車の中でストリーミング配信の音楽を聴いたり、人気のポッドキャストを楽しんだりと、誰にでも普段聴いているお気に入りの音声コンテンツがあると思います。
実は私も、常に何かを聴いていないと落ち着かない人間です。Spotifyの新しいプレイリストからポッドキャストの最新エピソードまで、とにかく暇さえあれば音声コンテンツを聴いています。
私のように音声コンテンツに夢中な人は他にもたくさんいるはずです。
消費者がこれまで以上に多くの時間、家の中にいたり1人で過ごしたりした2020年、音声コンテンツとそのリスナーが大幅に増加(英語)していることにマーケティング担当者たちは気付きました。
これは驚くことではありません。ここ数年間の間に、消費者の興味は従来のテレビコンテンツから、モバイルプラットフォームやオンラインプラットフォームへと移り変わってきています。中でも人気が高まっているのが、音声コンテンツのプロモーションや制作(英語)に向けたプラットフォームです。
そんな今、マーケティング担当者たちは音声に秘められた可能性に注目しています。何かを聴くという消費者行動が普及したことにより、マーケティング担当者、特にB2B分野で働く方にとって、ブランド独自の音声コンテンツを制作する絶好のチャンスが訪れたのです。音声はB2Cマーケティングに結びつけて考えられがちですが、こうした固定観念を持っていると、B2B企業はチャンスを逃してしまいます。
一方、ここHubSpotでは、マーケティング担当者や営業担当者の方々のために、多種多様なタイプのコンテンツを作成しています。当社のブログをお読みの方はよくご存じだと思いますが、読者の皆さんにも同じアプローチを実践するよう常にお勧めしています。音声についても例外ではありません。それでは、音声コンテンツの活用方法を詳しく見ていくことにしましょう。はじめに、科学的観点から「聴く」という行為について考えてみます。
ビジネスにおけるポッドキャストのはじめかた
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人は、聴覚情報をどう処理しているのか
音声コンテンツの制作を始める前に、予備知識として、人間の「聴く」という行為がどのように、そしてなぜ行われるのかを理解しておきましょう。NHK放送文化研究所の「ことばの研究」ページでは、「聴く」という言葉について、「注意深く(身を入れて)、あるいは進んで耳を傾けること」と定義しています。
「聴く」という行為には、次のようなさまざまな生理学的な目的を果たす機能もあります。私たちは、何かを聴くことによって、気分を変えたり、注意を集中させたり、物事を理解したりしようとします。人間に関して言えば、この行為は人類の誕生以来変わっていないと言ってよいでしょう。聴覚情報の処理は、私たちが聴覚刺激を受け取ることから始まります。次に、受け取った情報を脳が解釈します。解釈の過程では、視覚など、他の感覚にも頼りながら、聞こえていることは何かについて理解を深めます。
脳が聴覚信号を解釈すると、続いて、処理する情報に対して、記憶の想起、評価、反応というステップからなる一連のプロセスが行われます。
出典(英語)
マーケティング担当者にとって恐らく最も重要なのは、このプロセスの3番目のステップ「記憶の想起」でしょう。数多くの研究(英語)から、聴くという行為によって、脳全体にわたる幅広いネットワークが活性化されることが分かっています。こうした脳の活動が聴覚刺激と記憶を強く結び付けるのです。
私たちが、素晴らしい音楽など、過去に耳から得た情報について話したがる理由もそこにあるのかもしれません。言ってみれば、聴覚的な「記憶」のストーリーをシェアしているということです。ここで冒頭の話に戻って、この行為をマーケティング担当者の役割に結び付けて考えてみましょう。マーケティング担当者がブランドストーリーをシェアするときのポイントは、オーディエンスに興味を持ってもらい、しっかり「聴いて」もらえるような方法を取ることです。
では、ここから本題に入って、たくさんの人に聴いてもらえるコンテンツの制作について詳しく説明していきましょう。
B2Bマーケティングで音声を活用する5つのアイデア
1. ポッドキャストの番組制作またはスポンサーとしての支援
市場調査会社のEdison Research(英語)によれば、2006年以来、ポッドキャストのリスナーは着実に増え続けています。2018年には、ポッドキャストのリスナー(英語)は前年比で26%増加しました。
