企業活動は収益発生の観点から、プロフィットセンターとコストセンターに分けられます。プロフィットセンターは、「売上とコストを集計し、利益を最大化させる部門」です。一方のコストセンターは、「直接的には収益を生み出さず、コストが集計される部門」です。
このような定義からは、プロフィットセンターとコストセンターは相反するように捉えられるでしょう。しかし、経営戦略の変更によってコストセンターを、収益をあげる部門へと転化しプロフィットセンターへと移行させることは可能です。移行によって、企業の競争力を向上させ、顧客へもより高い価値を提供できるようになります。
本記事では、プロフィットセンターとコストセンターの概要に加え、プロフィットセンター化するメリットや移行の際のポイントを解説します。移行例やプロフィットセンター化を目指す際の注意点もご紹介しているので、参考にしてください。
プロフィットセンターとは
プロフィットセンターとは、企業のなかで利益を生み出す部門のことです。
利益は売上からコストを差し引いて算出されます。プロフィットセンターには、売上を伸ばしながらもコストを抑えて利益を最大化させることが求められます。
具体的なプロフィットセンターの例として、営業部門や販売部門、マーケティング部門があげられます。
プロフィットセンターとコストセンターの違い
プロフィットセンターが利益を生み出す部門である一方で、コストセンターは、収益を生み出さずにコストが集計される部門を意味します。例えば、人事部や経理部、コールセンターなどです。
コストセンターは直接的には収益を生み出さないものの、企業組織にとって不可欠なサービスを提供しています。そのため、いかにコストを抑えるかが重要です。
プロフィットセンターとコストセンターの大きな違いは「収益を生み出すかどうか」です。しかし、プロフィットセンターとコストセンターは明確に分けられるものではありません。コストセンターだと捉えられている工場やコンタクトセンターも組織内での位置づけや業務内容の変更によって、プロフィットセンターへ転換することができます。
例えば、コンタクトセンターを例にあげましょう。顧客対応やクレーム対応のために設置されている場合、直接的な収益を生み出さないため、コストセンターに分類されます。しかし、顧客との接点である利点をいかして価値提供を行い、顧客満足度を高めることができれば、結果的にリピーターになってくれる可能性が高まります。この観点からは、コンタクトセンターはプロフィットセンターだと捉えることも可能です。
コストセンターからプロフィットセンターへの移行が注目される背景
企業間の競争が激化する昨今、生産性を高め、利益を大きくしていくことが大事です。しかし、ある部門についてコストセンターという認識が強いと「収益を生み出すにはどうすれば良いか」という考えは生まれないでしょう。
コストセンターからプロフィットセンターへと移行すると、「顧客に満足してもらうにはどうすれば良いか」「企業発展のためにはどうすべきか」などの視点を持てます。
例えば、コストセンターとされてきた人事部門は、「適材適所を徹底する」「良い人材を採用する」などの活動を通して、間接的に企業の利益に貢献できます。
各部門で意識や取り組みを変えていくことが企業成長へとつながるため、プロフィットセンターへの移行が注目されているのです。
コストセンターからプロフィットセンターに移行する3つのメリット
コストセンターのプロフィットセンターへの移行には、次の3つのメリットがあります。
- 企業全体の競争力が向上する
- 顧客により高い価値が提供できる
- 業務の質が向上する
1. 企業全体の競争力が向上する
企業は全体として収益を最大化し、コストの削減を通じて競争力を向上させます。収益が計上されないコストセンターが企業利益に貢献するためには、コストを削減するしかありません。
しかし、コスト削減を意識しすぎると人件費の高い人員を削減したり、コストがかさむ高付加価値製品の製造業務を避けたりする可能性が出てきます。
一方で、コストセンターをプロフィットセンターに移行すれば、収益の最大化という目標が生まれます。高スキル人材を現場のリーダーとして採用させたり、高付加価値製品を製造するために生産工程を変更しようと試みたりするインセンティブが生まれ、更なる利益を生み出すでしょう。
また、プロフィットセンターとして価値を生み出す取り組みを実行することで、競合他社との差異化が可能になります。
例えば、顧客からの問い合わせに対応するカスタマーサポートには、顧客からの声やフィードバックが集まります。それらをもとに経営戦略を見直し、実践・改善を繰り返してアップデートすれば、新たな提供価値の創出につながるでしょう。顧客から集めた生の声をたたき台とした施策は、競合他社との差異化要素にもなります。
顧客へ感動を与える体験の提供も、差異化のための戦略として効果的です。こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
2. 顧客により高い価値が提供できる
コストセンターからプロフィットセンターへ移行させる過程では、収益化に向けた業務の見直しを行います。そこで発生した収益をもとに、顧客により高い価値を提供することも可能です。
