HubSpotの連載シリーズ「Made @ HubSpot」の記事をお届けします。Made @ HubSpotとは、HubSpotの従業員が自ら実験的な取り組みを行い、そこで得た知見を発信するブログシリーズです。
消費者の購買行動は大きく変化しました。
かつて「買い物に行く」とは実店舗を訪れることを意味し、特によく知っているお気に入りのショップを巡ることが多かったでしょう。それが、今では24時間いつでもオンラインで豊富な選択肢の中から欲しいものを選んで購入できるようになりました。機能や価格を比較したり、最新のレビューを読んだり、インフルエンサーや雑誌からおすすめ情報を仕入れることもできます。さまざまなページを見比べながら、気が済むまでじっくり検討し、最もニーズに合った製品を見つけられるのです。
こうした変化を受け、企業サイドでは自社の製品やサービスを選択肢の1つとして消費者に検討してもらうために、選択肢を「検索」する段階で消費者の目に留まるような工夫が必要となりました。
おすすめリストや製品の比較記事、レビューサイトなど、消費者が検討時に参考にするすべてのチャネルやメディアで露出を拡大することで、「トップオブマインド」のブランド、つまりその分野で最初に想起されるブランドとしての地位を確立できます。HubSpotでは、そのためのコンテンツ戦略を「サラウンドサウンド戦略」と呼んでいます。
この記事では、HubSpotが製品の露出機会と認知度の拡大と追跡のために、サラウンドサウンド戦略をどのように活用しているのかを説明します。
サラウンドサウンド戦略とは?
「サラウンドサウンド戦略」は、当社のAlex Birkettが命名したもので、製品に関するキーワード(「ヘルプデスク ソフトウェア おすすめ」、「ウェブチャット ソフトウェア おすすめ」など)が検索されるたびに、HubSpot製品の情報が必ず表示されることを目指しています。
この戦略の目標は、潜在顧客がGoogleで特定のキーワードを検索したときに、SERP(検索エンジンの結果ページ)の上位に表示されるすべてのページ、または大半のページで、HubSpotの名前が挙がっている状態にすることです。「サラウンドサウンド」効果の詳細については、本連載のパート1をご覧ください。
サラウンド サウンド コンテンツ プログラムの始め方
自社でもサラウンド サウンド プログラムを試してみたいという方のために、このプログラムに着手する具体的なプロセスについて順を追って説明します。
なお、今回ご紹介するプロセスは、過去18か月間にわたるHubSpotの実体験に基づいたものです。この間に多くの気づきが得られましたが、今もプログラムは継続中で、まだ改善の余地が大いに残されていることをご承知おきください。
また、業種に応じて調整が必要になる可能性もあります。以下のプロセスを参考にしながら、自社に最適なサラウンド サウンド コンテンツ プログラムを独自に組み立てていただければと思います。
1. 自社の製品探索キーワードを定義する
本連載のパート1でAlex Birkettが述べているように、サラウンド サウンド コンテンツ プログラムの目標とは、「顧客が自社に関連する製品カテゴリーについて調べているときに、自社の名前をさまざまな方法で顧客に目にしてもらう」ことです。
そのためにはまず、潜在顧客が購入を検討する製品の候補を見つけるためによく使用しているキーワードのリストを作成する必要があります。こうしたキーワードを、当社では「製品探索キーワード」(または「サラウンド サウンド キーワード」)と呼んでいます。
製品探索キーワードは、潜在顧客が次のようなことを調べる場合にどういったキーワードを使用するかという観点から推測できます。
- 市場全体でどのような選択肢が提供されているか(「語学 勉強 アプリ」など)
- 最も推薦されているソリューションはどれか(「語学 勉強 アプリ おすすめ」など)
- 既に使用している製品から乗り換えたい場合にどのような代替品があるか(「Duolingo 代替 おすすめ」など)
