暗黙知とは、個人が積み上げてきた言語化しづらい経験やノウハウを指します。企業内の暗黙知を形式知に変換して共有できれば、属人化の回避や新たな知識創造が可能となり、社員の能力の底上げや自社独自の強み形成、業績向上につながります。
本記事では、暗黙知の意味や形式知との違いと具体例、暗黙知を放置すると起きるリスクや形式知に変換するメリットとその方法を解説します。
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暗黙知とは
暗黙知とは、個人が積み上げてきた言語化しづらい経験やノウハウを指します。具体的には、言語や数字、図表などでは説明がしにくい知識、個人の経験やコツなどにもとづいた知識、個人が保有している独自の知識などが該当します。暗黙知は、ハンガリーの哲学者であるマイケル・ポランニーによって提唱された概念です。
企業活動においては社員の知識や経験が暗黙知となりやすく、これを放置することで業務やノウハウが属人化し、特定の社員への依存や生産性の低下につながるリスクがあります。そのため、暗黙知を形式知に変換して、企業内で共有することが重要です。マニュアルには書かれていない暗黙知を共有すれば、生産性だけなく顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
形式知との違い
形式知は暗黙知対義となる概念で、言語化・図表化された客観的な知識を指します。客観的に説明できる知識であるため他者と共有しやすく、知識の蓄積・継承がしやすい点が特長です。
近年、暗黙知たるナレッジを形式知化させて企業内で共有し、新たな知識創造や技術革新、生産性向上を図るナレッジマネジメントが注目されています。
暗黙知・形式知の具体例
暗黙知と形式知の具体例は次の通りです。暗黙知は、身体技能を示す技術的な暗黙知と、知覚機能を示す認知的な暗黙知に分けられます。
<暗黙知の例>
- 技術的な暗黙知 精巧な形で削り出される彫刻などの職人技や車の運転技術のように、練習によりコツや技術を積み上げて身につくもの
- 認知的な暗黙知 デザインセンスや商品企画、微細な音・香りの識別など、練習や経験を通じて感覚的に身につくもの
<形式知の例>
- 運転の操作マニュアルや家具の組み立てマニュアルなど、読み聞きすれば誰でも理解できるもの
暗黙知を放置することで起きるリスク
暗黙知を放置し、特定の社員に依存する状態が続くと次のようなリスクが生じます。
- 優秀な社員の退職や休職を機に、これまでの業績を維持できなくなる
- 特定の社員に業務が集中して、組織全体の生産性が低下する
これらのリスクを避けるためにも、積み上げられた暗黙知を形式知へ変換して、チームや組織などで共有することが重要です。形式知化によってノウハウを蓄積・継承して、中長期的な企業成長を目指しましょう。
暗黙知を形式知に変えるメリット
暗黙知を形式知に変えるメリットは次の通りです。
- 社員全体の能力を底上げできる
- 属人化の防止になる
- 社員の教育を迅速にできる
社員全体の能力を底上げできる
優秀な社員が蓄積してきた暗黙知を形式知化して社内で共有すれば、社員全体の能力を底上げできます。その結果、業務効率化や業績向上が期待できるでしょう。
効率よく共有するには、ナレッジマネジメントツールやデータベースの活用が重要です。蓄積したデータを誰もが検索できるようにすれば、教育にかける時間を削減できるため生産性も向上するでしょう。
また、業務効率化により捻出できた時間を顧客の課題解決に費やせば、顧客満足度の向上にもつながります。さらに、共有したノウハウによる成功体験は、社員同士の連携や組織力の強化も期待できるでしょう。
属人化の防止になる
暗黙知をそのままにしておくと、特定の人物や一部の社員だけが行える業務、いわゆる属人化が発生します。暗黙知を形式知に変えれば知識や経験を共有しやすくなるため、担当者が休職・退職したときの引き継ぎが容易になるでしょう。
