営業担当者と見込み客が交わす会話の中でも、最初にかける電話は特に重要です。ここはお互いにとって重要な分かれ道です。営業する製品やサービスに適合する見込み客であれば、関係構築を進めることになりますし、そうでなければ別の道を歩むことになります。
しかし、どちらに進めるべきか、すぐには判断が付かない場合もあります。そこで必要なのが、営業の見極めです。適切な質問を投げかけることによって、その見込み客と関係を続けるべきかや、次の一歩をどうすべきかを判断できます。
この記事では、営業の見極めの基本、6種類のフレームワーク、見込み客を切ることへの考え方、先方の話しぶりから得られるヒントといった話題を取り上げていきます。
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見込み客の見極め方
営業の見極めは、最初の電話がかなりの部分を占める場合もありますが、決してそこがすべてではありません。営業活動のすべての工程で、見込み客の評価を絶えず行い、具体的な特質を少しずつ明らかにしていきます。
営業コンサルティングを手がけるInflexion Pointの創業者、Bob Apollo氏は、見極めは3段構造だと説明します。すなわち、「組織レベル」「案件レベル」「利害関係者レベル」という3つのレベルで見込み客を見極めなくてはならないとApollo氏は言います。
組織レベルの見極め
最も基本的なレベルの見極めです。さらなる調査をすべきかどうかが、ここでひとまずわかります。理想顧客像(バイヤーペルソナ)を作成しているのであれば、見込み客を見極めるときに参照してください。見込み客は理想顧客像と合致しているでしょうか。
この段階の見極めで自問自答するときの問いの例を挙げます。
- その見込み客は自分の管轄の領域に当てはまるか?
- 先方は営業対象の業種の企業か?
- 企業の規模は?
- 理想顧客像に合っているか?
案件レベルの見極め
営業の見極め、と聞いて多くの人が連想するのがこの段階の作業です。案件レベルの見極めでは、あなたの会社が解決できる具体的なニーズや課題が先方にあるかどうか、あるいは、あなたの会社の製品やサービスを先方が導入することが現実的かどうかを判断します。
案件レベルの見極めにも、理想顧客像が半分は関係し、あなたの会社の製品やサービスが見込み客に恩恵をもたらすかどうかを掘り下げていきます。
案件レベルの見極めでの質問例は、後出のセクションで説明します。
利害関係者レベルの見極め
先方が理想顧客像に合致し、あなたの会社の製品やソリューションがうまく合うとわかったら、次の見極めで核心に迫ります。すなわち、先方の担当者に購入の決裁権があるかどうかの見極めです。
これを判断するには、次の点を質問してみましょう。
- この購入はあなたが管轄する予算から行われますか?
- ほかに誰が決定に関与しますか?
- この購入決定に適用する基準はありますか?それを定めたのは誰ですか?
見込み客を切るタイミング
見込み客を切るときも、上で挙げた3つのレベルの順番どおりに判断します。
たとえば、理想顧客像とはかけ離れた見込み客であれば、組織レベルの見極めの段階で切っておくのが無難です。いつの日か、その種の顧客も対象に含めることになるかもしれませんが、現時点で違うのなら、あなたの会社の製品やサービスを先方のビジネスに押し込めようとするのは時間の無駄です。
同様に、完全な決裁権を持つ社長と話ができたとしても、先方が問題を抱えていないのなら、あなたの会社のソリューションに対するニーズはありません。利害関係者レベルの見極めを難なくクリアする相手でも、ビジネス上の懸念に関する見極めが先決です。
また、見込み客を見極める際は、3つのレベルをすべてクリアしない限り、営業の段階に進めてはならないことを肝に銘じましょう。たとえば、先方の担当者に会社の戦略目標を尋ねて答えられなかったとしたら、その担当者は導入までの流れにあまり密接に関与しておらず、影響力に欠けることがよくわかります。
こうした見込み客は、たとえ案件レベルの見極めをクリアしても、利害関係者レベルの見極めで切りましょう。
見込み客を切るのは悪いことではない
営業担当者の多くは、見込み客を切って対象を狭めることに及び腰です。
見込み客は多いに越したことはない、と直感的に思ってしまいがちですが、それは最善の策ではありません。見込み客は量より質が肝心です。
営業担当者にとって最も重要な資産は時間です。膨大な見込み客への対応に時間と労力を分散するよりも、有望な一握りの見込み客を相手にする方がずっと得策です。手にした機会を1つ残らず成約に導こうとしても、あまり合わない見込み客への対応で袋小路に陥るだけで、有望な見込み客への対応がおざなりになります。
