ソフトウェア企業では、ずいぶん前からユーザーエクスペリエンス(UX)開発の専任チームが置かれるようになりました。UX開発の分野は、現在も拡大と進歩を続けています。
既に確立されているUX(プロダクト)デザイナーやUXリサーチャーといった職種と並び、UXライターなどのより専門的な職種も着実に重要性を増しています。
UXライター(コンテンツストラテジストと呼ばれることもあります)とは、ソフトウェアの画面上に表示されるテキストの内容をデザインする人のことです。
概念自体はシンプルですが、UX関連のほとんどの専門職と同様に、その仕事の内容は複雑極まります。
たとえば、ご自身のお気に入りのアプリやソフトウェアの画面を思い浮かべてみてください。もしそこからテキストが一切なくなってしまうと、まるで意味のわからないものになるのではないでしょうか? どのボタンを押せばよいのか、どのフィールドに入力すればよいのかがわからなくなるはずです。
こうしたコンテキストを明快で簡潔なものにする役割を果たすのが、UXライターです。優秀なUXライターは、ユーザーが喜び、何度も製品を使いたくなるようなちょっとした工夫を盛り込むこともあります。
ハブスポットのUXライターの最終的な目標を大雑把に言えば、ユーザーが当社のマーケティング、営業、カスタマーサービス用のソフトウェアを有効活用できるようなコンテンツを作成することです。
とは言え、UXチームの外にいる人からすれば、UXライターの日々の仕事は少々謎めいたものに見えるでしょう。実は、私たちUXライターの仕事は、自分たちだけでは完結しません。社内の他のメンバーと絶えず連携や協力をする必要があるので、自分のデスクでただ黙々とテキストをひねり出しているわけではないのです。
この記事では、ハブスポットのUXライターがどんな仕事をしているのかについてお話ししていきます。
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UXライターの位置付け
ハブスポットのUXライターは、プロダクトデザイナーと積極的に連携し、ユーザーエクスペリエンスを可能な限り優れたものにしようと努めています。
包括的なエクスペリエンスをテキストとデザインの両方の面から構築し、初めからテキストとコンテンツをデザインの一部と見なしています。チーム内での私たちの役割は、できるだけ多くのユーザーが理解しやすい言葉遣いを選択できるように後押しすることです。
UXライターは毎日、何通りものコピー案を求められます。また、まったく新しい製品の開発などの長期プロジェクトに、デザイナーと協力して取り組むことがあります。その場合、テキストやイラストはすべてゼロから作成しなければなりません。他にも、既存のテキストに少しだけ手を入れてブラッシュアップを行う場合もあります。
さらに、プロダクトマネージャーやソフトウェアエンジニアからも大小さまざまな依頼を受け、協力して仕事を進めています。作業環境や仕事の場所は相手の都合に合わせて変わります。
たとえば、プロダクトマネージャーやソフトウェアエンジニアが担当のUXライターとGitHub(私たちが使用している実際の全コードの保管場所)でやり取りしたがっていれば、UXライターはGitHubにコピー案を置きます。
また、デザイナーがInVision(デザインとプロトタイピング用のツール)を使用して初期デザインを作成していれば、UXライターもInVision内にコメントや提案を書き込みます。
開発初期のアイデア出しやコンセプト作りのミーティングにも数多く参加し、新しい機能やフローをゼロから一緒に作成することもあります。
ハブスポットでは、デザインの段階のなるべく早い時点で、デザイナーやプロダクトマネージャー、エンジニアと同列のメンバーとしてUXライターに参加してもらうのがベストプラクティスとされています。
このような関係作りを促すために、UXライターチームでは、プロダクトチームのメンバー全員に対し、大小どんなことでも気軽に声をかけてくれるように伝えています。私たちはそのためにいますからね。
ライティングのプロセス
細かいことを気にかける
どんな些細な言葉も要望の種です。私たちはあらゆるところから要望を拾い上げます。SlackやGitHubのメッセージで依頼を受けた場合はもちろん対応しますが、プロダクトチームがDropboxで共有してくれたドキュメントや廊下で聞いた立ち話などから要望を引き出した例もあります。
要望や依頼の内容も多種多様です。既に製品内で表示されているラベルから、ユーザーの混乱を招きそうなシンプルなチェックボックスまで、さまざまな要素について対応します。
既存の機能のデザイン変更を依頼された場合は、InVisionの画面にコメントや提案を直接書き込むことで、デザイナーと円滑に共同作業を進めています。
