アプリやソフトウェア、サーバーなどをインターネット上で利用できる「クラウドサービス」は、普及に伴って多様化が進んでいます。
クラウドサービスは、SaaS・PaaS・IaaSの3種類に大別でき、ソフトウェア・プラットフォーム・インフラなどを、ベンダーがどの範囲まで提供しているかが異なります。それぞれにメリット・デメリットがあり、システム開発や導入後の保守管理に自社で対応できるかどうかによっても、適したサービスは変わってきます。
この記事では、SaaS・PaaS・IaaSの仕組みや特徴を、クラウドサービスの利用を検討中の方に向けてわかりやすく解説します。それぞれのサービスで、できること・できないことを理解したうえで、自社に最も適したサービスを選択しましょう。
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SaaS・PaaS・IaaSとは?
SaaS・PaaS・IaaSについて、土台となる仕組みやサービスの提供領域の違いを押さえておきましょう。
SaaS・PaaS・IaaSはクラウドサービスの一種
クラウドサービスとは、コンピューターによる情報処理をインターネット上にあるベンダーのコンピューターで行うサービスのことです。
クラウドサービスには次の5つの特徴があります。
- ユーザー個別の管理画面からサービスを利用できる
- デバイスを問わずサービスにアクセスできる
- 複数のユーザーがリソースを共有する形で利用する
- 必要に応じて必要な分だけスケールアップ・ダウンが可能
- 利用した分だけ課金される
クラウドサービスが登場する以前は、サーバーやソフトウェアをすべて自社で運用する「オンプレミス型」が一般的でした。オンプレミス型は自社でサーバーを用意し、ネットワークを構築して運用するシステムです。開発や保守管理には専門知識が欠かせません。
また、オンプレミス型よりも手間やコストをかけずにソフトウェアを利用する方法として「パッケージ型」と呼ばれるものもあります。ソフトウェアを提供している企業のWebサイトからPCにプログラムをインストールして利用するタイプのサービスで、ダウンロードタイプが普及する以前は、CD-ROMやDVD-ROMに組み込まれたソフトをPCにインストールする方法が主流でした。
そして、新しい形のインターネットサービスとして生まれたのが「クラウド型」です。オンプレミス型やパッケージ型のように、ソフトウェアやデータを社内で保持・運用するスタイルではなく、インターネット上のサーバーにアクセスし、必要な機能を必要なときに利用するものです。開発や保守管理が不要で、利用した分だけ課金する使いやすさから、急速に普及が進んでいます。
SaaS・PaaS・IaaSの提供領域の違い
クラウドサービスは、ユーザーが管理する部分とサービス提供者が管理する部分によって、SaaS・PaaS・IaaSの3つに分類できます。
上図はソフトウェアを構成する各要素を模式化したものです。
- SaaS:サーバーからソフトウェアまで、すべてをサービス提供者が管理
- PaaS:ユーザーがソフトウェアを管理し、サービス提供者がそれ以外を管理
- IaaS:サービス提供者はサーバーのみを管理し、ユーザーがそれ以外を管理
SaaSは、サーバーからソフトウェアにいたるまでのシステムすべてが、サービス提供者によって管理されており、ユーザーはクラウドにアクセスしてソフトウェアを利用します。
PssSはユーザーがソフトウェアを管理し、サービス提供者がサーバーやネットワーク、ハードウェアやOS、ミドルウェアを管理します。
IaaSは、サービス提供者が管理するのはサーバーやネットワークだけで、それ以外はすべてユーザーが管理します。
SaaS・PaaS・IaaSの特徴
ユーザーの視点から、各サービスの特徴を見ていきましょう。
サーバーからソフトウェアまでをすべてベンダーが運用管理するSaaSは、必要なときにすぐソフトウェアを利用できるサービスです。導入に必要な専門性も低く、負担なく運用できます。その反面、自社でカスタマイズする自由度は低くなります。
ベンダーが提供するインフラと開発環境を利用するPaaSは、アプリ開発に集中できるサービスです。自由度や運用上の負担、専門性など、さまざまな面でSaaSとIaaSの中間に位置します。
サーバーなどインフラのみを利用するIaaSは、自由度の高い開発に向いているサービスです。IaaSの導入には専門的な知識やスキルが必要で、ユーザー自身が管理・運用しなければなりません。その分、開発の自由度は上がり、ハードウェアやOS、ミドルウェア、ソフトウェアなどを自由に稼働できます。
次章から、SaaS・PaaS・IaaSについてもう少し詳しく見ていきましょう。
SaaSとは?
SaaSは「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略で、「サース」もしくは「サーズ」と読みます。
SaaSの特徴
- ユーザーはソフトウェアの機能を利用する
SaaSは従来のパッケージソフトのように、製品に搭載された全機能を一括して購入するのではなく、ソフトウェアの必要な機能を必要な期間だけ課金する方式で利用します。 - 目的に合わせて多種多様なサービスがある
プロジェクト管理や顧客管理など、目的に合わせて数多くのサービスがあります。勤怠管理システムなど、日本のビジネスシーンに最適化された国産のサービスが多いのもSaaSの特徴のひとつです。 - すぐにサービスの利用を開始できる
ユーザーアカウントを準備すればすぐに始められます。 - 自社での開発・保守は不要
システムは既にできあがっているので、自社での開発や保守は不要です。
SaaSのメリット・デメリット
SaaSには、主に2点のメリットがあります。
- 高度な専門知識やスキルは不要
PaaSやIaaSに比べて自社での開発領域が少なくて済むため、利用にあたって高度な専門知識やスキルは不要です。 - 運用の負担が少ない
ソフトウェア部分のバージョンアップなど、すべての管理をサービス提供者が行うため、保守・運用の負担がほとんどありません。
一方、SaaSのデメリットとしては、あらかじめ用意されたサービスを利用することになるのでカスタマイズの自由度が低いことがあげられます。
SaaSの代表的なサービス
SaaSには豊富な種類があります。代表的なサービスとしては次のようなものがあります。これから導入を検討している企業は、まずは社内チャットツールやグループウェアから導入してみましょう。
- 社内チャットツール:Chatwork、Slack
- プロジェクト管理ツール:Asana、Trello
- グループウェア:Google Workspace、Microsoft 365
- 会計ソフト:freee、マネーフォワードクラウド会計
- 顧客管理ツール:Sales Cloud、HubSpot CRM
PaaSとは?
