検索エンジンやECサイトにおけるレコメンデーション、スマートスピーカー、コールセンターの応対など、AIの登場によって、私たちの生活は根底から変化しています。
【無料ガイド】マーケティングにAIを活用する方法を徹底解説
AIの基礎知識から導入のメリットやデメリット、AIを活用できるマーケティング施策などについて詳しく解説していきます。
しかし、AIの本質や適切な活用方法については、あまり理解されていないのが現状です。「AIに仕事を奪われる」と聞いて、不安になっている方もいるでしょう。
本記事では、そもそもAIとはどのような技術なのかという基礎知識から最新のトレンド、ビジネスでの活用事例など、いま知っておくべきAIに関する情報を余すところなく紹介します。
AIについて理解を深め、うまく活用していくことが大切です。
AI(人工知能)とは
まずは、AIの概要や仕組みを押さえましょう。また、近年注目を集めている「生成AI」についても解説します。
AIの概要
AIは「Artificial Intelligence」の略で、日本語で「人工知能」を意味します。人間の脳のように創造的なアウトプットが可能な技術やシステムだといえますが、研究分野によってAIに対する考え方が異なるため、普遍的な定義は存在しません。
例えば、米国の計算機科学者ジョン・マッカーシー氏は、AIを「人間の脳に類似した機能を持つコンピュータープログラム」と定義しています。一方で、東京大学大学院の教授である松尾豊氏は、「人工的に作られた人間のような知能やそれを実現するための技術」と定義しています。
ちなみに、AIの対義語は「NI(Natual Intelligence)」です。日本語では「自然知能」と訳され、人間や動物が自然に持っている知能を表します。この「NI」を、いかにして人工的に作り上げるかが、未来のAIを考える重要な鍵となります。
参考:Artificial Intelligence Definitions|Stanford University(英語)
参考:第1回:人工知能の概要とディープラーニングの意義|Yutaka Matsuo's Homepage
AIの仕組み
AIは、従来の機械とは異なり、与えられたデータを自ら学習して作業を実行する点に特徴があります。また、AIの学習方法は、大きく次の2つに分かれます。
- 機械学習:
膨大な量のデータから、規則性や類似性をもとに予測モデルを形成する技術。ニューラルネットワークやk近傍法など、多様なアルゴリズム(問題を解決するための手順)が存在する。 - ディープラーニング:
与えられたデータを自ら学習する機械学習。ただし、精度を向上させるには人間による一定の指示が必要。ディープラーニングの場合、特徴量(予測の手がかりとなる変数)を読み取ることで、自ら整合性の成否に関する判断が可能。
このような技術を駆使することで、人や物の識別、音声のテキスト化、需要予測などの高度な処理が可能になります。
AIや機械学習、ディープラーニングのそれぞれの特徴については、こちらの記事で詳しく解説しています。
生成AIとは
生成AIとは、人間が与える指示(プロンプト)によって、機械が画像や音声、動画などのコンテンツを創作する技術です。
従来のAIは「識別系AI」と呼ばれ、すでに存在する学習データをもとに、情報の整理や分類を行うことに強みを持ちます。手書き書類のデータ化や異常検知、既存データにもとづいた予測などが従来のAIの一般的な活用方法です。
一方の生成AIは、指示(プロンプト)や参考画像から、新たなクリエイティブを創造できる点が大きく異なります。蓄積された非構造化データの法則性を読み取ることが可能で、メールの文面作成やプログラミング、アバター作成など、主にクリエイティブ業務で活用が進んでいます。
AIの歴史
近年は、さまざまな領域でAI技術が活用されていますが、ここへ至るまでの間には長い年月を要しています。ここでは、AIの歴史のなかでも大きな注目を浴びた、第一次から第三次までのAIブームについて解説します。
- 第一次AIブーム(1960~70年代)
- 第二次AIブーム(1980年代)
- 第三次AIブーム(2000年代~現在)
第一次AIブーム(1960~70年代)
