サブスクリプションサービスやSaaS(Software as a Service)型サービスの台頭に伴って「アップセル」「クロスセル」というキーワードが広く浸透してきました。

一方で「アップセル」と「クロスセル」が混同されてしまったり「アップセル」「クロスセル」の実現に必要となる本質部分を見誤ってしまったりして、「アップセル」「クロスセル」という言葉だけが一人歩きしてしまっている状況も見受けられます。

本稿では「アップセル」「クロスセル」を、2つのキーワードの違いから再整理した上で、「アップセル」「クロスセル」を効果的に実践していくために必要な勘所を解説していきます。

「アップセル」と「クロスセル」の違い

「アップセル」と「クロスセル」を効果的に実践していく方法について解説していきたいと思いますが、その前に、そもそも「アップセル」「クロスセル」の違いと、その意味をしっかりと押さえていく必要があります。

そもそも「アップセル」とは?

「アップセル」とは、ユーザーに現在利用してもらっているプランよりも、より高額なプランへとアップグレードしてもらうことを表します。

身近な例を挙げると、携帯電話料金を「月々4,000円/8GBプラン」から「月々5,000円/10GBプラン」へ乗り換えてもらうようなケースが「アップセル」に該当します。

そもそも「クロスセル」とは

「クロスセル」とは、ユーザーが利用しているサービスと関連した別サービスを導入してもらうことを表します。

身近な例を挙げると、自社の携帯電話回線を契約してもらっている顧客に、Wi-Fiをセットで利用してもらうようなケースが「クロスセル」が該当します。

アップセル/クロスセルに取り組むメリット

なぜ「アップセル」と「クロスセル」が、近年になって重要視されるにようなったのでしょうか。その理由は、米大手コンサル会社ベイン・アンド・カンパニーの名誉ディレクターであるフレデリック・ライクベルトが提唱する「1:5の法則」に集約されています。

「1:5の法則」とは「新規顧客を獲得するコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかる」というデータを表す法則です。

また、Pacific Crest社の「2016年SaaSベンチマーク調査」によると「アップセルで1ドルの収益を上げるためのCAC(顧客獲得コスト)は、新規顧客を獲得するコストのわずか24%に過ぎない」というデータも発表されています。

つまり、アップセル/クロスセルによって既存客から収益を上げることは、新規顧客から収益を上げるよりも遥かに効率的であり、アップセル/クロスセルに取り組むことは企業経営の効率を向上させるメリットがある、と考えることができるのです。

そして、上記CACに関するデータからも分かる通り、アップセル/クロスセルによる収益向上は、投資家が重要視する「LTV:CAC」の数値を目に見える形で向上させます。

とりわけ、サブスクリプションサービスやSaaS型サービスは、売り切りのサービスと比べて、長期的に顧客との接触機会を持つことができるため、アップセル/クロスセルを実現しやすい環境にあります。

そのため、サブスクリプションサービスやSaaS型サービスの事業主が増えることに比例して、アップセル/クロスセルの考え方が注目されるようになったのです。

顧客ロイヤリティの向上とカスタマーサクセスを通じたアップセル/クロスセルの実現

では、経営効率向上の鍵となり得るアップセル/クロスセルを、どのように実現していくべきでしょうか。最も注視すべき点は「顧客ロイヤリティです。

アップセル/クロスセルを成功させる確率は、顧客ロイヤリティの高さに相関します。Cisco社のセールスオペレーションディレクターであるペグ・ニコルズ氏は、以下のように発言しています。

「価値実現は、導入からオンボーディング、採用を通してすべてを網羅します。(中略)価値実現が、アップセルとクロスセルの取引につながるのです。」

また、アップセル/クロスセルを主題にしたものではありませんが、Emotion Tech社の調査では以下のデータが発表されています。

  • アパレルブランドにおける1回あたりの購入単価…ロイヤリティの高い顧客はロイヤリティの低い顧客の1.3倍

反対に、顧客ロイヤリティが低い企業へのアップセル/クロスセル活動は、その活動が成功しづらいばかりでなく、顧客の離反にもつながりかねません。

アップセル/クロスセルを実現するためには、NPS(Net Promoter Score)などの手法を用いて、顧客ロイヤリティを数値化して計測しながら、タイミングを定量的に見極めることが重要となります。

