セールスイネーブルメントとは、ITツールの活用やデータ分析、トレーニングといった多角的な観点から、営業組織全体の生産性を高めるための取り組みです。営業組織が抱えているさまざまな課題にアプローチできるのが特徴で、全体最適化を図れるメリットがあります。


2021年版セールスイネーブルメントに関するグローバル調査
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本記事では、セールスイネーブルメントの必要性や活動内容、実施手順などを解説します。営業DXによる組織改革に取り組んでいる企業の担当者は必見です。
セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメントとは、営業組織を根本から改善・強化するための取り組みです。営業や販売を意味する「sales」と、「有効化」や「使用可能性」といった意味がある「enablement」を組み合わせた造語として、主に営業領域で使用されています。
セールスイネーブルメントの目的は、営業担当者の能力の向上により、営業組織全体の生産性を高めることです。営業活動が適正化されることは顧客体験の向上につながり、満足度が高まることで結果的に売上の改善が期待できます。
「できることの最大化(CAN)」と「やるべきことの明確化(MUST)」という2つの視点から、トレーニングやツールの活用、コンテンツ作成など、さまざまな施策を実行します。
営業担当者のコア業務は、見込み客や顧客に対する営業活動ですが、多くの営業担当者は、日々データ入力などのタスク業務に追われ、本来の仕事に専念できていないのが実情です。営業担当者が営業活動を行う時間は、就業時間の35%程度に留まっているというデータもあります。こうした状況を打破するためにも、1人1人の能力を向上させて、営業部門の抜本的な改善を目指すための取り組みが欠かせません。
セールスイネーブルメントの活動内容
セールスイネーブルメントは、組織が成果を上げるために解決すべき課題をデータから導き出し、効率的な営業を行える環境を整えていく継続的な活動です。これにより、「いま、何をすべきなのか」が明らかになり、組織全体が成果を上げるための活動へとつながります。
セールスイネーブルメントは、次の4つの活動から成り立っています。
1. コンテンツ作成とノウハウの共有
顧客視点で営業プロセスを標準化し、営業活動に必要な資料やトークスクリプト、メール文面といったコンテンツを整備します。コンテンツやノウハウが属人化しないように共有する仕組みを作り上げることがポイントです。
2. トレーニング・コーチング
顧客に適切な価値を提供するために、業界や商品に関する知識、コミュニケーションや提案力などに関するスキルをトレーニングします。また、営業マネージャーは、データにもとづく判断により、営業担当者が成果を上げるためのサポートやコーチングを行います。
3. ITツールの導入・データの蓄積と活用
CRM(顧客関係管理)ツールやSFAツール(営業支援システム)を用いて、顧客情報や商談情報などを蓄積し、営業組織の課題の把握や活動状況のモニタリングを行います。コンテンツ共有のためのナレッジ共有ツールも活用可能です。
4. 営業組織や役割分担の見直し
営業担当者の役割を見直し、必要に応じて分業体制を構築するなど、成果につながる組織を作り上げます。また、マーケティング組織と営業組織の連携を見直し、見込み客・顧客への適切な提案や情報提供を実現します。
顧客に成功体験を提供し続け、組織として成果を上げるために、さまざまな取り組みを実施していくのがセールスイネーブルメントです。
従来の人材育成との違い
従来の人材育成は、あくまでセールスイネーブルメントにおけるひとつの領域にしか過ぎません。セールスイネーブルメントの4種類の活動内容のうち、営業担当者への「トレーニング・コーチング」が従来の人材育成に該当します。
OJTや座学による研修といった従来型の行われている人材育成は、トレーニング内容が一般化されています。そのため、従業員一人ひとりの課題に対処しづらく、個別の業務で応用するのが難しいなどの課題があります。
セールスイネーブルメントは、組織全体で達成したい成果を起点として、営業担当者の行動データを個別に分析したり、業務内容そのものを見直したりするのが特徴です。それぞれの営業担当者が持つ課題に対応することが可能で、従来の人材育成手法に比べて実用性の高いスキルを習得しやすいといえます。
セールスイネーブルメントの必要性
人口減少やビジネスモデルの変容など、時代の移り変わりによって環境が変化するなか、セールスイネーブルメントの重要性が高まりつつあります。セールスイネーブルメントが求められる背景や意義をもとに、その必要性を解説します。
セールスイネーブルメントが求められる背景
セールスイネーブルメントは、営業組織が成果を上げるための取り組みとしてアメリカを中心に世界的に認識されており、多くの企業で導入が進んでいます。
