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日本では、企業規模が大きくなるにつれて縦割り組織となり、分業化が進む傾向にあります。分業化は業務効率や生産性の向上が期待できますが、その一方で、特定の業務を限られた人員でこなすことになり、仕事の「属人化」が進みやすくなります。

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属人化は企業の成長を阻む原因となり、場合によっては顧客体験を損なって顧客の離脱を招くものです。こうしたリスクを加味すると、できるだけ属人化を解消することが望ましいでしょう。今回は、属人化の具体的なリスクや解消法を解説します。

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属人化とは?

属人化とは?


属人化とは、一部の業務を特定の担当者、もしくは限られた人員のみで対応している状態を指します。加えて、業務の内容やフローに関する情報が共有されず、担当者以外は把握できない状況にあるのが特徴です。

日本では、規模が大きい企業ほど縦割り組織となり、分業化が進む傾向があるため、担当者がそれぞれ特定の業務を担うことが多くなります。

分業化によって特定の業務が「属人化」した場合、担当者がスムーズに対応している間は問題視されないものの、不在になった途端に業務が滞ってしまいます。代行するにしても、担当者以外は具体的な業務フローや最適なやり方がわからないため、必要なタイミングで迅速な対応ができなかったり、顧客を待たせてしまったりする可能性があります。

業務に関する情報共有を徹底することで、属人化を回避できますが、実際にはさまざまな要因で特定の社員に業務が集中する状況が発生します。
 

属人化の対義語は「標準化」


属人化とは逆に、担当者以外でも業務に対応できる環境が整っている状況を「標準化」と呼びます。業務内容が明確で、一定のルールに従って業務フローを実行できる仕組みが整っており、業務の見える化ができている状態です。業務マニュアルを作成したり、業務フローを共有したりすることで、標準化に近づきます。
 

「属人化」と「スペシャリスト」の違いは?


属人化と混同されがちなのが「スペシャリスト」の立ち位置です。

スペシャリストとは、専門性の高い業務を得意とする特殊なスキルを持った人材を指します。スペシャリストの場合、特定の業務が集中するケースが多いものの、必ずしも属人化しているとは限りません。

先にもお伝えしたように、属人化した業務は担当者以外には共有されにくいという大きな特徴があります。スペシャリストが自身のスキルを生かして特定の業務だけを担当したとしても、その手順やフローを周囲に公開していれば属人化していることにはなりません。

属人化とスペシャリストの違いは、「情報が見える化されているかどうか」といえるでしょう。
 

属人化によって生じるリスクとは

属人化によって生じるリスクとは


属人化は、具体的にどのようなリスクを伴うのでしょうか。代表的な8つのリスクを解説します。
 

1. 業務品質が安定しない


業務が属人化すると、担当者が病気で休んだり、一時的に不在になったりした場合に、業務が滞ってしまいます。代行できる人材がいなければ、業務に遅れが生じ損失を生む可能性があるでしょう。また、代行者がいたとしても、最適なフローが共有されていないため、非効率なやり方で進めることになり、やはり遅れが生じます。また、重要なチェックポイントや判断材料が共有されていないことで、抜け漏れが生じたり、ミスが発生しやすくなったりすることも考えられます。

このように、担当者が不在の場合、属人化していると業務内容が再現できない状況に陥りやすく、業務品質が安定しないという大きなリスクを抱えます。加えて、担当者が十分な引き継ぎを行わずに離職した場合、その後の業務品質が一時的に大きく低下する恐れもあります。
 

2. 業務効率の低下


属人化した業務が急激に増えた場合、担当者一人ではこなしきれず、効率が著しく低下する可能性があります。本来、効率化を進めるはずの分業化が、かえって生産性の低下を招くようでは意味がありません。ボトルネックになっていることを担当者が自覚できなかったり、周囲が対応できなかったりすれば、業務改善にも取り組めないでしょう。作業スピードが不安定になり、企業全体の生産性が低下するリスクがあります。
 

3. 周囲が状況を把握できず、ミス隠しや不正が起こりやすい


属人化した業務は、ブラックボックス化しやすいのもリスクのひとつです。業務管理を担当者個人が行うため、周囲の目が届かず、ミスを隠したり、不正を起こしたりしていても把握できません。放置するうちに、大きなトラブルの原因となる可能性があります。
 