リスナー数だけでなく、ポッドキャストの収益も伸びています。2021年までに、ポッドキャストの広告費はおよそ345億円に達する見込みです。
ポッドキャストは主に消費者向けのサービスだと思い違いをしている人も少なくないはずです。公共のラジオで放送されている番組や著名人がホストを務める番組は、通勤中や通学中の大衆の暇つぶしのためのものだと思うのも無理はありません。しかし実際には、「Duct Tape Marketing」(英語)やZendeskの「Relate」(英語)、そしてHubSpotの「The Growth Show」(英語)といった、B2B向けのポッドキャストも多数存在します。
ところが、ブランド独自のポッドキャストを制作する話となると、B2Bマーケティング担当者からよく聞く言葉は、「時間がない」「話題がない」など、以前ブログについて使っていたような言い訳です。
ブログと同様、ポッドキャストの制作は、インバウンドマーケティングの原則に則って行います。つまり、自社の得意分野についての情報を探している人々のために、価値ある有益なコンテンツを作成することが基盤となります。その一例として、HubSpotの「The Growth Show」についてご紹介しましょう。
HubSpotは、ビジネスの成長を後押しする連携ツールを搭載した、マーケティングソフトウェア、セールスソフトウェア、CRMソフトウェアを提供しています。そこで当社では、ポッドキャストを利用して、著しい事業成長に貢献し、語るべきストーリーを持ったビジネスリーダーたちと関連トピックについて話し合っています。
「多くの企業、とりわけB2B企業は、ブランドストーリーを伝えるのにとても苦労しています」と語るのは、「The Growth Show」の副プロデューサーを務めるKierran Petersenです。「ブランド独自のポッドキャストの制作は、こうした課題を解決するための最適なソリューションです。ポッドキャストで自分らしいトークを通して、オーディエンスに向けて自社の活動に関する有益な情報を、親しみやすく伝えることができます」
先ほど挙げた言い訳の2つ目「話題がない」を乗り越えるコツは、ここにあります。「ブログに書くことがないから」と言われる方たちには、「知っていることを書けばいい」とよくお答えしています。ポッドキャストについても同じです。自分の知っていることを、書くのではなく話せばよいのです。むしろ書くよりも話す方が得意という人もいるのではないでしょうか。
もちろん、ブランド独自のポッドキャストを制作するとなれば、30分間ただ自社のビジネスについてその場で思い付いた話を録音する、というわけにはいきません。音声コンテンツを制作する場合にも、ブログ運営のアプローチが役立ちます。エディトリアルカレンダーを作って幅広いトピックの計画と概要をまとめると共に、インタビューしたい人をリストアップしておきましょう。
さらに、コンテンツの配信方法や、オーディエンスがポッドキャストを聴く手段としてさまざまなプラットフォームについても検討しておきましょう。ポッドキャストの配信が初めての場合は、SoundCloud(英語)のような無料ツールのご利用をお勧めします。SNSで音声コンテンツを共有するための方法をいろいろと試してみるのもよいでしょう。
ブログ記事のポッドキャストへの転用
オリジナルのポッドキャストを制作するにはまだ少し不安がある場合、既存のコンテンツを転用したスモールスタートも選択肢の1つです。既にご存じかもしれませんが、ブログによっては、記事と同じ内容を音声でも聴けるものがあります。これはオリジナルの音声コンテンツを作る上で役立つ比較的に簡単な方法の1つで、既存の記事を読み上げて、話し言葉のコンテンツに変えるというものです。
転用コンテンツの作り方には、さまざまな方法があります。企業によっては、イントロ、BGM、引用、さらに効果音の演出を加え、ブログ記事をさまざまな長さの本格的なポッドキャスト番組へと作り変えているところもあります。代表的な例としては、NPR(National Public Radio)として知られる米国の公共ラジオネットワークが挙げられ、さまざまなニュース記事がこの方法で配信されています。例えば、この記事(英語)はテキストで全文を読むことも、以下のようなプレーヤーを使って音声で聴くこともできます。
また、「The Atlantic」のように、記事の全文(英語)を読み上げ、オーディオブックのような扱いで配信しているところもあります。以下の音声コンテンツも聴いてみてください。
