「ブランド」と「ロゴ」という言葉は、ほとんど同じ意味で使われることがあります。ロゴは企業のシンボルですが、それがブランドのすべてではありません。ロゴを作成しただけは、強力なブランドアイデンティティを構築するための小さな一歩を踏み出したに過ぎないのです。
無数の企業が名声を勝ち取ろうとしている昨今、競合他社との差別化を図るには、強力なブランドを打ち立てることがきわめて重要となります。
初めてブランドアイデンティティの構築に取り組むときには、それがクライアントのためであれ、自社のためであれ、まず「ブランドとは何か」「ブランド確立のためには何が必要か」を理解すること大切です。
残念ながら、特定の事業に名前を付けてあらゆるものに刻印すれば終わり、というような単純なものではありません。
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「ブランド」とは
ブランドとはもともと、牧場経営者が自分たちの所有する家畜に押していた「焼き印」のことを意味しました。現在は、単に名前や記号といった枠を超えて、さまざまなものがブランドの定義に含まれています。
ブランドは、ブランドアイデンティティの中心的要素であり、特定の企業が製造した製品の名前や種類に相当します。ブランドアイデンティティには、そのブランドがどのようなメッセージを発信しているか、どのような価値を提供しようとしているか、コンセプトをどのように伝えようとしているか、消費者にどのような感情を抱いてほしいかといった思惑が込められています。
基本的にブランドアイデンティティとは、企業のパーソナリティや、顧客に対する約束事を表します。Jeff Bezos氏が言うように「Branding is what people say about you when you’re not in the room(ブランドとは、あなたが部屋にいないときに人々があなたについて語ること)」なのです。
たとえば、「コカコーラ」という名前を聞くと、頭の中にはおそらくあの有名なロゴだけでなく、シロクマ、赤い色、キャンペーンソング、缶に描かれたおなじみのリボン模様なども一緒に思い浮かぶでしょう。これらすべての要素が、コカコーラのブランドを構成しているのです。
ブランドアイデンティティはなぜ重要か
ブランドは企業とその事業のほとんどすべてを具現化するものとして消費者の「心の中で生き、進化」します。ブランデッドコンテンツは2014年に最も人気を博したコンテンツマーケティング戦術であり、2015年にはさらなる発展を遂げました。ブランドアイデンティティの確立に成功すると、どのような効果が現れるのでしょうか。
- 企業に「顔」とパーソナリティを与えることで認知度が高まる
- 信用と信頼が生まれる
- 広告の印象が強まる
- 事業の安定性が高まり、経済的価値につながる
- 企業の使命が(消費者と従業員の双方に)伝わる
- 新しい顧客が生み出され、既存顧客の満足度が向上する
これらはブランドアイデンティティが企業にもたらすプラスの影響と言って差し支えないでしょう。
ブランドアイデンティティを構築するには
知名度を高めて愛されるブランドになりたいのであれば、それなりの努力が必要です。以下で説明するステップはとてもシンプルですが、実践となるとそう簡単には行きません。
ステップ1:調査
事業を立ち上げるときと同様に、ブランドアイデンティティ構築も市場調査から始まります。調査を通じて次の5点を明確にし、しっかりと理解しておきましょう。
1)オーディエンス
ご存じのように、人が求めるものはそれぞれ異なります。大学生をターゲットにした製品を、小学生をターゲットにした製品と同じ方法で売り込もうとしても、あまり効果は見込めません。人々に愛されるブランドを確立するためには、自社のオーディエンスがその業界の企業に何を期待しているのかを知る必要があります。
2)バリュープロポジションと競合
あなたの企業が業界の他企業と異なる点は何ですか? あなたの企業にしか提供できないものは何でしょうか? ブランド構築を成功に導くには、競合他社と自社の違いを把握することが必要不可欠です。競合他社の動向を常に注視しておくことで、どのテクニックがブランディングに効果的かを判断できます。
3)ミッション
自分の企業が何を提供しているかはご存じかと思いますが、自社のビジョンや目標をそのままはっきりと記したミッションステートメントを作成しましょう。これにより、自社の目標を明確に把握することができます。自分たちがどのようなビジネスを行っているのかを知らずに、企業のパーソナリティは確立できません。
4)パーソナリティ
個人のブランディングが目的ではないとしても、ブランドの個性を打ち出して親しみやすくするのは有効な手法です。書体や色、イメージを駆使して、ブランドを擬人化してみましょう。声のトーンも決めて視覚的イメージをさらに引き立てます。