上に挙げた3つのパターンに沿って、キーワードリストの作成に着手しましょう。Ahrefs、Semrush、Moz Proといったキーワード調査ツールには、検索ボリュームの多い関連語句を提案する機能があります。こうしたツールを活用し、検索ボリュームや難易度といった追加情報に基づいてキーワードの優先度を判断することで、リスト作成の手間を大幅に削減することができます。
Ahrefsを使用している場合は、下図のように検索ボリュームを調べてキーワード選びの参考にすれば、リストを拡充できます。
通常、製品探索キーワードには検索者の購入意欲とコンバージョン率が高い語句が選択されますが、「製品主導コンテンツ」にまで選択範囲を広げておくのも効果的です。製品主導のコンテンツとは、自社の製品に焦点を当てつつも、それにまつわる一般的な情報を伝えるコンテンツを指します。
たとえば、ナレッジ管理ソフトウェアのProProfsに関する製品探索キーワードであれば、「NPS調査ソフトウェア おすすめ」といったキーワードだけでなく、製品主導コンテンツのキーワードとして「NPS調査 作成方法」なども検討してみましょう。
2. 製品探索キーワードに対する現在のパフォーマンスを測定する
製品探索キーワードのリストができあがったら、各キーワードの検索結果の上位20件に、自社の製品やサービスの情報を含むページがその時点で何件表示されているかを調べましょう。
上位20件のページを1つずつ開き、自社のブランドについて言及されているかどうかを手作業で確認します。
最終的には次のように、対象のキーワード、言及された件数、露出度スコアを一覧表にすることをお勧めします。
キーワード | 月間の 検索ボリューム |
上位20件中の 言及ページ数 |
露出度スコア |
CRMプロバイダー | 170 | 7 | 35% |
営業管理ツール | 110 | 11 |
55% |
エンタープライズCRM | 210 | 5 |
25% |
上位20件中で自社が言及されているページの割合を「露出度スコア」として算出しています。仮に「CRMプロバイダー」というキーワードに対し、上位20件のうち7ページでHubSpotについて言及されているとすれば、このキーワードの露出度スコアは次のようになります。
露出度スコア(%)=(7 ➗ 20)×100=35%
HubSpotでは、常時およそ600の製品探索キーワードをモニタリングしています。そのため、言及の有無をチェックするには、約1万件のURLを手作業で開かなければなりません(一部のページが2つ以上のキーワードについて表示されると想定した場合)。
そこでAlex Birkettが開発したのが「SERPトラッカー」です。このツールを使用すると、各検索語句に対して、当社のブランドや製品、サービスに言及した検索結果の割合を自動的に計算できます。
このSERPトラッカーによってHubSpotのサラウンド サウンド コンテンツ マーケティング プログラムは劇的に効率化され、月次レポートの作成と変更の追跡に以前なら数日を要していましたが、数時間で完了できるようになりました。
注:サラウンド サウンド プログラムのレポート作成の詳細については、本連載のパート3を参照してください。また、Birkettのブログでは、このSERPトラッカー用にRで記述された汎用スクリプトに関する技術者向けの記事もお読みいただけます。
3. SERP上での、現在の自社ブランド露出度を把握する
潜在顧客が同カテゴリーの製品やサービスについて検索しているときに、自社ブランドがSERPにどのくらい登場しているかを把握するには、1)キーワード、2)トピック、3)製品の3つのレベルでブランドの露出度を測定する必要があります。そうすることで、施策の全体的なパフォーマンスを確認すると共に、競合他社との継続的な比較が可能になります。
HubSpotではサラウンド サウンド プログラム固有の製品探索キーワードを「機能」「製品分野」「製品名」の3つのグループに分類し、常時およそ600のキーワードを追跡管理しています。
この方法は、プログラムの進捗をきめ細かく追跡したいときも、製品別の全体的なパフォーマンスだけをチェックしたいときにも有効です。
例として、複数のスプレッドシートとBirkettの開発したSERPトラッカー、Google データポータルを組み合わせて私が作成した、Marketing Hubの露出度を追跡するダッシュボードをお見せします。