見極めのための質問とは
見極めのための質問では、判断基準のひとつひとつについて、見込み客が合致するかどうかを見極めます。たとえば、ニーズ、予算、決裁権、切迫度などの基準について確認します。
見極めのための質問は、一般には閉じた質問より開いた質問の方が適切です。たとえば、「これは現時点で優先事項ですか?」という閉じた質問では、相手の答えを「はい」「いいえ」のどちらかに導くことになります。それよりは、「御社の優先事項がいくつかある中で、これはどのあたりに位置しますか?」という開いた質問の方が適切です。答えの選択肢を限定していませんので、先方の内情に迫る率直な回答が得られやすくなるはずです。
営業見極めについてのフレームワーク活用法
見込み客が顧客化の候補として有望かどうかを判断する際には、見極めのためのフレームワークが使えます。顧客や営業はそれぞれ違うとはいえ、成約に至る案件には共通点があります。見極めのフレームワークとは、そうした共通点のエッセンスを抜き出して、営業担当者が参照しやすいガイドラインの形にまとめたものです。
MEDDICとは
MEDDICとは、テクノロジ企業PTCに在籍していたJack Napoli氏が考案したフレームワークです。Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権限者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(課題)、Champion(擁護者)の6つの項目から構成されています。MEDDICでは、相手企業の購買プロセスのすべての側面を理解する必要があります。擁護者(あなたの会社の製品を先方の社内で推進してくれる人)がいるかどうかも把握します。
MEDDICは、予測の精度を高めるために非常に有効なフレームワークで、法人向けの営業では、予測の精度はとても重要です。仮に数億円規模の案件となると、失注は大打撃になりかねません。
HubSpotのCEO、Brian Halliganは次のように説明します。「PTCは、0ドルから1億ドルまでは、優れたウィジェットを売ることで成功しました。1億ドルから10億ドルまでは、テクノロジの転換を売りました。MEDDICが重要になったのは、単なる購買ではなく、ビジネスの変革だったからです」
行動の転換が必要となる製品を扱っている場合や、平均営業単価がかなり高い場合には、見極めのフレームワークとしてMEDDICの利用を考えましょう。見込み客の購買がどのように進むのか、どのような理由で購買するのか、社内で誰が推進してくれるかを理解することは、正確なパイプラインを維持するうえで極めて重要です。
それでは、MEDDICの各項目の詳細をみていきましょう。
Metrics(測定指標)
相手企業が自社の製品やサービスの導入に期待する効果や利益など定量化できる指標です。たとえば、製品やサービスを導入することで「10%のコスト削減ができる」や「30%の収益増加が期待できる」といったものです。顧客が自社の製品やサービスを導入する目的を知ることは非常に重要です。そのためには以下のような質問が効果的です。
- 達成する必要があるコストや効率はどのくらいですか?
- この製品やサービス導入に期待する最優先事項は何ですか?
Economic Buyer(決裁権限者)
製品やサービスの導入における最終決裁者です。複雑な決裁プロセスを経てようやく最終決裁にたどり着けても、そこで否決されてしまえば、それまでの営業活動が無駄になってしまいます。また、逆に最終決裁者に直接アプローチをすることで、複雑な決裁プロセスを省くことが可能になるかもしれません。いわゆるトップ営業がこれにあたります。
この決裁権限者を見極めるためには以下のような質問をしてみるとよいでしょう。
- この購入の予算はどこの管轄ですか?
- 購入の意思決定に関与する方はほかに誰がいますか?
- 当社と同じような製品を購入する意思決定を下したことはありますか?
Decision Criteria(意思決定基準)
製品やサービスの導入における選定基準です。この選定基準はおもに2つのカテゴリに分類できます。
- 技術的判断基準
組織にとって製品やサービスが既存のインフラストラクチャに適合しているかどうかに基づいた基準です。 - ビジネス的判断基準
この基準は、事前に割り当てられた予算があるかや、目的のROIが何かによって変わってきます。
これらを見極めるためには以下のような質問をしてみましょう。
- 決定を行うためにクリアすべき技術的基準は何ですか?