あなたの企業はNikeのように自信に満ちあふれたカリスマ性のある企業ですか? それとも、Givenchyのように優雅でプロフェッショナルな企業ですか? どちらにしても、ブランディングを通じて自社の個性を大いに発揮してください。
調査は退屈かもしれませんが、自社について知れば知るほど、強固なブランドアイデンティティを築くことができます。
5)SWOT分析
最後に、自社のブランドをより深く理解するために、SWOT分析を行います。SWOTとは次の4つの言葉の頭文字を取ったものです。ブランドの特性についてじっくり考えれば、その中から特に強調したい特性が見えてくるでしょう。
- Strengths(強み):競合他社よりも有利に立てるプラスの特性
- Weaknesses(弱み):競合他社に後れを取っている特性
- Opportunities(チャンス):自社のビジネスにチャンスをもたらす業界の変化やトレンド
- Threats(脅威):自社を取り巻く環境や業界において、自社のビジネスに問題を引き起こしかねない要素
ステップ2:デザイン
自分たちのビジネスを徹底的に調べ上げたら、次はブランドに命を吹き込みます。グラフィックデザイナーのPaul Rand氏の言葉を借りれば、「Design is the silent ambassador of your brand(デザインはブランドを広める寡黙な使者)」です。このステップでは次のことを確認しましょう。
ロゴ
ロゴはブランドアイデンティティのすべてではありませんが、ブランディングプロセスには不可欠な要素であり、ブランドの最も目立つ部分になります。ロゴはウェブサイトから名刺、インターネット広告に至るまで、あらゆるものに刻まれます。下の写真のように、すべてのものにロゴを付けると、ブランディングにまとまりが生まれることは間違いありません。
(出典:Creative Commons(英語))
興味を引く形状
ロゴはブランディングに欠かせない要素ですが、ブランドアイデンティティを強固にするものはロゴだけではありません。製品、パッケージ、サービスの提供方法まで、あらゆるものがブランドアイデンティティを構成する要素になります。
あらゆる活動において、自社のパーソナリティを視覚的に表現すれば、一貫性が生まれ、消費者に親しみの感情が芽生えます。たとえば、マクドナルドの黄色いMマークを思い浮かべてみてください。彼らは面白い形状を使ってあの象徴的な「M」の字を作り出しました。
現在、あのマークは世界中どこでもマクドナルドのマークとして認知されています。
色と書体
ブランドアイデンティティを確立するには、カラーパレットを作成するのも1つの方法です。カラーパレットがあれば選択の幅が広がるので、ブランドアイデンティティを忠実に守りつつユニークなデザインを生み出せるようになります。
書体もまた、適切に使用しなければ諸刃の剣となり得る要素です。書体をミックス&マッチさせたデザインが大いに流行していますが、数種類のフォントをミックスするのが必ずしもすべての企業にとって良いデザインであるとは限りません。
ロゴに使用する書体は、ウェブサイト上でもドキュメント上でも(印刷物やデジタルコンテンツでも)すべて統一しなければなりません。Nikeのウェブサイトと広告を見てみると、あらゆる場所で同じ書体とスタイルが使われていて、すばらしい統一感が生み出されていることがわかります。
テンプレート
皆さんもきっと、毎日のように見込み客宛てにEメールを送ったり、手紙を書いたり、名刺を渡していることでしょう。Eメールの署名のようにあまり目に付かないものも含め、さまざまなテンプレートを作成して利用すると、統一感と信頼感が生まれ、プロらしい印象を与えられます。
一貫性
ここまでのほとんどすべてのステップで述べたように、強固なブランドアイデンティティを確立できるかどうかは、一貫性を確保できるかどうかにかかっています(このことはいくら強調しても強調し足りないほどです)。
企業活動のありとあらゆる場面で前述のテンプレートを使用し、ブランド規定のデザインに従うことで、調和の取れたブランドアイデンティティを作り上げましょう。
柔軟性
一貫性はきわめて重要ですが、常に「その次に良いもの」が探し求められている現代社会では柔軟性を保つことも同じくらい重要です。柔軟性があれば、広告キャンペーンやキャッチフレーズを調整したり、ブランドアイデンティティ全体に最新の流行を取り入れたりと、オーディエンスを飽きさせることはありません。
何かを変えるときには、ブランド全体に一貫して反映させる必要がある点に注意してください(たとえば、名刺のデザインだけ変えて他はそのまま、というのは避けましょう)。
文書化
企業全体でブランディングの「ルール」を順守するには、ブランドガイドラインを作成しておくと効果的です。ブランドとして「すべきこと」と「すべきでないこと」をすべて洗い出し、文書にまとめておきましょう。
