B2BはB2Cに比べて顧客の購買行動がある程度決まっているため、カスタマージャーニーについて考える必要性は薄いと思う方もいるでしょう。しかし、B2B企業がカスタマージャーニーの理解に取り組むことには、さまざまな利点があります。

最も大きなメリットは、カスタマージャーニーを整理する過程で、顧客に対する部署を超えた共通の理解が生まれることです。近年、顧客目線でのマーケティング施策立案が重視されていますが、部署間による顧客理解のギャップを少なくすることで、施策に一貫性が生まれます。
本記事ではB2Bカスタマージャーニーの概要から、カスタマージャーニーマップの作成方法、企業によるカスタマージャーニーマップの作成事例を紹介します。自社の営業力・マーケティング力の強化に向けて、ぜひお役立てください。
- B2B企業がカスタマージャーニーを知るメリット
- B2Bカスタマージャーニーマップの作成方法
- B2B企業のカスタマージャーニーマップ作成事例
- B2Bカスタマージャーニー作成に役立つツール
- B2Bのカスタマージャーニーを理解して営業やマーケティング施策に活かそう
B2B企業がカスタマージャーニーを知るメリット

まずは、B2B企業がカスタマージャーニーを知るメリットを4つ紹介します。
ペルソナの購買プロセスを深く考える機会になる
カスタマージャーニーのプロセスを、顧客の思考や感情も踏まえて可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」といいます。カスタマージャーニーマップの作成によって、設定したペルソナの行動・タッチポイント・感情などが一元化されるため、各フェーズにおける施策が考えやすくなります。
B2Bの場合は購入にいたるまでには、キーパーソンが複数名存在するものです。そのため、カスタマージャーニーの各フェーズで、それぞれのキーパーソンに合った施策を考えなければなりません。
カスタマージャーニーを理解することで、ペルソナの購買プロセスを深く考える機会になり、効果的な施策立案につながります。
▼B2Cのカスタマージャーニーマップ

