日本の生産年齢人口は1995年から徐々に減少し、売り手市場といわれています。採用競争が激化するなかで、自社のニーズに合った優秀な人材を採用するには、求職者から選ばれる企業になることが重要です。
近年、求職者へ向けて積極的に情報発信を行う「採用広報」と呼ばれる手法が注目を集めています。採用広報を通じて、自社の仕事内容や社内の雰囲気といった魅力を求職者にアピールすることで、志望意欲の向上や採用コストの効率化などが期待できます。
本記事では、採用広報のメリットや手法、実施する際のポイントを解説します。採用広報を積極的に展開する企業の事例も紹介していますので、広報戦略を考える際の参考にしてください。
採用業務効率を改善させるatsテンプレート
採用広報とは
採用広報とは、求職者に対して企業側から積極的に情報発信を行う広報活動です。オンライン・オフラインを問わず、具体的な仕事内容や組織風土、社内の雰囲気、先輩社員へのインタビュー内容などの情報を求職者に提供します。
自社に興味を持っている求職者に対して入社するベネフィットをアピールすることで、自社に対する良いイメージの醸成や理解度の向上につながります。入社後のイメージを膨らませて求職者の志望度を高め、自社・求職者の適切なマッチングをはかるのが目的の一つです。
また、採用広報はすでに自社のことを認知している顕在層だけでなく、就職や転職を始めたばかりの潜在層も対象となります。求職者の間で認知度が向上することで、エントリー候補の一つに名前があがることが期待できます。
採用広報を実施するメリット
採用広報を実施する際は、どのような効果があるのかを理解することが重要です。ここでは、採用広報を実施する4つのメリットを紹介します。
1. 幅広い求職者にアプローチし認知拡大に寄与する
従来の採用活動は、求人誌や求人サイトへの情報掲載のほか、Webサイト上に採用ページを公開するような施策が一般的でした。このような施策は、主に自社の存在を知っている顕在層にアプローチすることを目的としています。
一方の採用広報では、オウンドメディアやSNS、広告などを使って、企業側から能動的に情報を発信します。自社の存在を知らない潜在層に対するアプローチが可能になり、その情報をきっかけとした新たな関係性の構築が期待できます。ネットサーフィン中に企業の採用広告を見つけて、エントリーにつながるケースも珍しくありません。
2. 求職者の志望度が向上し採用効率化が見込める
働き方や企業風土など、具体的な社内の情報を発信することで、企業に対する求職者の理解が深まります。
求職者は、就職活動や転職活動を行う際に、複数の企業を比較しているケースが多いため、得られる情報が少なければ興味を持ってもらうのは困難です。採用広報によって価値のある情報を提供できれば、自社に対する興味・関心が深まり、求職者の志望度向上につながります。
企業側としては、求職者と接触した段階で、すでに相手が自社に興味を持っているため、効率的な採用活動が可能になります。
3. 採用後のミスマッチ防止につながる
企業側の「このような人だとは思わなかった」、求職者側の「このような会社だとは思わなかった」というミスマッチが起きるのは、採用活動中のお互いの理解が不足しているのが主な原因です。一般的な求人情報だけでは、企業の理念やカルチャーといった深い部分を求職者に理解してもらうのは難しいでしょう。
採用広報は、このようなミスマッチの解消にもつながります。例えば、社員一人ひとりがSNSで個性豊かな情報を投稿するなど、企業を身近に感じられる情報を伝えることで、求職者が企業のより深い部分を知るきっかけとなります。
情報に触れた求職者は、企業が自分に合っているかどうかを、より正確に見極めたうえで応募を検討するでしょう。結果として、意欲の高い人のみが選考に進みます。
4. 採用コストの削減につながる
採用広報による企業側からの積極的な情報発信は、求職者の企業に対する理解度の促進につながります。求職者が入社前に自社のことを深く理解するほど、採用後に不満を感じるリスクが低くなり、定着率の向上が期待できます。結果、早期退職の穴埋めをするための採用費や、人事担当者の工数を抑えられるでしょう。
採用広報に活用できるチャネルは?