また、それらの活動を属人的にしないためにも、組織的なカスタマーサクセスへの取り組みが必要となります。

アップセルにつなげるプライシング

アップセルを実現する上では、プライシングも非常に重要です。

自社のビジネスに最適なプライシング戦略とは、どのようなものでしょうか。以下に一例を示している通り、プライシングも様々な形に変化してきています。

各プライシングのメリット/デメリットを整理しておきましょう。

  • 定額プライシング
    金額が一定であるため、顧客にとって分かりやすく始めやすいプライシングです。一方で、顧客によってカスタマイズができないため、チャーン(解約)が発生しやすいプライシングとなります。
     
  • 使用量ベースのプライシング
    「使った分だけの支払いでOK」ということで、顧客にとって使い始めるハードルが低くて、新規顧客を獲得しやすくなります。一方で、各顧客の売上がどのように推移していくかを予測しづらいのが難点です。
     
  • 機能ベースのプライシング
    顧客の利用状況に応じて、アップセルを仕掛けるタイミングが見えやすいのが機能ベースでプライシングした場合のメリットです。

    機能ベースでプライシングのメリットは、顧客の利用状況に応じて、アップセルを仕掛けるタイミングが見えやすいことです。一方で、どのプランを選択すべきかが難しく、顧客にとって導入しづらいプライシングとも言えます。
     
  • フリーミアムモデルのプライシング
    「無料」で始められるため、顧客数の獲得が容易となることがフリーミアムモデルのメリットです。一方で、有料プランへの切り替えは非常にハードルが高くなります。

Sansan社のアップセルの取り組み事例

SaaSモデルの名刺管理システムで急成長したSansan社では、アップセルの実現にむけて「タッチポイントを増やし、CS(カスタマーサクセス)の視点でアップセルを意識する」ことに注力をしているようです。

そのために、CS専門の部署である「カスタマーサクセス部」を立ち上げ、経験豊富なハイクラス人材を採用しています。

中でも、CS部は「チャーン(解約)阻止」の意識が強く、営業は「エクスパンション(拡大=アップセル)」の意識が強い、という役割分担がなされている点が非常に興味深いところですが、この役割分担が「カスタマーサクセスによる顧客ロイヤリティ向上」と「アップセル」が両輪の関係にあることを明確に表しています。

Dropbox社のアップセルの取り組み事例

Dropbox社ではアップセルを促進するため、次のような面白い取り組みをしています。

それは「Dropboxのサービスを知人に紹介してくれたら、あなたのディスク領域が増えます」という紹介キャンペーンです。

このキャンペーンの狙いは以下の3つです。

  1. 口コミや紹介の発生
  2. ユーザーのDropboxに対する関わりを深め、顧客ロイヤリティを向上させる
  3. 既存ユーザーが新規ユーザーを招待するたびに、ユーザーが所属する企業内で利用者の輪が大きくなり、Dropbox Businessへのアップグレードの可能性を高められる

1つ目の狙いは分かりやすく、容易に想像がつく狙いだと思います。特に興味深いのは、2つ目と3つ目の狙いです。

ユーザー数を増やす必要がある場合、「Businessプランへのアップグレードを勧めるメッセージ」が表示されるそうです。

顧客ロイヤリティの向上とアップセルを一手に実現させる離れ業ですね。

筆者もそうですが、実際にこのDropbox社の紹介キャンペーンを利用したことがある方も、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

まとめ

アップセル/クロスセルが、SaaSビジネスの収益性を高める上で欠かせない手法であることがご理解いただけたことと思います。

そして、アップセル/クロスセルを成功させる秘訣は「カスタマーサクセス」にあるということもご理解いただけたのではないでしょうか。

「カスタマーサクセス」を、属人的な能力に頼らず仕組みで実現して行くことができれば、サブスクリプションサービスやSaaS型サービスは大きく成長していくことでしょう。

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元記事発行日: 2019年11月08日、最終更新日: 2019年11月08日

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