4. ノウハウが蓄積されにくい


担当者が効率的な方法や業務フローを生み出したとしても、属人化すると情報が共有されず、社内にノウハウが残りません。また、長期間に渡って属人化している業務は、独自性の強いやり方に変化していることがあり、特定の担当者しか使えないシステムや手法で最適化されたフローは汎用性がなく、マニュアル化できません。

このように、属人化していることで最適化までのノウハウが共有されないため、社内ナレッジが蓄積されにくいという欠点があります。
 

5. 人事評価しにくい


業務内容を周囲が把握できなければ、その成果も見えづらいものです。たとえ個人の努力があったとしても適切な評価ができず、表面的な結果を見ざるをえません。結果、幅広い視点で人事評価ができず、人材配置の最適化にも影響を及ぼします。
 

6. 労働環境の悪化


属人化した業務は代行できる人員がいないため、担当者は休みにくくなります。特に主要業務である場合には個人への作業負担が増大し、責任も重くなりがちです。そうした状況が続けば、心身へのストレスが生じ、場合によっては、属人化による負担が原因で離職に至る可能性もあります。属人化は、労働環境の悪化に加え、人材の流出というリスクを抱えます。
 

7. 社内での連携がとりにくい


業務が属人化すると、具体的な業務内容やフローが共有されないため、周囲と連携することが難しくなります。風通しが悪くなり、ますます属人化が進んでしまう可能性があります。
 

8. 顧客体験の低下につながる可能性がある


どの部署の業務であれ、属人化は顧客体験を損ねてしまうリスクもあります。例えば、営業職のような顧客と直接対面する部署では、顧客の対応に遅れが発生したり、情報共有の不足によって顧客に同じことを聞いてしまったりして、顧客にストレスをかけてしまう可能性があるでしょう。

また、バックオフィス業務でも、請求書の処理が属人化していると、担当者不在により処理が遅れ、顧客への入金が遅れる状況に陥るかもしれません。こうした顧客体験の低下が積み重なれば、機会の損失や顧客の離脱が生じる恐れがあります。
 

属人化した方がいいケースは?

属人化するメリット


属人化は多くのリスクを抱えるものであり、実際に、ネガティブな印象を受ける人が多いのではないでしょうか。しかし、属人化はデメリットばかりではありません。あえて属人化した方がいい場合についても確認してみましょう。
 

1. 専門性の高い業務を効率化する


上述したスペシャリストのように、専門性の高い業務は、知見を十分に持つ人材に託したほうが、より効率が高まる可能性があります。特定のスキルを得た人材を採用・育成するためには多くのコストがかかります。専門性の高い業務の中には、属人化したほうがスムーズに業務遂行できる場合もあります。
 

2. 個人の強みを活かした組織作り


特定のスキルや強みを持つ社員に対して、顧客がファン化するケースがあります。特に、営業や接客といった対面型の業務では、社員個々を押し出すことで成果につながりやすい面があるでしょう。個人の強みを活かした組織作りにおいて、属人化はメリットになる可能性があります。
 

3. 社員の成長につながる可能性がある


属人化することで、担当者は該当する業務に集中できる環境が整います。任される以上、業務の効率化や個人としての生産性向上に取り組む社員も少なくありません。スムーズに対応できれば周囲からの信頼につながり、モチベーションアップにも役立ちます。また、専門的に業務をこなすうちに、より深く業務を理解できる人材として成長する可能性もあります。独自の視点で業務改善方法を見つけ、実践することで、さらなる業務効率化が期待できます。

属人化には上記のようなメリットがありますが、いずれも担当者が業務を継続していることが前提です。スタートアップの時点では、コミットメントが高い少数メンバーが集まる傾向があり、ある程度、属人化するのは仕方ない面があります。規模が小さいため、属人化のデメリットやリスクよりも、メリットの面が重視されるかもしれません。

 

しかし、事業の規模が大きくなるにつれ、社員数が増えていくと、ブラックボックス化して見えない領域が増えてくるものです。社員のモチベーションは個人差があるため、業務品質が本人のやる気に左右されるような状況が続くのは好ましくありません。現状、属人化した業務が多い場合は、事業規模拡大と同時に属人化を解消するための仕組みづくりを行うことが重要です。
 

業務が属人化してしまう原因は

業務が属人化する原因


属人化が進むと、メリットよりもリスクが増大します。そうしたリスクを抱えながらも、なぜ属人化が進んでしまうのでしょうか。特定の人員に業務が集中してしまう7つの原因をお伝えします。
 