UXライターチームでは、各依頼をタイムリーに処理できるよう努めており、コピー依頼はすべて未処理、進行中、リリース済みに分け、ていねいに追跡管理しています。
大きなプロジェクトにも参加する
新しい機能の開発では、話し合いを重ね、コピーを何度も作り直すことになるのが常です。
たとえば、最近開発に関わっている新製品には、今のユーザーには馴染みのない、複数のステップにわたる作成フローが含まれています。初期デザインでユーザーテストを実施した後、ライターとデザイナー、プロダクトマネージャーが集まって、どこが悪いのかを分析することになりました。
ここでライターがInVisionのモックアップを確認し、テキストを修正した方がよさそうな箇所や、デザインが原因で効果的なテキストを活かせていない箇所を指摘したりしました。
それを基に話し合いを重ね、大規模かつ効果的なデザイン変更を行い、ユーザーが操作に迷う箇所を解消することができました。テキストの修正によって、デザインの簡潔さが増した結果、ユーザーエクスペリエンスの改善につながったのです。
ネーミングも担当する
新製品の名前を考案したり、古い機能の名前を変更したりするのは、正直なところ簡単ではありません。ネーミングで重要なのは、製品の特徴や製品を使うことで得られる価値を、製品名から瞬時に理解できるようにして、ユーザーの関心を得られるようにすることです。
また、混乱を避けるため、同じ製品内で既に使われている名前を再度使わないようにすることも必要です。さらに、似たような名前が他社の商標にないかどうかを入念にチェックすることも欠かせません。その名前に対するイメージが既に確立されていて、他の企業や他社のサービスを連想させるようなことは避けたいからです。
そこで私たちは、ネーミングを少しでも簡単にするためのプロセスを作りました。
まず、ネーミングの対象と目的、考慮すべき問題点や、その機能が実装される状況について明らかにするための質問シートを作成します。
次に、徹底的なブレインストーミングを行い、名前の候補をリストアップした後、UXリサーチャーとの協力の下、ユーザーテストを実施して、最適な名前を特定します。
そして、ローカライズチームに持ち込み、各言語に翻訳するうえで問題がないかどうかを確認します。
さらに、その新機能を担当している製品開発チームから、その機能の今までの呼称や、今後の機能の拡張や変更の予定について話を聞くことも欠かせません。長く使えなければ良い名前とは言えません。考案時はもちろん、製品の拡張後もしっかりと機能する名前を考えることが大切です。
ネーミングはさまざまな要素が絡む複雑な仕事ですが、以上のプロセスを活用することで透明性が高まり、ネーミングの根拠を明らかにできます。
ハブスポットのUXライターならではの業務
「ハブスポットらしさ」の追求
ハブスポットはユニークなカルチャーコードで知られています。私たちUXライターも「ハブスポットらしい」製品コピーを作るべく努力しています。ハブスポットには、謙虚かつ正直で思いやりの心が強い従業員が揃っています。
そのカルチャーは、HubSpotのエコシステム全体を通してUXコンテンツに直接的な影響を及ぼし、言葉遣いやトーンにも色濃く反映されています。
先日、ハブスポットのUXデザインチームはHubSpot Canvasという新しいデザインシステムを世界に向けて公開しました。
これには当社の言葉遣いとトーンに関するガイドライン(英語)も含まれています。かいつまんで言えば、当社はフレンドリーでありつつも、プロフェッショナルらしいトーンを目指しています。
ときにはお楽しみやちょっとしたサプライズの要素があってもいいですが、基本的にはシンプルかつ直接的な表現で確実に要点を伝えるようにしています。
強固な信頼関係の基盤
ハブスポットには長い間、UXライターが1人しかいませんでした。しかし、かつて1人しかいなかったチームも、今ではUXライター3人とイラストレーター1人を抱えるまでになりました。
ハブスポットの最初のUXライターであるBeth Dunnは、強固なブランドの構築に取り組み、熟慮された一貫性あるコンテンツがいかに大きな価値をもたらすかを製品開発チームに訴え続けました。
その結果、信頼関係が築かれ、会社中の人たちの仕事がスムーズになると共に、私たちUXライターがデザイン段階で活躍の機会を得られるようになりました。
UXライター自身はもちろん、今ではデザイナー、プロダクトマネージャー、ソフトウェアエンジニアのだれもが、大きな共通目標の達成に向けてUXライターが果たす役割をはっきりと理解しています。
業務の委託先ではなく、プロジェクトチームの一員として
デザイナーを始めとする社内の多くの人たちとの良好な関係作りに努めているおかげで、UXライターは、プロジェクトの全期間を通じて、ただのサービス提供者ではなくプロジェクトチームの一員として認められています。