▼B2Bのカスタマージャーニーマップ

部署を越えた共通認識が持てる
企業内には、顧客と直接的な接点がある部署と、ない部署が存在します。
顧客との接点が多い部署の代表例が営業部門ですが、顧客の生の声を部署内だけの問題にとどめてしまい、他部署が知らないケースも少なくありません。
部署を越えてカスタマージャーニーの理解に取り組むことで、顧客に対する共通の理解が得られます。その結果、多面的でありながら一貫性のあるマーケティング施策の立案につながります。
ユーザーの感情に寄り添った施策を実行できる
カスタマージャーニーマップには、顧客の行動だけでなく、思考や感情といった内面的な部分も含まれます。そのため、カスタマージャーニーマップの作成に取り組むことにより、感情的な面からも顧客目線の施策を考えられるようになります。
例えば、見込み客が自社のサービス・商品と接触した際に、「このように感じるのではないか」「こうしたら喜ばれるのではないか」といったように、相手の感情に寄り添って考えていきます。
特に近年、消費者の行動は「モノ消費」から「コト消費」に変化しつつあります。モノ(商品やサービス)そのものの価値だけでなく、購買体験の良し悪しも顧客満足度に大きく影響することを頭に入れておく必要があります。
スピード感を持ったビジネスの検証・改善が図れる
カスタマージャーニーは、部署を越えて複数名でカスタマージャーニーマップを作成しながら理解する方法が基本です。それにより、副次的なメリットも生まれます。
部署を越えて「より深いレベルの顧客理解」という共通の目的に取り組むことで、互いの仕事内容や考え方に対する理解が深まります。結果的に部署間の連携が強まり、通常業務においてもスピード感を持った意思決定が可能になります。
特に近年のビジネスシーンは変化が早いため、意思決定のスピードは結果を大きく左右します。カスタマージャーニーを理解しようとする試みは、マーケティング施策の立案以外にも大いに役立ちます。
B2Bカスタマージャーニーマップの作成方法
B2B向けのカスタマージャーニーマップは、B2C向けと作成方法が異なります。ここでは、B2Bカスタマージャーニーマップの作成方法を4つのステップに分けて解説します。
ペルソナを設定する
B2Cでは、基本的に購入の意思決定者は1人です。そのため、設定の異なるペルソナを2~3人分作成すれば十分でしょう。一方、B2Bでは複数のキーパーソンが存在し、購入の意思決定者も段階別に複数いる可能性があるため、ペルソナ設定の難易度が上がります。
B2Bの場合、まずは、入り口となる企業の担当者をペルソナに設定してみましょう。購入の意思決定者は他にいる可能性がありますが、担当者の興味・関心を引かない限り、次のステップには進めません。担当者の心をつかめば、商品やサービスを上司に推薦してくれる可能性が高まります。
ペルソナを設定する際は、担当者の役職や担当業務、どこまで決済権を持っているかなどを最低限押さえておきましょう。また、B2Bではキーパーソン個人の価値観・志向だけではなく、企業文化も強く影響するため、企業の価値観も踏まえてペルソナを設計すると良いでしょう。
購買までの行動を整理する
時系列に沿って段階ごとに購買フローを設計します。B2Cに比べて、B2Bでは意思決定プロセスが多くなります。購買フローは一般的に次の8段階に分けられます。
フェーズ |
顧客の悩み
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顧客が取る行動
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認知 |
何か良い方法を知りたい
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インターネット広告、展示会などで見かける
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情報収集 |
具体的に知りたい
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公式サイトや資料請求で詳しく調べる
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比較検討 |
他にも同様のサービスがないか知りたい
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他社ツールとの比較一覧を作成し優劣をつける
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意思決定 |
取引先として問題がないか商談を通して確認したい
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商談で詳細を確認する
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社内稟議・承認 |
社内で承認を得なければならない
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稟議書を作成し承認を得る
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購入 |
契約内容に問題がないか確認したい
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契約条件の詳細を理解した上で契約を締結する
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評価 |
実際に使用して期待どおりの成果が得られるか
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実際の業務にツールを導入する
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リピート |
継続利用によってさらに業務効率を改善したい
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フォローを受けながら業務改善を図る
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購買プロセスが理解できたら、各フェーズで、顧客が抱える課題や実際の行動を推測します。その際、自社にとって都合の良い行動になっていないか、しっかりと議論するようにしましょう。自社が顧客に「取って欲しい」行動ではなく、顧客が「実際に取っている」行動であることが大切です。
顧客が取る具体的な行動イメージは、キーパーソンのペルソナに従って推測していきます。
ユーザーの思考・感情を想定する
ペルソナと行動を整理したら、ユーザーの思考・感情を書き出します。例えば、「困った」「疲れた」「大変だ」など、状況をふまえてリアルに想像することが大切です。
ひとつ例を挙げてみましょう。B2Bの購買プロセスにおいて、比較検討の段階で似たようなツールがありすぎて、どれを選べば良いかわからないという状況に陥ることはよくあります。そんな時、ユーザーは「困った」という感情を抱くでしょう。また、ツールを導入したことで課題が解決できたときには、「嬉しい」というポジティブな感情が生まれるかもしれません。
ユーザーの思考・感情を想定する際は、行動を想定する場合と同じように、思い込みで記載していないか、自社都合の願望で作成していないかを冷静に見直すことが大切です。そのためにも、カスタマージャーニーを作成する際は、部門をまたいで複数名で議論し、色々な視点を取り入れるようにすると良いでしょう。
具体的な自社の行動を計画する
ユーザーの行動と思考が明確化されたら、それにあわせて自社のマーケティング活動、営業活動を計画していきます。各フェーズでユーザーが抱える悩みや感情に対して、自社がどういった対策をとるべきか検討しましょう。
例えば、比較検討の段階で他社ツールとの違いがわからないという悩みが想定されるなら、比較用の資料を用意するなどの方法が考えられます。ほかにも、稟議を上げやすくするための情報提供や、明確な費用対効果がわかる資料などを提供することで、自社が選ばれる可能性が高まります。
B2B企業のカスタマージャーニーマップ作成事例
B2B企業のカスタマージャーニーマップの具体的なイメージが湧かない場合は、他社が作成した事例が参考になります。
特にカスタマージャーニーの作成がはじめての場合は、いきなり複数名で議論をすると収集がつかなくなる可能性があります。まずは他社を真似ることからはじめ、繰りかえし改善をする中でオリジナリティを高めていく方法が効率的です。
リコー

