マニュアル化は、組織の成長を促す重要な施策の一つです。マニュアルを作成する過程で業務全体のムリ・ムダ・ムラを取り除くことで、スムーズな業務フローを実現でき、属人化の抑制や生産性向上といった成果につながります。
しかし、時間をかけてマニュアルを作成しても、現場で利用されないことが多いのも現状です。マニュアル化のデメリットや成功のポイントも理解したうえで、現場の状況に合わせることを意識しましょう。
本記事では、マニュアル化のメリットや作成時のポイントを詳しく解説します。加えて、マニュアル化のデメリットや、向いている・向いていない業務も紹介していますので、現状の業務内容をマニュアル化すべきか判断する際のヒントにしてください。
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マニュアル化とは
マニュアル化とは、明文化されていない業務の手順をまとめることで、日本語に言い換えると「手引き」となります。組織としてより効率良く業務を進めるための仕組みを指し、単なる操作方法の説明にとどまらず、業務の目的や意味、方向性を示す役割があります。
また、マニュアルは、組織全体が同じゴールに向かうための手段としても活用されます。業務遂行に関わる一連の流れをマニュアルにすることで、各従業員に共通認識を与え、組織全体の成長に貢献します。マニュアルがあれば組織全体でナレッジを共有できるため、業務標準化につながるのもメリットです。
業務マニュアル化のメリット
業務のマニュアル化を進める際は、あらかじめそのメリットや効果を理解しておくことが重要です。ここでは、業務マニュアル化による5つのメリットを解説します。
- 業務の属人化リスクを抑えられる
- 業務品質を均一化・向上できる
- 組織全体の業務効率や生産性を改善できる
- 教育コストの削減や指導レベルの統一につながる
- ナレッジの蓄積に役立つ
1. 業務の属人化リスクを抑えられる
業務に関するノウハウや情報が特定の人物にしかわからない状態を「属人化」といいます。例えば、特定の人物が休暇・退職した場合に適切な引き継ぎが行われていないと、誰もその業務に対応できず、一時的に業務フローが停滞してしまいます。
業務のマニュアル化は、このような属人化の予防や解消につながります。マニュアルを参照すれば、誰でも仕事の進め方やトラブル時の対処方法などが理解できるためです。属人化の解消により、業務フローの停滞や顧客に不利益を与えてしまうリスクを回避できます。
2. 業務品質を均一化・向上できる
全従業員がマニュアルを参照できる環境であれば、業務の進め方や課題に直面した際の対応方法などをメンバー間で共有できます。業務にあたる従業員にかかわらず、常に一定以上の業務品質を確保できるのがメリットです。
例えば、データ入力時のヒューマンエラーを最小限に抑えたり、顧客からの問い合わせに対して常に適正な回答ができたりといった効果が見込めるでしょう。その結果、顧客満足度の向上にも寄与します。
業務品質が均一になれば、業務フローのボトルネックも容易に発見できます。チーム全体でPDCAサイクルを回すことで、よりスムーズな業務改善が可能になるでしょう。
3. 組織全体の業務効率や生産性を改善できる
マニュアル化は、組織内のコミュニケーション領域での時間短縮につながります。
マニュアル化を進めると、業務のなかで発生した不明点はマニュアルを見れば済むため、周囲に聞いて回る必要がなくなります。また、新しく入社した人に対するレクチャーや研修の時間も短縮できるでしょう。
業務の効率化によって空いた時間を顧客とのコミュニケーションに使うことで、満足度の向上もはかれます。
4. 教育コストの削減や指導レベルの統一につながる
マニュアル化は、教育コストの削減にも役立ちます。指導時間の短縮になるだけでなく、統一されたルールに沿って指導できるため、一定の成果を出しやすいのがメリットです。指導者の質を担保することで、さらに人材教育のコストが削減できるという良い循環が生まれます。
さらに、従業員はマニュアルを参考にしながらいつでも業務内容を確認できます。実際の業務のなかで新たに課題が発生すれば、マニュアルを見直して問題を解消できる可能性があるでしょう。何度も繰り返し学習することで業務の定着化が進み、従業員のスキルアップも可能です。結果として、教育コストの削減につながります。
5. ナレッジの蓄積に役立つ
属人化した業務のノウハウは、個人に帰属しがちです。一方、マニュアル化のプロセスでは、業務フローが可視化され、ノウハウが社内ナレッジとして蓄積されます。それらのノウハウをもとにマニュアル化することで、再現性の高いフローの構築が可能です。
マニュアルは、現状の業務内容に合わせて改善し続けましょう。その度に新たなノウハウや情報を増やすことで、PDCAサイクルを回せます。
業務マニュアル化のデメリット
マニュアル化には多くのメリットがある反面、いくつか注意すべきポイントも存在します。次のような問題点を理解したうえで、マニュアル化する業務内容を検討しましょう。
- マニュアルにはない応用的な対応が難しくなる
- マニュアルが形骸化する可能性がある
- マニュアル作成に手間や時間がかかる
1. マニュアルにはない応用的な対応が難しくなる
マニュアル化は業務の標準化につながる一方で、マニュアルに記載された業務以外は対応できない従業員を増やしてしまう要因になり得ます。
応用的な対応ができないと、自分から創意工夫をして業務改善に努める機会が少なくなるでしょう。自分から積極的に改善に努めようとする従業員がいなければ、企業の成長にも結び付きません。
2. マニュアルが形骸化する可能性がある
マニュアルの更新作業を怠ると、資料が形骸化する可能性があります。
