人材不足や働き方の多様化といった変化によって、自社の求める人材を採用することは、これまで以上に難しくなっています。精度の高い採用戦略を構築し、採用活動を効率化することは、もはや必須といえるでしょう。
採用戦略の構築には、マーケティング戦略や経営戦略を立てる際によく使われる、ペルソナ設定や3C分析、SWOT分析などのフレームワークの活用がおすすめです。
本記事では、採用におけるフレームワークの種類や活用方法などを解説します。
より深く採用戦略の構築方法を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
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採用戦略に使えるフレームワークの種類や活用方法
採用戦略の立案には、マーケティングによく用いられる次のようなフレームワークを、採用活動向けにアレンジして利用しましょう。
- ペルソナ設定
- 3C分析
- 4C分析
- SWOT分析
- 5A理論
- カスタマージャーニー
採用活動はマーケティングと同様に、まず企業側から求職者の求める情報や価値ある体験を届けることが重要です。マーケティングのフレームワークを用いることで、求職者目線の採用活動戦略の立案が可能になります。各フレームワークの概要や活用方法を具体的に見ていきましょう。採用戦略のために設計されたフレームワークである「TMP設計」についてもあわせて解説します。
ペルソナ設定
ペルソナとは、ターゲットとなる人物像を設定することで、ニーズの深掘りに役立ちます。
ペルソナは「20代後半のエンジニア職志望」のようにアバウトなものではなく、次のように詳しく設定するのがポイントです。
- 年齢:20代後半
- 居住地:東京都在住
- 趣味:アウトドア系
- 希望のポジション:エンジニア
- 企業への要望:フレックスタイム制度下で働きたい、責任感のある大きな仕事を任されたい
ペルソナを具体的に設定できれば、求職者視点で採用戦略を練ることができます。例としてあげたペルソナの場合、フレックスタイム制度を導入していることや、スキルのある従業員を大きなプロジェクトの責任者として抜擢していることなどを、採用活動でアピールすると効果的です。
3C分析
3C分析とは、Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の3つの視点からビジネスの状況を分析するフレームワークです。
採用戦略に置き換えると、次のようになります。
- Customer(市場・顧客):採用市場のトレンドの把握、求職者のニーズの理解、有効求人倍率
- Competitor(競合):他社の採用状況や採用数、求職者にとって魅力的なポイント
- Company(自社):採用市場における強み、自社の優位性
3C分析を行うことで、採用市場でニーズがあるものの、他社が応えられていない要素を自社の採用活動に取り入れることが期待できます。また、自社の強みをさらに強化した採用戦略を取ることも可能です。
4C分析
4C分析は、マーケティングにおいて消費者視点でサービス設計や販促を考える際に使用されるフレームワークです。
- Customer Value:顧客にとっての価値
- Cost:顧客の負担・コスト
- Convenience:顧客にとっての利便性
- Communication:顧客とのコミュニケーション
4C分析を採用戦略に活用すると、次のように考えられます。
- Customer Value:求職者が入社することで得られるメリット
- Cost:求職者にかかる負担
- Convenience:求職者目線で考える応募のしやすさや連絡の取りやすさ
- Communication:求職者と自社のコミュニケーション
Customer Valueを高めるには、福利厚生を充実させたり、自己成長につながる職場である点をアピールしたりするなどの施策が有効です。
Costは、「給与が相場より低い」「福利厚生が充実していない」といった求職者が応募をためらう原因になるので、競合他社と比較しながら、給与や勤務条件を再考してください。
Convenienceを高めると、求職者が応募しやすい状況になります。採用担当者がクイックレスポンスを心がける、説明会の交通費・宿泊費を支援するなどの対策を行いましょう。
Communicationの項目では、求職者が自社の詳細情報に適切にアクセスできるよう、自社サイトやSNS上で情報発信すると効果的です。求職者からアプローチがあった場合は、積極的にコミュニケーションを取ることも心がけましょう。
SWOT分析
SWOT分析とは、組織の強み(Strength)・弱み(Weakness)・機会(Opportunity)・脅威(Threat)を分析するためのフレームワークです。プラス要素とマイナス要素、内部環境と外部環境に分類されています。
Strengthは、自社が競合他社よりも優れている内部環境です。仕事とプライベートを両立しやすいよう、フレックスタイム制度を取り入れていることなどが該当します。自社の強みとなる部分なので、求職者に対して積極的に自社の魅力をアピールしましょう。
Weaknessは、競合他社より劣っている内部環境です。女性のキャリアを支援する仕組みや福利厚生が整っておらず、20代後半から30代後半の女性社員の離職率が高いことなどがWeaknessの一例です。
Opportunityは、採用でプラスに働く外部環境です。Opportunityの一例として、インターンシップに訪れる大学生が多く、求職者と接触できる機会が豊富にあることがあげられます。
