カスタマーサポート部門による問い合わせ対応の品質は、顧客満足度を決める重要な要因のひとつです。対応に満足していただければ良好な関係構築に繋がり、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上が期待できます。
別の言い方をすれば、カスタマーサポートは商品購入後のアフターフォローを通じて将来の収益に貢献できる、ということです。
カスタマーサポートの品質を向上するために最初にすべきことは、サポート品質を改善する際に必要なKPI(重要業績評価指標)を設定することです。本記事では、カスタマーサポートの代表的なKPIとカスタマーサポート運用時の注意点をご紹介します。
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KPIの定義を確認しよう
まずは、KPIの定義を確認しておきましょう。
KPIは、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれ、最終的な目標に到達するために設定する中間指標を指します。一般的に、達成しているかどうかを明確に判断するため定量的な指標を設定します。
通常KPIを設定する際は、最終目標を達成するために複数の項目を設定します。
では、カスタマーサポートにおけるKPIを考えてみましょう。最終目標を「今年度末のアンケートで顧客満足度を10ポイント向上する」と設定したと仮定して、カスタマーサポート部門でのKPIを設定してみます。
カスタマーサポートに相談をした顧客は「電話をしてつながるまで待たされた」「迅速な対応だった」「問題が解決できた」などさまざまな経験をします。それぞれの体験が指標になるようにKPIを検討します。
【KPIの例】
- 顧客の電話問い合わせが受付窓口につながるまでの待ち時間 →平均応答速度
- 顧客が相談してから解決するまでの時間 →課題解決時間
- 問い合わせ数に対して問題が解決できた件数の比率→課題解決率
KPIを決定する際は、上記に挙げたような基本的なKPIを踏まえつつ、自社の商品やサービス、顧客層、経営方針などを考慮して検討します。
カスタマーサポートで重視するべき6つのKPI
ここからはカスタマーサポートで重視したい6つのKPIを紹介します。
- 課題解決率
- 課題解決時間
- 一次応答時間
- 処理時間
- リピート率(継続率)
- 応答率
カスタマーサポートに関するKPIは、今回説明する6つ以外にもさまざまなKPIがあります。
今回は、基本的なKPIを解説してきます。それらを理解した上で、自社が重視するべき指標を検討してみましょう。
1. 課題解決率
カスタマーサポート部門において、顧客の問い合わせの解決は重要なミッションです。そのため、課題解決率は重要なKPIの1つと言えます。
問い合わせ数に対して解決できた件数の比率が課題解決率です。課題解決率とそれに関連する2つのKPIをご紹介します。
KPI | 内容 |
---|---|
課題解決率 | 問い合わせ回数に関わらず、問い合わせ数に対して最終的に解決できた案件の比率 |
ワンコール解決率 | 関連部門への転送やコールバックなど再度の連絡があったとしても、1案件としての問い合わせで解決した案件の比率 |
一次解決率 | 関連部門への転送やコールバックなど再度の連絡がなく、顧客からの1回のコンタクトで解決した案件の比率 |
一般的に、顧客満足度向上への寄与は「一次解決率>ワンコール解決率>課題解決率」となります。
しかし単純に「一次解決率」が高ければ良い訳ではありません。例えば、問い合わせ内容が単純な質問が多かっただけかもしれません。その場合、FAQサイトの充実など新たな課題を含んでいると考えられます。
すべてのKPIに言えることですが、KPI単体で判断せずに他のKPIやサポート現場の実態を踏まえて総合的に分析するよう気をつけましょう。
2. 課題解決時間
最終的に課題解決ができても、解決までに顧客を長期間待たせてしまっては顧客満足度の向上につながりにくくなります。つまり「課題解決時間」も重要なKPIのひとつです。
また、課題解決にかかった時間は短い方がいいのですが、同時に「チケットの再オープン率」にも着目する必要があります。
多くのカスタマーサポートツールでは、電話、メール、SNS、チャットなどさまざまなチャネルからの問い合わせを「チケット」の概念で管理します。問い合わせが解決したらチケットのステータスを「解決済み」とします。
解決したと判断したチケットに対して再度問い合わせがあれば、ステータスを再度「オープン」にします。つまり「チケットの再オープン率」が高いということは「解決したつもりだったが、解決できていなかった」こと示します。
「課題解決時間」は追加の課題解決が発生しなくなるまでの時間を計測します。ですが、サポートの現場では、解決の判断が難しいことがあります。KPIを確認する際には解決の判断基準についても留意しましょう。
3. 一次応答時間
顧客からの問い合わせ内容の難易度によっては、直ぐに解決できない場合もあります。その際は、1回目の返信など初回の応答を迅速かつ丁寧に行うことで、顧客に安心感を与えます。そのため「一次応答時間」も重要なKPIです。
初回の応答で解決しない案件が多い場合、一次応答後の「応答回数」や各応答の「平均応答時間」もカスタマーサポートのKPIとして検討します。
4. 処理時間
カスタマーサポート担当者が1回のやりとりにかかる時間です。電話での問い合わせの場合は、通話開始から解決までの時間が処理時間です。平均の処理時間は次の計算式で算出されます。
平均処理時間(AHT) = 平均通話時間(ATT) + 平均後処理時間(ACW)
アルファベット3文字の言葉は、それぞれ以下の略字です。
- AHT:Average Handling Time
- AT:Average Talk Time
- ACW:After Call Work
