「プッシュ型営業を脱却し、プル型営業に切り替えよう」
営業担当者であれば、一度はこうした話を耳にしたことがあるかもしれません。
世の中のデジタル化や新型コロナウイルス感染拡大に伴い、ビジネスシーンは大きな転換期を迎えています。特に営業活動においては、オンライン化が急速に進んだことで、従来のテレアポ・訪問を中心としたプッシュ型営業では立ち行かないケースも少なくありません。
しかし、安易にプル型営業に切り替えるのは時にリスクを伴います。表面的に手法を取り入れるだけでは成果につながりにくいでしょう。
本記事では、営業活動のプル型とプッシュ型の違い、メリット・デメリットを解説します。プッシュ型・プル型の特性を正しく理解することで、自社にとって最適な営業体制の構築が可能です。新たな営業手法を模索中の方はぜひ参考にしてください。
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プル型営業とプッシュ型営業の違いとは?
プル型営業とプッシュ型営業、それぞれの違いを正しく理解すれば、営業手段の選択肢を増やせるでしょう。
1つ理解しておきたいのは、どちらの手法も一長一短あるという点です。特性を理解し状況に応じた使い分けが求められます。
プル (Pull) 型営業とは
プル型営業とは、買い手(顧客側)が情報を自発的に取得して行動を起こし、売り手(提供側)が買い手を引き込む方法のことです。買い手側が売り手側の情報を能動的に見つけて、売り手側はさらなる情報提供により、買い手の興味・関心を高めながら、段階的に引き込んでいくことで最終的な購入に繋げていきます。
買い手の心情を無視した一方通行な押し売りや、数重視のテレアポ・訪問営業・ダイレクトメール(DM)とは根本的に性質が異なるものであり、顧客からの信頼獲得を意識し、徐々に引き込んでいくことが求められます。
その中でも、まずは買い手に「認知してもらうこと」が重要です。認知拡大のためには、SEO、リスティング広告、SNS活用といった、マーケティング施策が必要です。
ちなみに、プル型は英語の「PULL=引く・引っ張る」に由来しています。
HubSpotでは、プッシュ型営業からプル型営業にシフトしたことで、新規顧客単価が2倍になった事例を紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
プル型営業が注目される理由
プル型営業が昨今ビジネスシーンで主流となっている背景としては、次のような理由が挙げられます。
- インターネットやスマートフォンの普及により、オンラインでサービスを購入できるようになった
- 口コミや他社サービスとの比較検討ができるようになり、その場で契約する必要性がなくなった
- 欲しい情報はいつでも無料で手に入れられるため、時間を作って営業パーソンとの時間を作る必要がなくなった
オンライン化に伴い購買・意思決定プロセスが変化したことにより、わざわざ営業パーソンと連絡を取り合う必要性が少なくなりました。
また、もともと営業パーソンに対し不信感を抱く方も少なくありません。その理由として、例えば
- 顧客の都合を無視した執拗なテレアポ・訪問
- 営業担当者によって異なる対応力
- 売上目的と感じられるような要望を無視した提案
といったことが挙げられます。
それでも、以前は営業パーソンを介してでなければサービスの購入ができなかったこともあり、決済者は多忙な中で合間を縫って、営業パーソンとコミュニケーションを図る必要がありました。
しかしながら、オンライン上でサービスを購入ができ、競合サービスとの比較検討も容易となった現在では、相対的に営業パーソンに会うメリットが薄れています。そのため、サービス提供側は顧客視点に立った「顧客主体の営業活動」へ切り替えが求められています。
プル型営業のメリット&デメリット
プル型はメリットが多いように感じますが、もちろんデメリットもあります。状況によってはプッシュ型の方が効果的な場合もあります。
メリット
プル型営業の主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。
アポイントの獲得率や、その後の成約率が高い
プル型はSNSやオウンドメディアを使って広く情報発信をすることで、興味・関心のある顧客を取り込んでいく手法です。将来的に購買に繋がる見込み顧客が中心となるため、アポイント取得率や成約率が高くなる傾向にあります。
顧客の悩みや課題が見えやすいケースが多い
自社のサービスに興味を持ってもらえているということは、既に何かしらの悩みや課題が顕在化しているケースも少なくありません。
プッシュ型営業の場合は不特定多数に営業を仕掛けていくため、ニーズの有無がわかりません。仮にニーズがあっても、突然掛かってきた営業活動にすぐに悩みを打ち明けるようなことはしないはずです。
