生成AIの技術は急速に発展し、さまざまな業種においてビジネスへの活用が進められています。競合よりも高い成果を上げるためには、今後ますます、生成AIをどう活かすかが大きなポイントとなっていくでしょう。
生成AIの活用は業務効率化へのインパクトが強いだけでなく、品質向上や新たなサービスの創出、労働環境の改善などにおいて、ときに変革ともいえる大きな成果をもたらすでしょう。
本記事では、ビジネスにおける生成AIの活用事例を、AIの機能と業種に分けて紹介します。
生成AIをコンテンツ制作に活用するための入門ガイド
コンテンツ制作に役立つプロンプトの書き方など、制作のプロセスにAIツールを適切に取り入れる方法をご紹介します。
- 生成AIの概要と、独自のコンテンツを作成する方法
- コンテンツ制作業務全般に役立つAI活用のメリット
- AIに関する懸念点への回答
- チームにAIを導入するためのヒント
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主な生成AIの種類
生成AIとは、機械学習によって人間の作業を代行するAIシステムのうち、創造的な働きを持つものを指します。大量のデータを学習することで精度が上がっていくため、2024年6月現在、ビジネスへの応用も十分可能な域にまで発達しています。
生成AIでは、主に以下のようなコンテンツの生成が可能です。
画像の生成
プロンプト(指示文)をシステムに入力するだけで、任意の画像を生成するAIです。写真やイラストを生成することができ、人が作るよりも遥かに早く大量の画像を生成できます。
著作権の問題や学習させるデータの問題も指摘されていますが、ビジネスへの活用もすでに始まっています。
テキストの生成
生成AIの知名度が爆発的に広まるきっかけとなったChatGPTが代表例です。ChatGPTのようにAIとの対話を通してテキストを生成するものや、検索エンジン・OSに統合されたもの、ChatGPTのようなビッグテックの技術をベースに独自の機能を提供するものなどがあります。
独自の機能としては、例えば記事生成AIがあり、トピックを指定するだけで瞬時に1記事文のテキストが生成されます。
動画の生成
2024年6月現在、こちらは画像やテキストのようにビジネスへの利用はまだまだ限定的ですが、テキストや画像をもとに動画を生成するAIも登場しています。
いずれも短時間の動画生成にとどまるものの、今後の技術向上によっては動画コンテンツの生成に活用できるプラットフォームが登場するかもしれません。
生成AIの概要や詳しい種類については、以下コラムをご覧ください。
【機能別】企業の生成AI活用事例
生成AIの機能は、画像の処理と文章の処理に大きく分かれます。
ここでは、生成AIの機能別に、どのようなことが実現できるのかを見ていきましょう。
画像処理の応用
コンピューターシステムが画像を解析し、特定の対象やパターンを識別する技術は、AIの基本的な画像認識機能です。生成AIの場合は、画像の認識や解析にとどまらず、データをもとにレポートの作成や新たなアイデアの創造まで実現できるのが特徴です。
実際に、企業では生成AIの画像処理の技術がどのように活用されているのでしょうか。商品デザインで生成AIを活用している事例を紹介します。
商品デザイン
株式会社伊藤園では、「お~いお茶 カテキン緑茶」のデザインを、株式会社プラグが開発した「商品デザイン用の画像生成AI」を活用して作成しました。生成AIが生成した画像を参考にデザイナーがデザインを作成し、最終的なデザインを決定する流れです。
出展:伊藤園 企業情報サイト
生成AIを活用すると、短時間で多くのアイデアを出すことができます。また、打ち合わせをしながら画像生成ができるため、デザインの方向性を決定する期間が大幅に短縮され、結果的にデザイン開発期間を短縮することが可能となりました。
言語処理の応用
「生成AI」という言葉が広く認知されるきっかけとなった「ChatGPT」は、AIの言語処理技術を応用したものです。これまで難しいとされてきた長文の処理にも対応できるようになり、ビジネスにおいても活用が進んでいくと考えられます。ここでは、文章を生成するAIの活用事例を紹介します。
カスタマーサポート