露出度を算出できたら、その数値を基にして改善に着手しましょう。
露出度は、タイミングによって増減することが予想されます。これは、モニタリング対象のキーワードに関連する新たなコンテンツが随時公開され、検索順位が変動するためです。コンテンツ内で自社ブランドについて言及されているかどうかも、露出度スコアに影響を及ぼします。さらに、露出の増減には関係なく、スコアの算出時にキーワードを追加しただけでもスコアは変動します。
最も重要なのは、パートナーシップを構築するための自社の取り組みが、露出度に影響を及ぼすという点です。外部ブログやレビューサイト(の新規または既存のコンテンツ内)で自社のブランドについて取り上げてもらえる機会が多いほど、露出機会も拡大します。
多くの人の目に触れれば、リファラルトラフィックや、直接サインアップ、リード獲得数の増加につながります。しかし、それよりも注目したいのは(収益には直結しないにしても)ブランド認知への効果が期待できる点です。
「おすすめ」という文言を入れて検索したときに表示される頻度が高くなるだけで、ますます多くの人に自社の製品やサービスを認知・認識してもらえるようになります。
4. SERPでの露出拡大に向けた改善点を特定する
モニタリング対象のキーワードが10を超えると、どこに改善の余地があるかを見つけるのが難しくなってきます。
HubSpotのサラウンド サウンド プログラムでは、500以上のキーワードをモニタリングしているため、キーワードごとの露出度と1か月あたりの平均検索数の両方を考慮した独自の計算式を採用しました。
改善可能性=(100%-露出度スコア)×1か月あたりの平均検索数
たとえば、「CRMプロバイダー」というキーワード(1か月あたりの平均検索数は54,000件)に関して、Googleの上位10件の検索結果における露出度が80%だったとしましょう。これは、このキーワードをGoogleで検索したときの結果ページ上位10件のうち8件でHubSpotについて言及されていることを意味します。
「CRMソフトウェア」の改善可能性=(100%-80%)×54,000=10,800
対応作業に優先順位を付けるには、改善可能性をキーワードごとに計算し、その値に基づいてキーワードを降順に並べ替えます。
5. 露出度スコアの明確な目標を設定する
チェックの優先順位が決まったら、自社ブランドについてまだ言及していないURLを1つずつ詳しく調べていきます。このときのポイントは、どのページの運営者に働きかければ自社ブランドについて言及してもらえる可能性が高いかを検討することです。
大手メディアに代表される一部のウェブサイトでは、依頼に応えてコンテンツを更新するようなことはまずありません。そうしたページは真っ先に除外した方がよいでしょう。
その結果、改善が見込めるターゲット(URLおよびウェブサイト)のみが残されます。サラウンド サウンド プログラムの目標を設定するときには、同じキーワードリストについて露出度スコアを計算する必要がありますが、ここでは改善が見込めるターゲットを特定します。
これで、基準値と目標値の両方が設定できるようになります。
続いて、ターゲットとなる企業に自社ブランドを取り上げてもらう方法を考えましょう。
サラウンド サウンド プログラムのパートナー契約
自社の所属する業界や、サラウンド サウンド キーワードに対して上位を獲得している企業に応じて、さまざまなタイプの企業をパートナー候補として検討しましょう。
HubSpotのターゲットキーワードでは、主に次のような企業が上位を獲得しています。
- レビューサイト:G2、Capterra、Digital.comなど
- SaaS企業および競合企業:MailchimpやZohoなど
- マーケティング関連ブログ:Neil PatelやContent Marketing Instituteなど
- 大手コンテンツパブリッシャー:ForbesやReadWriteなど
上に挙げたどの企業にも、それぞれが掲げるビジネス目標と目的があります。サラウンド サウンド コンテンツ戦略を成功させる秘訣は、そうした目標を理解したうえで、いかに相手の企業に貢献し、コンテンツの価値を高められるか、その方法を見極めることです。それを実現できれば、結果的に自社にもメリットが生まれます。