その点、プル型の場合はサイト訪問や資料ダウンロードなどで、顧客側になにかしらの意図があると想定できます。例えば、リスティング広告運用のコツを解説した資料をダウンロードされた方に対して、営業担当者が「リスティング広告運用の、どのような点にお困りなのでしょうか」とヒアリングの幅を最初の段階から絞り込めるうえ、前提を共有できているので顧客も自身の課題を伝えやすくなるでしょう。
顧客と良好な関係を築きやすい
プル型は、問い合わせ後に即提案・クロージングをするのではなく、顧客視点に立ち不安の払拭や新しい気付きが得られるような情報提供をし続けることで、深い関係性を築くことが可能です。
本来、営業活動においては買い手にどれだけ信頼してもらえるか重要であり、短期的な売上獲得よりも中長期的に取引回数を増やすことを念頭におかなければなりません。
まさしくプル型は、信頼を醸成するための有効な手段の1つと言えるでしょう。
プル型営業のデメリット
一方で、プル型営業には以下のようなデメリットもあります。
成果が出るまで時間が掛かる場合が多い(即効性がない)
プル型は、ニーズが顕在化していない潜在層まで広くアプローチする手法であるため、具体的なニーズ発生時期が不明瞭であることや、購買に至るまでのプロセスが長期化する可能性があります。
顧客の行動プロセスに合った的確な提案ができず、自社の強みを理解してもらう前に離れてしまうケースも少なくありません。また、せっかく良好な関係を築き上げていたとしても、担当者の異動や退職時に十分な引き継ぎが行われず、関係性がリセットされてしまう可能性もあります。
そのため、属人的な営業活動ではなく、顧客情報を組織として管理していくことが求められます。
実行後の検証・改善立案が難しい
プル型は、あらかじめ見込み客となり得る顧客層を想定し(ターゲティング)、仮説ベースで施策を実行していきます。
つまり、入り口(認知)から出口(購買)までのプロセスで、顧客との接点(タッチポイント)のどこに課題があるか、一つひとつ丁寧に検証・改善を繰り返す必要があるのです。そのため、複数のデータソースをかけ合わせた分析スキルや、分析から仮設を構築する力が求められます。
各施策の目的・目標を達成するためには、実行・検証・改善のサイクルをワンストップで進めることが不可欠であり、成果にコミットするためにも専任で対応する必要があります。
プル型営業の具体例
プル型営業にはどのような手法があるか、具体的な例で解説します。
SEO
検索エンジンで、自社コンテンツの露出を増やしていくための施策です。ユーザーは何かしらの悩みを解決するために検索します。その悩みに応えられる情報を載せたコンテンツを公開し、検索ユーザーに読んでもらい、満足してもらえれば、そこから関係性を構築できる可能性が高くなります。
SNS運用
Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSで、自社の情報発信を続けると、共感・興味を持ってもらえたフォロワーが増えていきます。
つまり「サービスを購入するタイミングではないけど、この会社(サービス)のことは好感が持てる」といった状態を作ることで、信頼関係の構築や認知拡大に繋がります。ただし、過度な商品アピールやキャンペーン告知などは、ユーザーの嫌悪感を高めるので注意が必要です。
リスティング広告
ユーザーが検索したワードによって検索結果画面に自社サービスを表示させる広告手法です。配信エリア・属性・時期などに応じて自由に広告費を調整できます。SEOは検索上位に上がるまでに時間と労力が掛かりますが、リスティングはそれよりも簡単にユーザーにアプローチできることが特徴です。
レビューマーケティング(口コミ)
レビューマーケティングは、サービスを実際に利用したユーザーからの口コミを集めることで、安心感や納得感を与える手法です。買い手は、売り手から売り込まれることを嫌うもの。それよりも、第三者視点での評価の方を見た上で、あくまでも「自分の意思で決めた」という納得感を求めています。そのことから、第三者評価を活かしたレビューマーケティングは有効な手法です。
顧客からの紹介
売り手がいかに理路整然とした提案をしても、信頼関係がなければ買い手の心には響きません。逆に信頼関係がある身近な人からのおすすめであれば、つい購入してしまうもの。そのため、顧客からの紹介は有効な手法です。「あの人のおすすめなので間違いないだろう」という安心感があることで、購買に繋がりやすくなります。
ただし、顧客にとって自社製品が必要性の高いものであることは前提です。悩みを聞いた第三者が、自社製品でその課題が解決できそうと感じた上で紹介してもらうことで、顧客に満足感を与えられ、三者間の信頼関係も強固にできます。
セミナー(オンライン含む)
無料セミナーを開催し、セミナーの最後に自社サービスの紹介に繋げる手法です。目的はあくまでも売り込みではなく、自社サービスの認知拡大です。
セミナーを通じて、抽象的な悩みから具体的な課題に落とし込み、その解決策として自社サービス紹介するといった一連の流れを展開することで、買い手が課題解決に合った最適なサービスを見つけられます。自社サービスが顧客の悩みに合致していれば購入へ繋がるでしょう。
