消費者の購買行動の変化に対応するマーケティング方法として、「リードナーチャリング(見込み客の購買意欲の醸成)」が注目されています。
他社の事例を真似しても成果が出ないと感じているなら、自社に求められているコミュニケーションを整理することから始めることをおすすめします。

本記事では、リードナーチャリングの概要や基本的な手法・手順を解説します。リードナーチャリング強化の成功事例もご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
リードナーチャリングとは

リードナーチャリングとは、直訳では「リード(見込み客)」「ナーチャリング(育てる・醸成)」となり、「見込み客の購買意欲を醸成する」意味を持ちます。
見込み客と良好な関係を構築して、将来的な顧客を醸成するマーケティング方法です。
リードナーチャリングはカスタマージャーニーを前提に実施します。認知から購買に至るまでの各段階で、見込み客のニーズに即した価値提供を行い、徐々に信頼を得ることが、リードナーチャリングの基本の思想です。
長期的な視点を持つマーケティング方法であることから、商品やサービス購入に至るまでに、長い検討期間を要する場合に、特に有効です。
見込み客の創出から商品やサービスの購入に至るまでには、顧客の状態に応じてリードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションのプロセスがあります。
ここからは、リードナーチャリングの前後のプロセスとなるリードジェネレーション、リードクオリフィケーションについて解説します。
見込み客と接点を持つ:リードジェネレーション
リードジェネレーションとは、見込み客との接点を持つためのプロセスです。マーケティング活動の入り口にあたり、自社の商品やサービスについての価値を提供しながら、自社への理解や興味を深めてもらいます。
ここで多くの見込み客を創出することが、次の段階におけるリードナーチャリングの成果に大きく影響します。
リードジェネレーションについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
購買に近い見込み客を絞り込む:リードクオリフィケーション
リードクオリフィケーションとは、リードナーチャリングで購買意欲を醸成させた見込み客から購買に近い見込み客を絞り込み、営業や商談へと引き継ぐプロセスです。
商品やサービスへの興味や関心が高い見込み客を絞り込むことで、営業活動を効率的に行えるようになります。また、見込み客の状態に応じた良質な提案が可能になり、良好な関係の構築や顧客満足度の向上にもつながります。
リードナーチャリングが重要視されている理由
消費者行動が変化した現在において、リードナーチャリングが重要視される背景には次のような理由があります。
見込み客の多くはすぐに購入しない
見込み客は、商品やサービスに興味を持ってもすぐには行動を起こさず、購買意欲が醸成されてはじめて購買行動を起こします。
しかし、購買意欲の高い見込み客を重視して、接点を持てた潜在客をアプローチから除外し、見込み客創出の機会を失っている企業は少なくありません。広告やメディア運用など見込み客の創出にかけた費用を有効活用するためにも、「まだ購入は早い」「今回は他社のものを購入する」といった潜在客に対してリードナーチャリングを実施し、購買意欲を醸成することが大切です。
インターネットの普及により購買行動が変化している
インターネットの普及により、消費者は自ら情報を調べることが可能になりました。消費者との接点となるチャネルも、Webサイト、動画配信プラットフォーム、SNS、フリーペーパーなど多岐にわたります。
そのため、企業側から一方通行で発信されるプッシュ型のアプローチだけでは、成約が厳しくなっています。WebサイトやSNSのように企業と見込み客、双方からコミュニケーションをとれるプル型のアプローチも併用して購買意欲を高めましょう。
営業効率の向上が求められている
営業効率を上げるには、リードナーチャリングやリードクオリフィケーションのプロセスを意識して、購買につながる見込み客を絞り込むことが重要です。
事前情報のないテレアポや訪問営業のような「数を打てば当たる」営業活動は、成約見込みが低く非効率です。人員や経費の無駄遣いにもつながります。
リードナーチャリングが成約数にどう影響するのか、平時において月に10件成約している営業担当者が、15件の成約を得る例を考えてみましょう。
成約率の目安は業種によって変わるため一概には言い切れませんが、ここでは10%と仮定します。10件成約するための見込み客数は、10件÷10%=100人となります。
