正直、営業提案書を書くのは楽しくもなければ、華やかな仕事でもありません。 あなたは有望なリードをつかまえたとき、きっと、なんとしてでも成約にこぎつけたいと思っているでしょう。 しかし、契約書にサインしてもらうまでには、いくつもの書類を用意して提示しなければなりません。その始まりとなるのが、営業提案書です。
多くの営業担当者は提案書に対し、成約というゴールに向けてクリアすべき管理手続き上の厄介事にすぎないと誤解しています。 しかし、これはチャンスです。時間をかけてすばらしい提案書を作成すれば、注目を集め、差別化を図ることができます。
営業提案書作成のベストプラクティス
- 1~2ページに抑える
- 適切な相手に届ける
- 成果物の情報と価格の情報を分ける
- オプションに応じて価格に幅を持たせる
- できるだけシンプルな言葉を選ぶ
- コピーライティングのベストプラクティスを流用する
- コストに関する表現でマイナスイメージを与えないよう注意する
- 「お客様の声」を追加する
- 自社の会社情報は最後に記載する
- どんなデバイスでも閲覧できるようにする
- すぐに契約に移れるようにする
- 提出前の最終チェックを忘れずに(必須)
営業提案書の定義
営業提案書(または事業提案書)とは、自社の概要、製品やサービスの内容、自社が請け負って達成できること、そのためにかかる費用などについてプロスペクトに伝えるための、複数ページで構成された資料のことです。 購入の意思決定に常に必要というわけではありません。一般的には、複雑な営業プロセスや、RFP(提案依頼)プロセスが規定されている大企業との営業プロセスにおいて使用されます。
その提案書、本当に必要ですか
優れた提案書とはどのようなものかを見ていく前に、提案書を提出しなくてもよいケースや、むしろ提出すべきでないケースがいくつかあることを覚えておきましょう。提案書を書き始める前に、次のポイントをチェックしてください。
- プロスペクトは本気でプロジェクトを進めようとしているか:真剣ではないプロスペクトに対して提案書を用意する必要はありません。初期の段階で冷やかしやそれに近い感触があったなら、相手がパイプラインを前進するまで労力を温存しておきましょう。
- 現実的に考えて、成約にこぎつけられる未来が想像できるか:プロスペクトが探しているソリューションと自社のソリューションにミスマッチはないか、プロスペクトに十分な予算があるか、冷静に見抜いてください。適合性の低い相手に対しては、提案書を書く手間を惜しむべきです。節約した時間を有望な購入者を探すことに回しましょう。
- 予算や想定される作業範囲についてプロスペクトと話し合い、認識を共有しているか:多くの営業担当者は、商談の勢いを失いたくないがゆえに、早い段階で具体的な項目について話し合うことを避けたがります。しかし、作業範囲や予算が相手の予想と大きくかけ離れているかもしれないのに、労力を割いて提案書を作成する必要があるでしょうか? 言いにくいことは早めに伝えるのが吉です。
- 検討のために提案書を提出してほしいと言われているか:上記の条件をどれも満たしていないのに、どうしても提案書を提出しなければならないことがあります。そのような場合にできることはほとんどありません。おとなしくキーボードを打ちましょう。
- 以前の提案書を再利用できるか、またはゼロから新しく作成すべきか:毎回白紙の状態から提案書を作成する必要はありません。もちろん、売り込み先のプロスペクトごとに内容をカスタマイズする必要はありますが、基本のテンプレートを用意しておいて、プロスペクトのニーズに合わせて調整を加える方法で十分です。
提案書作成の事前準備
提案書にサプライズは必要ありません。必要なのは、これまでの話し合いとこれまで築いてきたプロスペクトとの関係が新たな段階に進むのであれば、次は論理的に当然こうなるだろうという「納得感」です。
提案書を書き始める前に、次のポイントを明確にしておきましょう。
- プロスペクトが解決しようとしている、今まさに直面している問題は何か:提案書は、プロスペクトに具体的な取引の内容を把握してもらうと同時に、期待どおりの成果が挙がると信じてもらえるものでなければなりません。そのような提案書を作成するには、当然、事前に相手の課題を理解しておく必要があります。
