「マーケティングの文脈で出てくる “スコアリング” って何?」
と、疑問に思っているところかもしれません。
スコアリング(またはリードスコアリング)とは、見込み客(リード)が、顧客になる(成約または購買する)可能性を、数値化する手法です。
見込み客の属性や行動データなどを得点にして、合計点を算出し、見込み客をランク付けします。
スコアリングは、マーケティング戦略をより効果的に計画・実行するための、実践的な手段です。
データを活用して、マーケティング効率を向上させられるため、「新規顧客の開拓が、うまくできない」「見込み客のフォローアップに、課題がある」といったお悩みの解決策として、非常に有効です。
本記事では、スコアリングの基本的な意味から実践まで網羅的に解説します。マーケティング効率を飛躍的に向上させるために、お役立てください。
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1. スコアリングの基礎知識
最初に、スコアリングの基本的な意味や概要から確認していきましょう。
1-1. スコアリングとは何か
スコアリング(scoring)とは、リード(見込み客)を見極めるための手段です。
新規顧客の開拓に取り組み、多くのリード情報を入手したら、その中の誰が、本当にあなたの会社の商品・サービスに興味を持っている人なのか、見極めなければなりません。
この見極めを行わずに、すべての人に等しくアプローチしていては、限られた時間や費用、スタッフの労力をロスしてしまうからです。
そこで、最も見込み度が高い(つまり、顧客になる可能性が高い)人物から、優先的にマーケティング活動や営業活動をできるように、得点を付けて、優先順位を明確にします。これが、スコアリングです。
1-2. スコアリングの歴史と発展
スコアリングの概念は、20世紀初頭に金融業界で「クレジットスコアリング」として誕生したと考えられています。
この時代、個人の信用度を数値化することで、貸し倒れリスクを低減しようという試みが始まりました。
その後、スコアリングの適用範囲は次第にマーケティング領域へと広がりを見せます。
デジタル技術の進展により、企業は、顧客の行動データを大量に収集し、分析できるようになったからです。
初期のスコアリングは、顧客の単純な行動や属性に基づいていましたが、現在ではさらに進化を遂げ、複雑なアルゴリズムを用いた予測モデルが浸透しつつあります。
たとえば、HubSpotの「予測リードスコアリング」では、機械学習アルゴリズムを使用して顧客を分析し、今後90日以内にリードが顧客として成約する確率をパーセンテージで表すスコアを提供しています。
参考:Determine likelihood to close with predictive lead scoring(英語)
1-3. スコアリングと周辺概念との関係
スコアリングは、以下のような周辺概念と、密接に関連しています。
- リードジェネレーション(見込み客の創出):新たな見込み客を創出する活動。スコアリングは、このリードジェネレーションで創出したリードを評価するために使用されます。
- リードナーチャリング(有望な見込み客への育成):見込み客の関心を引きつけ、成約につなげるための情報提供やコミュニケーションの活動。スコアリングは、優先的にナーチャリング対象とするリードを特定したり、ナーチャリングの効果を測定したりするために使用されます。
- CRM(顧客関係管理):顧客との関係を管理し、最適化するための戦略やシステム。スコアリングは、CRMシステムの一部として組み込まれ、顧客との関係をより効果的にマネジメントするために使用されます。
それぞれの詳細は、以下の記事にて、ご確認ください。
2. スコアリングで数値を割り当てる要素
スコアリングでは、数値の「ポイント」という形で、値を割り当てるのが一般的です。
スコアを算出する際の要素は、大きく「明示的なデータ」と「非明示的なデータ」に分けられます。
2-1. 明示的なデータ:直接聞いた情報
明示的なデータは、入力フォームやアンケートなどを通じて、見込み客自身によって共有された情報を指します。役職・企業規模・業界などがその例です。
2-2. 非明示的なデータ:推測される情報
非明示的なデータは、見込み客の行動やビジネス上のやり取りから、間接的に推測または収集される情報を指します。
