ERPは、生産管理や販売管理、財務会計などの基幹業務に関する機能が統合されたシステムです。ERPでは基幹業務やそれに付随するデータを一元管理できるため、既存の業務システムから移行するケースも増えてきています。
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しかし、既存の業務システムとERPは、システムの仕様やデータ形式などに違いがあるため、スムーズに移行できないケースもあります。また、ERPはほかの業務システムとの互換性に優れているものの、すべての基幹システムとの連携に対応してはいないため、移行時に注意が必要です。
本記事では、ERP移行を実施する主な理由や移行の手順、ポイントを解説します。ERP移行の成功事例もご紹介しますので、ERP移行をご検討中の担当者の方は参考にしてください。
ERP移行が行われる理由
既存の業務システムを ERPに移行する理由は、古い技術で構築されたレガシーシステムを未来志向型のERPへと進化させ、将来的なリスクに対応するためです。
近年、働き方改革や市場競争の激化などを背景にDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まっています。しかし、これらの変革には組織体制や業務フローの大幅な変更がともなうため、決断できない企業が少なくありません。
基幹業務にかかわる生産管理システムや販売管理システムなどは、生産や販売、物流といった個別の業務のみを管理するものが多く、メンテナンスも部分的に行われるのが一般的です。その結果、外部システムとの連携がスムーズに行えなかったり、度重なるメンテナンスでシステムが複雑化していたりするケースもあります。
このような状態では、基幹業務に関するデータを組織全体で活用しにくくなるため、経営判断や意思決定の停滞、競争力の低下といったリスクを招きかねません。そのため、経営に関する情報を一元管理でき、将来的なリスクの把握や成長戦略へ役立てられるERPへと移行することが重要です。
ERPにデータ移行する手順
既存の業務システムに蓄積されたデータをERPに移行する際は、次の5つの手順に沿って行います。
- 各データの優先順位を決定する
- 移行方法を踏まえて移行計画書を作成する
- ERP製品を比較・検討する
- ERPの運用環境を整える
- データを移行する
手順ごとの進め方やポイントを解説します。
1. 各データの優先順位を決定する
まずは、移行するデータの優先順位を決定します。既存の業務システムに蓄積されたデータは、必ずしもすべて利用する必要はないからです。分析や活用が難しいデータは、この機会に移行対象から外すのも良いでしょう。
優先順位の決め方にはいくつかの方法があります。重要度と緊急度の2軸から検討し、アクセス頻度が高く重要なデータや、喫緊の課題解決に必要なデータはERPに移行するようにしましょう。
ERPへの移行時にデータに漏れがあると繰り返しマッピング(データ同士の紐付け)を実施しなければならず、手間がかかります。優先順位を付けた移行データをリスト化し、誰が見てもわかりやすい状態を維持することが大切です。
2. 移行方法を踏まえて移行計画書を作成する
ERPへのデータ移行をスムーズに進めるために、移行方法を検討し移行計画書を作成します。データの移行方法は、既存システムとERPの仕様や互換性を左右するため、十分に検討しましょう。代表的な移行方法は、次の通りです。
- 既存システムのデータをそのままERPに手入力する
- 既存システムのデータをExcelやCSVに出力し、ERPにアップロードする
- APIを用いて既存システムとERPを連携する
- ベンダーに移行作業をアウトソースする
移行対象のデータと移行方法は、移行計画書に落とし込みます。移行計画書には、スケジュールや移行中の影響、テスト環境などの情報も盛り込むのが一般的です。
3. ERP製品を比較・検討する
自社に最適なERP製品を選ぶには、比較・検討が欠かせません。移行対象のデータと移行方法を念頭に置きつつ要件定義をしたうえで、どのような仕様のシステムが必要かを明確にしましょう。
ERPの要件定義は、機能要件と非機能要件の2つの観点から検証します。
機能要件とは、システムに搭載されている機能に関する要件で、非機能要件は、可用性や拡張性、セキュリティなどの機能以外の要件です。要件が明確になれば、自社に最適なシステムの仕様が定まり、ERP製品を絞り込めます。
ERP製品を2~4つに絞り込み、機能性や拡張性、セキュリティなどの観点から比較しましょう。
4. ERPの運用環境を整える
導入するERPが決まれば、運用環境を整えましょう。次のように多角的な視点で、環境を整備することが大切です。
- 運用方針の策定
- 業務フローの見直し
- 運用マニュアルの策定
- 運用担当者や責任範囲の決定
- 参加メンバーとそれぞれのアクセス権限の決定
- 実務担当者のトレーニング
ERPの導入にあわせて、運用業務をシステム化するのも良いでしょう。例えば、ERPのワークフロー機能やRPAの導入により、システム障害の際に行うメールでの連絡や報告を自動化する仕組みの構築があげられます。
ERP移行に伴い運用業務を最適化すれば、組織全体の生産性向上につながります。
5. データを移行する
ERP製品へのデータ移行は、最初から本番環境で実施するのではなく、まずはテスト環境で検証することが重要です。本番環境で移行作業を行うと、障害やトラブルが発生した際に、平常業務に支障が出る可能性があるからです。