北陸銀行は、顧客から問い合わせを受けた際に、担当者が必要な情報をすぐに見つけられないという課題がありました。そこで、銀行内検索システム「Helpfeel Back Office」と、FAQの自動生成システム「Helpfeel Generative Writer」を導入し、過去の膨大な問い合わせを蓄積したナレッジの構築を図ることになりました。
出展:北陸銀行が銀行内検索システム「Helpfeel Back Office」を導入
FAQの自動生成システムは、過去に問い合わせのあった内容とその回答などから、自動でFAQページのタイトルと回答を生成するサービスです。このシステムの導入により、膨大な問い合わせデータのなかから欲しい情報を探したのち、記事を作成するという手間や時間を削減できました。
また、行員が課題を自己解決できるようになり、さまざまな観点で業務効率化を図ることに成功しました。
自社特化型AIチャットツール
三井不動産株式会社は、AIチャットツール「&Chat」を開発しました。文章の要約やビジネス英語への翻訳、報告書の作成といった機能があり、業務効率化に役立てています。
プロンプト(AIへの指示文)集も実装しており、精度の高い回答を得られるように工夫されています。
出展:三井不動産 | 全従業員を対象に、自社特化型AIチャットツール「&Chat」の運用開始
生成AIの種類については、こちらの記事に詳しく記載していますので、参考にしてください。
【業種別】企業の生成AI活用事例
ここでは、IT・通信業、ヘルスケア領域、製造業における生成AIの活用事例をご紹介します。
【IT・通信業】チャットボットの導入
IT・通信業では、社員の情報検索からお客様対応まで、すでにAIが幅広く使われています。
ソフトバンク株式会社は、業務効率化や生産性の向上を目的として、生成AIが活用された社内向けのチャットボットを導入しました。
2023年5月に導入された「SmartAI-Chat」では、既存の大規模言語モデル(LLM)やインターネット上の公開情報をもとにしたシステムで従業員からの質問に回答。2023年7月にはさらに進化し、社内のQ&Aデータと連携することで調べ物などの活用の精度を高めています。
参考:ソフトバンク版AIチャットと社内向けITヘルプデスクを連携させて業務のさらなる円滑化を推進
【ヘルスケア】医薬品の設計
香港に拠点を置く創薬企業のインシリコ・メディシンは、生成AIを用いた新薬の設計を実現しました。まず、AIを活用してデータベースを解析し、新しい薬の候補を効率的に見つけ出します。
次に生成AIを使って候補薬を設計する流れを用いることで、新薬認可を得るまでの期間を18か月まで短縮することに成功しました。
参照:ラトビア人科学者が設立したAI創薬企業「インシリコ」の強み | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
【ヘルスケア】看護記録の作成
ヘルスケアや医療の領域においては、コア業務における活用はまだ限定的なものの、ノンコア業務を効率化して医師などの負担を減らすような取り組みが増加しています。
例として、佐賀県の祐愛会織田病院にて、生成AIによって看護記録を作成する試験的な取り組みが2024年3月に発表されました。
出展:生成AIが電子カルテのデータから入院患者の看護サマリーを自動作成─佐賀県の織田病院 | IT Leaders
課題
同病院では入退院の支援に力を入れているものの、それに伴う書類の作成数が膨大で、医師など担当者への負担が大きな課題となっていました。こういったノンコア業務はときに業務時間を圧迫し、過度の時間外労働につながることもあったといいます。
解決
同病院が導入した生成AIシステムでは、電子カルテの情報から入院患者の看護記録を自動で生成します。これにより書類作成業務を効率化し、ノンコア業務による業務時間の圧迫の解消を目指しています。
また、今後は電子カルテへの入力にも生成AIを活用するなど、範囲を広げていく予定だとしています。
【製造業】業務の抜本的な改善
製造業では、人材不足を補うために生成AIが活用されている事例が多くあります。生成AIの活用は、経験年数の違いによる人的ミスの削減や、業務効率化につながっています。