例えば、コストセンターとして運営されているカスタマーサポートでは、担当者はコスト削減のために通話時間の短縮と、多くの件数の消化が求められます。
一方で、これまで無償で提供してきたサポート業務を有償に移行させれば、その利益を活用してより提供価値の高い業務へ改善することも可能になります。
例えば、複雑な内容の対応は人による有償サポートとし、簡易的な内容はFAQやチャットボットなどのシステムを導入するケースを想像してください。このような体制を整えることで自力解決を望む顧客のニーズを満たせるとともに、複雑なニーズには、時間をかけて対応できるようになります。
また、カスタマーサポートを積極的に顧客の課題解決に取り組むカスタマーサクセスへと転換させるケースもあげられます。顧客の課題やクレームに対して受け身で応える姿勢から、積極的な顧客理解を通じて潜在的な課題を導き出し、解決できる体制を整えることで、顧客をより良い状態へ導くことも可能となるでしょう。
カスタマーサクセスについては、こちらの記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
3. 業務の質が向上する
コストセンターは社内の各業務をサポートする役割を担っています。プロフィットセンターへの移行に伴い、自部門における業務の質の向上が期待できます。
例えば、社内IT部門は、社内ネットワーク管理やデータベース開発などを担うため、通常はコストセンターとして運営され、収益は計上されません。
ここで、IT部門をプロフィットセンターへ移行させ、これまでは他部門に無償で提供していた業務内容の一部を有償で提供するサービスに切り替えると仮定しましょう。企業全体では部門間のやり取りは損益に影響しませんが、それぞれの部門においては利益とコストが発生するため、次のような相乗効果が見込めます。
まず、別部門に対し提供している業務に市場価格に準じた価格をつけ有償サービスとすることで、その価値を定量的に把握できます。
さらに、有償化によって、他部門は他社と自社とを比較するようになるためコストパフォーマンスを客観的に評価するようになるでしょう。外部サービスとの比較に際して競争力を持たなければならず、結果的に業務の質の向上が見込めます。
また、IT部門で提供するサービスを独立させて、市場で販売することも可能です。市場の拡大により企業の収益源が増えるだけでなく、顧客への価値提供にもつながっていくでしょう。
コストセンターからプロフィットセンターに移行する際の6つのポイント
コストセンターからプロフィットセンターに移行する際は、次の6つのポイントを意識しましょう。
- 適切なKPIを設定する
- 最適なITツールを導入する
- 企業全体の視点から計画する
- 企業の事業戦略と連動させる
- 他部門と連携する
- 顧客への価値提供という視点を忘れない
1. 適切なKPIを設定する
コストセンターは「できるだけ低コストで業務にあたる」、プロフィットセンターは「利益を最大化させる」というように目的が異なります。そのため、プロフィットセンターへの移行を成功させるには、適切なKPIを設定することが重要です。
KPIを設定するには、まず利益や貢献度を項目化し、定量的に把握できるかを検討しましょう。
KPIを具体的に設定できれば、顧客の解約防止・リピート率や業務効率の向上など具体的な施策の方向性が定まります。また、設定後は目標値に近づいているかを随時確認し、目標値との乖離がある場合は改善策を講ずるなどのPDCAサイクルを回すことも重要です。
2. 最適なITツールを導入する
コストセンターのプロフィットセンター化には、部門を超えて情報にアクセスできる環境づくりが必要です。スムーズに情報共有できる体制が整えられれば、さらなる価値の創出も可能となるでしょう。
カスタマーサポートであれば、コールセンターシステムやチャットボットを導入すると良いでしょう。システム化によって人件費などのコストを抑えられます。また、チャットボットを活用すれば、顧客は時間を問わず、問い合わせて回答を得られるので、満足度の向上にもつながります。
また、営業部門でしばしば用いられるCRM(顧客関係管理システム)の導入も効果的です。CRMは、顧客情報(行動履歴・顧客単価・インタラクション履歴)を一元管理できるツールです。部門間で情報共有できるので、スピーディで質の高い顧客対応が可能となります。
3. 企業全体の視点から計画する
プロフィットセンターへの移行は、部門単体で利益を上げることではなく企業として競争力を高めることを目的に行います。
そのため、プロフィットセンターへの移行は、当該部門だけの判断ではなく企業全体を俯瞰する立場から計画することが重要です。業務内容や顧客ニーズを考え、業務内容を検討しましょう。
4. 企業の事業戦略と連動させる
従来、コストセンターは組織運営上のサポート業務を担ってきました。プロフィットセンターへと移行するには、従来の業務をより広い視野で捉え、利益を最大化させるための施策が求められます。そのためには、企業における事業戦略を検討し、移行する部門と連動させることが必要です。
5. 他部門と連携する
コストセンターからプロフィットセンターへの移行に伴い、他部門とどのように連携すればより収益に結びつくか考えることも大切です。
