部下育成には、さまざまなノウハウがあります。ポジションや職種によって部下に身につけて欲しい能力も異なるため、育成方法に悩むこともあるでしょう。ノウハウを知ることは重要ですが、その前に部下育成の目的や重要性、考え方、マネジメントとの違いといった基本を理解しておく必要があります。
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本記事では、部下育成の基本的な考え方や企業が抱えている課題などを網羅的に解説します。記事後半では、部下育成で押さえておくべきポイントや注意点、具体的な育成手法も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
部下育成とは?
部下育成とは、上司やリーダーが主体となり、部下のスキルアップやキャリア形成を支援するプロセスのことです。業務内容のレクチャーだけでなく、モチベーション管理やスキルアップの機会提供など、部下育成に含まれる内容は多岐にわたります。
部下育成について理解を深めるために、重要性や実施にあたって大切な考え方を見ていきましょう。
部下育成の重要性
部下育成が重要となる大きな理由は、部下のスキルや能力を向上させることが企業の成長に直結するためです。仕組みが整っていないと組織全体の成長を見込むことが難しくなり、長期的に見て企業の競争力低下を招く可能性があるでしょう。
成果をあげて企業目標に貢献できる部下を育成することで、組織力の向上につながります。
また、近年は少子高齢化の影響で若手人材の採用が難しくなっているのが現状です。そのため、採用した人材を効果的に育成し、企業成長に貢献してもらうことが重要となります。
部下育成で大切な考え方
部下育成で大切なのは、本人の学ぶ姿勢やプロセスを支援し、信頼関係を築くことです。
「育成」という言葉から、上司が部下に対して一方的に指導するイメージを持つかもしれませんが、部下育成の本質は、「部下の成長を支援すること」にあります。この視点が欠けると、部下との間に本当の意味での信頼関係が築けません。
積極的にコミュニケーションを取り、サポートする姿勢を見せることが重要です。
企業が抱える部下育成の課題
ここでは、企業が抱える部下育成のよくある課題を紹介します。
- 部下育成のノウハウがない
- リソースや予算をさけない
- 管理職のマネジメント能力が不足している
課題別に解決方法も解説しますので、自社の状況と照らし合わせながらご覧ください。
部下育成のノウハウがない
管理職や上層部が、そもそも部下育成に関するノウハウを持っていないケースはよくあります。
管理職や上層部の人材は、仕事でそれなりに成果を残してきたからこそ今のポジションに就いています。しかし、プレイヤーとして業績を上げることと、部下を適切に育成できることは別問題です。
管理職や上層部の人材が部下育成のノウハウや実施方法を理解していないと、自らの経験のみをもとに教育するアプローチを取ってしまいます。その結果、部下の特性や能力に合わない育成が実施される可能性があるでしょう。
外部の教育プログラムを取り入れたり、研修やセミナーへの参加を促したりして、部下育成を行う側の人材を育てるための取り組みを行うことも重要です。
リソースや予算をさけない
多くの企業では、上司が業務に追われていて部下育成にリソースをさけないのが現状です。特に繁忙期では通常業務に時間を取られ、部下育成の優先度が下がってしまうでしょう。
こうした状況下でも、創意工夫を持って部下育成にあたることは可能です。例えば、1on1のためにまとまった時間を取ることは難しくても、部下にちょっとしたフィードバックをすることはできます。コミュニケーションの密度ではなく、頻度を増やすことを考えてみるのも一案です。
社内でリソースをさけない場合は、外部に委託する方法もありますが、予算の都合で難しいこともあるでしょう。その場合は、無料のオンラインコースや社内セミナーを実施する方法があります。自社の現状を整理し、継続可能な方法で部下育成を行うことも重要です。
管理職のマネジメント能力が不足している