このように既存のコンテンツを音声コンテンツへと転用するのに唯一の「正しい」方法などありません。どのような方法をとるかは、コンテンツの長さや、自然な口調になるように記事を要約するかどうかで大きく変わります。ここで覚えておいていただきたいのは、コンテンツの転用が決して不可能「ではない」こと、そしてちょっとした工夫で、B2Bマーケティング担当者にとってこうした音声コンテンツ作りの可能性が無限に広がることです。
2. さまざまな長さのオーディオグラムの制作
音声コンテンツの1つの形式である「オーディオグラム」は、録音したサウンドバイト(メディアに引用される短い発言やフレーズ)のことで、ごく短時間で説明や宣伝をするのに最適です。広告とは多少異なり、オーディオグラムのプロモーションには必ずしも費用がかかるわけでもなく、CTAを設置する必要があるわけでもありません。オーディオスニペット(短いサウンドバイト)は、長めの音声広告同様、既にブランド戦略に試験的に使用されています。
オーディオスニペット
数年前になりますが、2017年2月HubSpotの共同創業者であるブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャアは、2016年という年を振り返る特集記事をマーケティングブログに投稿しました。それだけではありません。HubSpotはあらゆる独自のオンラインチャネルを通じて、さまざまな配信方法で、1年を振り返るメッセージを配信しました。その中には、効果的な短いオーディオグラムもありました。
「ところで、オーディオグラムって何?」
そう思った方もいらっしゃるでしょう。オーディオグラムは、静止画像と短い音声を合わせたコンテンツです。オーディオグラムの代表的な例は、当社のウェブサイト(英語)でご覧いただけます。以下でお聴きいただけるHubSpotのBertie Ocampo(アジア太平洋地域担当イベント&フィールド マーケティング マネージャー)のコメントの引用など、一部はFacebookにも投稿されています。
オーディオグラムはInstagramへの投稿も可能です。Instagramは「モバイルファーストのサービスなので、ユーザーの多くはイヤホンをしていると思って間違いないでしょう」と、HubSpotのソーシャル メディア マネージャーを務めるMarissa Emanueleは指摘します。とは言え、ただ写真にスニペットをかぶせたものを投稿するだけでオーディエンスに意図を理解してもらえるとは思わず、背景情報も添えることを勧めています。「オーディオグラムは、キャプションを加えるなどして、何かしらの文字情報を取り入れることでさらに効果的になります」
長尺のオーディオグラム
こうした戦略は長めの音声ファイルにも有効だと指摘するのは、HubSpotでソーシャル メディア マネージャーを務めるChelsea Hunersenです。例えば、「『The Growth Show』のエピソードが聴ける動画の投稿に、『これは音声コンテンツです』というキャプションが付いた画像を表示したりしています」
「30秒よりも長い」音声サンプルにも、これと同じテクニックが使えるとHunersenは説明します。このように独自のポッドキャストの配信方法を検討する際は、オーディオグラムに転用したり、動画化した画像とオーディオグラムを組み合わせて提供したりするのも選択肢の1つです。
3. Facebookでの音声コンテンツのストリーミング配信
出典:Facebook(英語)
2016年12月、Facebookは最新のライブコンテンツ機能「ライブ オーディオ ルーム」を発表しました。公式発表(英語)には次のように記載されています。「投稿者がFacebookでストーリーを伝えるとき、動画よりも言葉を使った方が効果的な場合があります」これには通常2つの理由があります。
- 音声コンテンツは、ほとんどの場合、動画と比べ維持管理費を多少抑えられます。カメラなど、必要なハードウェアが少なく済み、通信の負荷も軽減されます。
- リスナーにとっても少し負担が軽くなります。Hunersenは次のように説明します。「音声は、コンテンツを無理なく気軽に楽しむのに最適なメディアです。Facebookで動画を見続けずとも、ブラウザーで開いてさえいれば、ポッドキャストのような音声コンテンツを聴くことができます」