非明示的なデータを理解するには、見込み客の行動をモニター・追跡して、収集したデータを分析するプロセスが必要です。
2-3. リードスコアリングの無料テンプレート
上記で掲載した表の画像は、HubSpot英語版で提供されている、リードスコアリングの無料テンプレートを日本語訳したものです。
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4つのGoogle スプレッドシートから構成されており、スコアを自動計算するシートも付属しています。
ただし、スコアリングをスプレッドシートで手動管理する場合、顧客ごとにスコアを個別に計算する必要があるため、注意が必要です。
見込み客の数が数十人程度であれば、手動管理も可能ですが、数百人や数千人規模になると、そのアプローチは現実的ではなくなります。
このような状況では、効率的な管理のためにツールの導入が不可欠となります。ツールに関する詳細は、以下で解説します。
3. スコアリングの実際:予測リードスコアリングの場合
「ツールを使ってスコアリングをするとは、具体的にどんな感じなのか?」と疑問を持たれる方は、多いようです。
以下では、前出・HubSpotの予測リードスコアリングを例に、詳細をご紹介します。
予測リードスコアリングでは、機械学習アルゴリズムを使って、リードの「成約可能性」と「優先順位」を算出します。
3-1. 成約可能性
予測リードスコアリングでの成約可能性は、「今後90日以内に顧客として成約する確率」を表しています。
たとえば、成約可能性のスコアが【22】のリードは、次の90日以内に顧客として成約する可能性が22%である、という考え方です。
この機能を実際に使用されている、intelliflo社のDan Moody氏は、以下のとおり述べています。
「リードスコアリング機能は非常に便利です。
営業担当者は毎日ダッシュボードをチェックし、重点的に対応する必要のあるリードを確認しています。
有望なリードの特定ではなく、営業活動に集中できるようになりました」出典:予測リードスコアリング
3-2. 優先順位
優先順位は、成約可能性のスコアに基づいて、リードを階層分けしたランキングです。
[非常に高い/高い/中程度/低い、成約済]の分類があります。各階層は、成約可能性のスコアに基づいて、全体のリードの25%ずつに分類されます。
たとえば、スコア上位25%のリードは[非常に高い]に分類され、スコア下位25%のリードは[低い]に分類されます。
3-3. スコア算出に使われる要素
HubSpotは、次のデータを分析して、スコアを算出しています。
【アナリティクス情報】
- ページビュー数
- ページビューの平均数
- Webサイト訪問数
- Facebook、LinkedIn、Xでのクリック数
- 最後の訪問または最後のクリックからの経過日数 など
【CRMからの情報】
- ログされたメモの数
- 最後に商談を予約してからの日数
- 最後に連絡を取った日からの日数
- 次のアクティビティまでの日数
- 電話番号や携帯電話番号があるかどうか
- リードが登録されてからの日数
- 最後に更新されてからの日数
- メールがフリーメールドメインかどうか(例:Gmail)
- ライフサイクルステージプロパティの値 など
【企業情報】
- 会社の売上高
- 使用している技術
- 従業員数 など
【自社(あなたの会社)の企業情報】
- CRMにおけるコンタクト数
- 会社の売上高
- 使用している技術
- 業界
- 従業員数 など
これらのデータをもとに、HubSpotはスコアリングを自動的に行います。
参考:Determine likelihood to close with predictive lead scoring(英語)
4. スコアリング実践の流れ(1)手作業で行う場合
続いて、スコアリングを実践する流れを、簡単に確認しましょう。
4-1. 手動リードスコアリングの4ステップ
まず、手動管理の場合です。ExcelやGoogle スプレッドシートを使う流れは、以下のとおりです。
- リードから顧客への転換率の計算
顧客転換したリード数を、創出したリードの母数で割ります。この顧客転換率をベンチマークとして使用します。 - 高品質リードと思われる顧客属性の特定
