限られた営業人員で効率的なアプローチを行うには、あらかじめ見込みの高いリードを選別する必要があります。マーケティングでは、このリードの選別を「スコアリング(リードスコアリング)」と呼びます。
仮に「マーケティング部門から送客されるリード数が多すぎる」「すべてのリードにアプローチするには数ヶ月の期間を要する」と悩んでいる場合には、今回ご紹介するスコアリングが有効です。
今回は、リードスコアリングの基礎知識から設計手順、MA(マーケティングオートメーション)における具体的な設定方法などを解説します。
MAとコンテンツを活用したリードナーチャリングガイド
〜maでリードナーチャリングを行う5つのステップとは?〜
スコアリング(リードスコアリング)とは?
スコアリングとは、リードの属性や行動をもとに見込み客を評価する方法です。見込み客(リード)の情報をスコア化するという意味があることから、「リードスコアリング」とも呼ばれます。
そもそもマーケティングでは、3段階のプロセスを経て優良な見込み客を抽出します。
- リードジェネレーション:Web広告や展示会などで見込み客を創出すること
- リードナーチャリング:創出した見込み客と中長期的な関係を結び、見込み度合いを醸成すること
- リードクオリフィケーション:醸成した見込み客を一定の基準で絞り込み、営業対象となり得るリードを抽出すること
スコアリングは、3段階目のリードクオリフィケーションで用いられ、一定の基準で見込みの高いリードを絞り込んだ後、その情報を営業部門へと引き継ぐのが主な流れです。よって、効率的かつ質の高い営業活動を行うには、スコアリングによって優良な見込み客(ホットリード)を選別する必要があります。
スコアリングはMA(マーケティングオートメーション)ツールを使って行う
スコアリングはホットリードの選別に必須とはいえ、見込み客の情報を一つ一つ評価していくのは困難です。そこでMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用しましょう。
MAとは、見込み客情報の蓄積や施策の分析といったマーケティング活動の自動化を指します。たとえば、セミナーの参加者に対するお礼メールの送信や行動データの一元化などを行えるほか、スコアリング機能を備えたものも存在します。
つまり、スコアリング機能を搭載したMAツールを使えば、スコアリング業務を自動化できるということです。スコアリングに時間をかけ過ぎると、営業効率が悪化するという本末転倒な結果になってしまうため、最大限の効率化を目指すならスコアリング機能付きのMAツールの活用は欠かせません。
スコアリングを行うメリット
スコアリングを実施するメリットは以下の通りです。
- 営業部門とマーケティング部門が連携できる
- 保有リストをフルに活用できる
- 効果測定や分析を行いやすい
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
営業部門とマーケティング部門が連携できる
スコアリングを行う最大のメリットは、営業部門とマーケティング部門の間で生じる摩擦を軽減し、スムーズに連携できることです。
この2部門間で連携ができていないと、それぞれの部門で同じ見込み客にアプローチを行ってしまう、といった事象も起きかねません。見込み客側からするとしつこいアプローチに辟易としてしまい、信頼を損ねてしまうでしょう。
スコアリングを実施すれば、営業はマーケティング部門から引き継いだホットリードのアプローチに専念できます。マーケティング部門にとっても、「営業に送られてくるリードの確度が低い」という理由で営業部門と対立することも減るでしょう。
保有リストをフル活用できる
歴史の長い企業であれば、過去の訪問や展示会などで獲得した古い名刺、あるいは休眠顧客の情報が社内に蓄積していることがあります。スコアリングを実施すると、こうした見込みの薄いリード(コールドリード)をホットリードに転換することが可能です。
コールドリードは過去に自社製品やサービスに興味を持っていた可能性があるため、ニーズを掘り起こすことで優良な見込み客へ生まれ変わることも十分にあり得ます。
効果測定や分析を行いやすい
「大切なお客様に点数を付ける」と考えると、スコアリングをためらってしまうかもしれませんが、数値化は効果測定や分析を行ううえでの絶対条件です。 具体的な数値なしに効果的な検証は行えません。マーケティングや営業施策の改善にもつながらないので、かえって提供価値が下がり、利用者にとってマイナスな影響を与えてしまうことも。
