SaaSビジネスの健全性を測るひとつのメトリクスである「CAC(Customer Acquisition Cost)」は、SaaSビジネスにおいてとても重要視されているキーワードのひとつです。

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CACが高まった時にどのような施策を打っているでしょうか?また、CACが低下した時にどのようなアクションを起こしているでしょうか?

本稿では、CACを計測すべき理由を改めて整理し、CACを味方につけた事業展開を行うために必要な考え方、ノウハウを解説していきます。

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〜改善ポイントの把握や効率的な予算計画を実現するヒント〜

CACとは

CACとは

「CAC」とは「Customer Acquisition Cost」の略であり、日本語では「顧客獲得費用」を意味します。

具体的には、顧客1社を獲得するために必要となるマーケティングや営業のコストのことを指し、ある一定期間に投資したマーケティングおよび営業コストの合計金額を獲得した顧客の数で割ることによって算出します。CACの計算式は以下の通りです。

CAC = 顧客獲得コスト ÷ 顧客数

もし、このCACがLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を上回るならば、当該事業の存続は非常に厳しいと言えるでしょう。

CACがLTVを上回るということは、一顧客あたりの生涯利益が5,000円のサービスに対して、一顧客あたりの獲得費用に5,001円以上を投じるということです。つまり、顧客を獲得するたびに必ず損失が発生するため、非常にナンセンスな事業活動となってしまいます。
 

CACの構成要素

CACの計算方法の解説に入る前に、CACは大きく以下の3種類に分類できることを押さえておくと良いでしょう。

  • Organic CAC
  • Paid CAC
  • Blended CAC

この3種類のCACの分類について詳しく見ていきましょう。
 

Organic CAC

自然増の顧客獲得コストを表します。例えば、既存顧客による紹介やクチコミ、検索からの流入は「Organic CAC」に分類されます。

Organic CACは、広告などの費用を払わずに顧客を集めることができたものです。Organic CACは広告などの費用を払っているCACより、比較的コストが安価になっていることが多くなります。

期間限定のキャンペーンや、折り込みチラシやWeb広告を打ち出した際には、広告の効果やキャンペーンの効果を見るために、顧客の数やコストを計算します。しかし、そのCACは、広告などを打ち出したことによるものだけではありません。キャンペーンや広告を実施しなくても自然と増えるCACもあります。

Organic CACを考えずにCACの計算をしてしまうと、正しい効果の測定ができなくなる可能性があるため、Organic CACについても理解しておきましょう。

Organic CACの計算式としては、以下のようになっています。

Organic CAC = 自然増の顧客に掛かったコスト ÷ 自然増チャネルからの新規顧客数
 

Paid CAC

広告を始め、お金を支払って獲得した顧客コストを表します。Paid CACは有料チャネルを利用した顧客獲得コストを指します。CACで

Paid CACには、企業の戦略ごとにさまざまなPaid CACがあり、それぞれの広告チャネルによって計算できるため、しっかりと分類分けをしておきましょう。

Paid CACの計算式は以下のようになっています。

Paid CAC = 有料チャネルにかけたコスト ÷ 有料チャネルからの新規顧客数

Paid CACがLTVを上回っている場合、その有料チャネルで広告を出せば出すほど赤字になってしまう可能性があります。そのため有料チャネルごとに検証してみることがおすすめです。
 

Blended CAC

Blended CACは、「Organic CAC」と「Paid CAC」の2つを合わせた顧客コストを表します。
Blended CACは、以下のように計算できます。

Blended CAC  = (全営業コスト + 全マーケティングコスト) ÷ 新規顧客獲得数

SaaSビジネスが好調に成長していくと、ある壁にぶつかる可能性が生まれます。それは「顧客数は順調に増加している。しかし収益は赤字続き。一旦、顧客数の増加を捨てて事業を黒字化すべきか?それとも顧客数の増加をこのまま追求し続けるべきか?」という壁です。
収益が出ない状態を続けるわけにもいかず、顧客獲得のスピードを緩めるわけにもいかない…。当然、どちらも捨てられないところですね。

このような時、CACを細分化しておくと次の戦略立案に対して有効に活用できます。「顧客は増え続けているが、収益化ができない」状況の時は「Organic CACを増やす戦略」「Paid CACを効率化して低下させる戦略」を同時に立案し、Organic CACの増額よりもPaid CACの減額を大きくすることでBlended CACを低減させるのです。

CACを下げる努力をすることで、顧客数の増加を妨げることなく収益を改善していけるのです。
 

なぜCACを知る必要があるのか?

