るのか、どのような状態になればニーズは満たされたと感じるのかを、ユーザーの目線に立って考えてみましょう。その過程で自社は何を提供するべきなのかを洗い出していきます。
ただ行動の過程を描くのではなく、ユーザーが自社の情報や商品・サービスに触れた時に抱く印象や感情もセットで考えると、さらにユーザーの解像度が高くなるでしょう。
行動・感情・タッチポイントを書き込む
続いて、スタートからゴールにたどり着くまでにペルソナが取る行動を具体的に書き出していきます。その際、思い込みや考え方の偏りを防ぐために、複数の部署や担当者を巻き込み、さまざまな視点を入れることが重要です。自社顧客へのインタビューを実施するのも有効でしょう。
思いつく限りペルソナの行動を書き出すことで、その後のマーケティング施策を考えるうえでの基盤となります。ひと通り行動を書き出したら、行動をステージによって分けることで、新たな発見や抜け漏れに気づくことがあります。随時情報を追加して整理しましょう。
作成後は実態と照らし合わせて定期的に更新する
カスタマージャーニーマップを作成したら、実際の消費者の購買行動と照らし合わせて、想定通りの結果が得られたかどうか確認します。顧客の行動が想定とズレていた場合は、カスタマージャーニーマップを修正しましょう。
とりわけ現代は消費者の購買行動が短期間で変化します。一年前の情報であっても通用しなくなることは珍しくありません。変化が起こったタイミングを見逃さないよう、顧客の行動や思考を注意深く観察し、カスタマージャーニーマップを定期的に更新し続けることが大切です。
事前に設定したカスタマージャーニーをもとに軌道修正を行うことで、見込み客にとって、より満足度の高い体験価値の提供へとつながります。カスタマージャーニーは、マーケティング戦略を考案するスタート地点であると同時に、「常に立ち返るべき場所」だといえるでしょう。
カスタマージャーニーを通じて、一人ひとりにあった顧客体験を提供しよう
消費者が情報収集や購買を行う場としてオンラインが登場し、その後、スマホの普及やAIの台頭など次々と新しいテクノロジーが生まれ、購買行動は年々複雑化しています。しかし、企業本位のシナリオ通りに消費者が動かないのは、今に始まったことではありません。 大切なのは、時代がどのように変化しても、ユーザーを深く理解することです。ユーザーを主軸としたカスタマージャーニーの設計を心がけ、どのタイミングでどのような情報を提供するべきかを考えましょう。
また、カスタマージャーニーには、複数のパターンがあることも忘れてはいけません。ユーザーの行動には一貫性がなく、常に衝動的な動きをすることを前提にしたうえで、「なぜその行動を取ったのか」「再現性を持たせるにはどうしたら良いか」といったように、相手の気持ちに寄り添いながら、最適な顧客体験を提供していきましょう。
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