「これからの時代はインサイト営業が不可欠」
日々新たな営業手法を模索しているビジネスパーソンであれば、こんな話を耳にしたことがあるでしょう。
インターネットの普及に伴って情報が溢れる現代。消費者は自らが持つ課題や悩みに対する解決策を、インターネットを通じて自分自身で見つけられるようになりました。そのため、顕在化した課題、つまり、見込み客がすでに認識している課題や悩みを解決する従来型のソリューション営業は成果が出にくくなり、その代わりに、見込み客が気づいていない潜在的な悩みに対してアプローチするインサイト営業に注目が集まっています。
すでに世界的に有名な企業もインサイト営業を採り入れることで、新たな価値の創出や顧客満足度の向上を実現しています。
本記事では、新たな営業手法として注目されているインサイト営業のメリットや手法、ソリューション営業との違いについて、具体的な事例を交えて解説します。インサイト営業の特性を正しく理解することで、より見込み客の本質的な悩みに寄り添った営業活動が可能になります。
インサイト営業は、営業に携わっている方だけではなく、マーケティング部の方にも知っておいて欲しい考え方です。ぜひ最後までご覧ください。
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インサイト営業とは
インサイト営業とは、見込み客の潜在的な課題や悩みを発見し、それに対する解決策を提案する営業手法のことです。
インサイト営業が注目されるようになった背景には、インターネットの普及によりユーザーのニーズが見えやすくなってきたことや、ICT(情報通信技術)の進歩が挙げられます。多くの人々は、何かしら課題を感じたり、購入に迷った際、ウェブ検索して情報を収集します。
特にB2B領域では、営業担当者と商談する前にある程度情報収集する方が増えています。自分自身が認識している課題や悩みに対して自ら問題解決ができるようになったため、わざわざ営業担当者との時間を割く必要性が薄れているのです。
一方営業担当者も、そのような顧客側の変化により、自社にとって都合のいいセールストークの展開や、闇雲なテレアポ・訪問営業では成果を上げることが難しい状況に置かれています。
HubSpot Japanが2021年に日本企業を対象に行った意識調査で、買い手に対して、「どのような営業担当者が誠意があると思うか」とたずねたところ、「社内でも気づいていない課題を発見し、解決策を提案してくれる」(33.7%)が、「足を運び、対面で話してくれる」(23.9%)を上回っています。
このように、営業担当者はこれまで以上に、見込み客との信頼関係構築に努めつつ、相手のためにできることを考え抜き、見込み客が気づいていない課題を発見することが求められています。
なお、2023年2月に公開された上記の調査の最新版では、買い手がビジネスシーンにおいてどのような印象を重視するかという質問に対し、「信頼できる」ことが2年連続で1位になるなど、営業活動に関する多くの興味深い結果が出ています。気になる方は、あわせてチェックしてみてください。
ソリューション営業との違い
多くの企業が取り組んできたソリューション営業は、見込み客の顕在化した課題(ニーズ)に対して、自社の商品・サービスを用いた課題解決策を提案する手法です。ソリューション営業の場合は、同業他社と比較して自社の優位性を示すことがセールス上のポイントになります。
インサイト営業もソリューション営業も、見込み客の悩み・課題を解決するという本質的な部分は共通しています。しかし、自らの課題を認識している見込み客に商品やサービスを提案する「ソリューション営業」と、見込み客が自ら認識していない潜在的な課題を解決する「インサイト営業」では、アプローチ方法が大きく異なります。
業界やビジネス慣習によっては、従来型のソリューション営業を採り入れた方がいい場合もあります。具体的な例の一つが、人材業界です。運送業界や介護業界は人材不足という課題が顕在化していますが、解決に至らないケースが多いため、常に新しい採用手法が求められます。
インサイト営業を実践するメリット
インサイト営業には大きく分けて2つのメリットがあります。
- 優良顧客の醸成
- 受注率の向上
優良顧客の醸成
インサイト営業では、積極的に自社の商品やサービスを売り込むことではなく、見込み客・既存顧客との信頼関係構築に重きを置きます。顧客自身も気づいていない課題を探り当てるためには、より深いレベルでの顧客理解やヒアリングが必要なためです。
営業する側・営業を受ける側という垣根を越え、顧客に溶け込むように接することで、結果として優良顧客の育成・醸成に繋がります。
受注率の向上
