カスタマーサポート部門による問い合わせ対応の品質は、顧客満足度を決める重要な要因のひとつです。
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顧客が対応に満足すれば良好な関係構築につながり、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上が期待できます。カスタマーサポートは、一般的に利益を生まない「コストセンター」に分類されますが、顧客に価値を提供することで営業部門のように利益を生む「プロフィットセンター」として、将来の収益に貢献することも可能です。
カスタマーサポートの品質を向上するために最初にすべきことは、サポート品質を改善する際に必要なKPI(重要業績評価指標)を設定することです。本記事では、カスタマーサポートの代表的なKPIと、カスタマーサポート運用時の注意点を紹介します。
カスタマーサポートにおけるKPIとは
日本語で「重要業績評価指標」と呼ばれるKPIは、最終的な目標に到達するために設定する中間指標です。一般的に、目標を達成しているかどうかを明確に判断するために複数の定量的な指標を設定します。
では、カスタマーサポートにおけるKPIを考えてみましょう。最終目標を「今年度末のアンケートで顧客満足度を10ポイント向上させる」と仮定して、カスタマーサポート部門でのKPIを設定してみます。
カスタマーサポートに相談をした顧客は「電話をしてつながるまで待たされた」「迅速な対応だった」「問題が解決できた」など、さまざまな経験をします。それぞれの体験が指標になるようにKPIを検討します。
【KPIの例】
- 顧客の電話問い合わせが受付窓口につながるまでの待ち時間:平均応答速度(●分)
- 顧客が相談してから解決するまでの時間:課題解決時間(●分)
- 問い合わせ数に対して問題が解決できた件数の比率:課題解決率(●%)
KPIを決定する際は、上のような基本的な指標を踏まえつつ、自社の商品やサービス、顧客層、経営方針などを考慮して検討します。
カスタマーサポートでKPIを設定する目的
カスタマーサポートでKPIが重要なのは、成果を客観的に評価できるためです。KPIを目標として設定することで、やるべきことが明確になります。
仮に目標を達成できなかったとしても、複数の指標の関連性を分析しながら原因を探れるため、より具体的な解決策が見つかります。PDCAのサイクルを回すことで、さらに、理想に近い成果へとつながるでしょう。
KPIはカスタマーサポート全体のマネジメントにも重要な役割を果たします。KPIにもとづいてマネジメントを行うことで、チーム全体のパフォーマンスが底上げされます。
カスタマーサポートで重視したいKPI
カスタマーサポートで用いられる代表的なKPIは次の通りです。
- AHT(平均処理時間)
- 一次応答時間
- 課題解決時間
- 課題解決率
- 応答率
- 自己解決率
- エスカレーション回数
- 顧客満足度
- リピート率(継続率)
各指標の特徴や計算方法を解説します。
1. AHT(平均処理時間)
AHT(Average Handling Time:平均処理時間)とは、1件あたりの問い合わせを完結するまでの平均時間です。「平均通話時間(ATT) + 平均後処理時間(ACW)」で求められます。
電話での受け答えの時間だけでなく、その後のデータ入力や報告などの後処理の時間も含まれてるのが特徴で、カスタマーサポートにおける各従業員の業務効率性を的確に表す重要な指標です。
また、平均通話時間と平均後処理時間をそれぞれ見直すことで、効率の悪い業務を洗い出せます。通話時間が目標値よりも長ければ、トークスクリプトやマニュアルの作成、引き継ぎプロセスの最適化といった施策が時間短縮に役立ちます。後処理時間が長い場合は、業務フローの見直しや外部委託、RPAをはじめとするシステム導入などが効果的です。
2. 一次応答時間
一次応答時間とは、顧客から問い合わせを受けてカスタマーサポートが最初に応答するまでの時間のことです。顧客は、何かしら解決したい課題があって連絡しているため、なるべく早く応答することはカスタマーサポートの基本的な対応といえます。
初回の応答で解決しない案件が多い場合、一次応答後の応答回数や平均応答時間もカスタマーサポートのKPIとして検討しましょう。
3. 課題解決時間
課題解決時間は、短いほうが顧客満足度が上がりやすくなります。同時に、チケットの再オープン率にも着目しましょう。
多くのカスタマーサポートツールでは、電話やメール、SNS、チャットなど、さまざまなチャネルからの問い合わせを「チケット」として管理します。問い合わせが解決したらチケットのステータスを「解決済み」とします。
解決したと判断したチケットに対して再度問い合わせがあれば、ステータスを再度「オープン」にします。つまり、チケットの再オープン率が高いということは、顧客の課題が的確に解決されていなかったことを示します。
課題解決時間は、追加の課題解決が発生しなくなるまでの時間を指しますが、サポートの現場では、解決の判断が難しいことがあります。KPIを確認する際には解決の判断基準についても決めておくと良いでしょう。
4. 課題解決率
課題解決率とは、問い合わせ数に対して解決できた件数の比率のことです。
課題解決率とあわせて、関連する2つのKPIも設定すると良いでしょう。
一次解決率が高いと、1回のコンタクトで課題を解決できている顧客が多いことになります。しかし、一次解決率が高ければ良いというわけではありません。例えば、簡単な問い合わせ内容が多かった場合は、FAQサイトがうまく活用されていないなど、ほかの課題が隠れている可能性があるためです。