例えば、マニュアルの情報が現状の業務内容とかけ離れている場合、誰も参照しようとは思わないでしょう。また、社内フォルダの奥のほうにファイルが保存されており、参照するために手間がかかるようでは、積極的にマニュアルを見ようとする従業員は増えません。そのほか、テキストの情報が多く、理解するのに時間がかかるようなマニュアルも要注意です。
3. マニュアル作成に手間や時間がかかる
マニュアル作成には手間や時間がかかりがちです。マニュアルを作成するには、事前に担当者へヒアリングを行い、その内容を整理して全体の骨組みを考えるといった作業が発生するためです。
日常業務が忙しい従業員にとっては、マニュアル作成が大きな重荷となり、なかなか資料が完成しないケースも考えられます。また、わかりやすい資料を作成するためには、レイアウトの構成方法や画像・動画の撮影方法など、ある程度のノウハウが求められます。
マニュアル化を成功させるためのポイント
ここでは、マニュアル化のデメリットを払拭し、運用を成功させるためのポイントを紹介します。
1. 臨機応変な対応を前提にマニュアルを作成する
マニュアルを作成する際は、マニュアルの内容を基本としながら臨機応変な対応を行うことを前提にすることが大切です。
「マニュアルに従うことだけがすべてではない」という認識が社内に浸透すれば、状況に合った適切な対応が可能になります。そのためには、個々の従業員に裁量権を与えることが重要です。また、マニュアル通りに業務を進めなかった場合でもペナルティを与えないように、この機会に評価制度を見直すのも一案です。
2. 読み手の立場を意識したマニュアル作成を心がける
資料が形骸化してしまうことを防ぐため、マニュアルは使用者の立場になって作成し、アクセスしやすさや見やすさを意識することが大切です。
デジタル形式でマニュアルを作成する場合は、誰もがすぐにアクセスできる共有フォルダにファイルを保管すると良いでしょう。紙のマニュアルを用意する場合は関係者全員に配布し、わかりやすい場所への保管を義務化するのが効果的です。
また、マニュアルを見やすくするためには、テキストの情報だけでなく、画像や表などを使って可読性を高めるのがポイントです。テキストだけでは伝わりにくい場合は、動画マニュアルに情報を落とし込む方法もおすすめです。
3. 定期的にPDCAサイクルを回す
マニュアルの内容が現場の状況に合っていないと、いずれ使われなくなってしまう可能性が高まります。
マニュアル作成後はPDCAサイクルを回し、現場の意見を吸い上げて改善することを心がけましょう。頻繁に業務内容が変わる部署では、情報の更新頻度を高めると使いやすいマニュアルになります。
業務を行う担当者からの意見やフィードバックを反映させ、実態に即したマニュアルへと改善することが重要です。
4. マニュアル作成ツールの活用を検討する
マニュアル作成の時間や手間を減らしたい場合は、ツールを導入するのも方法のひとつです。
最近では、クラウド上で容易にマニュアルを作成できる数多くのツールが存在します。なかには、豊富なテンプレートが用意されているツールもあるので積極的に活用しましょう。フォーマットがテンプレート化されており、ドラッグアンドドロップの操作でテキストや画像、動画などを配置できるため、マニュアル作成経験が少ない担当者でもスムーズに取り組めます。
特にクラウド型のツールは、権限を付与されたユーザーがいつでも情報を参照できるので便利です。チャット機能があるツールなら、さらにスムーズな情報共有が可能になります。
マニュアル作成ツールの種類や選び方を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
マニュアル化に向いている・向いていない業務
マニュアル化を進める際は、まず現状の業務の棚卸しを行いましょう。そのうえで、マニュアル化が必要・不要な業務を選びます。
マニュアル化に向いている業務
業務フローが確立している業務や、誰が行ってもアウトプットが同様の形になりやすい業務は、マニュアル化に向いています。このような業務は「定型業務」と呼ばれています。
- 書類の作成や印刷などの事務作業
- 給与計算・振り込み処理などの経理作業
- 伝票受領後のデータ入力業務
- 倉庫のピッキング作業
- システムやツール、機械の操作
- メールマガジンの送信
- カスタマーサポート対応
これらの作業は、マニュアルに落とし込んで品質を均一化することでミスを防げるため、重要性が高いといえます。また、ロボットによって作業を自動化するRPAツールを導入することで、大幅な業務効率化につながる可能性があります。
マニュアル化に向いていない業務
決まった業務フローがなく、都度異なる対応が求められる業務は、マニュアル化に向いていません。このような業務は「非定型業務」と呼ばれます。
- 経営に関わる意思決定
- 新規事業の企画
- コンサルティング
- 営業活動の個別対応
- カスタマーサクセスのハイタッチ(1対1)対応
非定型業務には専門的な知識やスキル、経験が求められるものが多く、スペシャリストによる対応が必要です。
マニュアル化には向いていない業務であっても、業務を進めるうえでのポイントや注意点など、特定の箇所のみをマニュアルに落とし込むことはできます。マニュアルが必要な部分とそうでない部分を明確にすることが大切です。
マニュアル化の際には弊害も意識しつつ、継続的にPDCAサイクルを回そう
マニュアル化には、属人化の抑制や業務内容の均一化、業務効率化などのメリットがあります。
業務全体の流れがよりスムーズになれば、業務のムリ・ムダ・ムラが少なくなり、より重要な業務へと集中的に取り組めます。その時間を顧客への体験価値向上へと活用すれば、顧客満足度の向上につながり、最終的には売上や利益といった業績にも反映されるでしょう。
ただし、マニュアルの作り方や運用方法によっては、従業員の創造性が阻害されたり、マニュアルそのものが形骸化したりする可能性も考えられます。このような弊害を意識したうえでマニュアルを作成し、PDCAを回しながら定期的に内容を見直しましょう。