顧客化しやすいと想定される属性をピックアップします。たとえば、無料トライアルをリクエストした顧客、金融業界の顧客、従業員数10-20名の顧客、といった具合です。 - 各属性の成約率の計算
サイト上での行動や、その行動を取った人のタイプごとに成約率を計算します。
たとえば、無料トライアルをリクエストした顧客の成約率、金融業界の顧客の成約率、従業員数10-20名の顧客の成約率などを計算します。
これらの成約率を使用して、次のステップでスコアを付けます。 - 各属性の成約率を全体の成約率と比較しポイントを割当て
全体の成約率よりも著しく高い成約率を持つ属性を探し、ポイントを割り当てる属性を選び、ポイント値を決定します。
たとえば、全体の成約率が10%であるのに対し、無料トライアルをリクエストした顧客の成約率が20%であれば、この属性に高いポイントを割り当てます。
以上のプロセスを通じて、手動でリードスコアリングを構築できます。
参考:Lead Scoring 101: How to Use Data to Calculate a Basic Lead Score(英語)
4-2. 手動管理には限界がある
注意点として、リード数が増えると、ExcelやGoogle スプレッドシートなどでの手動管理は困難になります。
大量のリードを効率的に管理するには、手作業ではなく、専用のツールの使用が推奨されます。
ツールを活用すると、リードスコアリングを自動化し、大量のリードを効率的に管理できるようになります。
ツールを使った実践は、次のセクションで見ていきましょう。
5. スコアリング実践の流れ(2)専用ツールを使う場合
ツールを用いてスコアリングを行う場合、CRMと連携したMAまたはSFAの導入が一般的なアプローチとなります。
5-1. CRM・MA・SFAの概要
まず、CRM・MA・SFAの概要は、以下をご覧ください。
出典:CRMとは?基本の意味からツールの必要性・事例までわかりやすく解説
略語(略す前の語) |
日本語訳 |
対象顧客 |
対象部署 |
---|---|---|---|
CRM |
顧客関係管理 |
潜在顧客〜プロモーター(推奨者)まですべての顧客 |
マーケティング部門 |
MA |
マーケティングオートメーション |
おもに潜在顧客〜見込み客 |
マーケティング部門 |
SFA |
営業支援システム |
おもに見込み客〜新規顧客 |
営業部門 |
スコアリングを実践するプロセスとしては、以下の流れとなります。
- CRMシステムにスコアリングに必要なデータを蓄積する。
- MAまたはSFAのスコアリング機能を活用して、スコアリングを実行する。
5-2. 機械学習による予測スコアリングの重要性
手作業では実現が難しい高度なスコアリングを可能とするには、機械学習による予測スコアリング機能を備えたツールの選定が鍵となります。
予測スコアリングでは、何千ものデータポイントを解析し、成約に至ったリードと至らなかったリードの特徴を抽出します。そのうえで、成約確率の高いリードを算出する計算式を導き出します。
機械学習を搭載したツールであれば、データが蓄積されるにつれ、その精度が高まっていきます。つまり、時間の経過とともにスコアリング精度が継続的に向上していくということです。
5-3. 主要なツール
スコアリングを実現するためのプラットフォームを提供している代表的なベンダーには、Salesforce・HubSpot・Adobe(Marketo)があります。
- Salesforce:世界的に広く普及しているCRMプラットフォームを提供しています。顧客データの管理・分析を効率化する多彩な機能を備えています。
- HubSpot:中小企業から大企業まで、幅広い規模の企業に人気のあるプラットフォームです。無料プランの提供や、直感的な操作性、わかりやすい画面設計が特徴です。サイト行動履歴やメールキャンペーンのデータなど、豊富なデータソースに基づく高度なスコアリングが可能です。
- Marketo:Adobeが提供するMarketoは、とくにBtoB大企業において広く利用されています。マーケティング活動から法人営業までの効率化をサポートします。
どのツールが適しているかは、スコアリング以外に必要な機能も含めて、包括的に検討する必要があります。
ツールの選択肢や選定の基準については、以下の記事をご覧ください。
6. スコアリングで成功するためのコツ