成約率を同様に10%とした場合、15件成約させるためには、15件÷10%=150人の見込み客にアプローチしなければなりません。
一方で、リードナーチャリングを実施し、見込み客の購買意欲を高めた状態で営業に引き継いだ場合、100人の見込み客数で15件成約するには、15件÷100人=15%の成約率が求められます。
エン・ジャパン株式会社が実施した、2022年「企業の人材不足」実態調査によると、人材不足が著しい職種として営業職があげられています。このような環境下では新たに50人の見込み客を創出し、購買意欲が低い状態の見込み客に対して営業活動を行うことは現実的ではありません。しかし、リードナーチャリングによって購買意欲が醸成された見込み客に対しては、適切なタイミングでアプローチできるため、営業効率が向上します。
営業効率を向上させるには、成果が出る営業戦略を立てることも重要です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
リードナーチャリングの基本の手法5つ

ここからは、リードナーチャリングの基本手法をご紹介します。リードナーチャリングの効果を最大限に得るためには、各手法の特徴や、どのタイミングで実施すると有効かを理解しておくことが大切です。
1. メール
リードナーチャリングのメイン手法は、ステップメールやセグメントメールなどのメール配信です。メールを通じて見込み客の関心を高めていきます。
ステップメールは、資料請求や無料会員登録など特定のアクションを行った見込み客に対して段階的に配信されるメールです。あらかじめ複数のメールをストーリー形式で作成しておき、決められた間隔で配信します。顧客の行動を軸に発信するため、カスタマージャーニーのいずれの段階でも有効です。
セグメントメールは、見込み客の属性や指定した条件で分類し、それぞれに適した情報を配信するメールです。見込み客のニーズや状況に応じた内容を意識して配信しましょう。
2. ウェビナー
従来、特にBtoB企業では、リードナーチャリングの一環としてセミナーが実施されてきました。近年は、オンラインで開催するWebセミナーの「ウェビナー」を取り入れる企業も増えています。会場の手配が不要で、遠方の顧客へもアプローチできるメリットがあります。
ウェビナーの内容を、配信用の動画や記事、ダウンロード資料に横展開して発信することも有効です。
3. リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、自社サイトから一度離脱したユーザーを追跡し、他社サイトを見ている時に広告を表示する手法です。広告を繰り返して認識することで記憶に残り、潜在ニーズに訴える効果も期待できます。
リターゲティング広告を用いたリードナーチャリングでは、忘れた頃に再認識してもらうことを目的としています。定期的な配信以外に、取引が途絶えている顧客への配信も効果的です。
4. オウンドメディア
オウンドメディアには、見込み客との最初の接点を生み出すリードジェネレーションの役割が求められがちですが、リードナーチャリングにも有効です。有益な記事や資料を継続的に発信し、価値あるメディアと認識してもらえれば、定期的にオウンドメディアに訪問してもらえます。つまり、見込み客に対して自社の情報を伝えられる機会が増えることになります。
もちろん、オウンドメディアの記事や資料を読んですぐに購入に至ることは少ないので、長期的な視点を持ち、ファンを増やしていくことを念頭に運営してください。
5. セミナー・展示会・イベントなどのオフライン施策
セミナー・展示会・イベントなどのオフライン施策もリードナーチャリングに寄与します。オフラインイベントではどれだけ名刺を収集できるかを重視しがちですが、将来的に、いかに良い関係構築ができるかを意識して名刺交換に臨みましょう。
オフラインの場合は、相手に興味を持ってもらえれば、その場で最初の商談を設定することも可能です。リードジェネレーションからリードナーチャリングへのプロセスをスムーズに行えるでしょう。
リードナーチャリングを行うプロセス

リードナーチャリングでは多くの効果が期待できますが、事前に体制を整えておく必要があります。実践前から実施後までのプロセスをご紹介します。
実施前に必要な3つのプロセス
実践前に必要なプロセスには、次の3つがあげられます。
- 見込み客情報のデータ化・分類
- 自社商品のカスタマージャーニーを策定
- カスタマージャーニーをもとに各見込み客を分類
1. 見込み客情報のデータ化・分類