パナソニックコネクト株式会社は、AIアシスタントサービス「ConnectAI」を社内で導入しました。ChatGPTをカスタマイズしたもので、社員は社内イントラネットから簡単にアクセスし、いつでも質問が可能です。
目的
同社が独自の生成AIを社内に導入することに決めた目的には、「業務の生産性向上」、「社員のAI活用スキルの向上」、「シャドーAI利用リスクの軽減」の3つがあります。
特に後者2つに関しては、昨今の流れからどのみち社員は生成AIを使うことになると想定。各々がバラバラに生成AIを利用してリスクにつなる可能性を潰し、AI活用のリテラシーを高めることで高い効果を期待しています。
成果
同社は生産性向上の一例として、プログラミング業務におけるコーディング前の事前調査が3時間から5分にまで短縮したこと、広報業務における約1,500件のアンケート結果分析が9時間から6分に短縮したことを挙げています。
また、パナソニックグループ全体へ利用を拡大し、製造の素材に関する質問を投げかけて短時間で検討材料をそろえるなど、多くの目的に利用されています。
AIの導入によって、プログラミング業務におけるコーディング前の作業にかかっていた時間が3時間から5分に短縮されました。また、アンケート結果分析にかかる時間は9時間から6分へと大幅な削減が実現しています。
現在は、パナソニックグループ全体で、ConnectAIがベースとなっている「PX-AI」を導入し、9万人の社員が利用しています。パナソニックコネクト株式会社では、2023年10月以降、自社に特化したAIとして、社外秘の情報にも回答ができる生成AIの活用開始を予定しています。
【製造業】体験型プロモーション
出典:画像生成AI「Stable Diffusion」の体験型プロモーション活用は日本初「Create Your DRY CRYSTAL ART」
アサヒビール株式会社では、AIを活用したプロモーション「Create Your DRY CRYSTAL ART」を展開しています。
Stability AI社が提供する高性能な画像生成AIを使用し、ユーザーが任意のテキストと自分の画像をアップロードすることでオリジナルの画像を作成できます。水彩画風やアニメ風といったスタイルを指示すると、生成AIがアップロードした画像を加工し、指示に沿って仕上げます。
このサービスは、「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」のブランドサイト内で提供されているサービスで、日本初の体験型プロモーションです。製品の認知度向上や購入促進を図ることを目的としています。
生成AIを活用したサービス提供事例
ここまでは生成AIの導入事例をご紹介しましたが、大企業ならではのリソースを利用して独自のシステムを導入する事例が中心となりました。
こうしたシステムは導入障壁が高いですが、まずはAIベンダーが提供するサービスを利用するだけでも生成AIによるインパクトを実感できるでしょう。
ここでは、生成AIを用いたサービス提供事例をご紹介します。
テキスト生成AI【ChatGPT等】
ChatGPTは、対話を通して情報収集やアイデア出し、コピーの生成などが可能なAIシステムとして、生成AIが爆発的に広まるきっかけとなりました。このようなテキスト生成AIは数多く登場しています。
ChatGPTは質問への回答を独自の大規模言語モデル(LLM)により生成できることはもちろん、画像やコードの生成も可能であり、さまざまな業種への活用が可能です。ChatGPTをベースに、自社ならではのチャットボットシステムを開発することもできます。
Geminiは、Googleが展開する生成AI関連サービスの総称であり、例として検索エンジンとの連携があります。2024年6月現在、日本ではまだ試験運用中ですが、検索結果の内容からAIが要約を作成することで素早い情報検索が可能になっています。
Copilotは、Microsoftが展開する生成AI関連サービスの総称です。ChatGPTをベースにしていますが、Windowsシステムと深く連携してさまざまなアプリケーションの操作ができること、検索エンジンBingにおいて検索結果の要約や画像の生成が行えることなどを特徴としています。