依頼したからといって、必ず自社の名前を出してもらえるわけではありません。長期的に協力関係を構築していく姿勢で臨む必要があります。
パートナー候補の企業に貢献できる方法としては次のようなものが考えられます。
- 相手先の製品やコンテンツを宣伝する
- 相手先に代わって、デジタルPR活動を実施する
- 自社ページに相手先の製品やサービスへのリンクを埋め込み、アフィリエイトマーケティングを実施する
双方にメリットのあるコラボレーション方法を考え、パートナーにしたい各企業へのアプローチ戦術がまとまったら、いよいよサラウンド サウンド コンテンツ プログラムの実行に移りましょう。
6. 長期的パートナーシップのためのアプローチを開始する
これがサラウンド サウンド プログラムの成功を左右する重要なステップです。
パートナーを効果的に開拓するには、働きかける対象をよく見極めたうえで、相手に関連する内容でパーソナライズした一連のEメールを適切なタイミングで(社会情勢や経済状況が安定していない現状を踏まえながら)送信して、パートナーシップの重要性を理解してもらい、前向きな反応を引き出すことが必要になります。
先に述べたとおり、ここで目指すのは1回限りのコラボレーションではなく、双方向にメリットのある長期的なパートナーシップを築くことです。そのため、このアプローチの段階ではパートナー候補と活発にやり取りしましょう。協力関係を築くには、まず相手の目標を詳しく理解してから、双方のニーズを満たせる最善策を考え出す必要があります。
注:初めてパートナーを開拓する場合は、ビジネス開拓のための理想的なコールドメールの作成方法に関する記事をご確認ください。また、Eメールによるビジネス開拓について解説した包括的なガイドと、役立つツール一覧も参考になると思います。Eメールによるビジネス開拓には知識と技が必要であり、これを踏まえて適切にアプローチすることが肝心です。
その場限りではない、信頼のおけるパートナーシップを構築できたら、必ずすべてのやり取りを記録し、営業チームやマーケティングチームが必要に応じて見返せるようにしておきます。このとき、お使いのCRMソフトウェアを活用すると簡単です。
HubSpotでは幸い、自社サービスとしてCRMプラットフォームを提供しているため、Eメールシーケンスからプロジェクトの進捗管理、パートナーとのやり取り、ビジネス開拓の進捗レポートまで、すべてをこのCRM上で管理できます。
Google データポータルのダッシュボードで露出度の推移を管理しつつ、各パートナーシップの進展状況や、当社について言及しているページ数をHubSpot CRMで追跡管理しています。
サラウンド サウンド戦略を成功させる秘訣は?
消費者の購買行動の変化に適応できるよう、マーケティングも進化させる必要があります。その一環として、2021年以降にサラウンドサウンド戦略に取り組むことをぜひご検討ください。この戦略のコンセプトはシンプルですが、実行にあたって課題が出てくることもあるでしょう。
皆さんが今後このプログラムを企画されるときに、詳細な手順を解説した今回の連載がお役に立つことを願っています。プログラムの始め方を簡単にまとめておきます。
- まず自社の製品やサービスと関連の深いキーワードのリストを作成する
- 各キーワードの露出度と改善可能性を算出する
- 改善可能性に基づいて、優先的に働きかけるべきパートナー候補を判断する
- 各パートナー候補へのアプローチ方法を検討し、メッセージを作成する
- キックオフミーティングの予定を立て、パートナーの優先事項と目標を理解する
- パートナーとのやり取りを(CRMで)継続的に管理する
- プログラムの成果を測定する
- パートナーや関係者と定期的にコミュニケーションを図る
この記事では、サラウンドサウンド戦略の実施方法を詳しく説明しました。次回のパート3では、HubSpotのプログラムの成果をご紹介すると共に、その成果達成に貢献した社内ツールの開発方法を技術面から詳細に解説します。
本連載のパート1では、サラウンドサウンド戦略の誕生の舞台裏について説明していますので、そちらもぜひご覧ください。