HubSpotが2021年に世界8か国の営業リーダー500名を対象に行った調査結果では、収益目標を達成した営業組織の65%が、セールスイネーブルメント専任の担当者もしくは組織を設置していると回答しています。
なぜセールスイネーブルメントへの取り組みが注目され、導入企業の成果につながっているのか、その背景を見ていきましょう。
ビジネスモデルや環境の変化への対応
新聞の定期購読が始まりとされる「サブスクリプションモデル」は、継続的な収益を得やすいため、多くの企業が取り組んでいます。しかし、サブスクリプションモデルは、従来の「売り切り型」のビジネスと異なり、顧客に価値を提供し続けなければ解約されてしまいます。このような市場の変化を背景のひとつとして、顧客との継続的な関係を築くために、営業担当者個人ではなく、組織として顧客に向き合う重要性が高まっています。
また、近年はテレワークやDX(デジタル・トランス・フォーメーション)などによって、ビジネス環境が大きく変化しています。変化に素早く対応できる組織作りの必要性が高まったことも、セールスイネーブルメントに注目が集まっている理由のひとつです。
人口減少による人手不足への対応
日本国内では、人口減少による人手不足が深刻になりつつあります。そのため、限られた人材を有効活用することが大きな課題となっています。適切な分業化や適性に応じた人員配置により、一人ひとりが専門性を高め、組織の成果を最大化する仕組みを構築しなければなりません。
MA/CRM/SFAツールの進化による取得可能データの増大
MA(マーケティング・オートメーション)ツールやCRM(顧客関係管理)ツール、SFA(営業支援システム)などの普及により、営業やマーケティングに活用できるデータ量は増え続けています。
これらの情報を、個人レベルではなく専門知識を持ったチームが活用することで、データドリブンな成果の最大化につながります。HubSpotが行った調査で、収益目標を達成した営業組織の65%が、セールスイネーブルメントの専任担当者やチームを設置していたことからも、組織的な取り組みの重要性がわかるでしょう。
顧客視点でのセールスイネーブルメントの意義
「営業組織が成果を上げる」という視点におけるセールスイネーブルメントの意義は、これまでに説明した通りです。ここでは、顧客視点でセールスイネーブルメントの意義を見ていきましょう。
ビジネスにおける成果は、自社の顧客に成功体験を提供し、継続的な関係性を築いていくことで、はじめて得ることができます。
購買行動の変化への対応
インターネットの普及により、購買担当者は必要な情報を自身で調べ、対象の商品やサービスを絞り込んでから、営業担当者に問い合わせるようになりました。このような購買行動の変化に対応するためには、顧客が求める情報を適切なタイミングで提供することが求められ、マーケティングと営業の連携など部門を越えた取り組みがポイントになってきます。
顧客が求めているのは具体的な課題解決
顧客は、自社の状況やニーズを理解したうえでの適切な情報提供や提案、課題解決につながる専門的な知識を営業担当者に求めています。一人ひとりの営業担当者があらゆる業界や顧客を理解して対応し続けることは難しいため、組織として必要なコンテンツを準備し、適切な分業体制で対応することが重要です。
セールスイネーブルメントを実現する方法
一概にセールスイネーブルメントといっても、さまざまな取り組みが対象となるため、適切な手順に沿って実行することが大切です。セールスイネーブルメントを実現する方法を、手順ごとに解説します。
- チームや担当者の決定
- 評価制度の整備
- 導入ツールの検討
- データ収集・プログラム開発
- PDCAの実施
1. チームや担当者の決定
セールスイネーブルメントが生み出されたアメリカでは、施策を効率良く実施するために専門部署を設けるケースも珍しくありません。営業だけでなくマーケティングや人事、情報システムなどから必要な人材を選出し、専属のプロジェクトチームを設置することで、各部門の知見やノウハウを活かせます。
セールスイネーブルメントでは、データ収集からITツールの活用、トレーニングまで、さまざまな施策を実行しなければなりません。そのため、リーダーシップやITスキルなど、各メンバーの適正を見極めて最適な人員を配置することが重要です。
2. 評価制度の整備
セールスイネーブルメントを成功させるには、成果を適切に評価できる仕組みや環境が不可欠です。そのため、具体的なアクションプランを練る前にKGI(最終目標)やKPI(中間目標)、評価基準などを明確にする必要があります。
セールスイネーブルメントで用いられるKGIやKPIには、次のような種類があります。
- 営業案件数
- 訪問件数
- 商談から成約に至るまでの平均期間
- 成約率
- 顧客維持率
評価制度を整えることで、PDCAサイクルを回しやすくなります。
3. 導入ツールの検討