テスト環境では正常時の稼働状況だけでなく、あえて負荷を高めたり、エラーを発生させたりして、特定の状況でどのような影響が現れるかを検証しましょう。事前にパターンを把握しておけば、本番環境で障害やトラブルが起きたとしても冷静に対処できます。
データ移行時は、作業ログを残すことも重要です。作業ログには、正常な稼働状況も移行時のトラブルもすべて履歴が記録されるため、問題の早期発見や原因の特定につながります。
ERP移行の成功事例
ERP移行のイメージをつかむには、他社の成功事例を参考にするのがおすすめです。ERP移行に成功した2社の事例をご紹介します。
ANAシステムズ株式会社
ANAシステムズ株式会社は、無線設備や空港映像配信システムなど、ANAのフライトにまつわるシステム開発を担う企業です。
同社はLANケーブルの販売から空港事務所の開設まで、大小さまざまなプロジェクトを扱っており、それぞれに発注・売上の計上タイミングや見積もりの判断基準などが異なります。業務プロセスは個別最適化されている一方で部門ごとの属人化が発生し、迅速な経営判断を妨げていました。
ERPの導入により、受注や見積もり、在庫管理、会計管理などの業務を、ひとつのシステム内で完結できるように業務を改善しました。導入から約9か月後には、目標であった業務規定やプロセスの標準化を達成しています。
株式会社ヴァル研究所
株式会社ヴァル研究所は、日本で初めて経路検索サービスを販売したソフトウェア開発会社です。同社では、経理部門と総務部門が異なる業務システムを利用しており、部門間連携が難しい状況だったことから、ERPを導入しました。
同社のERP移行は、オンプレミス型の既存業務システムをクラウド型ERPへと切り替えたのがポイントです。クラウド型ERPは、場所や時間を問わずにアクセスできるため、導入によりテレワーク制度の推進や、属人化していたサーバー管理からの脱却などの効果が得られました。
ERP移行するときのポイント
既存の業務システムからERPへと移行するときのポイントは次の通りです。
- ERPに未来志向型の考え方を盛り込む
- オンプレミスとクラウドの違いを理解する
- 企業グループ全体で情報共有基盤を構築する
それぞれのポイントを理解することで、ERP移行を成功させやすくなります。
ERPに未来志向型の考え方を盛り込む
従来のERP移行は、既存の業務システム同士を統合させることが目的でした。このような移行では、新しく導入したERPは、既存システムの搭載機能を踏襲したものでしかありません。
既存の機能を統合しただけではビジネス環境の変化や事業再編には対応しきれないため、カスタマイズを繰り返すことで結果的に使い勝手が悪いシステムになる可能性があります。
ERPを移行させる際は、未来志向型の考え方を採り入れることが重要です。既存システムの機能にこだわらず、今後の成長戦略や事業リスクに柔軟に対応できる考え方を取り入れましょう。特に、要件定義は中長期的な経営戦略をもとに必要な機能を洗い出す必要があります。
オンプレミスとクラウドの違いを理解する
ERPの導入形態はオンプレミスとクラウドの2種類に分かれます。データの移行方法だけでなく、仕様そのものが大きく異なるため、適切な導入形態を見極めることが重要です。
オンプレミス型ERPでは、自社のハードウェア(サーバーやネットワークなど)を使って、データ管理や情報共有を行います。既存の業務システムがオンプレミス型であれば、現行のハードウェアをそのまま使えます。しかし、環境によってはデータ容量やユーザー数に応じてサーバーやネットワークを増設する必要があるでしょう。オンプレミス型ERPは自社の要件に合わせて開発できる一方で初期費用が高額になりやすく、自社での保守管理が必要です。
クラウド型ERPは、自前でハードウェアを管理したり、端末にソフトウェアをインストールする必要がありません。Webブラウザ上でIDやパスワードを入力すればサービスを利用できるので、テレワークにも適しています。また、ランニングコストはかかるものの、初期費用を抑えられるのがメリットです。ただし、セキュリティはベンダーに依存しやすいため、信頼性の高い製品を選定することが大切です。
企業グループ全体で情報共有基盤を構築する
グループ会社でERPを導入する場合は、グループ全体で同一の製品を利用して、情報共有基盤を構築するのがおすすめです。親会社に必要な情報を集約しやすくなり、よりスピーディな意思決定につながります。
ただし、企業グループ全体でERPを移行する場合、費用が高額になる点に注意が必要です。費用を抑えるには、親会社のみオンプレミス型ERPを導入し、グループ会社ではクラウド型ERPを採用するなど、ハイブリッド型の導入形態を利用すると良いでしょう。
スムーズなERP移行を実現するには事前準備が大切
既存の業務システムをERPに移行すれば、社内の各部門に蓄積されたデータを統合できます。その結果、生産や販売、物流といった基幹業務の情報に即座にアクセスできるようになり、意思決定の迅速化や経営判断の合理化を図れます。
ERP移行をスムーズに行うには、本記事でご紹介した手順に沿って準備を進めてください。移行対象のデータと移行方法を検討したうえで移行計画書を作成し、ERP製品を比較することが大切です。
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