- 購入のための予算を確保していますか?どのような予算ですか?
- 製品やサービスのROIをどのように計算しますか?
Decision Process(意思決定プロセス)
意思決定プロセスは、最終的に製品やサービスの導入にいたるまでのルートです。この意思決定プロセスを知ることで、次にアプローチするべき方法や相手が誰であるのか判断できます。それを知るためには、見込み客対して以下のような質問をしてみましょう。
- 決定基準が満たされている場合、決定までのステップはどのようになりますか?
- 決定までに通常どのくらいの時間がかかりますか?
Identify Pain(課題)
顧客が現在抱えており、製品やサービスを導入することで解決できる課題のことです。この課題を顧客へ提示する際には、自社の製品やサービスを導入した場合と導入しなかった場合とで比較できるようにしましょう。
たとえば、顧客の課題が「生産性の低さ」の場合、自社の製品やサービスを導入することで、1年間にどのくらいの生産性が向上し、どのくらいの利益が出せるのかを具体的に示します。そして、製品やサービスを導入しなかった場合、1年間でどれだけの損失がでるのかを示します。こうすることで、見込み客に対して、現在直面しているリスクや課題を認識してもらいます。
Champion(擁護者)
相手企業のなかで、決裁権限者に対して影響力があり、Identify Painで提示した課題に対して関心を持っている人です。このChampionを特定しアプローチできるかどうかが、MEDDICのなかで最も重要です。Championを見つけ出し、味方にできれば成約率は格段に高くなるでしょう。
BANTとは
見極めのフレームワークの定番が「BANT」です。BANTは、Budget(予算)、Authority(決裁権)、Need(必要性)、Timeline(時期)の略で、さまざまな企業や業種で使われているフレームワークです。
もともとIBMが考案したBANTは、案件レベルと利害関係者レベルの見極めを幅広くカバーしています。しかし、BANTは、案件レベルの見極めでは多くの要素に対応できますが、他のレベルの見極めには足りない部分があります。CEBの調査によると、現在では、購入の意思決定には平均5.4人が関与するそう。
つまり、最終的な決裁権を持つ人は複数いるかもしれません。導入までの流れの早い段階で、利害関係者全員に関与してもらい、それぞれの人から賛同を得ましょう。
また、このあと説明する、BANTのTimeline(期限)も、現状と合わない点があります。BANTを厳密に適用すると、来年まで購入の態勢にならない見込み客は、不成立という扱いになるかもしれません。しかし、それでは見切りが早すぎることも考えられます。可能であれば情報提供のための資料やオファーを送り、購入の態勢になるまで支援するという対応も行いましょう。
では、実際にBANTの4つの区分について見ていきましょう。
Budget(予算)
Budgetでは以下のような質問をして、「先方に購入のための予算があるか」を見極めます。
- 購入のための予算を確保していますか?どのような予算ですか?
- これは予算を確保すべき重要な優先事項ですか?
- ほかにどのような取り組みに費用を投じていますか?
- 季節変動は予算確保に影響しますか?
Authority(決裁権)
Authorityでは下記のような質問をして、「先方の担当者に購入承認の権限があるか」を見極めます。
- この購入の予算はどこの管轄ですか?
- 購入の意思決定に関与する方はほかに誰がいますか?
- 当社と同じような製品を購入する意思決定を下したことはありますか?
- この購入に関して、どのような反対意見が出そうですか?どのように対処するのが最善だと思いますか?
Need(必要性)
Needでは、下記のような質問をして、「先方にあなたの会社が解決できるビジネス上の課題があるか」を見極めます。
- どのような課題の克服に取り組んでいますか?
- 課題の原因は何ですか?その問題に時間をかける必要があると感じているのはなぜですか?
- なぜこれまで未解決だったのですか?
- この問題は何を使えば解決できると思いますか?それはなぜですか?
Timeline(期限)
Timelineでは、下記のような質問をして、「先方はいつ購入する予定か」を見極めます。
- この問題はどの程度早急に解決する必要がありますか?
- このほかの優先事項には何がありますか?
- 同様の製品やサービスでほかに検討中のものはありますか?
- この製品を今すぐに導入する余裕はありますか?