すべてのKPIにいえることですが、単体のKPIだけで判断せずに、ほかのKPIやサポート現場の実態を踏まえて総合的に判断することが大切です。
5. 応答率
応答率とは、電話がかかってきた件数(着信数)に対して、オペレーターの応答件数の割合です。「応答件数 ÷ 着信数 × 100」の計算式で求めます。
待ち時間が長いと、顧客が相談自体を断念するケースがあります。顧客が課題を解決できないままになると満足度が大きく低下するため、応答率が低い場合は早急な対応が求められます。
また、応答率に関連するKPIとして、「サービスレベル」と「平均応答速度」と呼ばれる指標があります。それぞれの概要は次の通りです。
サービスレベル(SL:Service Level)
サービスレベルとは、サービスの提供にかかるスピードや時間のことです。サービスの提供が速いほど、顧客満足度につながるという考え方です。
電話によるカスタマーサポートのサービスは、「着信から20秒以内に応答」のように、一定時間内にオペレーターが応答した件数の割合を示します。通常の応答率は一定時間内より応答が遅れてもカウントされますが、サービスレベルはカウントされません。
平均応答速度(ASA:Average Speed of Answer)
平均応答速度とは、電話が着信した瞬間からオペレーターが応答するまでの時間のことで、顧客を待たせている時間を表します。
6. 自己解決率
自己解決率とは、問い合わせ総数に対して、顧客が自ら課題を解決できた件数の割合のことです。オペレーターに直接質問することなく、FAQやマニュアル動画などを見て顧客自ら問題を解決できた場合は、自己解決件数としてカウントします。
自己解決率を高めることで、問い合わせ件数の削減が可能です。適正水準の問い合わせ件数を確保できれば、従業員の負担軽減や顧客の待ち時間減少につながります。問い合わせ件数が減ると、人によるサポートを必要とする顧客に、より時間をかけて対応することが可能になり、顧客満足度を高められます。
7. エスカレーション回数
エスカレーション回数とは、問い合わせへの回答が困難な際に、上司や他部署の担当者に相談する回数です。エスカレーション回数が増えると電話口の相手を待たせることが増え、信頼度や顧客満足度の低下につながる可能性があります。
また、「総エスカレーション回数 ÷ 問い合わせ総数 × 100」の計算式で、組織全体の平均値を求めるケースもあります。平均エスカレーション回数が目標よりも多い場合は、マニュアル・社内向けFAQ・トークスクリプトの作成や研修の実施など、スキル向上に向けた取り組みが欠かせません。
8. 顧客満足度
顧客満足度も、カスタマーサポートのKPIとして活用可能です。対応を行った顧客に対して直接意見を聞くことで、サービス改善のヒントを得られます。
顧客満足度を調査するにはアンケートを用いるのが一般的です。メールやチャット、SNSなどのチャネルであれば、対応後に「今回のオペレーターの対応はいかがでしたか」といった形で、顧客のリアルな声を収集できます。
9. リピート率(継続率)
リピート率とは、新規顧客数に対するリピーターの割合を示す指標です。リピート率は、期間を設定して計算します。例えば、月間リピート率は次の計算式で算出します。
- 月間リピート率(%) = 月間のリピーター数 ÷ 月間の新規顧客数 × 100
カスタマーサポートの取り組みだけでリピート率が上がるわけではないものの、リピート率を決める要因のひとつであることは間違いありません。
また、リピート率は、企業の収益力を高めるうえで重要になる顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)と密接な関係があります。商品やサービスを購入した顧客と良好な関係を構築することが、経営上の鍵を握るため、リピート率は重要なKPIだといえるでしょう。
カスタマーサポートでKPIを設定するときの注意点
最終目標を意識したKPIを設定する際には、最終目標とKPIの整合性を取ることが大切です。「すべてのKPIを達成すれば最終目標を達成できる」というロジックを明確にしておくことが、カスタマーサポートの担当者のモチベーション向上につながります。
KPIを適切に設定するには、最終目標となるKGIを明確にしておくのがポイントです。事業として成し遂げたいゴールをKGIとして可視化することで方向性が整理され、より具体的なKPIが設定できます。
未達のKPIが多い場合は、現状に対して目標が高すぎる可能性があります。現場の従業員のモチベーションを高めるためには、努力次第で達成可能な目標をKPIに落とし込む必要があるため、状況に応じてKPIの見直しを検討しましょう。
自社のカスタマーサポートの課題に合ったKPIを検討しよう
カスタマーサポートの業務改善は、顧客満足度の向上に直結します。中長期的な企業の利益にも影響するため、重要度が高い施策といえるでしょう。
実際にKPIを設定する際には、自社のカスタマーサポートの課題に合ったものを選択しましょう。また、企業の方針や顧客が問い合わせをするチャネル、顧客の属性などによっても、KPIの基準は変わってきます。例えば、あえて時間を長くしてサポート内容の価値を高める考え方もあります。また、「ありがとう」と言われた回数をKPIとして設定することも可能です。
ビジネスにマッチしたカスタマーサポートのKPIを検討し、環境の変化に応じて変化させながら最終目標を達成する柔軟な考え方が大切です。