営業組織改革や営業DX(デジタルトランスフォーメーション)事例などで、目にするようになった「セールスイネーブルメント」というキーワード。明確な定義がなく、さまざまな解釈があるため全体像をつかむうえで苦労されている方が多いのではないでしょうか。本記事では、セールスイネーブルメントとは何か、求められる背景から成功事例まで、基礎知識を解説していきます。
Hubspotが行った独自の調査レポート「2021年版セールスイネーブルメントに関するグローバル調査」とあわせて読むことで、より理解が深まります。
2021年版セールスイネーブルメントに関するグローバル調査
営業リーダーの皆さまに、2021年の成長機会を見極めるうえで役立つ最新レポートをお届けします。収益目標を達成するために、世界の営業リーダーたちはどのような形でチームを支援しようとしているのか、調査結果をご覧いただけます。
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セールスイネーブルメントとは?
営業組織の目標達成や業務改革のためにさまざまな施策を実行しても効果が感じられず、「いま、何をすべきなのか」に悩んでいる営業マネージャーや事業責任者にとって、参考となる考え方がセールスイネーブルメントです。
セールスイネーブルメントは、sales(営業・販売)をenable(可能に、容易に)するものと翻訳できます。わかりやすく表現すると、「営業組織全体の生産性と成果を向上させるための戦略的な取り組み」といえます。
ここでは具体的なイメージを持つために、セールスイネーブルメントとは何をするものなのかに焦点を当てて解説していきます。
セールスイネーブルメントは何をするのか?
セールスイネーブルメントで行われる戦略的な取り組みとは、組織が成果を上げるために解決すべき課題をデータから明らかにし、効率的な営業を行える環境を整えていく継続的な活動です。
このような取り組みによって、「いま、何をすべきなのか」を明らかにし、組織全体が成果を上げるための活動に導きます。
それでは、取り組みの全体像と具体的な活動内容を見ていきましょう。
コンテンツ作成とノウハウの共有
顧客視点をもった営業プロセスを標準化し、営業プロセスを推進するために必要なコンテンツ(営業資料やトークスクリプト、メール文面など)を整備します。コンテンツやノウハウが属人化しないように共有する仕組みを作りあげることがポイントです。
営業担当者へのトレーニングとコーチング
顧客に適切な価値を提供するために、業界や商品に関する知識、コミュニケーションや提案力などに関するスキルをトレーニングします。また、営業マネージャーは、データに基づく判断により、営業担当者が成果を上げるためのサポートやコーチングを行います。
CRM/SFAツールの導入とデータ活用
顧客情報や商談情報などさまざまなデータを蓄積し、営業組織の課題の把握や活動状況のモニタリングをするためのCRM/SFAツール、コンテンツ共有のためのナレッジ共有ツールなどを活用します。
組織や役割分担の見直し
営業担当者の役割を見直し、必要に応じて分業体制を構築するなど、成果につながる組織を作り上げます。また、マーケティング組織と営業組織の連携を見直し、顧客への適切な情報提供を実現します。
顧客に成功体験を提供し続け、組織として成果を上げるという目的のもと、上記のような取り組みを実施していくのがセールスイネーブルメントです。
セールスイネーブルメントが求められる背景
セールスイネーブルメントは、営業組織が成果を上げるための取り組みとしてアメリカを中心に全世界的に認識され、多くの企業で導入が進んでいます。
Hubspotが2021年に世界8カ国の営業リーダー500名を対象に行った調査結果では、収益目標を達成した営業組織の65%が、セールスイネーブルメントの専任の担当者もしくは組織を設置していると回答しています。
なぜセールスイネーブルメントへの取り組みが注目され、導入企業の成果に繋がっているのか、背景を見ていきましょう。
ビジネスモデルや環境の変化への対応
商品やサービスを販売するだけのかつての売り切り型のビジネスモデルとは異なり、顧客に価値を提供し続ける必要のあるサブスクリプションモデルでは、顧客との継続的な関係を築くために、営業担当者個人ではなく、組織として顧客に向き合う重要性が高まっています。
また、コロナ禍により多くの企業においてビジネス環境が大きく変化した経験からも、組織全体で変化に素早く対応できる仕組みを作り上げるセールスイネーブルメントに注目が集まっています。
人口減少による人手不足への対応
日本国内では、人口減少による人手不足が深刻になりつつあります。OJT中心の営業組織の人材育成から脱却し、適切な分業化や適性に応じた人員配置により、一人ひとりが専門性を高め、組織の成果を最大化する仕組みが求められています。
MA/CRM/SFAツールの進化による取得可能データの増大
MAツールによる顧客の行動情報やCRM/SFAツールによる顧客情報・営業活動情報の蓄積など、活用できるデータは年々増え続けています。
組織としての情報活用リテラシーは個々人の学習だけでは向上しません。データに基づく成果の最大化には、専門チームによるデータ活用が必要です。