米国の計算機科学者ジョン・マッカーシー氏が世界で初めてAIを定義したのは、1956年のことです。同時期に、イギリスの数学者アラン・チューリング氏が、1950年に出版した「Computing Machinery and Intelligence(計算する機械と人間)」にてAIの使用法を検証しました。
これらの出来事をきっかけとして、AIが世界の科学者の間で注目を集めるようになり、1960年代に第一次ブームを迎えます。
当時のAI技術は、人間の思考過程を記号で表現する「推論」や、複数の解き方のパターンから正確な回答を導き出す「探求」の2種類が主流でした。チェスやオセロをプレイできるAIに加えて、Siriなどの人工会話システムの起源である「ELIZA(イライザ)」も、この頃に誕生しています。
参考:Computing Machinery and Intelligence|PBworks(英語)
第二次AIブーム(1980年代)
第一次ブームでAIに対する注目度が高まったものの、当時のコンピュータ技術ではAIの開発レベルに限界がありました。そのため、1970年代中盤から1980年代初頭にかけて、一旦ブームが鎮静化します。
第二次AIブームが訪れるのは、1980年代に入ってからのことです。この時期は、技術発展によって「エキスパートシステム」と呼ばれる技術が登場しました。
エキスパートシステムとは、ECサイトのレコメンドシステムや、医療現場での疾患予測機能のルーツとなるもので、AIに高度な知識を習得させて問題解決をはかる技術です。1980年代の第二次AIブームでは、エキスパートシステムの商用利用が加速しました。
ただし、ここでも技術的な課題が浮き彫りになります。当時の技術ではコンピュータに知識を蓄積させることができず、人間が大量のデータをインプットする必要がありました。また、例外的な処理や、矛盾のあるルールにうまく対応できなかったことも課題の一つです。
エキスパートシステムの限界が明らかになるとともに、第二次AIブームも終焉を迎えました。
第三次AIブーム(2000年代~現在)
長い冬の時代を迎えたAI分野は、2006年にディープラーニングの技術が登場したことから、ブームが再燃します。ディープラーニングを取り入れることで、学習データから自動的に特徴量(データ入力時に用いる測定可能な特性)を抽出することが可能になり、予測や推論の精度が大幅に向上しました。
また、当時は、データベース処理技術の向上や、ビッグデータを自動的に解析する機械学習の登場など、技術革新によってAIの実用化が現実味を帯びてきた時期です。
それから10年以上が経過した2023年には、複数の技術を応用し、さまざまな場面でAIが活用されるようになっています。同時に、シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉にも注目が集まるようになりました。
シンギュラリティとは、将来的に技術の発展速度が加速し、AIなどの技術が人間を超える知能を生み出せる段階を指します。詳細はこちらの記事で解説していますので、AIの将来性について知りたい方はぜひご覧ください。
AIの種類
AIには、「特化型AI(弱いAI)」と「汎用型AI(強いAI)」の2タイプが存在します。2023年の主流は特化型AIですが、将来的な技術の進展によって汎用型AIが台頭する可能性もあるため、それぞれの特徴をよく理解しておくことが重要です。
特化型AI(弱いAI)
特化型AIとは、一部の領域にのみ強みを持つ人工知能です。画像・音声認識や自然言語処理、自動運転など、特定の機能を実行するために存在しています。対応範囲外の作業を行うことはできませんが、当該分野であれば人間と同等もしくは人間を超えるパフォーマンスを発揮することもあります。
2023年時点では、この特化型AIを活用したサービスが主流です。画像認識技術を用いた顔認証システムや肌診断サービス、自然言語処理技術を活用したチャットボット、名刺管理ソフトが特化型AIの代表的です。
汎用型AI(強いAI)
汎用型AIとは、人間と同様に複数の課題を処理できる人工知能です。特化型AIとは異なり、汎用性と自律性を保持しているのが特徴で、プログラム通りに動作するのはもちろん、特定の状況以外の課題にも柔軟に対処できます。人間の知性を模倣し、人間と同じような知的行動ができるロボットのようなイメージです。