- プロスペクトの予算はどれくらいか:予算を把握していないうちに提案書を作成しないでください。相手からプロジェクトの予算を聞き出し、条件に合わないプロスペクトは早めに切りましょう。
- プロスペクトは何を目指し、何を期待しているか:相手にとって自社を採用することがなぜ重要か、自社の強みを発揮することで相手は何が得られるのかを考えましょう。セールスとは、相手に何かをしてもらうことではありません。相手が抱えている問題を相手に代わって解決する、その提案こそがセールスです。
- いつごろの成果達成が求められているか:タイムラインと成果物についてプロスペクトがどのように期待しているのかを把握します。そのニーズに現実的に対応できることを確認したうえで、提案書に落とし込みます。
- だれが意思決定を左右するか:意思決定のキーパーソンを洗い出します。これにより、提案書の提出相手がわかるのはもちろんですが、その人物が抱えているニーズをピンポイントで提案書の中に盛り込むことができます。
提案書作成のベストプラクティス
ここで紹介する原則は確定的なものではありません。提案書の方針を決めるにあたっての叩き台、基本的なガイドラインとしてご利用いただけます。必要なときには、恐れずに自分なりのやり方で進んでいきましょう。
- 1~2ページに抑える:RFPプロセスの決まりで何ページもの提案書を作成しなければならない場合を除いて、一般的には簡潔にまとまっているほうが望ましいです。人間の集中力はそれほど持続しません。
- 適切な相手に届ける:適切な人物(またはグループ)に提案書を届けます。始めから必要な情報をすべて記載しておきましょう。 適切な相手に届ける:適切な人物(またはグループ)に提案書を届けます。始めから必要な情報をすべて記載しておきましょう。
- 成果物の情報と価格の情報を分ける:Cirrus InsightのErika Collins氏は、プロスペクトがイメージを浮かべやすいように、提案書の内容をいくつかの具体的な要素に分けること(英語)をお勧めしています。そうなると、1つひとつの要素に価格を紐づけたくなりますが、そこには決して踏み込まないようにしましょう。その理由について同氏はこう記しています。「各セクションに価格が追加されていると、各セクションがプロジェクトにどう貢献するかが無視され、セクションごとの価格ばかりが注目を集めてしまいます。プロスペクトの目には、1つひとつのセクションが目的達成のマイルストーンではなく、単なる予算確保の項目に見えてしまうのです」
- オプションに応じて価格に幅を持たせる:常にそうする必要はありませんが、複数の価格帯を用意することで多くの営業担当者が成約を勝ち取っているのには、それなりの理由があります。安価な選択肢が高額な選択肢の隣に並んでいると、比較によって前者の安さがより際立つのです。
- できるだけシンプルな言葉を選ぶ:専門用語を散りばめてもスマートな印象は与えられず、むしろ別世界の人間のように思われてしまいます。専門用語は徹底して避けてください。
- コピーライティングのベストプラクティス(英語)を流用する:無味乾燥な言葉遣いだけが有効とは限りません。関連する統計情報を引用して説得力を持たせるのも手です。プロスペクトが実際の効果を思い描けるように、導入前後の状況の違いを言語化してください。セクションの区切りごとにCTAを配置すると、読者を次の段階へと自然に誘導できます。
- コストに関する表現でマイナスイメージを与えないよう注意する:Michael Michalowicz氏はAmerican Expressに寄稿した記事(英語)の中で「利益として戻ってくるのが『投資』、二度と返ってこないのが『手数料』。ほんのわずかな言葉の違いが、クライアントの満足度を大きく左右します」と語っています。
- 約束するだけでなく、証明する:お客様の声や導入事例など、提案内容の信頼性を裏付けてくれるコンテンツを追加します。
