商品やサービスが多ければ多いほどユーザーに喜んでもらえると考えがちですが、実際には選択肢が多いほど人は決断を下すことができなくなる傾向にあり、これを決定回避の法則と呼びます。
マーケティングに役立つ心理学入門
〜見込み客の行動を理解して最適なマーケティング活動を進める秘訣〜
- 顧客をファンへと変える「ファノクラシー」の構築方法
- マズローの欲求5段階説の概要を理解する
- 人間の行動原理について学習する
- 自社のマーケティング活動を心理学的な観点から考察
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
本記事では、決定回避の法則の概要や応用のポイント、実際にマーケティング業務においてどのようにして取り入れるのか詳しく解説していきます。
決定回避の法則とは
決定回避の法則とは、「人は選択肢が多すぎるとどれを選べばよいかわからなくなり、判断を下すことを避ける傾向にある」という心理的現象のことです。
選択肢が多いことで生じるストレスや疲れが決定回避を引き起こします。この決定回避の法則は、経営学教授であるシーナ・アイエンガーがジャムの実験を行い立証したことから、「ジャム理論」とも言われてます。
決定回避の法則が生まれたジャム実験
シーナ・アイエンガーが行ったジャム実験とは、商品店の試食ブースにて24種類のさまざまなジャムを出した場合と、6種類に選択肢を絞ったジャムを出した場合にどちらが購入率が高いかというものです。
結果は、24種類の場合は試食した3%の人しか購入しなかったのに対し、6種類に選択肢をしぼった場合には試食した30%の人がジャムを購入しました。
来店した人のうち試食をした人は、24種類のジャムを準備した場合に60%、6種類のジャムの場合は40%で、種類が多いほうが人の興味を引いていましたが、購入率は約10倍、購入数は約6倍も6種類のジャムを出した場合の方が多いという結果となりました。
選択肢が多いことで起こる3つのこと
シーナ・アイエンガーはジャムの実験やその他の実験から、選択肢が多くなることで、人が選択することにおいて次の3つの悪影響が出るとしました。
- 選択の負荷がかかるため、決断を遅らせる
- よくない選択をしてしまう
- 客観的に見て良い決断だとしても満足できなくなる
過剰な選択肢は人が判断を下すのを避けるようになるだけではなく、選択した後の感情にも影響してくることになるのです。
類似の心理現象:現状維持の法則
現状維持の法則は、「人は選択肢が多すぎると、いつもと同じ選択をしてしまう」という心理現象です。
複数の選択肢のなかから選択をする際、リスクや失敗を回避しようという心理が働き、過去に経験したものを選ぶ傾向にあります。この「人は利益を得ることよりも損失することをより強く嫌う」という心理を「損失回避の法則」と呼びます。
人は過去の経験をもとに自分の判断基準を作るため、全く同じ選択でないにせよ、過去に経験したものと似た選択肢を選びやすくなるのです。
決定回避の法則をマーケティングで活用する際のポイント
選択回避の法則から、人が選択をしやすくするためには次のようなポイントがあります。
選択肢を減らす
まず大切なのは選択肢を減らすことです。
提供側にとって選択肢を減らすということは容易なことではないかもしれません。しかし、無意味で重複している選択肢を減らすことで購買の促進が期待でき、コストも削減できるようになります。
実際に、P&Gがヘアケア商品を26種類から15種類に減らした際に、売り上げが10%増加したといった事例もあります。
情報を具体化する
提供する情報を具体化することも人が選択するのに役立ちます。
例えば、A、B、C、D、E、Fの5つの選択肢があった場合に、それぞれの違いを具体的に説明するなどです。また、サービスや商品を購入した際にどのように生活が変化するのか、どんなメリットがあるのか具体的に想像してもらえるような情報を与えるなども良いでしょう。
このように情報の具体化によって人は選択をしやすくなります。
カテゴライズする
選択肢が多い場合には、カテゴリーを増やして対応します。
例えば、100種類の商品を10種類のカテゴリーに分けるより20種類のカテゴリーに分けた方が区別しやすくて買い物しやすいと人は感じる傾向にあります。
ただし、似たようなカテゴリーを作ってしまうとユーザーが迷ってしまうことにもつながるため、カテゴリーはユーザーにとって分かりやすいものを作成しましょう。
簡単な選択から始めてもらう
たとえ選択肢が多くても、徐々に選択の難易度をあげていくことで人は選択できるようになります。人は自身が思うより多くの情報を処理でき、選択の順序を工夫するだけで選択することに慣れていくことができるためです。
こうして簡単な選択から始めることで、ユーザーは選択するということに慣れ、より積極的に選択していけるようになります。
逆に多くの選択肢から始めると、ユーザーは選択することに疲れて選択することへの積極性を失ってしまいます。
このように、順序を変えるだけでユーザーの選択に対する積極性が変化する場合があるのです。
おすすめ商品や売れ筋商品を提示する
「店長のおすすめ商品」や「人気TOP5」など、サービスや商品を紹介する際に提供側で選択肢を絞って提示する方法です。
ECではレコメンド機能などを使うことで、ユーザーの閲覧履歴や購入履歴からおすすめの商品を提示することも可能です。
ランキングでは選択肢が絞られる意外にも「バンドワゴン効果」も働き、より効果的でしょう。
マジカルナンバーを活用する
選択肢を作成する際には、マジカルナンバーを意識すると良いでしょう。
マジカルナンバーとは、人が短期記憶で覚えられる個数のことで、ジョージ・ミラーが7±2と提唱していたが、現在はネルソン・コーワンが提唱した4±1が新マジカルナンバーとされています。
選択肢を3~5つに絞って提示することでユーザーが選択しやすくなります。3択にすると「松竹梅の法則」も働きます。
コピーや画像で利用シーンをイメージさせる
情報を具体化するためには、コピーやイメージを活用します。
例えば、リラクゼーションドリンクであれば、「疲れた夜にリラックスできる」や「仕事の合間に元気を出したい」など、コピーによって使うシーンを明確にしたり、仕事の休憩中に飲んでいるといったような画像を使用してユーザーが具体的にイメージできるようサポートすると選択しやすくなります。
フィルター機能で絞り込みできるようにする
多くの商品を扱うECなどでは、フィルター機能を活用することでユーザーが選択肢の絞り込みを容易にできます。
例えば、洋服を選ぶ際などはコートやスカートといったカテゴリーから始め、そのなかでもカラーやサイズなどから商品を絞り込めるようにするなどです。
ユーザーが目的の商品に容易に辿り着けると共に、選択していく動作に慣れてより積極的に商品を選択するようになるでしょう。
決定回避の法則を理解してユーザーの選択をサポートしよう
決定回避の法則を理解し適切に応用することで、ユーザーの選択におけるストレスを軽減させ、ビジネス、特にマーケティング戦略において顧客の購買体験を向上させることが可能です。
本記事で紹介したポイントや活用術を取り入れて、ユーザーが容易に商品やサービスを決定できるようにサポートしていきましょう。
その他、マーケティングに活用できる心理現象については以下も参照してください。