人件費の観点からみると平均処理時間は短い方がよいですが、顧客満足を阻害してまで短くしてはカスタマーサポートの目的からは逸脱してしまいます。
例えば、平均通話時間が短くなれば丁寧な対応がしにくくなりますし、平均後処理時間を短くすればサポート担当者のストレス増大の要因になります。顧客の最大限の満足度を得られて、サポート担当者に負荷のかかりすぎない時間をKPIとして設定します。
5. リピート率(継続率)
一般的に、既存の顧客を維持するより、新規顧客を獲得する方がよりコストがかかります。また企業の収益力を高めるには顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の向上が重要です。つまり、商品やサービスを購入していただいた顧客と良好な関係を構築することが経営上重要です。そのため「リピート率」は重要なKPIです。
リピート率とは、新規顧客数に対するリピーターの割合を示す指標です。リピート率を出すには期間を設定して計算します。月あたりのリピート率は次の計算式で算出します。
月間リピート率(%) = 月間のリピーター数 ÷ 月間の新規顧客数 × 100
カスタマーサポートの取り組みだけでリピート率が上がる訳ではありませんが、リピート率を決める要因のひとつであることは間違いありません。
6. 応答率
電話での問い合わせの場合には、電話がかかってきた件数(着信数)に対して、オペレーターが応答できた件数の割合です。計算式は次の通りです。
応答率 = 応答件数 ÷ 着信数 × 100
電話問い合わせはサポート窓口になかなかつながらないと、顧客は相談自体を断念するケースがあります。断念される件数が多いと応答率が低くなり、改善が必要になります。
参考までに応答率に関連するKPIを紹介します。
サービスレベル(SL:Service Level)
サービスレベルとは、サービスの提供にかかるスピードや時間のことです。サービスの提供が速いほど、顧客満足度につながるという考え方です。
電話によるカスタマーサポートのサービスは「着信から20秒以内に応答」のように一定時間内にオペレーターが応答した件数の割合を示します。通常の応答率は一定時間内より応答が遅れてもカウントされますが、サービスレベルはカウントされません。
平均応答速度(ASA:Average Speed of Answer)
サービスレベルと関連するKPIに平均応答速度があります。平均応答速度は、電話が着信した瞬間からオペレーターが応答するまでの時間です。つまり、顧客を待たせている時間です。
顧客ロイヤルティも指標化できる
前章では、重視するべき6つのKPIを紹介しました。いずれもサポート業務の改善のためのKPIです。一方、NPSと呼ばれる企業全体の評価を示すKPIが注目されています。
NPSとは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティを数値化したものです。顧客に「企業もしくは商品やサービスを知り合いに薦めたい(薦めたくない)度合い」を数値で回答してもらい、下記の手順でNPSを算出します。
- アンケートを実施し、薦めたい(薦めたくない)度合いを11段階評価(「0」は薦めたくない、「10」は薦めたい)で回答してもらう
- 0~6を批判者、7~8を中立者、9~10を推奨者に分類する
- 「推奨者の割合 - 批判者の割合」でNPSを算出
つまり、NPSは数字が大きいほど評価が高く、批判社の割合が多いとマイナスになることもあります。
なお、NPSと顧客満足度は少し意味合いが違います。NPSは「薦めたい(薦めたくない)」を数値化した指標であり、将来の収益に関連します。一方、顧客満足度は「現在の商品やサービスに満足しているかどうか」であり、NPSと比較すると将来の収益との関連が小さいと考えられます。
ここまで、サポートの実態を示すKPIと企業全体の評価であるKPIを解説しました。さまざまな指標がありますが、NPSをKPIの中心に据えて、NPSを高めるために個別のKPIを設定する考え方がよいと思われます。
NPSに関してより詳しく知りたい方は、こちらのブログ記事をご確認ください。
カスタマーサポートでKPIを設定・運用する際の注意点
最終目標を意識したKPIを設定する際には、最終目標とKPIの関連性を十分検討することが大切です。すべてのKPIを達成すれば、最終目標を達成できるというロジックを明確にしておくことが、業務を遂行するサポート担当者のモチベーション向上につながります。
最終目標とKPIの関連性をすべて説明できればベストですが、一部を推定して検討しなければならないこともあるでしょう。しかし、事前にKPI設定時に立てた仮説の考え方を明確にしておくと、KPI修正時により確実性のあるモデルにできます。
一方、さまざまな施策を行った結果、KPIが未達成になる場合もあり得ます。未達成の場合は、KPIを達成するための改善策を検討することになりますが、場合によってはKPIそのものの妥当性を見直す必要があります。到底達成できないKPIは現場のモチベーションを下げ、改善活動が形骸化してしまうためです。
ビジネスにマッチしたカスタマーサポートのKPIを検討しよう
カスタマーサポートにおいてKPIを設定することにより、カスタマーサポート業務を改善し、将来の収益増大につながる継続的な改善活動が可能です。
本記事ではカスタマーサポートの代表的なKPIを紹介しました。実際にKPIを設定する際には、企業の経営方針やカスタマーサポート部門が受け付けるチャネル、顧客層の属性などを考慮して設定します。
例えば、あえて処理時間を長くしてサポート内容の価値を高める考え方もあります。また「ありがとう」と言われた回数をKPIとして設定することもできます。
ビジネスにマッチしたカスタマーサポートのKPIを検討し、環境の変化に応じて変化させながら最終目標を達成する柔軟な考え方が大切です。