管理職のマネジメント能力が不足している点も、企業の部下育成における課題です。マネジメントの定義については、さまざまな解釈がありますが、企業が持つモノ・ヒト・カネを有効活用して企業の成長につなげることが基本的な概念といえます。そのために必要なコミュニケーション能力や意思決定力、状況分析の能力などの総称がマネジメント能力です。
管理職は、仕事ができるように部下を「育成」する能力に加えて、マネジメント能力も求められます。部下一人ひとりの得意分野や能力を見極めて育成し、適切な人材配置を行うことで、業務効率化や売上の向上といった成果が期待できるでしょう。部下のモチベーションを管理することも管理職の仕事の一環です。マネジメント能力が不足している管理職が率いる部署は、一部の優秀な人材に業務が偏るなど、問題が生じやすくなります。
マネジメント能力の向上は、管理職に任せるのではなく、会社全体の課題として取り組んでいくことが重要です。自社にマネジメント人材の育成ノウハウがない場合は、管理職に特化した外部の研修を活用すると良いでしょう。さまざまな業界の管理職が参加する研修であれば、ディスカッションなどを通じた深い学びが期待できます。
部下育成の方法
部下育成は、次のステップに沿って進めると効果的です。
- 目的と目標を共有する
- 部下の現状を評価する
- 実際に仕事を任せてフォローする
- フィードバックする
それぞれのステップのポイントを詳しく見ていきましょう。
1. 目的と目標を共有する
まずは、部下育成を行う目的と、達成したい目標を関係者間で共有します。
目的がはっきりしないまま育成にあたると方向性を見失いやすくなるだけでなく、成果も見えません。部下育成を行うつもりが、かえってモチベーションの低下を引き起こす可能性もあります。個々のスキルや能力の向上、ひいては企業成長につながるように、目的と目標をしっかりと定義しましょう。上司と部下が共通の目標に向けて協力すれば、チーム全体の一体感が高まる効果も期待できます。
また、上司が設定した目標に受け身で取り組むのではなく、部下自身が適切な目標を設定できるように上司が支援していくことが大切です。
2. 部下の現状を評価する
目的と目標を共有したあとに重要になるのが、上司が部下の現状をどれだけ把握できているかという点です。部下を適切に評価できていないと、具体的に身につけさせたいスキルや能力、効果的な育成方法が判断できません。
部下の現状を詳しく把握するためには、経験・能力・やる気の3つの項目で評価すると効果的です。能力・やる気を評価するのは、状況によって適切な育成方法が異なるためです。次の4象限に分けて育成方法を変えましょう。
- やる気があって能力も高い:委任する
- やる気はあるが能力は低い:指導する
- やる気はないが能力は高い:指示する
- やる気がなく能力も低い:命令する
また、新入社員と中途採用の社員、さらには経験を積んだ既存の社員とでは、知識のレベルがそれぞれ異なるため、アプローチを変える必要があります。
経験の少ない新入社員はマンツーマンで丁寧に指導したり、細かくフォローアップしたりすることが重要です。中途採用の社員や既存の社員には、セミナーや研修を通じて専門的な知識を効率的に身につけてもらうと良いでしょう。
3. 実際に仕事を任せてフォローする
続いては、部下に仕事を任せ、必要に応じてフォローするプロセスです。
上司が指示を出しすぎてしまうと、部下が自ら思考する機会を奪ってしまうため、あくまでもサポート役に徹する姿勢が重要です。かといって放任するのではなく、まずは部下に業務の進め方やトラブルが発生した場合の対応方法などの手本を見せます。そして、部下自身が具体的な行動指針を立てられるようになるまで支援しましょう。
4. フィードバックする
部下の仕事について、上司が定期的にフィードバックを行う機会も設けましょう。
プロセスを評価せず結果のみで判断すると、一生懸命取り組んだ部下のモチベーションが低下する恐れもあります。結果だけでなく、そこに行き着くまでのプロセスもしっかり評価し、次につながるアドバイスをすることが重要です。
プロセスを知ることで、適切なフィードバックにつなげる効果も期待できます。
部下育成で押さえておくべきポイント
ここでは、部下育成で押さえておきたいポイントを紹介します。
- 積極的にコミュニケーションを取る
- 段階を踏んで教育を実施する
- プロセスも評価する