その他のフレームワーク
MEDDICやBANTといったフレームワークのほかにも、顧客を見極めるために有効なフレームワークはいくつもあります。そこで、ここではそれらのフレームワークから厳選した4つのフレームワークを紹介します。
CHAMP
CHAMPは、Challenges(課題)、Authority(決裁権)、Money(費用)、Prioritization(優先順位)の略です。後述のANUMに似ていますが、Authority(決裁権)の前にChallenges(課題)が来ています。
Atiim, Inc.の創業者、Zorian Rotenberg氏は、ブログ記事の中で、「見込み客が物を買うのは、課題を抱えているからです」と述べ、営業の見極めで最初の基盤は課題だとしています。
またCHAMPでは、Authority(決裁権)は行動の障壁ではなく引き金だとされています。最初に接触した担当者が、権限の低い社員だった場合、意思決定者ではないと判断が付きますが、だからといって電話を切ってはいけません。先方の会社の組織構造を探り出せるような質問をして、次に誰に接触すればよいかを判断することをRotenberg氏は勧めています。
GPCTBA/C&I
HubSpotが考案したフレームワークです。Goals(目標)、Plans(計画)、Challenges(課題)、Timeline(期限)、Budget(予算)、Authority(決裁権)、Negative Consequences(否定的結果)、Positive Implications(肯定的結果)の頭文字をとっています。名前は長いですが有益です。
このフレームワークは、購買者の行動の変化を加味しています。現代の見込み客は、営業活動の対象となる時点で、ますます多くの情報を既に得ています。営業担当者としては、製品知識だけでなく、価値を与えられなくては、話をしてもらえません。
ただし、営業担当者が価値を与えるというのは、単にモノを与えるのとはわけが違います。真の助言者となるためには、営業する製品やサービスで解決できる個別の問題を越えたその先まで探らなくてはなりません。
つまり、見込み客の戦略的目標やビジネスモデルを把握し、議論の対象となっている個別の問題が、先方のキャリアにおける全体像の中でどのように位置づけられるのかを理解する必要があります。
それぞれの項目の概略と、質問の例を紹介していきます。
Goals(目標)
ここでは、見込み客の数値的な目標を探ることを狙いとして、次のような質問をしていきます。先方からの返事が要領を得ない場合は、明確化や目標設定の助けとなりましょう。
- 今年の最優先事項は何ですか?
- 会社としての具体的な目標はありますか?
- 今四半期/今年の売上目標として公表している数字はありますか?
Plans(計画)
見込み客の目標を理解できたら、その達成に向けて先方がこれまでに何をしてきたかを探ります。うまくいったこととそうでないことを特定し、改善に向けた提案をしましょう。
- 目標達成のために実施を計画していることがありますか?
- 昨年何をしましたか?うまくいったことと、そうでないことは何ですか?今年は何を変えますか?
- XYZの存在によって計画の遂行が難しくなる可能性はありませんか?
- この計画を遂行するために必要なリソースは揃っていますか?
Challenges(課題)
見込み客の課題を明確にし、これまでの先方の取り組みが成果につながっていないと強調することは重要です。助けが必要だということを自ら理解していない見込み客は、顧客になってはくれません。
- この課題の排除をこれまで試してきて、現在も取り組んでいるのに、今度は排除できると考えているのはなぜですか?
- 御社の社内のノウハウでこうした課題に対処できるとお考えですか?
- この計画で課題が改善されていないことを1年のうちの早い段階で認識したとしたら、どのようにやり方を変えますか?
Timeline(期限)
営業担当者にとって最も重要な資産は時間です。現在や近い将来に購入する気がない見込み客も、必ずしも無駄とは限りませんが、優先順位を下げる必要があります。
- この計画はいつから遂行しますか?
- この計画を遂行する余裕とリソースが現時点でありますか?
- この計画の遂行に必要な手順を精査して、各項目を実行するタイミングを判断できるよう、手助けが必要と思われますか?
Budget(予算)
「予算はおいくらですか」と尋ねるだけでは、価値のある洞察は得られないと、HubSpotの営業ディレクター、Dan Tyreは言います。
次のように尋ねてみましょう。
- [製品またはサービス]で得られそうなROIについては、私どもの見解と一致していますか?
- 今回話し合った問題を解決する目的で、他社の製品に費用を投じていますか?
