デジタル戦略とは、ITを活用し、経営方針や組織体制そのものを変革する計画のことです。ITによる部分最適化ではなく、既存のビジネスプロセスを俯瞰的に捉え、全体最適化につながる計画を練る点に特徴があります。
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デジタル戦略の策定には、組織全体が抱えている課題を特定したり、中長期的な視点で具体性のあるアクションプランを考えたりと、高度な知識や技術が必要です。多くの国内企業がデジタル戦略の策定に苦戦するなか、自社が一歩先んじるには、デジタル戦略の構築方法やポイントを理解しておくことが重要です。
本記事では、デジタル戦略の意味や重要性、企業事例を紹介します。デジタル戦略を構築するための手順やポイントも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
デジタル戦略とは
まずは、デジタル戦略の意味や目的などの基礎知識を押さえましょう。特にIT戦略との違いを把握することで、デジタル戦略の意義を正確に読み取ったうえで、全体最適化につながる適切なプランを設計できます。
ITを駆使してビジネス全体のパフォーマンス向上を図る計画
デジタル戦略とは、ITを駆使して経営状態を改善し、ビジネスパフォーマンスを向上させるための計画のことです。社内外を含めた、あらゆるステークホルダーからの評価を高められるよう、戦略的なアプローチを行うために活用されます。
デジタルツールの活用により、顧客へ新たな価値を生み出して競争力を高めることです。同時に、IT機器やシステムの導入で、従業員が持てる能力をいかんなく発揮できる環境を構築する側面もあります。
デジタル戦略が成り立つ要素
デジタル戦略は、概念的な要素と具現的な要素で成り立っています。
概念的な要素とは、デジタル戦略によって成し遂げたい目標や方向性(ゴール)を指します。具現的な要素とは、そのゴールに到達するために実行すべき、具体的な行動のことです。
デジタル戦略を策定する際は、このような両方の要素を可視化し、その考え方を組織全体で共有することが大切です。単に目的を設定するだけでなく、行動を後押しするアクションプランや、具体的なスケジュールの単位にまで落とし込む必要があります。
IT戦略との違い
「IT戦略」は、デジタル戦略と意味を混同しやすい言葉です。
IT戦略は、既存のビジネスの方向性はそのままに、課題が発生している箇所をITを活用したサービスによって解決することを意味します。ITを活用してビジネスにおける課題を解決するという点ではデジタル戦略もIT戦略と同じですが、IT戦略は部分最適化を図る仕組みで、デジタル戦略は全体最適化を目指すのが大きな違いです。
利用中のITを活用したサービスの契約期限が近付き、更新が必要になった場合を想定してみましょう。その際、単に契約を更新するのではなく、競合他社製品を改めて洗い出し、代替手段の検討を行うのがIT戦略のよくあるプロセスです。
対するデジタル戦略は、ビジネスプロセスの根本的な変革をいとわない点に特徴があります。顧客にとってより良い商品・サービスを提供する必要がある、または組織体制を根本的に変えなければならないようであれば、ITによってビジネスそのものの仕組みを見直します。
自社のビジネスモデルに立ち返り、既存ITの必要可否を見直したり、別領域で活用できるITサービスを検討したりと、ビジネス全体を俯瞰的に捉えて意思決定を行います。
デジタル戦略が注目を集めている背景・重要性
さまざまなITツールやテクノロジーが普及し、ビジネスシーンでの利便性が高まる一方で、システムの「サイロ化」やデータのブラックボックス化といった新たな課題が表出しています。デジタル技術を単体ではなく総合的に捉えるデジタル戦略は、このような課題を解決するための手段として注目を集めています。
ここでは、デジタル戦略が注目を集めている背景やその重要性について解説します。
DXレポートによる認知度向上