2023年の時点では、汎用型AIは技術的に実現できていない状況です。しかし、汎用型AIが実現すれば、現在人間が対応しているさまざまな業務をAIが遂行する日が来る可能性があります。
例えば、企業の問い合わせ窓口に寄せられた質問を正確に理解し、人間の発話とよく似た音声で回答できるようになるかもしれません。領収書の電子データを送信するだけで税務処理を実行するなどの業務効率化も考えられます。
AIの導入によってできること
現段階で主流となっている特化型AIの対応領域は、「識別・予測・実行」の3種類に大別が可能で、それぞれ実行できる作業が異なります。
▼AI(特化型AI)の対応領域(実行可能な作業内容の一例)
- 【識別】
- 音声や画像の認識
- 人間が話す言葉や記載した文章の解析
- 【予測】
- 将来的な売上や需要などのデータ予測
- 過去のデータにもとづいたレコメンド
- 【実行】
- トリガーを起点とした作業の自動化
- 文章の翻訳
- カーナビをはじめとする運転経路の最適化
また、このようなAIの技術は組み合わせて活用できます。
例えば、顧客情報を一元管理するためのCRM(顧客関係管理)ツールには、AIによるデータ予測やワークフローの自動化といった技術が組み込まれていることがあります。さらに、OCR(光学文字認識)を用いることで名刺情報のスキャンが可能になるなど、複数の技術を組み合わせることで活用の幅が広がります。
AIをビジネスに活用するメリット
ビジネスにAIを取り入れる際は、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが大切です。まずは、AI活用のメリットから紹介します。
- 労働力不足の解消
- ヒューマンエラーのリスク抑制
- 企業競争力の向上
- 顧客満足度の向上
- 従業員満足度の向上
1. 労働力不足の解消
AIの対応領域が増えると、労働力不足の解消や、AIの得意分野である単純作業を機械に一任することによる人件費の削減が期待できます。
さらに近年は、生成AI技術の誕生により、従来型のAIでは難しかったクリエイティブ業務の一部自動化も可能になっています。
2. ヒューマンエラーのリスク抑制
人間は集中力が途切れるとミスが起こりやすくなりますが、機械のパフォーマンスは安定しています。
ヒューマンエラーの頻度が低下すれば、手戻りの機会が減るため、従業員の負担の緩和や作業コストの抑制につながります。工場をはじめとするヒューマンエラーが重大な事故につながるような現場では、安全性の向上にも効果を発揮するでしょう。
3. 企業競争力の向上
大量のデータを効率良く処理できるのも、AIの特徴です。この性質を活かして、蓄積された顧客や市場に関するビッグデータを解析することで、売上予測や商談成約率の予測、製品生産時の需要予測など、さまざまな予測を行えます。
AIを活用することで予測の精度が高まる効果も期待できるため、戦略立案やアクションプラン策定、在庫コントロールなどの質が改善され、企業の競争力の向上につながります。
4. 顧客満足度の向上
AIを活用した次のような技術は、 顧客満足度の向上に役立ちます。
- レコメンデーション:
消費者の嗜好データをもとに一人ひとりに合わせた商品を提案 - パーソナライゼーション:
行動履歴に応じて最適化されたコンテンツを表示 - チャットボット:
自然言語処理技術で相手の質問意図を読み取り、問い合わせに対する適切な回答を行う - AIカメラ:
店内での消費者の動線を分析し、商品の陳列や展開方法を最適化
ニーズに沿った体験を提供することで、顧客は商品やサービス、ブランドに対してより高い価値を感じるようになります。そのような顧客が増えると、リピート率の向上などによって売上が中長期的に安定するでしょう。
5. 従業員満足度の向上
非効率的な業務プロセスは従業員のフラストレーションを高める要因です。優先度の低いタスクはAIに一任し、従業員がより優先度の高いタスクに注力できる環境を整えることで、従業員満足度の向上に寄与します。