たとえばSkypeは、だれもがルールを守れるように、わかりやすく包括的なブランドガイド(英語)を作成しました。このようなガイドを作成することにより、ブランドの一貫性を保ちながらブランド資産を構築し、ブランドを皆で共有することが可能になります。
ステップ3:統合
社内でブランドを確立し、ブランドの構築に必要なステップをすべて完了した後は、コミュニケーションにブランドを組み込みましょう。
これを実現する方法として最も効果があるのは、ブランドを通じて質の高いコンテンツを提供することです。ハブスポットのeBookで、Patrick Sheaは次のように述べています。
「あらゆる点において、あなたのコンテンツはインターネット上におけるあなたのブランドそのものになります。そして、営業担当者でもあり、店舗でもあり、マーケティング部門でもあり、ストーリーでもあります。
あなたが公開するコンテンツはすべて、あなたのブランドを反映し、ブランドを定義します。つまり、コンテンツがすばらしければブランドもすばらしく、コンテンツがつまらなければブランドもつまらなくなるのです」
言葉遣い
ブランドのパーソナリティに見合った言葉遣いを選びましょう。ブランドアイデンティティが技術者向けのものであればプロフェッショナルな言葉遣いを、もっと気楽な感じのブランドなら少しくだけた言葉遣いを採用します。
ブランド全体で使用すると決めた言葉遣いはビジネス全体に組み込まれるため、ブランドのパーソナリティにふさわしいトーンを慎重に作り上げることが大切です。
つながりと感情
人間は物語が好きな生き物です。より正確に言うと、人間は突き動かされるような感動的な物語を好みます。強力なブランドアイデンティティは、消費者と心でつながり、長期的な関係を構築するための確かな土台になります。
広告
従来型の広告であれ、デジタル広告であれ、自社のブランドについて世界に発信するには、広告を利用するのが最も効率的でしょう。ターゲットオーディエンスの視覚や聴覚に訴える形でブランドのメッセージを届けられます。
ソーシャルメディア
消費者とつながる方法としては、ソーシャルメディアも非常に有効です。現在、インターネット上にはさまざまなソーシャル メディア プラットフォームが提供されているので、これらをブランドアイデンティティ確立のためのデジタルな場所として活用しましょう。
先ほども紹介したコカコーラは「Happiness(幸せ)」というテーマに沿ってFacebookのカバー写真スペースを有効に活用しています。
顧客と直接対話する場や、ブランドに親しんでもらう場としても、ソーシャルメディアは重要です。自社のブランドがツイート、ステータス、投稿などでメンションされたら(相手が疑問や懸念を抱いている場合は特に)、手際良く回答して好印象を与えましょう。
ステップ4:避けるべきことを把握する
強力なブランドアイデンティティを構築するためのステップにすべて従っていても、次に挙げる注意事項が1つでも守られていなければ、ブランディングにゆがみが生じ、失敗につながりかねません。
1)統一性のないメッセージをお客様に伝えない
自分たちが伝えたいことを把握し、適切な文言や画像を用いて適切に表現しましょう。自分が理解できるからと言って、お客様が理解できるとは限りません。
2)競合他社の真似をしない
同じ製品やサービスを扱っている競合他社がすばらしいブランディングを行っていると、ついつい真似をしたくなるかもしれませんが、それはやめましょう。競合他社のブランディングを参考にしながらも、独自のテイストを加えることで、業界内での存在感を高められます。
3)オンラインとオフラインの間で一貫性を保つ
印刷物とオンラインコンテンツとでは見た目が多少異なるかもしれませんが、色や書体、テーマ、メッセージなどの要素は、常に一貫性を保つ必要があります。
ステップ5:ブランドについてモニタリングする
他のマーケティング活動と同様に、主要な測定指標を追跡していなければ、何がうまく行っているか(何がうまく行っていないか)を判断することは困難です。
Googleアナリティクス、アンケート、コメント、ソーシャルメディアでの会話内容などを参考に、人々が自社ブランドについてどのように書き込んでいるのか、自社ブランドとどう関わり合っているかを観測しましょう。その結果を踏まえ、間違いを修正して改善を加えれば、ブランドアイデンティティをさらに強化できます。
印象に残るブランドを作り上げるには、書体、色、画像、言葉遣いなど、あらゆる要素に一貫性を持たせることが重要です。これはかなり骨の折れる仕事ですが、取り組むだけの価値はあります。
強固なブランドアイデンティティを築ければ、消費者はロゴを見ただけであなたの会社を思い出し、イメージを描いてくれるようになります。単に「名前とマークを知っている会社」ではなく、それ以上の身近な存在になれるよう取り組んでいきましょう。