デジタル戦略に注目が集まるようになったきっかけの一つが、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」の認知度が高まったことです。
同資料では、国内におけるデジタル化の現状や課題のほか、海外企業との取り組みの違いなどが報告されています。また、デジタル化の課題が現状放置された場合、2025年以降に最大12兆円の経済損失が発生するかもしれない「2025年の崖」も、大きな問題として取り上げられています。
国内では大企業を中心に、複雑化・大規模化したレガシーシステムを抱えているケースも珍しくありません。この状態では、後継者不足によってシステム維持が難しくなったり、市場の変化に柔軟に対応できなかったりする恐れがあります。
そこで、DXを契機に、組織全体の効率性を踏まえて新たなシステムへと転換することが求められています。概念的な傾向の強いDXを実現するには、具体的な行動計画にまで落とし込んだデジタル戦略の立案が不可欠です。
多様化する顧客ニーズへの対応
インターネットの普及によってリアルタイムの情報収集が可能になったことで、顧客の行動傾向や嗜好は目まぐるしく変化しています。
情報収集から製品比較、購買に至るまでのプロセスが、Web上で完結するケースも一般的になってきました。パソコンやスマートフォンから、商品・サービスに関するあらゆる情報を取得でき、ユーザーは自身の希望に合ったものを短時間で探せます。
買い手主導へと変化する購買行動の変化のなかで、企業としては経営戦略全体にデジタルの思想を組み入れる必要があるでしょう。そして、部門を問わず顧客や見込み客との接点を増やし、課題やニーズを的確に捉えることが重要です。
働き方の多様化
デジタル技術の普及や仕事に対する価値観の変化などにより、組織内での働き方が多様化し、テレワークやワーケーションといった新しいワークスタイルを模索する企業が増えてきました。働く時間や場所の選択肢が増えたと同時に、労働者が企業に求める要素もより複雑化しつつあります。
多様な働き方が実現すれば、生産性の向上や人材の定着などのメリットが生まれます。それを実現するためには、多元的な従業員のニーズを的確に捉えながら働き方改革を推進する必要があり、デジタル技術を含めた総合的な計画、すなわちデジタル戦略の立案・実行が欠かせません。
デジタル戦略構築の流れ
無駄なくスムーズにデジタル戦略を実行に移すには、戦略構築のプロセスを理解することが大切です。ここでは、次の4つの手順に沿ってデジタル戦略構築の流れを解説します。
- デジタル戦略構築のための前提・状況を整理する
- 目的やビジョンを明らかにする
- 導入するITツールを選定する
- 効果検証・改善の仕組みを構築する
1. デジタル戦略構築のための前提・状況を整理する
デジタル戦略では、ビジネスパフォーマンスを向上させるために、組織そのものの在り方やビジネスの方向性を大きく変える必要が出てきます。そのため、自社の強みや弱み、外部環境の変化による自社ビジネスへの影響など、デジタル戦略構築のための前提や現状を整理することが重要です。
そのうえで、次のようなフレームワークを活用すると、よりスムーズに現状を整理できるでしょう。
- 3C分析:
自社・競合・市場環境の3つの要素から成功要因を導く手法 - SWOT分析:
自社の内部・外部環境を4要素に分け、経営資源の最適な活用法を探る手法 - PEST分析:
マクロ環境の変化が自社にどのような影響をもたらすかを読み解く手法
また、組織内におけるデジタル化やDXの進捗程度もあわせて確認しましょう。
特に、デジタル改革の終着点ともいえるDXを実現させるためには、それまでにデジタイゼーションやデジタライゼーションといったプロセスを経由する必要があります。DXの前段階のプロセスが未実施の場合は、具体的に取り組む領域やその計画を可視化し、実現に向けた戦略を描いていきます。
2. 目的やビジョンを明らかにする
