「営業組織全体の生産性と成果を向上させるための戦略的な取り組み」であるセールスイネーブルメント。検討すべき範囲が広く、どこから取り組めばよいか迷っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、セールスイネーブルメント導入時に検討すべき重要なポイントや注意点、具体的な導入手順などについて解説していきます。
Hubspotが行った独自の調査レポート「2021年版セールスイネーブルメントに関するグローバル調査」とあわせて読むことで、より理解が深まります。
2021年版セールスイネーブルメントに関するグローバル調査
セールスイネーブルメント導入における重要なポイント
セールスイネーブルメントを導入しても、本質を理解していないと、効果は最大化できません。
ここでは、セールスイネーブルメントを導入するうえでの重要なポイントについてご紹介していきます。
顧客理解に基づく営業プロセスの標準化
営業活動を改善して成果につなげるためには、営業プロセスのどこに問題があるかを明確にし、問題点を解決します。そのために、まずは営業プロセスの標準化からはじめます。
営業プロセスの標準化では、顧客理解に基づいたプロセスの見直しを行います。顧客を理解し、顧客視点を意識した営業プロセスを再定義することで、顧客に価値を提供するための営業活動を組織全体で実践できるようにします。
セールスイネーブルメントの取り組みでは、顧客視点を意識した営業プロセスをもとに、必要な知識やスキルを習得し、コンテンツを準備することが求められます。
データに基づく課題の見極めと効果測定
営業活動の改善を行う際には、どこがボトルネックになっているかをデータから導き出します。
課題の解決策を導くうえでもデータは有用です。顧客の新規開拓に課題がある組織では、新規開拓が得意な営業担当者をデータから割り出して個別にヒアリングを行い、そのノウハウを組織全体に共有していきます。
また、施策を実行する際には、データに基づく効果測定が重要です。有効な施策は継続し、効果がなければ別の施策を検討する改善サイクルを回し続けます。
成果に導くための分業体制の構築
見込み客へのアプローチと既存顧客との関係維持を一人ひとりの担当者が両立させようとした場合、繁忙期には対応できなくなることも予想されます。
また、さまざまな業務を担うよりも、ひとつの業務に集中した方が短い期間で業務の改善サイクルを回すことができ、業務改善やノウハウ共有のスピードも上がりやすくなります。
商材や業界などにもよりますが、分業体制を構築することが成果に導く一つの方法です。
分業体制の構築例としては、インサイドセールス組織の採用といった手法があります。
セールスイネーブルメント導入時の注意点
次に、セールスイネーブルメントを自社に導入する際の注意点を紹介していきます。
セールスイネーブルメントに絶対解は存在しない
セールスイネーブルメントは、あくまで組織的に成果を上げるための考え方や取り組みであり、どんな状況でも成果を上げられる方法ではありません。顧客のビジネスモデルや購買プロセス、自社の強みや弱み、商材、競合の状況、営業組織のITリテラシーなどさまざまな要因で、適切な取り組みや導入手順は変わります。自社の状況を把握したうえで、最適解を模索しましょう。
新たな取り組みを行う際は先にチームメンバーの理解を得よう
セールスイネーブルメントの導入では、これまでにない取り組みを行うことになるため、さまざまな意見をもつチームメンバーの理解を得る努力も欠かせません。
例えば、各担当者の営業活動をデータに基づいて評価することに懐疑的な意見を持つチームメンバーがいた場合、正確なデータを入力してくれないケースも想定できるでしょう。
一人ひとりの営業担当者に対して、「なぜこのような変化が必要なのか」を共感を得られるよう丁寧に説明する時間を設け、小さな取り組みから始めることも大切なポイントです。
営業担当者が活動しやすい環境をつくる
セールスイネーブルメントの効果を最大化させるには、営業担当者が活動しやすく、成果を出しやすい環境について意識を向け、行動する必要があります。
例えば、営業担当者が情報を入力することで、セールスイネーブルメントチームやマネージャーから適切なサポートを適切なタイミングで受けられる仕組みを作り上げることが重要です。
そうすることで、営業活動についての正確なデータ入力が促進され、一人ひとりの営業ノウハウが共有されていくでしょう。
セールスイネーブルメントの導入手順
ここからはセールスイネーブルメントの導入手順を解説していきます。
次の図が導入手順の全体像です。
全体計画の策定
まずは現状の営業組織の課題を洗い出し、解決の方向性の大枠を検討して、計画を立てます。顧客や商材が幅広い場合には、注力する業界や事業分野を絞り込みましょう。
マーケティング・営業プロセス・組織体制の見直し
営業組織の中だけで課題を解決しようとしても、施策が限られてしまいます。そこで、営業組織だけでなく、マーケティングチームやカスタマーサクセス、サポートチームなど、顧客に関わるすべての組織のプロセスを見直します。顧客に成功体験を提供するための組織体制を構築することが重要です。
データの蓄積と活用
顧客に関わるさまざまな組織が連携し、データに基づく判断を行うためには、顧客や商談情報が一元化され、各部門の担当者が必要な時に必要な場所でアクセスできる状態が理想です。
スプレッドシートでの管理では限界があるため、CRM/SFAツールを導入し、必要なデータが蓄積されているか、営業活動を支援できる仕組みになっているか評価し、活用を進めていきます。
データの活用に際しては、はじめからあらゆるデータを蓄積しようとするのではなく、取り組むべき課題を基準にデータを絞り込むことがポイントです。
コンテンツ制作
成果を上げているハイパフォーマーの知識やノウハウを収集することから始めます。マーケティング活動や営業活動で利用されているコンテンツ(サービスの紹介資料や事例、トークスクリプト、メール文面など)を集めて整理し、足りないコンテンツは追加するなどして、よりよいコンテンツに改善します。
はじめからすべてのコンテンツを用意しようとせず、組織の課題解決を軸に作成するコンテンツを絞り込んでいきましょう。
また、コンテンツは、顧客や営業担当者からのフィードバックを受けて改善を続けます。「一度、制作すれば終わり」ではないため、注意が必要です。
トレーニングとコーチング
研修会社や人事担当者任せのトレーニングではなく、現状の課題を解決するための企画を実施します。
トレーニング実施後は、現場で実践されているか確認しながら、必要に応じてサポートします。担当者ごとに課題は異なるため、一人ひとりの営業担当の課題に対するサポートを実施しつつ、トレーニングの効果をデータ検証し、次回のトレーニング内容を見直します。
セールスイネーブルメントの土台となるCRM/SFAツール
組織の状況によっては、ここまで解説してきたような取り組みを行えない場合もあるでしょう。そのような場合には、まずはセールスイネーブルメントの土台となるCRM/SFAツールの導入・活用から始めましょう。
CRM/SFAツールにデータが蓄積されることで、営業組織の課題を客観的に把握することができ、関係者の合意を得ながら大きな改革につなげやすくなります。
土台となるCRM/SFAツールやその他のツールについての解説については、以下の記事を参考としてください。
営業組織の課題を客観的に把握することからはじめよう
セールスイネーブルメントは適用範囲が広く、また、中長期的な取り組みが必要なことから、導入に踏み切れない方も多いのではないでしょうか。
導入のポイントや注意点をおさえて、手順を踏んでいけば、けっして難しい取り組みではありません。
自社の状況に合わせて、まずは営業組織の課題を客観的に把握するためにCRM/SFAツールへの必要なデータの蓄積からはじめてみてはいかがでしょうか。
基本的な考え方を確認したい方は、「基礎知識編」をご覧ください。