展示会(オンライン含む)
展示会は、自社サービスの認知拡大に有効な手法です。例えば「IT製品展示会」であれば、来場者は最新のITシステムに興味があり、ITシステム導入でビジネスを成長させたいというニーズがあるため、興味・関心が得やすいでしょう。
さらに直接会話することで、顧客が抱えている悩みを具体的に知ることや、自社サービスに対する評価・感想も得やすいといったメリットがあります。サンプルを提供することで名刺獲得もできるため、その後の継続的なフォローにより購買に繋げることが可能です。
メルマガ
メルマガは自社と過去に繋がりがある見込み客のアドレスに対して、直接アプローチが可能です。テレアポ・訪問営業とは異なり、顧客のタイミングで内容を見ることができます。
ただし、売り込みをかけるような内容や執拗な配信は嫌悪感をもたらせ、逆効果になりかねません。自社視点での情報発信ではなく「顧客がどのような情報を求めているか」といった顧客基点に立った上で内容を検討し、定期的に配信を継続していくことが大切です。
プル型営業を実践するうえで重要な考え方
企業の営業活動において、営業方針を変えることは容易ではありません。ましてや、従来テレアポや訪問を営業活動の主体としてきた企業からすれば、今までの価値観を180度変える覚悟が必要です。
まず、プル型営業を導入する上で大切なことは、プル型営業とプッシュ型営業のバランスをしっかり取ることです。
「プッシュ型営業は時代に合わないから、プル型営業に全面的に切り替える」
「営業生産性を高めるために、プル型を導入し営業活動を見える化する」
といったように、営業スタイルを完全に切り替える必要はありません。
どちらの手法にもメリット・デメリットがあり、両者は補完関係にあるため、目的・状況に応じて使い分ける必要があります。
また、プル型営業を組織内に浸透させるためには、専門部署を立ち上げると共に、責任者の配置が必要です。プッシュ型営業は属人的になりがちですが、プル型営業の場合は密接な情報共有や効果検証が欠かせません。
例えば、SEOコンテンツの検索順位の把握、リスティング広告のCTR・CVR検証など、最終的な目標(KGI)に対して、各施策の指標(KPI)がどのように推移しているかを部門一体となって取り組む必要があります。
つまり、プル型営業は手法だけを真似ても上手くいかないことが多いため、事前の戦略が必要です。そこで議論すべきは「どの手法を導入すべきか」ではなく「顧客からどう選ばれたいか」「顧客に役立つこととして何を提供できるか」を考えることです。
顧客基点で考えることで、段階的に顧客の興味・関心を高め、最終的な購買へと繋がります。このようなビジネス手法を「インバウンドマーケティング」と呼びます。
当社HubSpotでは、インバウンドを実践する手法として、「フライホイール」を取り入れています。
インバウンド手法とは、消費者、プロスペクト、顧客との間に有意義で長続きする関係を作り上げ、組織の成長につなげる手法です。インバウンド手法で大切なことは、相手の意図を汲み取り、支援を提供しつつ、バイヤージャーニーのあらゆる段階を共に歩みながら目的の達成をサポートすることです。
フライホイールとは、優れた顧客体験を最優先で提供することによって組織に勢いがもたらされる様子を表す、HubSpotが採用するビジネスモデルです。
- Attract(惹きつける):有益なコンテンツや対話を通じてオーディエンスを惹きつけ、頼りになるアドバイザーとしての自社の存在感を高めます
- Engage(信頼関係を築く):相手の課題や目標に合わせた情報やソリューションの提供によって、取引の成約の可能性を高めます。
- Delight(満足させる):購入した製品やサービスを使って顧客が目標を達成できるように、必要な支援を行います。
これら3つの戦略に注力することで、フライホイールを回転させる推進力を生むことができます。
手法にとらわれずに、顧客からの選ばれ方を追求しよう
デジタルシフトが急速に進んだことにより、従来のプッシュ型営業だけでは立ち行かなくなっていることは事実です。しかし、形だけプル型営業に変えようとしても思うような成果が得られないことも多いでしょう。
テレアポや訪問といった営業活動のすべてが無駄かといえば、もちろんそんなことはありません。「プッシュ型かプル型か」という二元論で語るのではなく、追求すべきは「どうすれば顧客に喜んでもらえるか」「顧客から選ばれ続けるためには何をすべきか」です。つまり、常に顧客基点で考え抜くことが重要なのです。
顧客とのあらゆる接点(タッチポイント)において、顧客にとってメリットのあるものになっているか、一つひとつ緻密に設計し、検証・改善を繰り返していきましょう。
顧客との良好な関係性を構築して長期的な成長を実現するために、顧客関係管理のプラットフォームを活用してフライホイールを回し続けることが大切です。本記事と合わせて、当社HubSpotのインバウンドマーケティングやフライホイールの記事も参考にしてください。