インサイト営業は、見込み客・既存顧客の真の課題を見抜いた上で解決手法の提案を行うため、成約に繋がりやすいことが大きなメリットです。
顧客が既に認識している顕在的課題を解決する従来のソリューション営業は、同業他社がひしめき合うレッドオーシャンになりやすく、価格競争に陥りがちです。一方、インサイト営業の場合は、ライバル不在の状態で提案に持ち込めるため、受注に繋がりやすくなります。
そもそも消費者は、営業が売りたいものを売りつけられるよりも、自分でも気づかなかった課題に対して解決策を提案されたいもの。自分たちと真剣に向き合ってくれる営業パーソンと契約したいと考えています。
上記にてご紹介した「日本の営業に関する意識・実態調査2023」では、どのような印象を持つ会社から商品やサービスを買いたいかという質問に対し、買い手は「信頼できること」を重視していることが分かりました。この回答は品質や価格よりも上であり、信頼を重視することが有効であると分かります。
インサイト営業で押さえておくべき4つのポイント
インサイト営業で押さえておくべきポイントは次の4つです。これらの4つは買い手に好まれる「信頼できる企業」につながる要素なので、ぜひチェックしてください。
- 自社の商品やサービスを熟知する
- ヒアリングを徹底する
- 社会情勢の変化や顧客情報を常に把握する
- 常識を疑う
自社の商品やサービスを熟知する
インサイト営業では、見込み客との深い信頼関係やヒアリングを通して新たに課題を見つけ、自社の商品やサービスの提案に繋げることが求められます。
そもそも自社の商品やサービスへの理解が足りなければ、解決策やアイデアは思いつきません。また、自社のことだけではなく、業界知識・競合情報・市場の変化なども常に把握しておくべきです。豊富な専門知識が土台にあることで、課題を特定する力が養われます。
場合によっては、自社の商品やサービスを顧客が望む形に仕様を変更するといったように、社内に対する働きかけなど、柔軟な発想や対応力も必要でしょう。
ヒアリングを徹底する
営業担当者にとって、ヒアリング力は顧客との信頼関係を構築する上で重要なスキルです。特にインサイト営業の場合は、顧客すらも気づいていない課題を特定することが求められるため、表層的な質問だけでは課題特定にいたりません。
課題が特定されないうちに自社の商品・サービスを提案したところで、見込み客は「なぜそれが自分たちに必要なのかわからない」「売りつけられている」と感じる可能性もあります。
大切なことは顧客自身が課題を認識することです。そのために、営業担当者はあらゆる角度から質問を投げかけることを意識すると良いでしょう。質問の中にヒントとなるような情報を盛り込むこともポイントです。
適切な質問をするためのコツを詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
社会情勢の変化や顧客情報を常に把握する
インサイト営業はヒアリングが重要と述べましたが、効果的な質問を投げかけるためには、直接的な質問だけではなく、間接的な質問も有効です。間接的な質問を行うためには、社会情勢の変化や、市場の変化など顧客にまつわる情報を常に把握することが重要です。
例えば、次のような抽象度が高い質問を投げかけることで、顧客が新たな課題に気づくことがあります。
- 少子高齢化にどのように対応していくか
- IoTの進展は業界・自社にとってどのような影響があるか
さらに「他の企業ではこのような取り組みを始めているところも増えていますが、御社ではどのようにお考えでしょうか?」といったように、情報提供に加えた質問をすることで、顧客が新たな課題を考えるきっかけにもなります。
常識を疑う
インサイト営業として重要な要素は、顧客すらも気づいていない課題を探るヒアリング力です。そのような良質なヒアリング・質問を行うためには、常日頃から「なぜ?」「どうして?」と疑問を持つことが求められます。
得てして営業パーソンは「お客様が言うことなので間違いないだろう」「きっと〇〇に違いない」といったように、相手の言うことを鵜呑みにしたり、過去の経験則から思い込みが入ったりする傾向があります。特に経験豊富なベテラン営業ほどその傾向が強くなります。
常日頃から常識を疑う思考習慣を身につけることで、対話の中で「なぜそうなんだろう?」とアンテナが立つようになります。そうした思考習慣を身につけるためには、自分と違うタイプの人と接する機会を増やしたり、異文化にふれることが大切です。
毎日同じことの繰り返しの中では、新しい発想や気付きは生まれにくいもの。イノベーションは異なるもの同士の掛け合わせによって生み出されるのです。
インサイト営業の成功事例
ここまでインサイト営業の概要やメリットについて紹介してきましたが、実際にインサイト営業はどのような価値をもたらしているのでしょうか。本項ではインサイト営業に成功した企業事例を3つ紹介します。