なぜCACを知る必要があるのか?

では、なぜCACを把握する必要があるのでしょうか。理由は大きく分けて以下の2つがあります。

  • 投資すべきマーケティングチャネルを把握するため
  • ユニットエコノミクスを計測するため

それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
 

1. 投資すべきマーケティングチャネルを把握するため

「どのマーケティングチャネルに投資をすれば、どれだけ事業が伸びるのか」を掴むため、自社のSaaSビジネスにおけるユーザー獲得につながるチャネルは数多く存在することでしょう。しかし、利用するチャネルをしっかりと選定せずに広告を打ち続ければ、無駄な広告コストを垂れ流すことにもなりかねません。

見込みのありそうなチャネルをいくつか試してみた上で、それぞれのチャネル別に投資対効果を計算し、効果の高いものに投資を集中させていく必要があります。 投資対効果は月日とともに変化していきます。日々刻々と変化する市場の状況に合わせて、適切なマーケティングチャネルを選択し、最も効率良く成果を得るために、CACの把握は欠かせないのです。
 

2. ユニットエコノミクスを計測するため

ユニットエコノミクス(unit economics)とは、顧客1人当たりの採算性を表す指標です。顧客1人の顧客生涯価値(LTV)を顧客1人当たりの顧客獲得費用(CAC)で割って、1以上の数値になっていればユニットエコノミクスは健全と言えます。

ユニットエコノミクスの計算式は以下の通りです。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

特に投資に対して回収期間が長いSaaSビジネスにおいて、ユニットエコノミクスによる収益性の算出は欠かせません。

ユニットエコノミクスやLTVおよびCACの概念を持たずに、以下のようなKPI(重要業績評価指標)を示す事業を運営してしまうと「このプロダクトは赤字だから撤退だ」と早まった判断を行ってしまうかもしれません。

  • ARPU(ユーザー平均月次単価):1,000円
  • 粗利率:80%
  • Net Revenue Churn Rate(解約率):3%
  • CAC(顧客獲得費用):5,000円
  • LTV(1,000 × 0.8 ÷ 0.03 = 26,666円)> CAC(5,000円)

つまり、上記の数字だけを見ると「月間売上1,000円の顧客を獲得するために、5,000円の広告投資は高すぎる」と判断してしまうことで、事業から撤退してしまう可能性もあります。

CACを把握し、ユニットエコノミクスを算出していれば、この事業が「広告投資に対して、1ユーザーあたり5倍以上の利益が得られる」ことが分かります。

「広告投資費用の回収期間も7ヶ月に収まる」ことが分かり、このプロダクトの収益性は充分であると考えることができるのです。広告費に対しても「より多くの予算を投下していこう」と考えることもできるようになります。
 

SaaSの公式「LTV / CAC > 3x」って何?

一般的に「LTVがCACの3倍以上」、「Payback Period(広告投資の回収期間)は12ヶ月以内」であることが、シリーズAにおける投資の判断基準として多用されています。

この公式は「ユニットエコノミクス」と呼ばれ、投資家への事業説明でまず間違いなく注視される数値となります。もし、投資家による投資を呼び込みたいのならば「LTVはCACの3倍以上」「12ヶ月以内のCAC投資回収」という2つのポイントを必ず押さえておきましょう。

なぜなら、以下のようなSaaSビジネスの黄金律が成立するためです。

「LTVがCACの3倍」「Payback Periodが12ヶ月」であれば、事業が順調に成長していると考えることができる

つまり「LTVがCACの3倍」「Payback Periodが12ヶ月」であれば、自動的に「平均の利用継続期間は36ヶ月」が算出されます。ここから解約率を表すChurn Rateを算出すると約2.8%という数字が割り出されます。

BtoBのSaaSビジネスにおけるChurn Rateは、3%未満が理想的であるとされています。
 

CACは下げ続けるべき?

CACは下げ続けるべき?