AI技術の活用により、マネジメント層のリソースに余裕を持たせられるのもポイントです。マネジメント層に余裕が生まれると、周りの従業員に対するフォローやサポートがスムーズ化し、より円滑な業務の遂行が可能になります。
AIをビジネスに活用するデメリット
続いて、AI活用のデメリットも見ていきましょう。マイナス面を事前に理解することで、AIを導入する際に対策を講じやすくなるでしょう。
- 導入コストや運用コストが発生
- セキュリティリスクの増大
- ブラックボックス問題
1. 導入コストや運用コストが発生
AI技術を活用したシステムを導入・運用すると、新たなコストが発生します。
初期費用やライセンスの更新費用などが発生するほか、システム運用のためのメンテナンスコストや、それに伴う人件費も考慮する必要があるでしょう。
また、AIを適切に運用するために、従業員の教育コストが生じる点にも注意が必要です。長期的に見ればパフォーマンスがコストを上回るかもしれませんが、一時的にコストが増大する可能性があります。
2. セキュリティリスクの増大
AIには、機械学習の抜け穴を突いたセキュリティリスクが存在します。
例えば、機械学習の結果を故意に操作する不正行為は、「学習データの汚染」と呼ばれています。その他、スパムフィルターをすり抜けるサイバー攻撃用のデータ作成や、AIを搭載した機器に対するサイバー攻撃・マルウェア感染なども脅威となります。
このようなリスクを抑制するには、従業員へのセキュリティ教育や、利用時のルール確立などの対策が必要です。状況によっては、AIやセキュリティに知見がある担当者の設置も検討する必要があるでしょう。
3. ブラックボックス問題
AIは人間が作ったものですが、その思考プロセスを把握することは簡単ではありません。
プログラムに従って処理を行うコンピュータとは異なり、AIの判断基準は人間のコントロール下にはないため、AIが導き出した結果に対して整合性を判断するのが難しい傾向にあります。このような課題は、「AIのブラックボックス問題」と呼ばれています。
ブラックボックス問題を解決するために、「説明可能なAI(Explainable AI:XAI)」と呼ばれる技術の開発が進んでいます。説明可能なAIは、AIの作業を細分化して異常を示すデータを特定したり、AIの着眼点を明確にしたりできるのが特徴です。
ビジネスシーンにおけるAIの活用事例
ここでは、ビジネスシーンにおけるAIの活用事例を1つ紹介します。
通貨処理機メーカーのグローリー株式会社は、近年、生体認証技術や選挙システムの構築など、幅広い分野に事業を拡大しています。
2023年1月には、AIの画像認識技術を活用した「mirAI-EYE(ミライアイ)」という転倒検知システムを発売しました。高齢者施設見守りシステムと連携することで、介護スタッフの負担軽減が可能です。
また、2023年9月には、業界初となるAIの画像認識技術を用いた海苔検査業務の自動化に成功しました。AI搭載型の海苔色調検査機によって、海苔の等級を自動判別できる仕組みです。
このようにAIの技術は、新たな商品開発や既存業務の自動化など、幅広い領域で活用されています。ほかにもAIの活用事例を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
いままでにないリスクを想定したうえでAIの活用方法を模索しよう
AI技術は、すでにさまざまな領域で活用が進んでいます。
企業活動では、市場ニーズへの対応や労働力不足の解消など、AIを活用したDX推進が自社の成長を促進させる重要な鍵となるでしょう。今後は、セキュリティリスクへの対応やガバナンスの強化といった対策を検討しつつ、AIの活用方法を模索することがより一層重要になります。
また、近年は生成AIの登場によって、さらにAIの活用の幅が広がり、マーケティングや営業の現場にも変化が起きています。
単純に他社の手法を真似ただけの施策は、AIに取って代わられる可能性があるため、より独創的なアイデアを生み出すことが求められています。
AIを活用して業務効率化をはかりながら、営業・マーケティングの担当者は、人にしかできない業務に集中できるような環境づくりを意識しましょう。