最後に、スコアリングで成功するためのコツを3つ、お伝えします。
- マーケティング部門・営業部門の協力で運用する
- 顧客インタビューを実施して顧客の声を聞く
- 分析データに立ち返る
6-1. マーケティング部門・営業部門の協力で運用する
1つめは「マーケティング部門・営業部門の協力で運用する」です。
スコアリングの運用をする部門(多くの場合、マーケティング部門)の担当者が、営業現場の実態を熟知していない場合、スコアリングは的外れなものとなります。
営業担当者とよく話をして、マーケティング・営業の両部門が協力してスコアリングを運用することが重要です。
営業担当者は、直接、見込み客とコミュニケーションを取り、顧客になった人とそうでない人の両方の特徴を、肌で感じ取っています。
その経験値は、コンバージョンの促進要因を探るうえで、貴重な示唆を与えてくれるでしょう。
たとえば、ある営業担当者は、「特定の資料を顧客に提示すると、クローズ率が高まる」と言うかもしれません。このような生の声を、的確にスコアリングに反映することで、より精度の高いモデル構築が実現できます。
6-2. 顧客インタビューを実施して顧客の声を聞く
2つめは「顧客インタビューを実施して顧客の声を聞く」です。
営業担当者が「特定の資料が、成約率を高める」という意見を持っている一方で、当事者である顧客自身は、また異なる意見を持っているかもしれません。
ここで意見が異なることは、問題ではありません。矛盾するように見えて、どちらも真実であることが、多くあるからです。
大切なのは、さまざまな立場からの生の声に耳を傾けることです。
短期間で成約した顧客と、成約するまでに長時間を要した顧客にインタビューを行い、「自社製品の購入を決めた(決められなかった)真の理由は何か」を探求しましょう。
顧客それぞれの経験から、成約を後押しした本質的な要因を発見できるかもしれません。
6-3. 分析データに立ち返る
3つめは「分析データに立ち返る」です。
営業担当者や顧客の “生の声” を聞いた後は、それらについて、分析から得られるデータで、裏付けを取ったり、より深い洞察を探したりして、補強していきましょう。
実際のフィードバックを、確かな数値データで支えることで、より信頼性のある結論を導き出せます。
具体的には、マーケティング分析のデータを駆使して、どのマーケティングが成果に結びついているかを探ります。
成約に直結するアプローチだけでなく、“リードになる前” の人たちが、どのようなコンテンツを見たのかについても、見逃さないようにしましょう。
どのマーケティング活動が成果に貢献しているか明らかにする、レポートの作成も有益です。
このように、さまざまな角度からの情報を総合的に検討することで、成果につながるスコアリングを行えるようになります。
参考:Lead Scoring 101: How to Use Data to Calculate a Basic Lead Score(英語)
7. 精度の高いスコアリングで顧客化を促進しよう
本記事では「スコアリング」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
スコアリングの基礎知識として、以下を解説しました。
- スコアリングとは、見込み客の成約確率を数値化し、顧客化の可能性を評価するプロセス
- スコアリングは、初期の単純なモデルから、機械学習などの技術を用いて複雑な要素を考慮する現代のシステムへと進化している
- CRMやリードジェネレーション・リードナーチャリングと連動して顧客関係を強化する
- 明示的データ(直接聞いた情報)と非明示的データ(推測される情報)を使ってスコアを決定する
実践方法としては、大きく2つのアプローチがあります。
- Excelなどを使用して手作業で行う:個別管理の手間があるため、リード数が多くなると処理しきれないことが課題
- ツールを導入して機械学習を使った予測スコアリングを行う:自社のニーズに合うツール選びが重要
スコアリングで成功するためのコツとして、以下をご紹介しました。
- マーケティング部門・営業部門の協力で運用する
- 顧客インタビューによって顧客の声も聞く
- 分析データに立ち返る
スコアリングに取り組むことは、マーケティングおよび営業効率の最大化と組織の生産性向上に直結します。データを蓄積しながら精度を高め、顧客化を促進していきましょう。