そのうえで、決定打を放ちましょう。HubSpotで営業担当バイスプレジデントを務めた後、DataboxのCEOとなったPete Caputa氏は、予算に関する問いを次のように打ち出すことを勧めています。
「ここまでの話を確認します。御社の目標はXで、現在はその達成を目指して費用Yを投じておられます。しかし成果は上がっていません。当社とご契約いただけるとしたら、投じる費用はZです。ZはYとほとんど変わりませんし、当社のソリューションで目標を達成できるという確信を御社は高めておられます。費用Zを投じて当社と契約することは理にかなっているとお思いになりますか」
Authority(決裁権)
このフレームワークの場合、BANTとは違って、Authority(決裁権)の見極めでは、先方の担当者が意思決定者かどうかを必ずしも特定しません。インフルエンサーやコーチということもあり得ます。社内の擁護者にあたるこの2つの役割からは、意思決定者の思考プロセスについて洞察が得られます。
先方の担当者が決裁権限者でないようなら、次のように尋ねましょう。
- ここまでに話し合った目標は決裁権限者にとって重要ですか?
- 決裁権限者の優先事項の中で、これはどこに位置しますか?
- 決裁権限者はどのような懸念を示すと予想しますか?
- 決裁権限者にどのように関与していただくのがよいですか?
Negative Consequences(否定的結果)とPositive Implications(肯定的結果)
この部分では、目標を達成した場合としなかった場合のそれぞれで見込み客がどうなるかを探ります。
「あなたの会社の製品が、重大な結果を回避する大きな助けとなり、さらに大きな目標の達成につながるとしたら、極めて大きな価値提案になります」とCaputa氏は言います。
C&Iで見込み客に尋ねるのは次のような質問です。
- 目標を達成した場合と達成しなかった場合に、それぞれどうなりますか?その結果はあなた自身に個人レベルで影響しますか?
- この課題を克服したら、次に何をしますか?
- 目標を達成できたら昇進やリソースを得られる立場にありますか?目標を達成できなかったら権限を失ったり降格に遭ったりする立場にありますか?
GPCTBA/C&Iのメリットは、膨大な量の情報を得られることです。営業する製品が、大きく差別化されている複雑な製品で、見込み客のビジネス戦略に不可欠な要素となる場合、こうした情報を掘り下げておくことは極めて有益です。その種の製品を扱う営業担当者は、見込み客の世界に足を踏み入れて、有能な助言者やビジネスパートナーになれなくてはいけません。
一方で、GPCTBA/C&Iは、すべての営業チームに合うとは限りません。扱う製品やサービスによっては、ここまで徹底した見極めは必要ない場合もあります。
ANUM
ANUMとは、Authority(決裁権)、Need(必要性)、Urgency(切迫性)、Money(費用)の略で、BANTにひねりを加えたものです。ANUMを使って見極めを行うときの最初の優先事項は、話の相手が意思決定者かどうかという判断です。
Need(必要性)の意味はBANTと同様ですが、優先順位が上がっています。Urgency(切迫性)はBANTでいうTiming(時期)に相当し、Money(費用)はBudget(予算)に相当しますが、それぞれ微妙な違いがあります。David Garcia氏はその違いについて次のように説明しています。
「Urgency(切迫性)で知りたいのは、(見込み客の)優先項目のリストの中で、ビジネス上のこの課題がどの程度上位にあるかです。また、Budget(予算)がMoney(費用)に変わったのは、我々のソリューションを導入する費用を用意できるかどうかだけを探ればよいという事実を反映するためです。つまり我々の仕事は、我々の価値を証明し、なぜ先方がこの購入のための固定予算を確保する必要があるかを示すことです」
FAINT
FAINTとは、RAIN Groupが打ち出している手法で、Funds(資金)、Authority(決裁権)、Interest(関心)、Need(必要性)、Timing(時期)の略です。購入は事前の計画なしで決定することが多く、したがって特定の予算と必ずしも結び付いていない、という点を反映した手法となっています。