自社が置かれている現状や課題をもとに、デジタル戦略の目的・ビジョンを定めましょう。
企業のなかにはさまざまな課題があるため、まずは優先順位をつけることが大切です。早急な対処が求められる慢性的なボトルネックや、売上・利益などの経営指標に直結する課題から優先的に取り組むことをおすすめします。
同時にデジタル戦略の対象となる領域も決めておくと良いでしょう。一概にデジタル戦略といっても、ビジネスプロセス全体でのデジタル化を図るのか、顧客周りのデジタル推進を行うのか、それとも組織・働き方改革につなげるのかといった領域によって、取り組み内容が大きく異なります。
3. 導入するITツールを選定する
デジタル戦略の目的をもとに、具体的に導入すべきITツールを比較・検討します。ここで重要になるのが、いきなり最先端のテクノロジーに目を向けるのではなく、まずは社内にある既存システムを洗い出すことです。
ITツールを導入する際に、既存のシステムの存在を無視して、特定の業務に役立つ製品ばかりを取り入れてしまうことがよくあります。これでは部分最適化は実現できても、全体最適化にはつながりません。社内のシステム全体を俯瞰的に捉えないと、それぞれの連携がうまくいかず、ネットワーク間でサイロ化(システムの孤立)の問題が生じてしまう可能性があるためです。
導入するITツールは、次のような観点で検討しましょう。
- 既存システムのなかでブラックボックス化している部分はないか
- 老朽化によって業務を阻害しているシステムはないか(入れ替えの可否)
- 旧システムと新システムとの間でスムーズなデータ連携を行えるか
4. 効果検証・改善の仕組みを構築する
デジタル戦略を導入する際は、施策の構築段階で明確な成果目標を設定しましょう。デジタル戦略を構築したとしても、計画通りの成果が現れるとは限らないため、単に計画を練るだけでなく、運用中の効果検証が欠かせません。事前に作成した計画を何度もブラッシュアップし、常に改善を心がけることが大切です。
具体的には、あらかじめ決定した目的に沿ってKGI(最終目標)とKPI(中間目標)を設定します。その際は、経済産業省が公表している「DX推進指標」が役立つでしょう。成果目標に数値を含めることで、目標と実績との差異を客観的に評価しやすくなります。
ただし、デジタル化やDXの取り組みでは、定量指標よりも定性指標で評価を行うことが多い点には注意が必要です。定性指標は評価者の主観が含まれやすいため、「必達レベル・努力レベル」などの評価基準を定め、複数人で客観的に評価することが重要です。
デジタル戦略策定のポイント
デジタル戦略を策定する際の注意すべきポイントも押さえておきましょう。デジタル戦略という大きな枠組みのなかで、個別の施策を検討することが重要です。
1. 目的を設定してから手段を検討する
デジタル戦略を構築する際は、目的と手段を間違えないようにしましょう。
例えば、自社の課題や目的を明確にせず、「業界全体で注目を集めているから」「競合他社が導入しているから」といった理由で、いきなりITツールの導入を進めてしまうようなケースが該当します。
デジタル戦略をもとに導入するITツールは、あくまで目的を達成するための手段にしか過ぎません。単に新しいテクノロジーを導入するだけでも、特定の領域において何らかの課題を解決できるかもしれませんが、それでは部分最適化を図るIT戦略と変わらず、散発的な効果しか期待できないでしょう。
デジタル戦略では、ビジネスモデル全体を通しての改革や組織変革が求められます。そのため、デジタル戦略の最上部には経営効率化や新規事業開発といった大きな目的があり、そこから必要なITツールを選定していく必要があります。
2. 中期的な方針を軸とする
デジタル戦略では短期的な目標を設定し、繰り返しPDCAサイクルを回すことも重要ですが、3~5年程度の中期的な視点を持つことも大切です。ビジネスモデルの改革や組織変革を成し遂げようと思うと、それなりの期間が必要になるためです。