例えば、顧客との接点となるコンタクトセンターをプロフィットセンター化させるには顧客の声を集めて経営判断に活かすことが求められます。営業部門や販売部門など他部門との情報共有が必要となるため、連携の機会も増えるでしょう。自社サービス・商品の品質や価格を勘案し、より良い価値を提供できる方法を検討してください。
6. 顧客への価値提供という視点を忘れない
プロフィットセンターとコストセンターは、ピーター・ドラッカーによって生み出された言葉です。
ドラッカーの意図は、企業のあらゆる部門の活動を、独立した「事業」として把握することにありました。しかし、ドラッカーは後に「プロフィットセンター」という言葉によって、あたかもその部門が利益を創出するかのような誤解を招いてしまったと語っています。
ドラッカーが伝えたかったのは、あらゆる企業活動は確実にコストを発生させる一方で、それ自体は必ずしも成果に貢献するものではないという概念でした。
収益は部門の活動そのものではなく、顧客がサービスに対して価値を感じて代金を支払うタイミングで発生します。つまり、顧客に提供するサービスの価値が収益を生み出していくのです。
コストセンターをプロフィットセンターへと移行する際は、ドラッカーの思想を踏まえたうえで、どうすれば顧客により良い価値を提供できるのかという側面も検討しましょう。
プロフィットセンター化を目指す際の注意点
コストセンターをプロフィットセンターへ移行させる際は、次の2点に留意しましょう。
コストや時間が掛かるという前提を理解する
ツールを導入すると、プロフィットセンター化は容易になります。ただし、CRMやチャットボットなどのツール導入にはコストが掛かる点に注意しましょう。ツールなどの導入費用とプロフィットセンター化による収益を総合的に検討して、利益が出るかどうかを判断することが重要です。
また、コストセンターからプロフィットセンターへの移行は、すぐにできるものではありません。長期的な計画を立てて実施しましょう。
初期の目標設定が曖昧だと失敗しやすい
プロフィットセンターに移行する過程で、「想定よりも上手くいかない」「効果が現れない」と感じることもあるでしょう。
コストセンターからプロフィットセンターへの移行を成功させるには、先述した移行のポイントを意識することが大切です。プロフィットセンター化する意図や目的を明確にしたうえで中長期計画を立案し、実行に移しましょう。
【部門別】コストセンターのプロフィットセンターへの転換例
ここからは、部門別にコストセンターをプロフィットセンターへと転換させる具体例をご紹介します。
- コンタクトセンター(コールセンター)
- 物流
- 工場
コンタクトセンター(コールセンター)
コンタクトセンター(コールセンター)は主に、顧客対応や問い合わせのために設置されます。直接的な利益を生み出すことはないため、コストセンターだと認識されてきました。
しかし、コストセンターは顧客と直接接点を持つため、顧客の意見をダイレクトに知ることができます。これらの意見を企業経営に活かし、利益を生み出せるような体制を整えれば、プロフィットセンターとして捉えることも可能です。
コンタクトセンターをプロフィットセンターへと移行することで、集まった顧客の声をもとにした商品・サービス改善や、要望を取り入れて新事業やサービスを創出できるようになります。
また、顧客対応において期待以上の価値を提供できれば、リピーター創出の可能性も高まるでしょう。
物流
物流は主にコストが集計されコストセンターに分類される部門です。しかし、顧客の購買データを活用し、利益を最大化させるにはどうすれば良いかを考え施策を実行すれば、プロフィットセンターへの転換も可能です。
例えば、購買データとAIを連携させて、納品書にレコメンド商品を掲載する機能を実装すれば、顧客満足度を高めつつ収益も生み出せるようになります。
工場
工場は、製品を生産する側面がある一方で、直接的には収益を生み出さない部門です。そのため、捉え方によってはコストセンターに分類され、生産コストを下げる取り組みが求められてきました。
しかし、工場を自立させ、裁量権を持たせて利益を上げる工場へと転換することは可能です。例えば、利益率の高い製品を生産し、短納期で納品できる体制を整えれば、プロフィットセンターへ転換できるでしょう。
工場のプロフィットセンター化によって収益が生まれるのはもちろん、競合他社と差異化するための戦略を練ったり自発的に仕事を創出したりするなどの副次的効果も得られます。
プロフィットセンターへの移行を顧客体験の向上につなげよう
企業間の競争が激化している昨今、企業が成長を続けるには、良質な顧客体験を提供して、満足度を高めることが求められます。そのためには、コストセンターをプロフィットセンター化させ、顧客に価値を提供できる体制作りが求められます。
「コストをいかに抑えるか」という観点だけでなく、新たな価値を創出できないか探り、それを顧客へと提供すれば、収益を最大化できるでしょう。特に、顧客と接点を持つコンタクトセンターは、プロフィットセンターへの移行に向いている部門です。クレームや問い合わせ対応を中心とするカスタマーサポートをより積極的に顧客支援を行うカスタマーサクセスへと転換することも可能です。
顧客にどのようにアプローチするのか、どのような価値を提供するのかを検討してください。プロフィットセンターへの移行は、顧客体験を向上させ、企業の成長へとつながっていくことでしょう。