顧客視点でのセールスイネーブルメントの意義
これまでは、いかに営業組織が成果を上げるのかという視点でセールスイネーブルメントを説明してきました。しかし、ビジネスにおける成果は、自社の顧客に成功体験を提供し、継続的な関係性を築いていくことで、はじめて得ることができます。
ここでは、顧客視点から見たセールスイネーブルメントの意義について解説します。
顧客の購買行動の変化への対応
インターネットの普及により、購買担当者は必要な情報を自身で調べ、対象の製品やサービスを絞り込んでから営業担当者に問い合わせるようになりました。
このような購買行動の変化に対応するためには、顧客が求める情報を適切なタイミングで提供することが求められ、マーケティングと営業の連携など部門を越えた取り組みがポイントになってきます。
顧客が求めているのは具体的な課題解決
顧客は、自社の状況やニーズを理解した上での適切な情報提供や提案、課題解決につながる専門的な知識を営業担当者に求めています。
一人ひとりの営業担当者があらゆる業界や顧客を理解して対応し続けることは難しいため、組織として必要なコンテンツを準備し、適切な分業体制で対応することが重要です。
セールスイネーブルメントの導入効果
ここからは、実際にセールスイネーブルメントに取り組んだ場合に、どのような導入効果が見込めるのかについて解説していきます。
人材育成の仕組み化
営業プロセスの標準化と営業組織の課題に応じた研修コンテンツ等の提供により、個人に依存せず、組織全体で成果を上げられる仕組みを構築できます。
施策効果の見える化
営業研修や作成したコンテンツの効果など、これまで効果の測定が難しかった各施策について、データに基づく効果検証を行えるようになります。
適切な人員配置
個人の役割が明確になることで、担当者が自身の行動に集中でき、成果を上げやすい環境が整います。
インサイドセールスを導入して営業の分業体制を構築する
これまで解説してきた通り、セールスイネーブルメントは営業組織全体で成果を上げるための取り組みや考え方のことですが、具体的にどのような施策や手法を取り入れるべきなのかは、組織が抱えている課題によって異なります。
ここからは、新規顧客の開拓に課題を持つ組織に効果的な、「インサイドセールス」の導入による営業の分業体制の構築について解説していきます。
インサイドセールスの役割の重要性
インサイドセールスは、初期の営業活動を、内勤営業として主に遠隔で行う取り組みです。
インサイドセールス担当は、見込み客に対して適切なタイミングで情報を提供しながら、見込み客の醸成(リードナーチャリング)を行います。具体的には、電話やWeb会議システムなどを利用して顧客の状況をヒアリングし、確度の高い見込み客を適切な営業担当者に引継ぐ役割を果たします。
既存顧客を抱える営業担当者が十分な時間を割けない部分をインサイドセールスが担うことで、営業活動を効率化して、顧客への提供価値を最大化する手法といえます。
セールスイネーブルメントの成功事例【ツール導入~部門連携まで】
コロナ禍による営業環境の変化に組織として対応した事例
IDECファクトリーソリューションズ様の事例です。マーケティング組織と営業組織との連携を深めながら全社的なセールスイネーブルメントを推進しています。
参考:コロナ禍のBtoB営業&マーケティング “対面できない時代”の信頼関係の築き方を探る
インバウンドの思想に基づき、”戦略策定”と”社員教育”を推進した事例
NTTPCコミュニケーションズ様の事例です。インバウンドの思想をもとに、まずは公式サイトの全問い合わせフォームをHubSpotに切り替え、小さな成果を出しながら社内の合意形成を行いセールスイネーブルメントを推進しています。
参考:「インバウンド」思想の実践でWeb経由受注を1年で2倍に NTTPCのDX推進プロジェクト
ツールの利用定着に力を入れて営業プロセスの精度向上を推進した事例
AnyMind Group様の事例です。経営陣からのトップダウンでのCRMツール導入とメンバーへの合理性の説明を行い、ツールの利用定着を粘り強く推進しています。
参考:CRM利用定着率100%!AnyMind Group事例に学ぶ、ツールの利用定着化5つのポイント
変化に対応できる組織で、顧客の信頼を得るセールスイネーブルメント
時代の変化により、営業活動のあり方は大きく変わろうとしています。膨大な情報を分析して施策に落とし込み、日々の営業活動に活用することで、変化に対応できる組織を作り上げていく重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
一方で、顧客は、本当に必要な情報になかなかたどり着けない状況に置かれています。顧客の状況を理解して、適切な情報を適切なタイミングで届けることが顧客の信頼を得るために重要なポイントといえます。
変化に対応できる組織で、顧客の信頼を得るセールスイネーブルメントは、なかなか成果を挙げられず、いま何をすべきなのか悩んでいる営業マネージャーや事業責任者にとって、さまざまな解決のヒントを与えてくれる取り組みです。自社にあった形で導入を検討してみてはいかがでしょうか。
より具体的な導入手順や重要なポイントは、「導入手順編」をご覧ください。