1. 業務改善を行う余裕がない


属人化にリスクがあるとわかっていても、現在抱えている業務をこなすのが精いっぱいで、改善にかかる余裕がないケースもあるでしょう。情報共有の仕組みづくりやシステム化、マニュアル化に着手できないまま、属人化が進行します。
 

2. 業務の専門性が高く、容易に習得できない


メリットの項でも触れたとおり、専門性の高い業務は属人化が認められやすい傾向にあります。知識やスキルのない社員を育成するには多くの費用や時間がかかるうえ、社内の教育体制整備にも手間がかかります。スキル習得にかかるコストを割けないために、属人化が進んでしまいます。
 

3. 人材不足により分業化から脱出できない


人材不足が続けば、業務効率を高めるために分業化が進みやすい傾向にあります。企業規模に関わらず、マルチに担当できる人材を育てるには時間がかかるものです。そもそも人材が不足している場合には、他の業務まで担当する余力がないかもしれません。また、総務や経理といったバックオフィスにおいては、十分な人員を割けないと判断するケースもあり、属人化せざるを得ない状況が続きます。
 

4. 社員個々が意図的に属人化を定着させている


自身に特定の役割があることにメリットを感じる社員にとって、属人化は自身のステイタスを証明するものです。保身のため、組織内での地位を守るためといった理由で、属人化の解消を阻むケースがあるでしょう。また、すでにミスや不正を隠している場合も、標準化を拒否する態度を取る可能性があります。また、周囲を信頼できず、「自分が抱え込むことが最善だ」と判断するケースや、周囲が担当者を信頼し、「自分が代行する必要がない」と遠慮をしてしまうケースもあり、属人化が定着してしまいます。
 

5. 属人化に対する危機意識がない


上述したように属人化にはメリットもあるため、リスクに意識が向かない場合があります。企業風土として属人化が定着し、改善の必要性を感じない、または気づかなければ、属人化が継続されます。
 

6. 業務マネジメントが不十分


管理者が担当業務を把握できていない場合にも、無自覚な属人化が進行するケースがあります。また、組織全体の業務バランスに問題があるために、属人化することもあるでしょう。部署によって業務負担が異なる場合、特に業務の多い部署では効率化に向けて分業が強化され、結果として属人化に陥ってしまうことが考えられます。
 

7. 標準化が定着しづらい背景がある


標準化を進めたいと考えていても、情報を一元化し、共有する仕組みが整っていなければ、業務フローを把握するまでに大変な手間がかかり、属人化の解消ができません。システム化にはコストがかかることもあり、実行に二の足を踏んでしまうこともあるでしょう。また、マニュアルを作成しても、汎用性がない、活用しづらい場合には標準化が進みません。そもそも可視化できるマニュアルやフローチャートがなければ、標準化は難しいでしょう。
 

属人化を解消し、標準化を進めるための5ステップ

属人化を解消し、標準化を進めるための5ステップ


属人化のリスクを回避するためには、標準化を進める必要があります。標準化を進めるための5つのステップと注意点について解説します。
 

1. 業務を棚卸しし、情報を整理する


まずは、属人化している業務を見分ける必要があります。業務の棚卸しを行い、全体を把握、整理することから始めましょう。関連する業務全体を細分化し、どのプロセスで属人化しているのか、そこに課題を抱えているのかを見極めることが大切です。
 

2. 業務フローを明確化し、課題を把握する


属人化している業務を特定したら、担当者が実践している独自の手法も加味しながら、フロー全体を明確化します。業務に関係する担当者全員にヒアリングし、情報を共有する機会を設けましょう。また、情報の一元化を進めるためのシステム化を検討するのも一案です。例えば、営業プロセスにおいては、CRMやSFAなどを活用することで一元化を図ることができ、課題の把握につながります。
 

3. マニュアル作成


標準化には、どの社員が対応しても同じような成果が出せる仕組み作りが必要です。業務全体の一貫性を意識しながら、フローを見直し、改善案を提示します。そのうえで、最適なフローを見極め、マニュアル化を進めます。必要に応じて、操作や手順などを細かくまとめたSOP(標準作業手順書)も作成すると良いでしょう。現在の担当者が作成する場合は、独自性の強いマニュアルにならないよう、細やかなチェックバックが欠かせません。マニュアル作成後は、担当する組織全体で共有し、改善点を探り、ブラッシュアップを図ります。
 