セールスイネーブルメントを実施する際は、顧客や案件に関するデータを収集したり、営業スタイルそのものを見直したりする必要があります。そのため、デジタルツールの活用が欠かせません。
セールスイネーブルメントで活用できるITツールには、次のような種類があります。
- CRMツール:顧客情報を一元管理するためのシステム
- SFA:案件・商談情報の一元管理や営業分析などの機能を備えたシステム
- MAツール:リード管理やマーケティング施策管理、スコアリングなどの機能を備えたシステム
- BIツール:複数のデータソースからデータを抽出し、分析・レポート化できるツール
- DSR:オンライン上で商談環境を構築できるツール
HubSpotのCRMツールは、無料プランがあるのでコストを抑えて導入することが可能です。また、顧客情報を一元管理できる標準機能に加えて、プランをアップグレードすることでSFAやMAなどの機能を拡充できます。
営業活動やマーケティング、カスタマーサポートなど、さまざまな領域のデータをひとつのシステムに集約できるため、より効率的なセールスイネーブルメントの実行に役立ちます。
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4. データ収集・プログラム開発
導入したITツールや既存のシステムを利用してデータ収集を行います。
例えば、CRMでは顧客の属性や行動履歴を、SFAでは営業担当者の成績や案件進捗率、受注率といったデータを収集できます。データソースが多岐にわたる場合は、BIツールでデータを集約してから分析することで、データ同士の相関性や法則性を見つけやすくなります。
分析が完了したら、その結果をもとにトレーニングプログラムやアクションプランを練りましょう。その際に、セールスイネーブルメントの4種類の活動内容に則って具体策を考えることが大切です。
単なる人材育成にとどまらず、ほかにも営業コンテンツやナレッジベースの作成、営業スタイルや組織体制の見直しなど、多角的な視点から組織全体の生産性向上につながる施策を考案します。
5. PDCAの実施
セールスイネーブルメントでは、施策を実行するだけでなく、効果検証と改善を繰り返すことが重要です。繰り返しPDCAのサイクルを回すことで、ボトルネックの発見やプランの軌道修正が可能になります。
PDCAを実施する際は、事前に設定したKGIやKPI、評価基準を参考にしましょう。施策実施前後で具体的な数値を比較すると、良かった点と悪かった点を客観的に評価できます。
セールスイネーブルメントの取り組み事例
セールスイネーブルメントを実施する際は、他社の事例を参考にすることで、取り組み方や施策の立案方法などをイメージしやすくなります。ここでは、セールスイネーブルメントの事例を紹介します。
日本通運株式会社
日本通運株式会社は、市場や運送スタイルの移り変わりが激しい物流業界のなかで、環境の変化に合わせて柔軟に営業スタイルを変えていく必要がありました。
特に営業組織内での属人化の課題を解消するため、セールスイネーブルメントにおけるナレッジ共有やデータ活用に積極的に取り組んでいます。セールスイネーブルメントに役立つデジタルツールを導入することで、単なる情報共有の円滑化だけでなく、ツールを起点としたコミュニケーションの促進にもつながっています。
参考:日本通運株式会社様 |導入事例詳細|ナレッジワーク|セールスイネーブルメントクラウド
ソニービズネットワークス株式会社
ソニービズネットワークス株式会社は、既存のSFAの機能を活かしきれていない点が課題でした。SFAが単なる案件管理の役目しか果たしておらず、肝心の営業実態の把握や高精度な売上予測には至らなかったといいます。
この課題を解消するために実行したのが、最重要KPIの策定です。KPIを起点とすることで、営業フローの見直しやSFAの活用法のインプットなど、さまざまな施策へとつながっています。
参考:ソニービズネットワークス株式会社 | Sales Enablement(セールスイネーブルメント)
セールスイネーブルメントによるデータ活用で顧客体験を向上させよう
時代の変化により、営業活動のあり方は大きく変わろうとしています。膨大な情報を分析して施策に落とし込み、変化に対応できる組織を作り上げていく重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
一方で、顧客はパーソナライズされた営業活動を求めています。顧客が置かれている状況をデータで正しく理解し、ニーズに合った情報提供や提案を行うことで満足度を高めることが大切です。
セールスイネーブルメントは、変化に対応できる組織へと変革し、顧客の信頼を得るための取り組みです。なかなか成果をあげられず、いま何をすべきなのか悩んでいる営業マネージャーや事業責任者にとって、さまざまな解決のヒントを与えてくれるでしょう。自社にあった形で取り組んでみてはいかがでしょうか。