属人化の詳細は、こちらの記事を参考にしてください。
社員の教育を迅速にできる
暗黙知をマニュアルや教材動画にして形式知化できれば、新人教育も円滑に進められます。「経験から学ぶ」「見て学ぶ」などの曖昧な教育ではなく、根拠にもとづいた教育・指導ができるからです。
形式知化ができれば教育工数が減るため、コストの削減も可能です。社員が成果を出すまでの時間も速くなり、企業全体の業績向上につながるでしょう。
暗黙知から形式知に変換する方法
暗黙知を形式知に変換する代表的な方法は、次の通りです。
- SECI(セキ)モデルのフレームワークを活用する
- 社員による意見交換の場を設ける
- 知識や経験を引き継ぐための仕組みを作る
- ナレッジマネジメントを推進するリーダーを立てる
SECIモデルとは、暗黙知を形式知化して共有し、新たな知識を生み出すためのフレームワークです。「共同化・表出化・結合化・内面化」のプロセスを繰り返すことで効率よく形式知への変換を進めます。
活発な意見交換を進めるには、社内SNSや休憩スペースなどの共有の場が必要です。社内の風通しを良くして共有しやすい環境を整えてください。
また、内部ネットワークやデータベースを整えて、知識や経験を蓄積し、引き継ぐ仕組みを作りましょう。ナレッジマネジメントの推進には、全体を統括するリーダーの存在が欠かせません。リーダーを中心に知識の共有や活用方法を策定しましょう。
暗黙知を形式知に変換する際の注意点
暗黙知を形式知に変換する際は、共有しやすい仕組みを作る必要があります。使いやすいツールを用いるのも効果的でしょう。社員に協力してもらうための環境を整えることも重要です。
共有する情報を明確にして共有しやすい仕組みを作る
暗黙知を共有する際は、まずは情報を明確にする必要があります。「なぜ暗黙知を共有する必要があるのか」「社員はどのような情報を求めているのか」などを明確にすると良いでしょう。
共有すべき情報を明確にしたあとは、社員一人ひとりが主体的に共有できる仕組みを作ります。ナレッジマネジメントツールであれば、社員の持つノウハウを効率よく共有できます。
ただし、通常業務とは別にリソースが必要となるため、情報共有に対するインセンティブなどを設けて、社員の主体的な行動を促すと良いでしょう。
わかりやすいツールを利用する
多くの機能が搭載されているナレッジマネジメントツールは便利である一方で、社員が使いこなせない場合があります。必要最低限の機能が搭載されており、操作性に優れたツールの活用がおすすめです。
また、ツールの導入は社内全体で一斉に始めるのではなく、対象人数や目的を絞って小さく始めるのを推奨します。導入がうまくいけば社内全体に広げていくと良いでしょう。
すべての社員が協力的であるとは限らない
ナレッジマネジメントの活動は、誰しもが協力的とは限りません。自分の業務に忙しく取り組みに協力する余裕のない人もいるからです。また、競争意識や他の社員との差を縮めることを嫌うために、自分が積み上げてきたノウハウを他の社員に教えたくない人もいるでしょう
形式知への変換を進めるためには、このような実情を受け止めることが重要です。ノウハウを共有した社員へのインセンティブ支給や評価制度の見直しによって、暗黙知を築いている優秀な社員に協力を促す必要があるでしょう。
暗黙知は形式知として継承し企業力を高めよう
暗黙知とは、個人が積み上げてきた言語化しづらい経験やノウハウのことです。暗黙知を放置すると、業務の属人化が起こり、長期的には生産性の低下を招きかねません。特定の社員に依存しないで利益を安定させるには、暗黙知を放置しないことが大切です。
優秀な社員が積み上げてきた暗黙知を形式知化できればノウハウを企業内に蓄積・継承でき、自社独自の強みが形成されていきます。本記事でご紹介したSECI(セキ)モデルのフレームワークやナレッジマネジメントツールなどを参考に自社の暗黙知を形式知化して、企業力向上にお役立てください。