IKEA
北欧家具・インテリア雑貨小売のIKEA(イケア)では、男性客が店内で自由に過ごせるように「MANLAND」を設置しました。ここには、ピンボール・スポーツ観戦用のテレビなど、が配置されています。
大型店舗のIKEAは平均滞在時間が長く、大型家具の購入も多いことから、男性を含めたファミリー層が中心です。しかし、男性客は長時間にわたる買い物に退屈してしまい、IKEAへ行くことにためらいを感じていることがわかりました。
そこで、男性客が買い物のストレスを軽減する施策としてMANLANDを設置。その結果、ファミリー層の来店数アップに成功しました。
大戸屋
和食チェーンの大戸屋は、ヘルシーで健康的な定食メニューを提供しています。同社は、女性客を取り込むために、飲食店を利用する女性の潜在的なニーズを徹底的に分析しました。
その結果、女性客が「1人で定食屋に入るところを他の人に見られたくない」と考えていることを突き止め、女性一人でも気兼ねなく入店できるよう、建物の2階以上や地下など、目立ちにくい場所へ店舗を構えました。
こうした出店戦略は当時、飲食業界では常識外れと言われるものでした。しかし大戸屋の見立ては的中し、女性客の集客に成功したのです。
コンビニエンスストア
私たちの生活に密着したコンビニでも、消費者のインサイトを捉えた工夫が採り入れられています。
コンビニの購買点数と顧客数の相関をPOSデータを使って分析したところ、ほとんどの顧客が購入する点数が1〜2点で、購入点数が増えるごとに顧客の割合が減少していることがわかりました。なぜそのような結果になっているか、店舗に出向き店内観察を行ったところ、消費者は両手がふさがっていたため、それ以上商品を手に持てないことがわかったのです。そこで、コンビニ店内に買い物かごを数か所設置したところ、購入点数が増えて売上が伸びました。
インサイトをきちんと分析しなければ、的外れなキャンペーンを行ったり、商品を入れ替えたりと、本質的な問題解決から外れた施策を実行することになってしまいます。
今回ご紹介した事例は、「答えは顧客が持っている」ということを改めて知ることができる好例といえるでしょう。
インサイト営業にはCRM・SFAツールの活用が有効
インターネットの普及により、見込み客の60%は問い合わせ時点で購買の意思決定をしていると言われています。
営業パーソンは、見込み客が購買の意思決定を下す前に、いち早く潜在的なニーズに働きかけなければなりません。インサイト営業で効率的に成果を上げていくためには、ITツールの活用が有効です。「日本の営業に関する意識・実態調査2023」では、日本の法人営業の無駄が金額にして約9,802億円にも上るという結果が出ていますが、ツールを活用することでこの時間を削減できる可能性があります。
例えば、CRM(顧客関係管理)を活用することで、顧客の購買履歴や過去の問い合わせ、対応の履歴といったデータを蓄積できます。さらに、SFA(営業支援システム)も併せて活用することで、案件の進捗状況やアプローチ状況といった営業プロセスの一元管理も可能です。
CRMやSFAを活用し、顧客のデータを自動で収集・蓄積することで効率的に顧客との関係構築が可能になり、潜在的なニーズに気づけるようになります。
手法にとらわれずに顧客の真の課題を追求し続けることが重要
本記事では、インサイト営業のメリットやソリューション営業との違い、具体的な事例を解説しました。
消費者がオンラインで高度な情報収集を実施できるようになったため、顕在化された課題に対する商品やサービス提案だけでは営業活動が立ち行かなくなっていることは事実です。しかし、形だけインサイト営業を採り入れようとしても、思うような成果が得られないことも多いでしょう。
「ソリューション営業は古く、これからの時代はインサイト営業が主流」といわれることもありますが、それぞれの営業手法は特性が異なるため、どちらが正解・不正解というものではありません。
そのため、両者を真逆のものとして考えるのではなく、補完関係にあると捉えることが大切です。最も重要なことは「お客様は何に困っているか?」「自分達は何をもってお客様の悩みを解決できるか?」と、顧客の真の課題を追求し続ける姿勢です。常に顧客の視点で考え抜き、コミュニケーションを一つひとつ緻密に設計し、検証・改善を繰り返すことが今まで以上に求められています。
HubSpotでは顧客情報を一元管理できるCRMとSFAのスムーズな連携を実現しており、インサイトを推測しやすい環境を提供しています。インサイト営業にHubSpotのソフトウェアを取り入れることで、顧客との良好な関係性を構築する手助けとなるでしょう。