属人化とスペシャリストは、どちらも「特定の人が業務を行う」ことを意味するため、どのような違いがあるのか疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
企業のサービス品質向上のためには高い専門性を持つスペシャリストの採用や育成が重要です。しかし一部の企業では、スペシャリスト育成を目指していたはずが、結果的に業務の属人化が起こるケースが生じています。
属人化の状態が続くと組織の成長を妨げる恐れもあるため、解消するための対策が必要です。同時にスペシャリストの採用や育成も進めることで、オープンで風通しがよく、かつ高い専門性も備えた組織づくりが可能になります。
本記事では、属人化とスペシャリストの違いやメリット・デメリット、属人化の解消方法、スペシャリストの採用や育成を実現するための具体策・ポイントについて解説します。
属人化とスペシャリストの違い
属人化は、業務の進め方・進捗・ノウハウなどの情報を特定の担当者のみが把握し、周囲に共有されていない状態です。対して、スペシャリストは特定の分野において専門的な知識や技能を有する人を意味します。
どちらも「特定の人が業務を行う」点では同じですが、次の3点で異なります。
ここでは、属人化とスペシャリストの違いについて、「対象」「業務の専門性」「業務の可視化・情報共有」の観点で解説します。
なお、属人化やスペシャリストについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。
対象
属人化とスペシャリストは、それぞれ「何を指すか」の対象が違います。属人化は組織の状態を、スペシャリストは個人の専門性を表す言葉です。
言葉の用途は違うものの、「一人の人にノウハウが集中する」点が共通するため、しばしば比較されます。実際に職場の課題として属人化をあげる企業は多く、組織の状態を指す言葉として使用されています。
業務の専門性
属人化とスペシャリストは、業務の専門性でも異なります。属人化の場合、単に特定の人に業務が偏っているだけで、業務内容自体は専門性を必要としないケースも多くあります。
例えば、新商品の開発プロジェクトで、一人の担当者が製品の設計から生産まで一貫して対応しているケースは、属人化の典型的な例です。
この担当者の業務範囲は広く、高度な専門性を必要としません。しかし、属人化により業務内容が周囲に共有されていない状態では、他の社員では対応できないなどのトラブルが生じる可能性もあるでしょう。
一方で、スペシャリストは特定の業務や分野において突出した専門性を有する人材です。先ほどの例と同じプロジェクトでも、製品設計は専門のデザイナーに、生産は専門のエンジニアに担当させることで、各担当者はスペシャリストとしてのスキルや経験を発揮できます。その結果、製品開発の品質や効率が向上し、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
業務の可視化・情報共有
業務内容や進捗状況などに関する情報の可視化や、情報共有の有無も違いの一つです。
属人化している組織は、業務内容や進捗を当人のみが把握しているクローズドな状態です。対して、スペシャリストは進捗状況や業務内容などを可視化しているケースもあり、必ずしもクローズドな状態とは限りません。
属人化を防止・解消し、スペシャリストを増やすメリット
企業にとって、属人化を防止・解消したうえでスペシャリストを増やすことは、サービス品質向上のために欠かせない対策です。
その理由として、属人化のメリット・デメリットと、属人化の防止・解消とスペシャリストを増やすメリットをご紹介します。
属人化のメリット・デメリット
属人化は一般的にネガティブな意味で用いられるため、デメリットが露呈しがちですが、次のようなメリットもあります。
<メリット>
- 個人の裁量が大きく、迅速に業務を遂行しやすい
- 個々の業務の成果を評価しやすい
<デメリット>
- 担当者不在時に業務を進められない
- トラブル発生時の対応が遅れる
- 管理者側が業務の進捗度合を把握できない
- チームとしてナレッジを蓄積できない
- 業務負担が多すぎて業務効率が低下する
業務の属人化には一定のメリットがあるものの、顧客対応に直接影響を及ぼす要素も多く、デメリットが大きいといえます。
属人化を防止・解消するメリット
属人化の防止・解消には、次のメリットがあります。
- サービス品質の安定化
- 業務の進捗を管理しやすくなる
- 社内にナレッジが蓄積される
業務に関する情報やノウハウが共有されると、提供できるサービスの品質が安定化するため、顧客満足度の向上が期待できます。
属人化を防止・解消し、情報共有できる環境を整えることで、管理者側が管理しやすくなり、ミスやボトルネックに気付きやすくなります。また、個人のノウハウを社内のナレッジとして蓄積することも可能です。
スペシャリストを採用・育成するメリット
属人化を防止・解消するだけでは、突出した能力や経験を有する人材を増やせないため、同時にスペシャリストの採用・育成を進める必要があります。