UXライターはデザインの初期段階から参加します。初期デザインで使われるテキストでさえ、製品の出来上がりに直接的な影響を及ぼすからです。
デザインを後回しにして開発の最終段階で「体裁を整える」という程度で済ませるわけにはいきません。UXライティングも、最後に「語感を整える」という程度ではいけないのです。
特に骨の折れるコンテンツの場合は、UXライターどうしで協力し合うこともあります。ミーティングを定期的に開いたり、Slackのプライベートチャンネルを使用したりして、現在抱えている問題を振り返り、解決のために協力し合っています。
優秀なUXライターの特徴
卓越したライティングスキル
人材を募集する際は、正確な文法知識を持ち、言語の構造について正しく理解している候補者を探します。私自身について言えば、このポジションに就いた時点でUXライティングの経験はなく、一般的なライターの経験しかありませんでした。
学生時代はクリエイティブライティングについて学び、今のポジションに応募する前は、ハブスポットのテクニカルライターとして勤務していました。
UXライターとしての仕事を始めるためには、これまでとは違う読者層に対応する必要がありましたが、文章を書くための基礎がしっかりとできていたおかげで、UXライティングという、より専門的なスキルもすんなりと身に付けることができました。
協調性
ハブスポットのUXライターは、業務を進めるにあたり、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、ソフトウェアエンジニア、ローカリゼーションスペシャリスト、リサーチャーなど、多くの人と積極的に協力しています。
そのため、一緒に働く相手のニーズに合わせることが求められます。私たちは、新たなワークフローを作ってチームのメンバーたちに押し付けるのではなく、自分たちの方が既存のワークフローに合わせるようにしています。
プロダクトマネージャーに理解してもらおうと心がけているのは、UXライターは開発中の製品に気を配っていて、作業のスピードアップを手助けできるのだということです。
デザイナーには、UXライターをパートナーのように感じてもらえるように努めています。
各製品開発チームや、チームと協力しているリサーチャー、ライター、デザイナー、プロダクトマネージャーたちとは、定期的にミーティングを開き、製品の拡大や発展に合わせて全員で助け合い、支え合っていけるように最善を尽くしています。
お互いの協力が成功への鍵なのです。
段取り力
私たちは日々の業務の管理にTrelloを使用しています。このツールのおかげで、対応が完了していない依頼を確実に追跡でき、とても助かっています。
仕事の段取りがうまいという評判を得られれば、他のチームとの信頼関係を強固にすることにもつながります。
重要なのは、コンテンツデザインの依頼には常にすばやく対応し、漏れがないようにすることです。UXライティングチームでは、日々の業務の管理に役立ち、私たちのサポートを必要とする人たちと良好な関係を維持できるプロセスを重視しています。
優先順位の設定が得意
時には大小さまざまな複数の依頼案件を同時に抱えることもあります。どの案件の優先度が高いかを理解しておくことで、ワークフローに優先順位を設定し、適切な依頼を適切なタイミングで処理できるようになります。
大きなプロジェクトを抱えつつ、並行して複数の小さな依頼に応えるのは、絶え間なくジャグリングを続けるようなものです。きちんと優先順位を付ける力がなければ、私のUXライターとしての成功はなかったかもしれません。
ユーザーへの共感力
UXライターとして大切なことは、ユーザーが考えていることを理解し、ユーザーの気持ちに寄り添えることです。私たちはただ空きスペースを埋めるためのコピーを書いているのではありません。
操作中のユーザーの気持ちや考えていることとマッチするコピーを書きたいと思っています。こうしたユーザー中心のアプローチを後押ししてくれるのが、デザイナーやプロダクトマネージャー、リサーチャーとの協力と、自分自身の個人的な経験です。
多くのUXライターは、ユーザーエクスペリエンスの構築にあたって幅広いコンテンツ作りに携わりたいという強い思いを持っています。
優れたライティングがいかに製品の真の価値を高め、ビジネス全体の利益を引き上げるかを多くの人に知ってもらいたいという思いもあります。
UXライターは言葉をつむぐだけの存在ではありません。人間関係の調整役であり、インフォメーションアーキテクトであり、言語のプロでもあります。
さらに、コンテンツデザイナーや、ユーザーの理解者およびサポーターといった、さまざまな役割を担うことができます。UXライターはとても刺激的な仕事です。
UXライターの活躍によって、これから当社のコンテンツチームがどのような成果を挙げられるか楽しみです。