採用広報には、「PESOモデル」と呼ばれるメディア戦略のフレームワークが活用できます。PESOモデルは、次の主要4メディアの頭文字を取ったフレームワークのことで、情報発信を行う際のチャネル選定に役立ちます。
- ペイドメディア(Paid Media):
広告をはじめ、費用を支払うことで広く情報発信できるメディア - アーンドメディア(Earned Media):
第三者の媒体を通じて情報発信を行い、求職者からの信用を獲得するためのメディア - シェアードメディア(Shared Media):
情報の拡散力が高く、コミュニケーション機能に優れているSNSを活用し、認知向上や関係構築をはかるためのメディア - オウンドメディア(Owned Media):
企業自らが保有するWebサイトやブログなどで、自由な形式で情報発信できるメディア
1. ペイドメディア(Paid Media)
ペイドメディアでは、費用を支払って情報発信用のプラットフォームを利用します。主なチャネルとして、テレビやラジオ、新聞・雑誌・Web広告などがあげられます。幅広く自社の認知を広げたい場合には、多くの人が利用するメディアで広告を展開すると効果的でしょう。
また、求人誌や就職・転職サイトなどに求人情報を出稿する「求人広告」もペイドメディアの一種になります。求職者に特化した媒体であることから、一般的な広告よりもコンバージョンに至りやすい点がメリットです。
このような違いを良く理解したうえで、目的に合った媒体を見つけることが大切です。
2. アーンドメディア(Earned Media)
「アーンド(earned)」には、「信用や評判を獲得する」という意味があります。採用広報におけるアーンドメディアとは、報道や取材記事、口コミサイトなど、第三者の媒体を通じて信用獲得につなげる手段です。
企業が自ら情報を発信する場合、自社をより良く見せようとするあまり、訴求内容に虚栄や過度な宣伝が含まれてしまうことがあります。このような情報は受け手から敬遠されがちで、採用効率が低下する要因となります。
一方、「あの人の言葉には嘘がない」と思える、権威性や信頼性の高いメディアに自社の情報が取り上げられることで、情報に信頼感を与えられます。結果、企業に対する良い印象につながるため、ブランディング効果を期待できるのがアーンドメディアのメリットです。
従来、SNSもアーンドメディアに含まれていましたが、近年は、広報やブランディングの重要な手法のひとつとして、「シェアードメディア」という独立した位置付けへと変化しています。SNSは、信用を獲得できるアーンドメディアの側面も持ちながら、情報共有や関係構築といった部分に、より重点が置かれるようになりました。
3. シェアードメディア(Shared Media)
シェアードメディアとは、SNSによる情報共有や求職者との関係構築を目的としたメディアです。TwitterやInstagramのほか、YouTube、TikTokといった動画投稿サイトも含まれています。
アーンドメディアの場合は、あくまで第三者が自社に対する評価を行い、その情報を求職者が参考にします。一方のシェアードメディアは、SNSを使って企業自ら情報を発信できるほか、求職者がその情報を拡散してくれる可能性があります。情報の拡散力が高いことから、認知度の向上に効果的です。
また、求職者とリアルタイムでコミュニケーションを取れるのもポイントです。「いいね!」の数やコメントを確認することで、投稿に対するリアルな反応がわかります。さらに共有機能を使うことで、求職者を起点とした情報拡散が期待できるでしょう。
4. オウンドメディア(Owned Media)
オウンドメディアとは、ホームページやブログ、採用ポータルサイトなど、企業自らが保有するメディアの総称です。発信する情報の内容を企業がコントロールしやすく、情報がメディアに長く残り続けるというメリットがあります。発信する情報次第で、幅広い求職者にアプローチできるのが特徴です。
オウンドメディアを通じて発信したコンテンツは、SEO(検索エンジン最適化)の施策により、検索エンジンからのユーザーの流入が見込めます。多数のコンテンツが検索結果の上位に表示されることで、集客効果の高い一大メディアが完成します。ただし、集客効果が現れるまでに時間がかかることが多いため、即効性の高いペイドメディア(有料広告)と組み合わせるのも一案です。
採用広報活動の進め方
採用広報の施策を実行するには、次の6ステップを経由するのが一般的です。
- 採用人数や予算、スケジュールなどの基本計画を策定
- 理想的な求人者像をもとにペルソナを作成
- 発信する情報のコンセプトや内容を考案
- 発信する情報に合わせて対象とするメディアを選択
- KGIとKPIの設定
- 効果検証を行ってPDCAを実施
このなかで最も重要なのは、最初の計画立案です。プランなしでやみくもに施策を進めても、期待した成果にはつながらないでしょう。特に、「SNSが流行っているから運用してみよう」といった、場当たり的な施策には要注意です。
まずは採用活動における自社の課題を明確にしたうえで、何のために情報発信を行うのかを決めます。その際に、ペルソナや自社の強み、発信する情報の内容などの項目に分けて、内容を整理することが大切です。方向性を明確にすることで施策がブレにくくなり、軌道修正も容易になります。
採用広報を実施する際のポイント
採用広報を実施する際は、手順だけでなく成功のポイントを理解することも大切です。次の内容をチーム全体で共有すると、より成果の出る採用広報の実現に近付けます。
- 定性分析と定量分析を組み合わせてKPI・KGIを定める
- ペルソナに合わせて発信する情報の優先度を決める