営業活動は、担当者のノウハウや勘、経験による営業テクニックに頼る部分が大きいため、客観的なスコア化を行うことが重要です。
スコアリングに必要な設定
では、スコアリングには具体的に何の設定が必要なのでしょうか。ここでは、高スコアを獲得したリードへの対応方法や対象期間の設定について解説します。
高スコアを獲得したリードへの対応
初めてスコアリングを設計する場合、まずは高スコアを獲得したリードへの対応方法を決めておきます。
同じ高スコアを獲得したリードでも、アプローチ方法によって設定方法が異なります。たとえば、「営業社員が高スコアにあたるリードに対して電話をかける」「インサイドセールスの担当者がメールの配信を通じてニーズをあぶり出す」などです。
あらかじめアプローチの手段を決めておくと、マーケティング部門から営業部門へスムーズにリード情報を引き継ぐことができます。
スコアリングの対象期間の設定
MAツールのスコアリング機能を活用する場合は、スコアを計算する対象期間を設定しておきましょう。対象期間の設定については、リードに対応する間隔、すなわちMAツールにログインする頻度で決めることができます。
たとえば、インサイドセールスを実施する際に前日の見込み客の行動を確認する場合、MAツールにはほぼ毎日ログインすることになるので、スコアリングの対象期間は1日が最適です。一方、定期的にメールマガジンを発信するような場合には、毎日ログインする必要がないのでメールの送信期間に合わせて対象期間を設定します。
スコアリングの設計例
スコアリングを設計する際は、以下5つの手順に沿って進めていきます。
- 既存の設定でスコアリングに慣れる
- スコアリングの対象期間を設定
- スコアリングの加点や減点の設定
- 高スコアのリードの抽出
- スコアリングの精度向上
最初は少しずつ進めていき、徐々に感覚をつかんでいきましょう。
手順1:既存の設定でスコアリングに慣れる
ほとんどのMAツールは、あらかじめスコアリングが設定されています。その既存設定を活用することで、不慣れな人でもスコアリング機能に慣れることができます。まずは既存設定で試験運用を行い、必要に応じて細部の設定を変更しましょう。
もちろん過去にMAツールを使ったことがある場合には、いきなりオリジナルの設定に直しても構いません。
手順2:スコアリングの対象期間を設定
先述した通り、スコアリングの対象期間はMAツールにログインする頻度(リードへの対応頻度)が目安です。なるべく高いスコアを持つリードへの対応頻度をもとに対象期間を設定しましょう。
手順3:スコアリングの加点や減点の設定
MAツールのスコアリング機能では、見込み客の行動に応じて加点や減点を細かく調整できます。対象期間を設定した後は、この加点・減点を設定しましょう。
特に見込み客のスコアリングでは、加点の条件を見直す機会が頻繁に訪れます。たとえば自社サイトの問い合わせなどの行動は、スコアの高さにかかわらず必ず対応すべきなので、あらかじめ加点の条件から除いておくことが大切です。
またMAツールの運用後も、購買行動とは直接関係のないWebページの閲覧(採用ページなど)は加点の対象にしないよう設定することもあります。
手順4:高スコアのリードの抽出
次に、高スコアを記録したリードを抽出していきましょう。高スコアのリードの抽出は、スコアリングの目的でもあります。営業担当者と密接にコミュニケーションをとり、アプローチすべきリードの情報を部門間で共有しておくことが大切です。
営業担当者が複数に分かれる場合には、MAツールに搭載されたフィルタ機能と通知機能が役立ちます。フィルタ機能は、さまざまなリード情報を担当業種などによって営業に振り分けることが可能です。さらに通知機能を使えば、振り分けたリード情報が各営業担当者にメールで届くため、よりスムーズに引き渡しができます。
手順5:スコアリングの精度向上
高スコアのリードを抽出できればスコアリングの設計は完了です。しかし、スコアリングは設計して終わりではありません。スコアの計算方法はMAツールの運用中でも行えるため、日々の見込み客の行動を分析しながらスコアリングの精度を高めていくことが重要です。
たとえば日々の運用で、料金プランのページを閲覧した見込み客よりも、一つひとつの機能を詳しく紹介したページを見た見込み客のほうが成約率が高くなることもあるでしょう。この場合は、「機能紹介ページの閲覧」が高スコアになる設定をすることで、スコアリングの精度を向上できます。
スコアリングを実施するうえで重要なポイントは?