スペシャリストを採用・育成すると、次のようなメリットを得られます。
- 組織全体の品質改善による顧客体験の向上
- 売上・利益の増加により事業展開が可能になる
- 即戦力を得られる
- 新しいノウハウを社内に浸透させられる
スペシャリストが持つノウハウを周囲に伝授すれば、チーム全体のスキルの底上げにつながるでしょう。これにより顧客体験を向上でき、売上・利益が増加することで新たな事業展開を進められます。
また、外部から採用したスペシャリストは、即戦力としての活躍も期待でき、新しいノウハウの導入にもつながるでしょう。
スペシャリストが増えず、属人化が進む要因
企業にメリットをもたらすスペシャリストが思うように増えず、属人化が進む要因として、次の3点があげられます。
- 人員不足
- 情報共有の仕組みの不整備
- 個人成果主義
高度な専門知識やスキルを持つスペシャリストの育成や採用には、時間とリソースが必要です。しかし、人員が足りていないと十分な教育や研修を行う余裕がなくなります。結果的に、業務が特定の個人に依存して、さらなる属人化を招いてしまいます。
情報共有の仕組みが整っていないことも要因の一つです。スペシャリストが本来の力を発揮するには、他のメンバーと連携して知識や経験を共有することが重要です。情報共有の仕組みが整っていない場合、情報が各個人で完結したままとなります。
また、組織の評価方法も属人化を助長する要因です。個人の成果を重視する傾向が強い企業の場合、各個人が自身の成果を追求する傾向が強まるため、他のメンバーとの協力や知識の共有が疎かになってしまいます。
属人化の解消とスペシャリストの採用や育成を実現するには
属人化の解消とスペシャリストの採用や育成を実現するための、具体的な方法について解説します。
属人化の解消方法
属人化を解消するには、次の4つの方法を実践しましょう。
- 業務フローを可視化・簡略化する
- マニュアルを作成する
- 情報共有・ナレッジ蓄積の仕組みを整える
- 評価制度を見直す
業務内容の棚卸しを行い、不要な業務がある場合は簡略化するなど、業務フローを見直しましょう。人員が足りない場合は、業務責任や権限を分散するなど、一人に負担がかからないように配慮することもポイントです。
また、マニュアルの作成は業務の標準化?・効率化につながり、引き継ぎもしやすくなります。
情報共有しやすい環境を整備するには、情報共有ツールの活用もおすすめです。業務に関するFAQを作成し、随時アップデートを行いながらナレッジを蓄積しましょう。
個人成果主義のように評価制度によって属人化が起こっている場合には、チームや組織全体の目標達成を促進する報酬制度や評価方法を導入するなど、評価制度の見直しも有効です。
スペシャリストの採用や育成を実現する方法
スペシャリストの採用や育成を実現する方法は、次の3つです。
- 社内のスペシャリスト人材に育成してもらう
- リカレント教育を導入する
- スペシャリスト人材の採用活動を行う
社内でスペシャリストを育成する場合、すでにスペシャリストとして活躍している人材がいるのであれば、指導してもらうと良いでしょう。
社内に育成できる人材がいない場合は、社会人の学びであるリカレント教育を導入することもおすすめです。外部研修や、社外のスペシャリストとの交流の場を設けるなど、専門性を高めるための取り組みも有効でしょう。
また、自社で求めるレベルのスペシャリスト人材に限定して採用活動を行えば、即戦力を得られて育成コストも抑えられます。ただし、専門性の高い人材は採用難易度も高く、募集のタイミングによっては採用活動の長期化も懸念されるため、社内での育成とあわせて行うことを検討しましょう。
属人化の解消とスペシャリスト採用・育成を両立させるためのポイント
属人化の解消とスペシャリスト採用・育成を両立させるためには、業務の可視化とフィードバックを行いやすい職場環境の整備が必要です。
業務を可視化すると情報共有が容易になり、属人化が解消されます。スペシャリストの持つスキルや専門知識も共有しやすくなり、組織全体のスキルの底上げにつながるでしょう。
さらに、フィードバックを受けられる環境を整えることで業務を改善でき、より高いスキルの習得も可能となります。業務への意欲的な取り組みを促進できる結果、スペシャリストとしての独自性も高まっていくことでしょう。
属人化の解消とスペシャリストの採用・育成を実現し、企業価値を高めよう
属人化とスペシャリストは、「特定の人が業務を行う」点では似た意味を持ちますが、その対象や個々の専門性の高さ、業務の可視化・情報共有の有無の点で異なります。
属人化の解消は、サービス品質の安定化による顧客満足度の向上や、管理面での可視化、社内のナレッジ蓄積につながります。一方で、スペシャリストの採用・育成を進めると、ノウハウ共有によるチーム全体のスキルの底上げや、自社独自のサービスを展開できるなど、他社との差異化を図ることも可能となるでしょう。
本記事で取り上げた属人化の解消方法とスペシャリストの採用・育成方法を実践し、サービス品質の向上など企業として提供できる価値を高めましょう。