PaaS は「Platform as a Service(サービスとしてのプラットフォーム)」の略で「パース」と読みます。
PaaSの特徴
PaaSはアプリ開発者向けに、サーバー・ハードウェア・OS・ミドルウェア・データベースといったプラットフォームをインターネット上にて提供するサービスです。
PaaSのメリット・デメリット
PaaSには主に3点のメリットがあります。
- アプリ開発に専念できる
企業がアプリ開発を行う際に、開発環境をゼロベースで構築しようとすると、かなりの時間を要します。その点、PaaSの場合は、ソフトウェアの実行環境やデータベースなどがプラットフォーム化されているため、導入することでソフトウェア開発に専念できます。 - アプリ開発やカスタマイズ時のコストを抑えることができる
アプリ開発に必要なOSやハードウェアがクラウドサービスとして提供されるので、初期費用を抑えられます。また、開発に必要なサーバーのスペックの増減も、利用内容を変更することで対応できるため、余分なコストがかかりません。 - 運用や保守が容易になる
インフラやプラットフォームの運用・保守、セキュリティやトラブル対応もベンダーに任せることができます。ただし、自社で開発したアプリやデータベースに関しては、自社で管理する必要があります。
PaaSのデメリットは、カスタマイズの範囲に制限があることです。サーバーやミドルウェアを希望通りに設計できないなど、自社の使い方に合わないこともあるので、仕様を慎重に確認しましょう。
SaaSとPaaSの違い
SaaSは既に開発されたソフトウェアが提供されるのに対して、PaaSは開発環境のみが提供されます。PaaSは自社で開発したアプリを稼働させることができるので、SaaSよりもソフトウェア活用の自由度が高いという違いがあります。
PaaSの代表的なサービス
PaaSの代表的なサービスは次の通りです。
- Amazon Web Services(AWS)
- Microsoft Azure
- Google Cloud Platform
- Kintone
IaaSとは?
IaaS は「Infrastructure as a Service(サービスとしてのインフラストラクチャ)」の略で、「イアース」または「アイアース」と読みます。
IaaSの特徴
IaaSは、情報システムの構築に必要なサーバー(CPU・メモリ・ストレージ)やネットワークなどのインフラ環境を、開発者向けにインターネット上で提供するサービスです。
従来型のオンプレミスでは、物理サーバーを社内で購入・構築・運用する必要がありました。IaaSの場合は、物理サーバーのCPUやメモリ、ストレージなどのハードウェアリソースを保有することなく、仮想サーバーとして利用できます。
IaaSのメリット・デメリット
IaaSには主に3つのメリットがあります。
- 環境構築するうえで自由度が高い
IaaSのユーザーは、サーバーやストレージなど、さまざまなネットワーク機能を自由に利用できます。 - 拡張・縮小が容易
サーバーのリソースは、ニーズに合わせて自由に増減させることが可能です。 - 災害・緊急事態に強い
IaaSは、BCP対策(Business Continuity Plan=事業継続性)としても注目されています。災害時にサーバーを社内で運用していると、データ消失などのリスクがありますが、IaaSであれば災害時の事業継続が可能です。
IaaSのデメリットとしては、運用に専門知識が必要なことです。データベースやプログラミングの知識が豊富で、ネットワーク設計も可能な人材を社内に配置する必要があります。また、運用・保守に携わる技術者も必要です。
IaaSとPaaSの違い
IaaSとPaaSの大きな違いは、IaaSは、ミドルウェア・OS・データベースなどを自由に選択できることがあげられます。
自由度が高いのはIaasですが、それは同時に、導入後に自社で開発に必要な機器の購入や、業務に合わせた運用が必要になることを意味します。自社に導入する場合、IaaSとPaaSのどちらが自社にふさわしいのか、ベンダーとも相談しながら進めましょう。
IaaSの代表的なサービス
IaaSの代表的なサービスとしては、次のようなものがあります。
- Amazon Web Services(AWS)
- Microsoft Azure
- Google Cloud
SaaS・PaaS・IaaSを目的に合わせて使いこなそう
クラウドサービスで最も開発や運用の負担が少ないのは、フルパッケージ型の「SaaS」です。次いで、セミカスタム型の「PaaS」、フルカスタム型の「IaaS」の順に開発や運用の負担が増えていくことを覚えておきましょう。PaaSやIaaSは、その分、カスタマイズの自由度が高まるのがメリットです。
SaaSは、契約すればすぐに使えて便利ですが、カスタマイズ性が低いため、提供されるサービスに自社の業務フローを最適化する必要があります。そのため、自社の業務に最適なアプリを今すぐ開発したい場合は、PaaSの導入が向いています。現状のシステムをそのままクラウドに移行させたい場合は、IaaSが最適解になるかもしれません。
自社の課題を洗い出し、信頼できるベンダーと相談しながらクラウドサービスの導入を進めましょう。