ここまでお読みいただいて、SaaSビジネス運営における鍵は「LTVを向上させ、CACを低下させる」ことにあるということをご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし、一点だけ注意しなければいけないことがあります。それは「CACはとにかく下げ続けるべきではない」ということです。

極端な数値になりますが「LTVがCACの10倍」である場合、それは「適正な投資ができていない」という判断にもつながります。

上記のような数値を提示した場合、投資家は「攻めの投資が足りないのではないですか?」とコメントすることでしょう。つまり、CACは上げすぎても、下げすぎても駄目なのです。

「LTVがCACの3倍」というひとつの水準を目安に、CACの投資額をコントロールしなければいけません。そして投資額を具体的な戦術へと落とし込んでいく段階では「Organic CAC」「Paid CAC」の双方を細かくチェックしていく必要があります。
 

CACを下げることに成功した事例

それでは「Organic CAC」「Paid CAC」を細かくチェックしながら「Blended CAC」を低下させた企業の事例を見ていきましょう。
 

Dropbox社の事例

Dropbox社は、高騰するWeb広告の費用に課題を感じて「紹介キャンペーン」を展開しました。友人にDropboxを紹介することで、紹介した人と紹介を受けた人の両方が容量の追加を得られるというキャンペーンです。

筆者自身もこのキャンペーンを利用した記憶がありますが、既存ユーザーによる紹介を促進することで「Organic CACを増やす」「Paid CACを効率化して低下させる」という双方を同時に実現した非常にスマートな戦略と言えるでしょう。
 

ウーバー・テクノロジーズ社の事例

ウーバー・テクノロジーズ社が展開した戦略は、提供アプリUberの既存ユーザーである紹介者と紹介されて新規に登録したユーザーの双方に、無料のUber利用チケットを配るというキャンペーンでした。

その金額は日本円で約2,000円ほどですが、Uberの利用者が増え、ドライバーが増えれば増えるほどその金額の価値が大きくなるであろうという心理が働くキャンペーンであったため、利用者とドライバー双方の獲得に大きく貢献し、CACの低減を実現しました。

Dropbox社とウーバー・テクノロジーズ社のいずれの戦略も「Paid CAC」と「Organic CAC」のバランスを見極め続けた中で課題感が生まれ、その課題を解決すべく見出された施策です。
 

CACを利用したSaaSビジネス健全度の計測手順

SaaSビジネスを成功させていくためには、これまでご紹介してきたCACを利用した測定をしていくことが大切です。

CACは顧客獲得のコストを指しており、コストがLTVを上回るとビジネスとしては成立しません。
SaaSビジネスが健全な事業として成立しているかを確認するには、CACがLTVを上回っていないかという計測が必要です。

また、LTVをただ上回っていないかというだけではなく、ベンチマークを設定して四半期ごと、上・下半期ごと、1年ごとなどベースラインを設けて比較判断していくことにより、SaaSビジネスを健全な事業として進んでいるか判断できるでしょう。

計測手順は、以下の様な流れとなります。

  1. 期間を設定する
    まずはCACの計測をする期間を設定します。製品や業種などによっても異なるため、企業ごとに指標を持つ必要があります。
     
  2. 営業とマーケティングに掛かった費用を計算する
    新規顧客を獲得するために掛かった営業コストやマーケティングコストを計算し、合計値を求めます。
     
  3. 新規獲得の数を割り出す
    期間の中で獲得できた新規顧客数を出します
     
  4. コストを顧客数で割り出す
    新規顧客数を2で計算したコストで割ります。
     
  5. LTVを超えていないか計測する
    算出したCACがLTVを超えていないかを判断します。
     
  6.  CACの回収期間を計測する
    LTVがCACを上回っている場合、次にCACを回収する期間が重要です。。CACを回収できた期間がどれくらい掛かっているのかを確認します。
     
  7. CACの回収期間を減らせて行けているかを判断する
    CACを回収する期間を短くしてくためにどのようなことができるかを判断し、施策を実行しながら計測・最適化を繰り返します。
     

CACはウォッチし続けることが重要

「とにかくCACを下げよう!」という方向性でマーケティングを考える企業も少なくありませんが「実はそれだけでは不十分である」ことをご理解いただけたでしょうか。

CACを低下させることに成功すれば、次なる顧客獲得への投資余力が生まれます。そして、その余力を持て余すことなく、次なる顧客獲得に向けたチャネルの発掘へとつなげることが求められ続けるのです。

「とにかくCACを下げる」ことに留まらず、できる限り細分化してCACをウォッチし続けながら、適正な投資と最大限の効果創出を狙い続けていくことが、SaaSビジネスの収益性を確実に向上させていくために必要となってくるのです。

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元記事発行日: 2019年12月23日、最終更新日: 2020年11月05日

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