スコアリングでは正確な手順に沿って設計することも大切ですが、それ以上にスコアの基準を明確にしたり、評価項目を定期的に調整したりするほうが重要です。
スコアの基準を明確にする
高スコアを出す基準があいまいなままだと、「点数こそ高いものの、成約に結び付かない」といった事態に陥る恐れがあります。よって、MAツールを運用する前にスコアの基準を明確にしておきましょう。
スコアリングでは、Web上の行動履歴や個人属性、企業属性などのほか、BANT条件を指標とします。BANT条件とは見込み客の「Budget(予算)・Authority(決裁権)・Needs(必要性)・Timeframe(導入時期)」を表す指標です。
評価項目を定期的に調整する
上記の指標は現行のデータを必要とするため、スコアリング導入当初から基準を固めるのは困難です。そのため、運用後にPDCAサイクルを回転させる必要があります。常に変化する見込み客の行動を検証し、評価項目を定期的に調整しましょう。
たとえば、資料請求を行った場合には10点、機能紹介ページを訪問した場合には1点が加点されるとしましょう。
仮に機能紹介ページを10回訪れた見込み客は10点を獲得し、資料請求を行った見込み客と同列となりますが、果たして両者に同じ見込み度合いがあるかと問われれば疑問が残ります。一般的には、機能紹介ページに10回アクセスした人よりも、資料請求を行った人のほうが検討段階が進んでいると考えられるからです。
スコアリングを運用していると上記のような問題が生じがちなので、一つひとつの行動に対して加点や減点を行って対処していきましょう。
過去の実績と連動するか検証する
過去の実績とスコアリングの設定が連動するか検証することも大切です。
過去の実績とは、たとえば「資料請求を行った見込み客はほかの見込み客よりも成約率が高い」といったデータを指します。仮に資料請求を行った見込み客の成約率が高い場合、スコアリングにおいて「資料請求を行う」という行動の加点が大きければ、両者がうまく連動できていることになるでしょう。
コンバージョンページや流入キーワードなどの情報がデータ化されていると、上記のような検証を行いやすくなります。
スコアリング導入時に注意すべきポイント
スコアリングを実施する際、注意すべきポイントは以下の3つです。
- 全ての行動をスコアに反映する必要はない
- 慣れないうちはシンプルな設定を心がける
- リードが少ないと正確な結果が得られない
それぞれの注意点について詳しく解説します。
全ての行動をスコアに反映する必要はない
スコアリングを設計する際は、何も見込み客のすべての行動をスコア化する必要はありません。むしろすべて反映させてしまうと、見込みの薄いリードが高スコアを獲得するという逆転現象に陥ってしまう恐れがあります。
よって、「購買行動に直接関係しない採用ページの閲覧はスコアに反映させない」といった設定が必要になります。また、鮮度の低い情報もスコアの精度に悪影響を与えがちなので、なるべく直近の数日間に行動した見込み客を対象にしましょう。
慣れないうちはシンプルな設定を心がける
スコアリングの精度を高めるには、見込み客の行動を検証しつつ加点や減点の調整を何度も試していくしかありません。よって最初から複雑な設計を行うのではなく、慣れないうちはシンプルで最小限に作り込むようにしましょう。
リードが少ないと正確な結果が得られない
スコアリングを実行に移すには、ある程度ボリュームのある見込み客リストが必要です。あまりにもリード情報が少なければ、正確にホットリードを抽出することが難しくなります。仮にリード情報が不足している場合は、過去に受け取った名刺や展示会で獲得したリストから見込み客リストを作成しておきましょう。
スコアリングで代表的なマーケティングツール3選
MAツールは、すべてがスコアリング機能を搭載しているわけではありません。ここでは、スコアリング機能を備えたおすすめのMAツールをご紹介します。
HubSpot予測リードスコアリング
HubSpotが提供するMAツールには、予測リードスコアリングという機能が搭載されています。
予測リードスコアリングとは、独自の機械学習アルゴリズムが、今後90日以内にクロージングする可能性がある見込み客を自動的にスコア付けする機能です。内部に蓄積したデータを解析することにより、「クロージングに至った見込み客」と「至らなかった見込み客」に自動で点数が割り振られます。
Pardot
PardotはSalesforceが提供するMAツールで、特にBtoB向けの機能が整っています。見込み客の情報管理はもちろん、LP(ランディングページ)の作成やメール配信にも対応しています。
スコアリング機能としては、「どのユーザーが・何に対して・どの程度関心があるのか」といったリード情報を可視化することが可能です。営業を行うべきタイミングが一目で分かるため、機会損失のリスクを抑制できます。
Marketo Engage
米国発のMAツールであるMarketo Engageは、全世界で5,000社以上の導入実績を誇ります。BtoBやBtoCの区別がなく、見込み客の創出から醸成に必要な一通りの機能が揃っています。
Marketo Engageのスコアリング機能の特徴は、見込み客の行動に対して即座にスコアの値を修正できることです。各スコアにはトリガーを設定でき、見込み客の属性情報の更新やキャンペーンに対する反応の変化などがトリガーの起因としてスコアを柔軟に変化させます。
適切な運用で、精度の高いスコアリングを目指そう
リードナーチャリングによって醸成した見込み客を行動ごとに点数を付け、見込みの高いホットリードを抽出するスコアリング。営業の効率化を図れるのはもちろん、本来自社サービスを必要とする見込み客へ課題解決を支援するサービスが提供でき、双方にとって満足度を高める結果につながります。
スコアリングを導入し始めたばかりの頃は、その評価基準も未熟かつ不正確です。よって、より適正なスコアリングに近付けるためには、PDCAサイクルを回して検証と改善を繰り返す必要があります。
見込み客に対してより高い価値を提供していくためにも、リードスコアリングを実施する際は上記の点に注意し、正しく運用しましょう。