- 信頼性・透明性の高い情報発信を心がける
定性分析と定量分析を組み合わせてKPI・KGIを定める
採用広報の目標を立てる際は、定性情報と定量情報を組み合わせると良いでしょう。
定性情報とは、文章や音声、感情などによって表現される数値化できない情報です。採用広報においては、求職者が企業選びで重視している要素や、自社の強み・弱みなどが定性情報にあたります。
定量情報とは、計測や集計、分析が可能な数値化された情報です。採用広報の分野では、採用ページのPVや求人広告の応募数、内定承諾率といった種類があります。
一般的に、定性情報のみでは計測や効果検証につながらず、逆に定量情報のみでは求職者の感情やインサイトを捉えきれません。そのため、情報をバランス良く収集し、KPIやKGIに落とし込むことが重要です。
定性情報の収集には、アンケート調査やSNSなどを介したコミュニケーションといった方法があります。データを活用する際は、3C分析をはじめとするフレームワークが便利です。
一方の定量情報は、解析ツールやサービスプラットフォームの管理画面から取得できます。企業理念・企業文化・業務内容・待遇などのカテゴリに分けて自社の魅力を深掘りすることで、効果的なデータ分析につながります。
ペルソナに合わせて発信する情報の優先度を決める
求職者に対して情報を発信する際は、あらかじめペルソナを明確にし、相手の立場や状況に応じて情報の内容を最適化することが大切です。
例えば、自社の存在を知らない潜在層に対して、「内定者に関するインタビュー」といった踏み込んだ情報を提供しても、理解が深まる可能性は低いでしょう。この場合は、まず福利厚生や研修制度といった基本的な情報を提供すると効果的です。
一方、すでに自社に対して理解が進んでいる顕在層を対象にする場合、「社員の1日に密着」のようなより詳しい情報発信が向いています。基本的な求人内容を知っている求職者は、その企業で自分が働く姿を具体的にイメージしたいと考える傾向にあるためです。
このように、対象とするペルソナによって情報の価値が異なるため、相手の状況をステップに分けたうえで、提供するコンテンツを考えると良いでしょう。
信頼性・透明性の高い情報発信を心がける
応募者を増やしたいからといって、しつこく自社の魅力ばかりをアピールしたり、実態とは異なる情報を発信したりすると、かえって求職者からの信頼を失ってしまいます。特に企業に関するマイナスの情報はSNSで瞬時に拡散されるため、信頼性・透明性の高い情報発信を心がけることが大切です。
企業によっては、採用活動における中立性を守り、自社に対して親しみを持ってもらうために、社員がSNSで自由に情報を発信するケースもあります。このような取り組みを実行に移すには、ある程度のルールを設ける必要があるものの、企業のありのままの姿を伝えるほうが、求職者からの好感度向上につながる場合もあるでしょう。
これは、当社HubSpotが提唱する「インバウンドマーケティング」と同様の考え方です。インバウンドマーケティングでは、顧客(採用活動の場合は求職者)に価値のあるコンテンツと体験を提供し、自社に興味を持ってもらうことが起点となります。採用活動にも応用できるため、興味のある方はぜひ、こちらのページもご確認ください。
採用広報を実践する企業事例
近年は、ペイドメディアやオウンドメディアなどを駆使し、企業から求職者に向けて積極的に情報発信を行うケースが増えています。そのなかでも、特に独自性の高い取り組みを行っている2社の事例をご紹介します。
ピクスタ株式会社
ストックフォトサービスを提供するピクスタ株式会社は、「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」というコンセプトのもと、「ピクスタ+」というオウンドメディアを運営しています。ピクスタ+は、消費者に向けてサービスをアピールするのではなく、あくまで企業カルチャーや社員の想いなどの情報発信を行うのが目的です。
メディア内で情報発信を行っているメンバーは、自らの働く姿をありのままに伝えています。過度なアピール文を盛り込まず、社員の自然体を見せることで、読者からの共感や信頼感を生み出しているのが特徴です。
株式会社メルカリ
大手フリマアプリを展開している株式会社メルカリは、求職者向けのオウンドメディア「mercan(メルカン)」を運営しています。株式会社メルカリで働く人にフォーカスした情報発信を通して、転職の潜在層にリーチしているのが特徴です。
掲載されているコンテンツは、1人の社員に焦点を当てた仕事術の紹介や、特定の商品やサービスが生まれるに至った開発チームの奮闘記などです。求職者の立場になると、このような情報があることで、特定の部署やチームで働いた際の自らの姿がイメージしやすくなります。
目的に明確にして理想的な採用広報施策を展開しよう
企業が求職者に対して自ら情報発信を行うことで、企業に対する理解度が深まり、採用後のミスマッチを防ぎやすくなります。自社に対して良い印象を持った候補者を採用できるようになるため、採用コストの効率化にもつながるでしょう。
採用広報の手法には、さまざまなものがありますが、各手法の特性や自社との相性、注意すべきポイントを理解したうえで実施することが大切です。特に、採用広報を行う目的やペルソナ、提供情報のコンセプトといった基本的な部分は入念に検討しましょう。今回ご紹介したポイントを参考に、理想的な採用広報を実現してください。
当社HubSpotが提供するCRMツールやMAツールは、採用管理システムと連携できます。求職者の増加や継続的な関係構築に役立つため、採用担当の方は、ぜひ導入を検討してみてください。