チャットボット
テキスト生成AIの一種として、チャットボットツールも多く提供されています。
ChatGPTなどがそもそもチャットボット型の生成AIだといえますが、こうしたツールをベースに目的に応じたカスタマイズを施し、よりビジネスにマッチするように提供しているチャットボットツールが多く登場しています。
こうしたチャットボットを作成できるツールとして、「watsonx Assistant」が挙げられます。
従来のチャットボットツールは、質問と回答の流れやパターンを人の手で設計するルールベース型が主流であり、24時間対応を実現するなどのメリットはあるものの利便性の面では課題がありました。
watsonx Assistantを活用したチャットボットでは、生成AIと検索機能を組み合わせた機能により、ルールベースに囚われない会話型の検索を実現。これにより、短時間で最適な回答を利用者に提供できるようになっています。
記事作成支援型AI
こちらもテキスト生成AIの一種ですが、記事作成を支援するAIも多く登場しています。
Webマーケティングにおいては、ユーザーのためになる有益なコンテンツを作成し、検索エンジンからの流入を増やすコンテンツSEOの施策が欠かせません。一方で、記事作成には一定の工数を必要とし、アイデア出しで詰まってしまうこともあるでしょう。
記事作成支援型のAIはこの課題に着目し、アイデアや記事タイトル、ひいては本文までを自動で生成します。担当者は出来上がった記事を確認・修正して公開すればよく、コンテンツSEOの業務を素早く回せるようになります。
当社HubSpotでも、記事作成を支援するAIツールとして「ブログアイデア生成ツール」を提供しています。
ブログアイデア生成ツールでは、ブログ記事を作成するためのアイデアを豊富に生成することができ、アウトラインの作成や記事本文の作成も自動で行えます。
メディアのターゲットに合わせた内容にカスタマイズすることも可能で、HubSpotの各ツールと連携することで、公開や検証・改善までをスムーズに行えるようになります。
生成AIをビジネスに活用する前に著作権を理解しよう
ビジネスに生成AIを利用する際は、著作権に気を付けましょう。人が作ったものであれ、AIにより生成されたものであれ、著作権の基準は同じです。
著作権法の基本的な考え方として、表現やアイデアそのものは「著作物性がない」と判断されます。例えば、似た画風の絵があったとしても、その事実だけで著作権侵害にはなりません。
ただし、「既存の著作物と同一、類似している(類似性)」「既存の著作物に依拠して複製等がされている(依拠性)」という2点が著作権侵害の要件に当たるため、生成された制作物の類似性・依拠性については必ず確認が必要です。
著作権が認められ、保護されるのは「思想や感情」を「創作的」に「表現した制作物」で、「文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」です。
一方、アイデアそのものは保護の対象とはなりません。例えば、絵画に特徴的な画風があったとき、それを参考にして作った新たな絵画は著作権が認められます。
著作権が保護されるケースを線引きすることは難しいですが、おおむね以下のような理解ができます。
アイデアそのもの、画風そのものなどは保護の対象とならないため、生成AIによって作成されたコンテンツも基本的には他の著作物を侵害するものではありません。
一方で、生成AIによって生成されるものは、他のコンテンツを大量に学習した結果に基づいています。極端に類似してコピーとして判断されないことに注意が必要な他、クリエイターによっては自身の作品を学習に使われることを嫌うことも多いため、トラブルを避けるためにはこうした面への配慮も必要となります。
活用事例を参考に生成AIを取り入れて、業務を効率化しよう
生成AIは、画像やテキスト、音声といった幅広いコンテンツの生成が可能な技術です。うまく活用することで、業務効率化やクリエイティブなコンテンツの制作支援などの効果が期待できますが、著作権を侵害しないよう配慮しなければなりません。
生成AIは発展途上であり、人によるコントロールが必要な技術であることを認識したうえで業務に活かしましょう。