この発表後、Facebookのライブ オーディオ ルームについて特に新しい情報は出ていません。この機能が実際にマーケティング担当者向けに提供されているのかは不明で、今のところ導入事例も確認されていません。さらに、Hunersenは続けて次のように説明します。「この機能はAndroidデバイスでしか利用できないと思われます」
ただし、マーケティング担当者にとって音声コンテンツを配信するための選択肢が1つ増えることは確かです。Facebook Liveのライブ配信で、ポッドキャストの収録コンテンツを倍に増やせるということです。
どういうことか具体的に説明しましょう。ラジオ番組のホストがスタジオで収録している様子が動画でライブ配信されていたり、番組内でのインタビュー映像が公開されているのを見たことがある人もいるでしょう。その一例として、インディーズ系ミュージシャンのAstronautalis氏とのやり取りを収録し、このようなコンテンツを制作したドイツのラジオ局の動画をご覧ください。
この例はB2C分野に入るかもしれませんが、B2B企業にも簡単に応用できます。Facebook Liveでポッドキャストの収録やインタビューをストリーム配信した後、そのコンテンツを録画済みの動画として再利用できるということもお分かりいただけたでしょう。ゲストが登場する短い映像をイントロとして撮影しておき、そのクリップにインタビューの中で特に盛り上がった場面をつなげると効果的です。ライブ配信はオーディエンスの関心を維持しやすいという利点もあります。ゲストに聞いてみたいことを募集して、リアルタイムで質問するとよいでしょう。
4. 他の音声コンテンツの活用
マーケティング担当者がコンテンツの制作に取り掛かる際、忘れられがちなのがアクセシビリティーの重要性です。例えば、目が不自由な人にとって、インフォグラフィックやフローチャートなどは利用しやすいコンテンツだとは言えません。
他にもさまざまな理由から、視覚的なコンテンツや文章コンテンツを、音声コンテンツ化することには大いに意義があると言えます。制作した音声コンテンツは場所を問わずどこでも利用してもらえるようになり、その上、オーディエンスの層も広がります。
これは書籍をオーディオブック化するようなものだと考えると分かりやすいでしょう。オーディオブックなら、車の運転中など、字を読むことができない状況でも、小説やノンフィクション作品を楽しんでもらうことが可能です。B2Bマーケティング担当者は、自社のeBookやホワイトペーパーについても、同じテクニックを応用できます。ただし、コンテンツの魅力が損なわれないように注意が必要です。文章をコンピューターで読み上げただけのコンテンツほど、つまらないものはありません。こうしたコンテンツの音声版を制作する場合は、淡々と読み上げるのではなく、必ず言葉に力のある人に読み上げてもらうようにしましょう。
5. 音声広告の作成
自社独自でも他のブランドと共同であっても、コンテンツを制作するような時間はないという方もいらっしゃるかもしれません。そんな場合は短い音声広告を作成し、既存のポッドキャストやラジオ番組、ストリーミングサービスで流すことを検討しましょう。
この方法なら、ごく短いサウンドバイトを用意するだけでよく、制作時間も短縮できます。ただし、配信されている音声コンテンツは無数にあるため、何に広告費を投じ、どこに広告を出すかを決めるのは、制作以上に難しいかもしれません。
こうした広告の例として、スコットランドのジンのブランド、Hendrick's Ginの広告をご紹介しましょう。この広告はポッドキャスト制作会社のGimlet Mediaの番組で頻繁に流されており、同社の広告ページ(英語)にも掲載されています。
ポッドキャストでの広告展開に関する専門的なアドバイスについては、こちらのブログ記事(英語)を参照してください。
音声コンテンツの活用をスタートしよう
ここまで読んでくださった皆さん、現状を打破して、幅広い層の人々に聴いていただける音声コンテンツを作ってみたいという新たな意欲が湧いてきたでしょうか。
この記事の例で示したように、膨大な手間をかけずとも、B2Bマーケティングで音声コンテンツを活用することは可能です。コンテンツ制作の規模は、自社のリソースに応じて自由に調整できます。まったく新しいコンテンツを制作することも、既存のコンテンツを転用することもできます。
必ず守るべきことはただ1つ。常に魅力的なコンテンツを提供することです。そこにさえ注意すれば、多くのリスナーを惹き付ける音声コンテンツを実現できるでしょう。
編集メモ:この記事は、2017年に投稿した内容を最新の情報に基づいて2020年6月に加筆・修正したものです。