出典:B2B版「刺さるコミュニケーション開発」のPDCA|B2Bマーケ|リコー
OA機器大手のリコーでは、マーケティング支援事業を手掛けており、B2Bマーケティングに役立つコラムを公開しています。その中で、サービス導入前プロセスのカスタマージャーニーの重要性を解説しており、カスタマージャーニーマップの事例を掲載しています。
購買フェーズを4段階に分けたシンプルなマップですが、意思決定権者・購買窓口担当者・ユーザー部門など、役割別に提供すべき体験を設定している点が参考になります。
ターゲットとなる企業のキーパーソンを把握し、担当者ごとに最適なアプローチを図ることの大切さが理解できる事例です。
日経BPコンサルティング

出典:コンテンツマーケティングの教科書 _ 日経BPコンサルティング
日経BPコンサルティングのWebサイトでは、コンテンツマーケティングを解説したコラムを掲載しており、その中でB2Bカスタマージャーニーマップの例を示しています。
この事例では、製品の購入で終わるのではなく、「継続取引」まで設定しているところがポイントです。マップでは、製品購入後に「製品のバージョンアップ情報を知りたい」という顧客の思考に対し、「営業担当者を通じて新しい情報を入手する」といった行動まで設定しています。アフターサポートまで想定することで、リピーターになってもらえる可能性も高まります。
B2Bカスタマージャーニー作成に役立つツール
B2Bカスタマージャーニーマップを作成する際は、テンプレートなどのツール活用がおすすめです。テンプレートは過去の成功例を型にしたものなので、誰でもかんたんに素早く、一定レベルのカスタマージャーニーマップを作成できます。
特に経験が浅いうちは、型に慣れる意味でも、テンプレートを徹底活用しましょう。ここでは、カスタマージャーニー作成に役立つツールを3つご紹介します。

リンク:HubSpotのカスタマージャーニーテンプレート
当社HubSpotでは、7種類のカスタマージャーニーマップ・テンプレートを無料で公開しています。コンテンツ内では、作成手順や作成時の注意点を解説しているので、カスタマージャーニーマップ作成がはじめての方でも実践的なマップ作成が可能です。
ペルソナごとにパーソナライズ化したマーケティング施策の立案や、購買プロセスの確認に役立ちます。

リンク:UXPRESSIAのカスタマージャーニーマップオンラインツール
UXPRESSIAは、業界・業種ごとに50以上のカスタマージャーニーテンプレートが用意されたクラウドサービスです。無料版では1つのプロジェクトに対し、ペルソナ・カスタマージャーニーマップ・インパクトマップを作成できます。
ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成がはじめての方は、無料版から試すことでカスタマージャーニーマップの完成イメージを掴むことができます。
さらに有料版では、複数プロジェクトの作成や、PDFやExcelへのエクスポート、グラフの挿入など、カスタマージャーニーマップ作成に役立つ豊富な機能を活用できるので、チームでのマーケティング活動が効率的になるでしょう。

リンク:FlowMappのカスタマージャーニーマップ
FlowMappは、直感的な操作だけでペルソナやカスタマージャーニーマップを作成できるオンラインコラボレーションツールです。顧客視点に立ったWebサイト構築や、製品・サービスの開発に役立つ機能が豊富に備わっています。
アカウントを作成すれば、すぐにプロジェクトが開始されます。豊富なテンプレートから目的に合ったデザインを選ぶだけで、短時間でマップを作成できます。
FlowMappは、特にUI(ユーザーインターフェース)が優れており、視覚的に見やすく美しいビジュアルにまとめることができます。
B2Bのカスタマージャーニーを理解して営業やマーケティング施策に活かそう
購買プロセスの多様化の波は、B2Bにも広がっています。見込み客が情報収集を行うプラットフォームは多岐にわたり、購買プロセスのフェーズによっても変化します。
カスタマージャーニーマップの作成は、ひとつの正解にたどり着くことがゴールではありません。マップを作成する過程で、部署を越えてチームが一丸となり、それぞれの視点から顧客について考えます。その過程で顧客理解を深め、改善を継続することで、自社が顧客に対してどのような価値提供をするべきかがわかってきます。
カスタマージャーニーの理解は手探りで行うことになるため、社内に浸透するまでは時間がかかるかもしれません。しかし、中長期的に取り組むことで、新たな視点での気づきが生まれたり、これまでとは別な角度からの施策立案につながったりするでしょう。