- 自社の会社情報は最後に記載する:プロスペクトはあなたの会社の情報にそれほど興味を持っていません。提案書の冒頭では、自社の概要や来歴ではなく、プロスペクトの状況と課題について言及すべきです。
- どんな形式でも閲覧できるようにする:提案書は、印刷物、デスクトップ、モバイルなど、さまざまなデバイスと形式で読まれるものと想定してください。こうした多様な閲覧方法に対応できないと、プロスペクトに不満を抱かせてしまうことになるので注意しましょう。
- すぐに契約に移れるようにする:プロスペクトは提案書を読んで、すばらしい内容に大喜びするかもしれません。その勢いに乗って、スムーズに契約に入れるようにしておきましょう。現在SaaSによる提案書配信プログラムが数社から提供されており、これを使用すると、提案書を署名可能な契約書に変換することができます。
提出前のチェックポイント
もうこれで完成と思っても、焦って送信してはいけません。提案書を提出する前に、以下のポイントをチェックして最後の見直しを行いましょう。
- 誤字や文法の間違いはないか:簡単に見つけて修正できるミスのせいで、失注してしまうのはもったいないことです。提案書をMicrosoft Wordで開き、校閲を実施して確実にミスを拾いましょう。
- RFPプロセスの要件をすべて満たしているか(該当する場合):たった1つの見落としで競争から脱落する可能性は大いにあります。プロスペクトのRFP仕様書を見直し、すべて指示どおりに記載されていることを最終確認してください。
- 提案の内容は、プロスペクト自身が認識している問題と直結しているか:このためだけに最終確認をする意味があるくらい、重要なポイントです。自社の希望を叶えることではなく、プロスペクトのニーズを解決することを優先した内容になっているでしょうか。
- 提案するスケジュールに無理がないか:商談が大詰めを迎え、あと一息で勝利の美酒を味わえるというとき、もっと魅力的な提案内容に見せようとして、思わず「これがご提案する納期ですが、短縮することも可能です」と言いたくなるでしょう。でも、この言葉の先に良いことはありません。結果として成約にこぎつけたとしても、現実的に達成できないスケジュールを約束していたなら、相手を失望させるだけです。そのようなリスクは避けましょう。
- 両者の関係性を妨げる要因を可能な限り取り除いたか:最後に、やり取りの過程でうっかり生じてしまった障害物がないか洗い出します。たとえばクライアントのリクエストが、書面に記載した合意可能な範囲を超える内容だったにもかかわらず、期待どおりのサービスが提供されるものと思い込んだまま契約を締結してしまった場合、提案書の解釈をめぐって、本来避けられたはずの揉め事が起きるかもしれません。
提案書の効果測定
営業担当者の営業手腕は、仕事を始めたばかりのころとは比べものにならないほど洗練されているはずです。提案書のプロセスも同じように洗練させていきましょう。将来にわたって成約率を改善していくには、提案書のKPIを追跡し続けることが重要です。
次のようなわかりやすい指標から追跡してみるとよいでしょう。
- 送信した提案書の数
- 最終候補に選ばれたRFPプロセスの数
- 受注した商談数と失注した商談数
ただし、営業担当者が成果を上げるためには提案プロセスの中身が大切です。これらの基本的な指標以外にも、さまざまな指標を工夫して分析してください。たとえば、最初に提出した提案書の不明瞭な点について質問してきたプロスペクトの数などは参考になります。また、SaaSによる提案書プログラムの中には、プロスペクトが提案書を閲覧した合計時間をモニタリングできるものもあります。
営業提案書の達人になろう
提案書の質を高めて成約件数を伸ばすのは、そう難しいことではありません。しかし、ある程度の努力は必要です。たとえば、今回紹介したガイドラインに従って、過去の提案書をすべて見直し、どのようなポイントにプロスペクトが良い反応を示したのか検証してみてください。
じっくりと腰を据え、時間をかけ、改善を重ねていく中で、提案書は恐ろしいものではないと思える日が来るでしょう。そしてやがて、セールス活動の貴重な武器として、きっと提案書を自由自在に操れるようになるはずです。