Threatは、採用でマイナスに働く外部環境です。自社よりネームバリューのある競合他社がいる、自社の業界全体の売上が下がってきていることなどは、採用にマイナスに働くのでThreatとなります。
SWOT分析を採用戦略に活用することで、自社の強みをさらに伸ばす方法の考案や、弱み・脅威となる要素の顕在化に役立ちます。
5A理論
5A理論は、アメリカの経済学者であるフィリップ・コトラー氏が提唱した、インターネット・SNS時代の購買プロセスのフレームワークです。5つのステップで購買プロセスを表していますが、これは採用戦略の策定時にも活用できます。
- 認知(Aware):求職者が採用サイトやSNSで自社を認知
- 訴求(Appeal):求職者が自社に興味を持つ
- 調査(Ask):求職者が自社に応募する
- 行動(Act):選考をうけて内定を得る
- 奨励(Advocate):入社後に周りの友人や家族にポジティブな情報を伝える、入社を勧める
各項目を分析すると、求職者が自社を認知した経路や心理状況、応募に至った理由、内定を得たあとのアクションまでを一連の流れとして把握できます。
カスタマージャーニー
カスタマージャーニーとは、見込み客の行動や思考、感情の変化を時間軸でまとめ、商品やサービス購入のプロセスと意思決定までのストーリーを可視化できるフレームワークです。
採用戦略にカスタマージャーニーを取り入れることで、求職者が企業を認知して興味を持ち、応募から実際に入社するまでの流れを時系列にまとめられます。それによって求職者の行動や各ステップでの心理状況がわかるだけでなく、求職者が求めていることに合わせた戦略立案が可能です。
例えば、求職者がWebサイトを経由して自社の存在を知り、企業説明会や面接を経て内定に至るケースがあるとします。このとき、入り口であるWebサイトのデザインが古く更新されていないと、不信感を抱かれ、興味を持ってもらえない可能性があります。この状況を改善するには、Webサイトを最新の状態に更新し、ブログを通して企業活動を発信するなどの対策が有効です。
また、カスタマージャーニーを活用できるのは戦略の立案時だけではありません。施策を運用したり、成果検証を行ったりする際にも、前提としてカスタマージャーニーに立ち返ることで課題の発見や改善につなげられます。
TMP設計
ここまでに紹介したフレームワークは、元々マーケティングで活用されているものですが、TMP設計は、採用戦略のために作られたフレームワークです。3ステップとシンプルな構成でありながら、採用に関する基礎的な考え方が抑えられたフレームワークなので、採用戦略の設計に有効です。ちなみにTMPは、次の単語の頭文字を取っています。
- Targeting(ターゲティング):自社に合う、自社が求めるターゲット(人材)を設定する
- Messaging(メッセージング):ターゲットの興味を引くメッセージを作成する
- Processing(プロセシング):設定したターゲットにメッセージを正しく届けるための採用プロセスを設計する
Targetingのステップでは、自社が求める人材を深掘りして定義します。このとき、「ロジカルに考えられる人」のようにアバウトに決めないよう注意しましょう。
「広告運用はPDCAサイクルを回し、常に仮説検証を行う必要があるから、ロジカルに考えられる人が必要」というように、具体的な業務内容と紐づけてターゲットを定めることが重要です。
Messagingのステップでは、ターゲットにとって魅力的なオファーを提案します。広告運用担当者の採用活動なら、「広告運用を通じて、商品やサービスの魅力を直接お客様に届ける、やりがいのある仕事です」といったメッセージングが可能です。仕事内容だけでなく、企業自体の魅力を洗い出して訴求すると、求職者に興味を持ってもらいやすくなります。
Processingは、TargetingとMessagingの内容をもとに、採用プロセスを設計するフェーズです。ターゲットに対して効果的にアプローチできる媒体は何か、魅力はどう伝えるのがベストなのかを考えて実行しましょう。
採用戦略でフレームワークを活用するメリット
フレームワークを活用すれば、型に沿って情報収集・市場分析・競合調査を行うことが可能です。その結果、抜け漏れなく効率的に採用戦略を立てられます。
例えば3C分析の場合、フレームワークに従って採用戦略を立てると、採用市場の調査を行うことになります。市場調査により、求職者が求めるものは何か、市場のトレンドは何かなどを把握できます。それらの情報を軸にすれば、求職者視点を盛り込んだ採用戦略の構築が可能になります。
また、採用戦略も可視化できるため、効果は得られたのか、想定以外の事象は起きたのかなどを振り返りやすくなります。社内全体で採用活動を振り返り、課題を共有しましょう。それにより、採用に対する認識が統一され、取り組むべきことを明確化できます。
採用戦略にマーケティングのフレームワークを導入しよう
マーケティングに活用されるフレームワークをうまく取り入れて採用戦略を立てると、企業側・求職者側双方にメリットがあります。企業側は採用の効率化につながるほか、自社の求める人材を採用しやすくなります。求職者側は、希望にマッチした企業を認知する機会に恵まれ、入社後のギャップも生まれにくくなるでしょう。
採用活動が難化している昨今、企業の情報を一方的に提供・発信するのではなく、まずは企業側から価値ある情報や体験を届けることが重要です。基本的な考え方はマーケティングと同じなので、本記事で紹介したフレームワークの特徴を理解したうえで、自社の採用活動に役立ててください。