デジタル戦略は企業の理念やビジョン、経営戦略に大きく影響するため、3~5年のスパンでスケジュールを立て、その具体的な内容を中期経営計画に盛り込むと良いでしょう。最上位に理念やビジョンがあり、そこから全社的な戦略の定義、個別事業における戦略の定義、アクションプランへと順に落とし込んでいきます。
特に、全社的な戦略と個別事業での戦略に対し、いかにデジタル戦略を結び付けるかが重要です。そのためには、顧客や競合他社といった外的要素に目を向け、外部環境分析や競合分析などで中期モデルを策定します。
3. 推進役と実行役を適材適所で配置する
デジタル戦略を実行に移す前に、プロジェクトの推進役となるリーダーと、現場で指揮を取る実行役を決めます。
デジタル戦略の取り組み領域は特定の部門や部署だけでなく、全社に影響範囲が及ぶケースも珍しくありません。そのため、デジタル分野に強いシステム開発部門から担当者を専任するといった安易な決定ではなく、経営も含めた幅広い知見に優れ、影響力の強い適任者を選ぶことが重要です。
なかでもリーダーには、組織全体を動かす推進力のある人が向いているでしょう。実行役には、現場の事情をよく把握しており、上層部と現場の意見をうまく調整できる人が適任です。
デジタル戦略を実践した企業事例
デジタル戦略の立案方法や進め方を具体的にイメージするには、他社の事例を参考にするのも方法のひとつです。ここでは2社の取り組み事例を紹介しますので、ケーススタディを通じて成功のコツをつかんでみてください。
株式会社かんぽ生命保険
株式会社かんぽ生命保険は、デジタル戦略を中期経営計画に盛り込み、中期的な視点でデジタル改革による体験価値向上を目指しています。
2021~2025年度の中期経営計画では、戦略的IT投資のために5年間で約1,000億円の予算を計上しています。なかでも、システム基盤投資へと積極的に資金を投じているのが特徴です。
代表的な取り組みとしては、顧客データベースの整備による情報一元化や、ITテクノロジーを駆使した新たな申込・請求手続きシステムの構築などがあります。
また、既存の店頭窓口やコンサルタント経由のチャネル以外にも間口を広げ、インターネット申し込みや担当者のオンライン同席、カスタマーサービスセンターなどの多方面のチャネルを拡充予定です。申込み・請求手続きをデジタルの活用によりフロント完結化し、 人の手によるバックオフィス業務の効率化を果たそうとしています。
株式会社しまむら
株式会社しまむらは、アパレル企業のなかでも積極的にDXに取り組んでおり、2024年に向けた中期経営計画にも具体的なデジタル戦略が盛り込まれています。
DXの取り組みのなかで特に力を入れているのは、顧客・店舗管理の領域です。
同社は2021年頃からO2Oマーケティングを推進しており、実店舗とECの在庫情報を連動させました。さらに、商品在庫検索サービスの導入により、スマートフォンを使って店舗で商品をスキャンするだけで、サイズ・色違いの在庫検索が可能になりました。
今後は、社内アプリの「しまナビ」や「しまChannel」を活用した、デジタル環境での売り場作りを進めようとしています。また、顧客管理システムによるレコメンド配信や、客注対応のペーパーレス化など、デジタル戦略にもとづいた体験価値向上の施策も実施予定です。
中期的視点によるデジタル戦略でDXを実現
ビジネス環境が目まぐるしく変化するなか、課題解決やビジネスパフォーマンス向上を実現するためには、デジタル戦略の検討・実行が不可欠です。中長期的なビジネスの目標を踏まえたデジタル戦略を立案し、それを実現するためのプランを立てることで、結果的にDXも実現できます。
ビジネスモデル改革や組織変革を成し遂げようと思うと、それなりの期間が必要になるため、デジタル戦略を構築する際は、短期的な目標に終始しないよう注意が必要です。社内外の要因に目を向け、中長期的な観点から計画を練る必要があります。
短期的なKPIと中長期的なKGIを設定し、常にプランの内容をブラッシュアップして施策の改善につなげましょう。