- 育成計画を策定して進める
積極的にコミュニケーションを取る
部下育成では、部下と積極的にコミュニケーションを取り、対等な関係を築くことが欠かせません。それにより、部下が相談しやすくなり、本音でコミュニケーションが取れるようになります。
上司自身も自分の業務があるため、コミュニケーションを逐一取ることは難しいケースもあるでしょう。その場合でも、1日のなかで進捗確認をするなどのルールを決めて、部下の現状や悩みを引き出していくことが重要です。
段階を踏んで教育を実施する
部下の成長段階を把握し、現状に応じて育成方法を調整することも重要です。
新入社員が、ある程度仕事にも慣れてきて、一人で業務を遂行できるようになれば、付きっきりの指導から対話を通じて気づきを促すコーチングのようなアプローチに切り替えます。それにより、部下の考える力が養われるでしょう。
部下の段階に応じた育成方法を採用することで、より成長を促す効果が期待できます。例として、営業がスキルを十分に獲得するためのプロセスを紹介します。
- 知識の習得:新しいスキルの概念を理解する
- 知識の定着:学んだ内容の復習したり、知識の定着度を上司が質問やアンケートで確認したりして、学んだ知識を持続させるためのアプローチを行う
- スキルの開発:ロールプレイの実施などを通じて演習とフィードバックを行う
- スキルの実践:実際の業務にスキルを適用して実践する
- スキルの習熟:上司がコーチングしながら時間をかけてスキルを磨く
プロセスを意識することで、部下が成長のためのステップを正しく踏めるようになるでしょう。
プロセスも評価する
仕事である以上、結果を求めることは必要ですが、部下育成では課題解決に向かうプロセスや成長にも目を向けることが重要です。部下が完璧に近い形で業務を遂行しても、さまざまな外部要因が絡み、結果につながらないこともあります。そこで結果だけを追求すると、目標を達成できなかった場合にモチベーションが低下してしまいます。
成果がすぐに現れない場合でも、プロセスに焦点をあて、そこでの成長や努力を評価していくことが、さらなる成長のきっかけやモチベーションアップにつながるでしょう。
育成計画を策定して進める
部下育成に取り組む際は、育成計画を策定しましょう。育成が場当たり的なものになると、指導を受ける部下の混乱を招く可能性があるためです。目標や施策、評価方法、スケジュールまでを、包括的かつ具体的にプランに落とし込んでください。
また、育成計画を策定する際には、経営戦略を踏まえたものにすることが大切です。経営戦略の実行に必要な人材の育成を念頭に置くことで、企業の持続的な成長にもつながるでしょう。ITエンジニア職や営業職など、職種によって異なる人材育成の手法構築も期待できます。
部下育成における注意点・避けたいこと
ここでは、部下育成における注意点や避けたいことを解説します。
- 成長につながらない仕事ばかりを任せる
- 高圧的な態度で接する
- 指示が多い
- 短期の成果だけ見て断念してしまう
成長につながらない仕事ばかりを任せる
成長につながらない簡単な仕事ばかりを任せると、部下は「自分は期待されていない」と感じてしまうでしょう。その結果、部下の仕事に対するモチベーションが低下し、育成も頓挫してしまう可能性があります。
過去に経験したことのある業務の繰り返しでは、トラブルへの対応力が磨かれないため、成長は見込めません。失敗することも想定したうえで新たな仕事を任せ、経験を積ませる覚悟が求められます。
高圧的な態度で接する
「育成」という言葉から、トップダウン式にものごとを決めてそれを遂行させるものだと認識している方もいるでしょう。しかし、感情的で高圧的な態度は避けるべきです。こうした態度は部下に恐怖感を与えるため、主体性が失われ、指示待ち状態になってしまう可能性があります。
また、パワーハラスメントとみなされるリスクが高く、社会的信用を失いかねません。対等な関係を築き、自分の考えを押し付けすぎないように注意する必要があります。
指示が多い
業務上の指示を逐一出し、その通りに動いてもらう方法は、業務にまだ慣れていない部下が一定の成果を上げるうえでは効果的です。しかし、育成の観点からは部下の自律性や主体性を奪うことになるため、注意しなければなりません。