はじめに、見込み客情報をデータ化します。セミナーや訪問営業で入手した名刺、Webからの問い合わせなど、さまざまな手段で創出した見込み客を、次のような条件で分類すると管理しやすくなります。
- 性別
- 住所
- 年齢
- 職業
- 過去の取引履歴
- 直近の購入行動 など
これまで管理を別々に行っていたのであれば、一元化によってデータの重複が避けられます。
2. 自社商品のカスタマージャーニーを策定
適切なナーチャリングを実施するには、見込み客ごとの状況を把握し、提案内容を変えていく必要があります。自社商品の場合、認知から購買まで、見込み客がどのような段階を踏むのかを可視化したカスタマージャーニーを作成し、それぞれの段階に応じたアプローチを考えられるようにしましょう。
カスタマージャーニーを作成する際は、購買行動のフレームワークを参考にしましょう。代表的なモデルには、「AIDMA」「AISCEAS」「DECAX」「TPCM」などがあります。例えば。「AIDMA」は、「注意→関心→欲求→記憶→行動」の順で購買に至るという考え方です。
各モデルを参考に、自社の商品・サービスに適した購買プロセスはどのようなものかを考えてみましょう。
3. カスタマージャーニーをもとに各見込み客を分類
カスタマージャーニーが明確になったら、見込み客がどの段階に当てはまるのかを分類します。
大量の見込み客を手作業で振り分けるのが困難な場合は、MAツールのスコアリング機能を活用すると良いでしょう。例えば、自社サイトへのアクセス回数、資料ダウンロード数、営業への問い合わせ歴など、自社への興味関心の高さを推測できるアクションを軸に見込み客をスコアリングします。スコア(興味関心度)に応じて適切なアプローチを行いましょう。
施策実行のプロセス
施策の実行は、次のプロセスで行います。
- コンテンツ制作
- メール配信・ウェビナー開催など施策の実行
- 結果の分析・改善
1. コンテンツ制作
コンテンツ制作では見込み客の属性を把握して、各段階に応じた内容を意識することが大切です。
例えば、Webサイトに訪れたばかりの見込み客の購買意欲は高い状態ではありません。この段階の見込み客に対しては、ダウンロード資料やホワイトペーパーなど、自社商品やサービスの特徴がわかる有益な情報を提供します。
さらに、価値提供によって購買意欲が高まってきた段階では、商品・サービスの購入を促すコンテンツを用意します。例えば、商品・サービスの具体的な紹介動画や無料トライアルなどのコンテンツを制作しましょう。
いずれの手法でも、良質なコンテンツであることと、見込み客の購買意欲を醸成できる内容であることが重要です。
2. メール配信・ウェビナー開催など施策の実行
ご紹介したリードナーチャリングの基本の手法を中心に、自社に適した施策によって見込み客へアプローチします。
コンテンツ制作と同様に、見込み客の段階に応じて適した手法を選択し、感情や思考、ニーズに応えられる施策を実施しましょう。
3. 結果の分析・改善
続いて、実行した施策の結果を分析し、改善施策を策定します。アンケートやヒアリングによって見込み客の興味・関心の高さを調査しましょう。
分析によって課題が明らかになれば現状の施策を改善する必要があります。定期的にPDCAを繰り返して、より効果的なリードナーチャリングを実施しましょう。
リードナーチャリングがうまくいかないときにやるべきこと
適切なプロセスでリードナーチャリングを行っても十分に成果が得られない場合は、原因を検証し、次のような改善策を実施しましょう。
顧客の購買プロセスの再調査
取り扱っている商品・サービスの内容や時間の経過によって、購買プロセスの定義が異なる点を理解しておくことは重要です。
例えば、代表的な購買プロセスの「AIDMA」は、インターネットやSNSが普及する以前に作られたモデルです。商品やサービスによっては、一般的なモデルが当てはまらないケースもあるので、基本の考え方として参考にしつつ、自社の状況にあわせて独自に構築しましょう。
また、購買プロセスを定義した後も、定期的に再調査を行ってください。見込み客の状況をリアルタイムで確認して顧客理解を深め、柔軟に購買プロセスを改善していくことも大切です。
営業担当者との情報共有
成約率を高めるためには、見込み客の質が営業担当の想定しているものと合致し、適切なコミュニケーションを取れることが重要です。
リードジェネレーションからリードナーチャリングまではマーケティング部が、見込み客にアプローチをするのは営業部が担当する、というように分業している企業では、コミュニケーションミスが起こりやすく、機会損失につながります。