FAINTを使う場合、ANUMと同じで、予算を明確に確保しているかどうかにかかわらず、購入の余裕がある見込み客を探すことになります。また、Interest(関心)という項目も入っています。RAIN GroupのJohn Doerr氏とMike Schultz氏によると、Interest(関心)とは、「何が可能になるのか、そして現在の上を行く新たな現実をどのように実現できるのかを知りたいという関心を購買者に抱かせる」ことです。
見込み客の見極め:見極めの手順
「何を言うかではなく、どう言うかが肝心だ」という言葉があります。
この言葉を巡っては、無数の議論が繰り広げられてきました。しかし、営業の見極めという意味ではまさに金言です。見込み客の声の調子や口ぶりからは、発言の中身と同じくらいの情報が得られます。
営業活動を先へ進めるべきか、それとも今すぐ見切りをつけるべきかを判断するときには、良い兆候にせよ悪い兆候にせよ、見込み客が示す手掛かりに気づくことが大切です。主なものを説明していきます。
先へ進めるのにふさわしい兆候
弁解
弁解が良い兆候とは、一体どういうことでしょうか。
Psychology Todayによると、人が弁解をするのは、認知的不協和を解決するためだそうです。認知的不協和とは、互いに矛盾する認知を持っていることで生じる、心理的に不快な状態です。弁解をすることで、自分たちの行動と、こうありたいと自ら思う姿との食い違いを解消しやすくなります。
営業の話をする中で、見込み客がビジネス上の課題にこれまで手を打たなかった理由について先方が釈明をしないかどうか、耳をそばだてましょう。釈明があった場合、本当にその言葉どおりの理由だったか、あるいは、もっと早く何とかすればよかったと内心は思いつつ、理由をこじつけているかのどちらかです。いずれにせよ、先方の課題が本物だという裏づけになります。
具体性
「あなたの目標は?」「いつまでに結果が必要ですか?」といった質問をしたときに、具体的な答えを返す見込み客は、現在抱える問題について綿密に考えてきています。継続的な計画、考え抜かれた説明、データなどの話が出ないか、耳を傾けましょう。また、答えに具体性があるということは、見込み客が本当に困っている課題だということです。結局のところ、本当の問題がない人々は、その原因や対処方法を考えることに時間を費やしたりはしません。
もちろん、いくら具体的でも、現実味がなければ駄目です。たとえば、「今後2週間で売上を4倍にしたい」と見込み客が話したとしたら、その具体的な答えの裏に、ビジネスを見る目のなさが表れています。
知識
具体性と対になるのが知識です。見込み客の水準で見極めを行うためには、知識を確かめてみるのが最善の策です。本物の意思決定者は、会社の目標、課題、ニーズについて詳細な知識があります。こうした情報を得られない担当者は、営業活動の中でおそらく価値はありません。
営業活動の危険信号
矛盾
担当者から得た回答に矛盾がある場合、その人は、助けになりたいと思ってはいるものの、十分な知識がないために助けになれない人です。しかし、それで話は終わりというわけではありません。誰が答えを知っているかを教えてもらい、別の担当者で案件の見極めを続けましょう。
簡潔な回答
本当に困っている課題であれば、会社全体にその影響が及んでいるはずです。幹部は気をもんでいるはずですし、社員は毎日その問題に対処しなくてはなりません。あなたがその問題を緩和する助けになるという印象を与えれば、先方は喜んで話をしたいと思うはずです。
質問に対する見込み客の返答が一言のみの場合、先方は、会話をする理由は特にないと思っています。ささいな問題なのかもしれませんし、問題の深刻さを感じられるだけの十分な情報をその担当者が得ていないのかもしれません。何が起きているのかを判断したうえで、見切りをつけるか、別の担当者と接触するかを決めましょう。
営業の成否は、見極めをうまく行えるかどうかにかかっています。最適な見込み客を探り当てられるかどうかが勝敗の分かれ目です。見込み客が顧客となって満足してくれれば、売上が増えるだけでなく、口コミや紹介も増えますし、顧客単価を上げるのに役立つクロスセルやアップセルの機会もあるかもしれません。見極めを正しく行うことが肝心です。
まとめ:営業見極め力を高めて成果をあげよう
効率よく営業を行って成果を出すためには、営業見極め力が欠かせません。
見込み客を切ることは、決して悪いことではなく、営業活動の質を高めるためには大切なことです。その見込み客を見極めるための力、いわゆる営業見極め力を高めるためには、常日頃から本記事で紹介した見込み客の見極め方を実践することをおすすめします。
それと同時に、BANTやMEDDICなどのフレームワークを活用して、営業見極め力の精度を上げていきましょう。