4. 一時的な業務の分散化で、マニュアルの汎用性を高める


複数の業務を一度に標準化しようとしても、マニュアルが定着するまでに時間がかかるものです。属人化の解消を進める第一歩として、一時的に業務の分散化を行い、どの程度、標準化に対応できるのか状況を把握する期間を設けましょう。

例えば、作成したマニュアルを担当者以外の社員に確認してもらい、実際に業務を担当してもらいます。ただし、実行の際には、業務権限の範囲を広げ、担当者に業務が集中しないように注意する必要があります。担当者にのみ権限があり、判断を得なければならない仕組みのままでは、標準化が定着しません。実際に業務の分散化を進めながら、さらに汎用性の高いフローとなるように改善をはかることも大切です。不明点が提示されるごとにF&Qを作成したり、マニュアルを更新したりしながら、抜け漏れを埋め、社内ナレッジ化を目指します。
 

5. PDCAを回しながら最適化を図る


さらに業務効率を高めるための最適化を図ることも大切なステップです。定性評価のみに偏らず、定量評価をおこなうことも欠かせません。

評価には、システムを活用するのが有効です。ただし、業務プロセスの一部のみを見るのではなく、組織全体のKPIに沿った評価を行う必要があります。そのうえで、課題解決に至ったプロセスをナレッジ化していきましょう。
 

属人化解消における課題と対策

属人化解消における課題と対策


属人化から標準化への移行を進める中で、いくつかの課題が考えられます。せっかく属人化の解消を図っても、標準化が定着しなければ意味がありません。ポイントを絞って課題解決を進めることが大切です。
 

1. 汎用性のあるマニュアルにすることが大切


上述したように、現担当者にマニュアル作成を依頼すると、独自の視点で作成される可能性があります。汎用性の高いマニュアルにするには、周囲のチェックバックが欠かせません。一部の人にしか作業できない、操作できないような仕組みでは、標準化は難しいでしょう。

また、新たなノウハウを取り入れ、改善を模索する場合には、マニュアル作成にも時間がかかる可能性があります。ある程度の期限を決め、業務の分散化を進めながら、マニュアルの最適化を進めましょう。加えて、拡大可能な業務にするためにも、細やかな更新に対応できるフォーマットにしておくことも重要です。
 

2. 標準化への移行は時間をかけて取り組む


属人化から標準化への移行には、時間がかかるものです。最初から完璧な標準化を目指すと、抜け漏れやミスの発生につながりかねません。一気に終わらせようとせず、業務ごとに標準化を進めるというプロセスを繰り返すことで、周囲にも理解が広がります。定着には時間がかかることを前提として計画する必要があります。
 

3. 情報共有の仕組みを整える


業務フローだけをマニュアル化しても、必要な情報は共有できません。そもそも情報が一元化されていない社内環境において、標準化を進めるのは難しいものです。システム導入などを検討しながら、組織内での情報共有を徹底することから始めましょう。ただし、操作が難しかったり、共有しづらかったりするシステムは定着しづらいものです。操作性の高い、わかりやすいシステムであることを確認したうえで導入すると良いでしょう。
 

4. マネジメントを強化する


属人化した業務を減らすことで、担当者不在でも対応できるようになります。ただし、誰もが対応できるからこそ、管理者がいないときに起こったアクションを把握できなかったり、ミスに気づけなかったりする可能性があります。すべてのアクションを可視化、共有できる仕組みづくりと同時に、マネジメント体制の整備にも取り組む必要があります。
 

属人化を解消し、常に高い価値を提供できる組織づくりを


属人化にはメリットもありますが、一方で、業績に直結するリスクも抱えています。企業の収益に影響する以上、属人化を放置し続けるのは望ましくありません。属人化の解消は、顧客体験を損なうリスクを減らし、業務プロセスを最適化するものです。組織が一丸となって取り組むべき課題と言えるでしょう。

ただし、標準化への移行には時間がかかります。業務フローを見直すと同時に、情報共有のためのシステムの導入も検討してみましょう。特に、カスタマーフェイシングな部署では、CRMやSFAといったシステムの導入が有効です。情報共有できる仕組みを作り、バックアップ体制を整えたうえで、属人化の解消を目指しましょう。

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時短実現のためのヒント!業務効率化チェックシートとツール選定のコツ

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元記事発行日: 2021年5月27日、最終更新日: 2023年1月20日

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