例えば、マーケティング部門で創出した見込み客に営業担当者がアプローチしたところ、「全く手応えがなかった」と、営業部門からクレームが入るケースが考えられます。これは、どのような状態までナーチャリングしたうえで引き継ぐべきなのかをマーケティング・営業双方で調整できていないことが主な原因です。
見込み客と良好な関係を築くためにも、部門間で連携し、情報共有を徹底しましょう。
また、引き継いだ見込み客の状況確認を行うことも重要です。部門間でコミュニケーションを密に取るだけでなく、顧客情報を管理できるCRM(MA)ツールを導入するなど、情報共有の仕組み化を推進するのも有効な手段だといえます。
MAツールの導入によるデータの可視化・業務効率化
MAツールを導入してデータの可視化・業務効率化をはかることも重要です。
MAツールのスコアリング機能を利用すれば、見込み客の購買意欲を可視化し、状態を客観的に把握できるようになります。
また、MAツールでは、収集した見込み客のデータを一元管理することも可能です。リードジェネレーションからリードクオリフィケーションまで、一連の流れをMAツールで管理すれば、全体の業務効率化が期待できるでしょう。
リードナーチャリングを強化した成功事例

ここでは、リードナーチャリングの効果検証にMA(CRM)を使用した成功事例をご紹介します。リードナーチャリングを実施する際の参考にしてください。
1年間でマーケ経由の商談数・受注数が倍増
株式会社Kaizen Platformは、セールスとマーケティング領域のDX支援サービスを提供している企業です。WebサイトのUI・UX改善や動画制作・運用、DXコンサルティング事業を展開し、クライアントの顧客体験を向上させるサポートを行っています。
同社は、営業力が高い反面、体系化されたマーケティング施策を実施できていないことが課題でした。
既存の見込み客数が多かったため、アプローチ方法の改善が成果につながると考え、MAを使用した継続的なアプローチを実施しました。具体的には、MAのシナリオとコンテンツマーケティングを紐付けてリードナーチャリングの精度を高めました。
MAを基盤としたコンテンツマーケティングの実践を続けたことで、1年間でマーケティング経由の商談数・受注数の倍増に成功しています。
参考:【HubSpot導入事例】1年間でマーケ経由の商談数・受注数が倍増。成功の鍵は顧客理解&MA活用~株式会社Kaizen Platform~
アナログ・デジタルのハイブリッドで顧客体験を向上
パナソニック インダストリー株式会社は、「多様なデバイステクノロジーでより良い未来を切り拓き、豊かな社会に貢献しつづける。」をミッションにかかげ、見込み客や顧客の課題をともに解決するパートナーとして尽力しています。
従来のパナソニック インダストリー社の営業は、営業担当者が直接会いにいくアナログ的な方法でした。しかし、時代の流れによって現状の方法ではニーズに対してスピーディーに応えられない限界を感じていました。
そこで、散在するデータを集約するためにMAを導入します。メルマガや誘導先となるランディングページをカスタマイズできるように変更した結果、営業担当者のフォローアップ意欲が向上し、メルマガを起点とした商談化率が大きく改善しました。また、オンライン展示会やウェビナー、テレビ会議ツールなどを通じて、密にコミュニケーションをとれる体制を整えたことも顧客との関係構築に寄与しています。
従来のアナログの営業方法とオンラインのコミュニケーションをかけあわせたことで、顧客ニーズを把握し、適切なタイミングでアプローチできるようになりました。結果として、顧客体験を向上させることに成功しています。
参考:【HubSpot導入事例】アナログ・デジタルのハイブリッドで顧客体験を向上させ「徹底的にお客様とつながる」営業DXの挑戦~パナソニック インダストリー株式会社~
リードナーチャリングは、見込み客の視点に立って実施しよう
リードナーチャリングには、見込み客に対する継続的なフォローによって機会損失を減らす役割や、営業効率の改善、新規開拓コストの削減などの役割があります。
リードナーチャリングを適切に実践することで、企業にとってメリットがあるのはもちろんのこと、各見込み客に対して細やかな提案ができるようになるため、顧客満足度やブランドイメージの向上にもつながります。
リードナーチャリングを最大限活用するためには、見込み客の購買行動を理解し、施策を打つタイミング、アプローチ方法へ配慮することも必要です。
本記事でご紹介した手順や基本の手法を参考に、リードナーチャリングを自社の営業・マーケティング活動に取り入れてみましょう。