指示に頼りすぎると、部下が自分で考えて行動する機会が減ります。その結果、上司の指示なしでは業務を遂行できなくなってしまうことがあるでしょう。
簡単に答えや解決策を提供するのではなく、まずは部下に考えさせ、必要に応じてともに解決策を導き出す姿勢が重要です。
短期の成果だけ見て断念してしまう
部下育成は一朝一夕で結果が出るものではなく、中長期的な目線が必要です。
短期的な成果がなかなか出ないからといって、上司が部下を見限ったり、育成を放棄したりしてしまうことがないようにしましょう。育成の進捗を見ながら、適宜計画の見直しやアプローチの調整をしつつ、粘り強い姿勢で向き合い続けることが大切です。
上司の能力や経験が不足していることにより、部下育成が思うように進まないことも考えられます。上司自身も学ぶ姿勢を持ち、PDCAを回しながら部下と一緒に成長していくようなイメージを持ちましょう。
部下育成に活用できる具体的手法
ここからは、部下育成に活用できる具体的な手法を4つご紹介します。
- OJT
- OFF-JT
- コーチング
- 1on1ミーティング
それぞれの手法の概要やポイントを見ていきましょう。
OJT
OJT(On-The-Job Training)とは、熟練の先輩社員や上司が実務を通してスキルや知識を指導する育成方法です。
指導者のスキルや経験、技量に効果が影響されやすいところには注意する必要がありますが、実践的なノウハウを伝授できる点がメリットです。また、社内コミュニケーションを活性化できるため、上司と部下の良好な関係を築くことにもつながります。
OFF-JT
OFF-JT(Off-the-Job Training)とは、セミナーや合同研修、e-ラーニングなど、実務から離れて実施される育成方法です。新入社員向けに実施されるビジネスマナー講座や管理職向けのハラスメント防止研修、情報リテラシー研修、中堅社員対象のキャリアアップ研修などが具体例にあげられます。
コストはかかるものの、業務に必要なスキルや知識を集中的に身につけられる点がメリットです。通常業務の合間を縫っての指導が困難な場合は、OFF-JTを検討してみましょう。
コーチング
コーチング(Coaching)は、部下の主体性や自発性を引き出し、可能性や能力を最大限に高めるための育成手法です。部下の現状や悩み、これからの展望を傾聴し、具体的な行動プランを導き出します。
コーチングを実施するにあたっては、上司にも一定のスキルや知識が求められますが、部下のモチベーションを高めることができ、本質的な成長を見込めるでしょう。
コーチングの代表的な手法として、GROWモデルがあります。
- G:GOAL(目標設定)
- R:REALITY・RESOURCE(現状の把握)
- O:OPTIONS(選択肢の検討)
- W:WILL(意思の確認)
こうしたフレームワークを活用しながら、コーチングに取り組んでみましょう。
1on1ミーティング
1on1ミーティングでは、上司と部下が1対1でコミュニケーションを取ります。
コーチングの成功の鍵を握るのは、普段から1on1ミーティングを実施し、部下の現状や悩みを把握しておくことです。1週間・1カ月ごとなど、間隔は自由ですが、定期的に1on1ミーティングを実施し、その期間中の出来事を振り返りましょう。その期間内で最も良かった出来事やプライベートのこと、仕事のことなどをざっくばらんに話し合い、コミュニケーションを深めることが重要です。
1on1ミーティングで話した内容が、企業経営に影響する可能性もあるため、文書化して記録を取っておきましょう。新たに見つかった課題とその改善策もあわせて記録して、次の目標と対策を立てると効果的です。
部下の育て方を押さえ、組織力を向上させよう
部下のスキルや能力を向上させることは企業の成長に直結するため、優先度が高い課題です。
部下育成では、目的と目標を共有したり、積極的にコミュニケーションを取ったりする姿勢を重視しましょう。上司が部下を一方的に指導するのではなく、信頼関係のもとに本人の学ぶ姿勢やプロセスをサポートして、「部下の成長を支援すること」が大切です。
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