「あなたの会社が提供する顧客価値とは、どのようなものですか?」

この質問に対して、明確な言葉で即答できる企業は、思いのほか少ないのではないでしょうか。

「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という例え話は良く聞かれますが、顧客価値を踏まえた顧客コミュニケーションを徹底していく事は、実は決して簡単ではありません。

ついつい、ドリルの持つ機能や価格で勝負をしようとしてしまいがちです。

しかし、自社独自のユニークな顧客価値の定義および言語化に成功すれば、機能勝負・価格勝負の消耗戦から抜け出す事も可能です。

本稿では、「顧客価値の創造」について先進を行く企業の事例を取り上げながら、「顧客価値の定義と言語化のプロセス」をどのように進めていくべきか、解説していきます。

顧客価値の4段階

自社が提供する顧客価値の定義を行う前に、押さえておきたいポイントがあります。

それは、「顧客価値には段階がある」という事です。

書籍「サービス・マネジメント」の著者であるカール・アルブレヒト氏が提唱する「価値の4段階」では、以下のような「顧客価値の段階」についての定義がなされています。

 

  • 段階1:基本価値
    不可欠な価値であり、提供されなければクレームや取引中止につながる。
  • 段階2:期待価値
    顧客が当然のように期待する価値であり。提供されなければ、クレームに至らなくても、リピートにはつながらない。
  • 段階3:願望価値
    期待はしていないが、もし実現できれば高く評価される価値であり、実現できなくとも不満にはならない。
  • 段階4:予想外価値
    顧客の予想をはるかに超える価値であり、もし提供することが出来れば、顧客は感動し、良い口コミがうまれる。

 

とりわけ、サブスクリプションサービスやSaaS型のサービスを提供する企業にとって、リピート購入は生命線となりますが、リピート購入を実現するためには、少なくとも「段階3:願望価値」以上の顧客価値を実現していく事が求められるという事が分かります。

では、段階3・段階4の顧客価値を提供するという事が、どのような事を指すのか、具体的な事例を見ていきましょう。

 

スターバックスコーヒーの事例

スターバックスコーヒーは米国ワシントン州シアトルで創業したコーヒーチェーン店で、現在は世界規模で展開しています。

数あるコーヒーショップの中から、なぜスターバックスコーヒーは多くの人々に支持されるのでしょうか?

それは、単に「美味しいコーヒー」のみではない顧客価値が存在し、各店舗で来店客に提供されているからです。

スターバックスコーヒーの店内に一歩足を踏み入れると、単なるコーヒーショップと違う雰囲気を感じます。

インテリアや店員の応対、高度にオペレーション化されつつも人間味あふれるドリンクづくりと、様々な「違い」を来店客は享受します。

スターバックスコーヒーは、コア・コンセプトを「サードプレイスであること」としています。

「サードプレイス」とは、コミュニティにおいて、自宅や職場・学校などとは隔離された「心地よい第三の居場所」のことを意味します。

美味しいコーヒーを提供し、顧客にとっての「基本価値」「期待価値」を実現するのはもちろんのこと、インテリアや店員の応対、高度なオペレーションを交え「第三の居場所を作る」事によって、顧客の「願望価値」「予想外価値」を提供することに成功しているのです。

 

ザッポスの事例

ザッポスは、米国ネバダ州ラスベガスに本拠を構え、靴のECサイトを展開している会社です。

ザッポスのコアバリューにおける最優先事項は、「deliver WOW through service」とされており、「サービスを通じて『ワオ!』を届けよう」という事を意味します。

つまり、ザッポスのコアバリューは「顧客の予想外価値を提供する」事に定められていると言えます。

実際、顧客に「ワオ!」を届けた1つの事例として、以下のようなストーリーがあるそうです。

 

  • ある女性がザッポスで靴を購入した
  • その直後、女性の母親が病気で亡くなった
  • 母親の死後、色々な片付けに追われる女性のもとにザッポスから靴の具合を尋ねるメールが届いた
  • 女性は「母親が亡くなり、新しい靴を履いていない。そのため、靴は返品したい。バタバタしているが、必ず返品するので、少し時間が欲しい」とメールを返信した
  • すると、ザッポスから「宅配の集荷サービスを送る旨」を伝える返信が届いた
  • ザッポスのサービスポリシーには、「返品の送料は無料だが、返品者は集荷場まで靴を持っていかなければいけない」というポリシーがあり、その事を女性も知っていた
  • しかし、そのポリシーを捨てて、自宅まで集荷を送ってくれたザッポスに対して、女性は深い感動を覚えた
  • 加えて後日、女性の自宅には、ザッポスからお悔やみの花束が届けられた
  • 女性は感極まり、その時のエピソードと自身が抱いた感情をブログで表現し、「もし、ネットで靴を買うのならば、ザッポスから買うことをお薦めします」というメッセージを記した

これは正しく、顧客にとっての「予想外価値」を提供する事に成功し、その事が良い口コミを発生させたケースと言えるでしょう。

 

顧客価値の構成要素

サービスの継続や発展につながる顧客価値が具体的にどのようなものなのかをご理解いただいたところで、次に顧客価値を構成する要素を分解してみましょう。

「顧客価値」は以下の「公式」によって算定できます。

 

顧客価値 = (顧客が企業から受け取る価値(A) -顧客が支払うコスト(B)) × 全プロダクト

 

顧客は企業の個別の商品やプロダクト自体に加えて、様々な「要素」についても企業から受け取っています。

例えば、スターバックスやザッポスにおける店舗のインテリアやスタッフの応対などが挙げられます。

これら全てが、「顧客が企業から受け取る価値(A)」になります。

この(A)に対して、顧客は「コスト」を支払っています。

そして、「顧客が企業から受け取る価値(A)」から「顧客が支払うコスト(B)」を差し引くと、「純粋に生み出された顧客価値」となります。

そして、プロダクト単位の顧客価値の総和が、「企業全体が生み出した顧客価値」となります。

 

「顧客価値」を要素ごとに分解する

「顧客価値」の構成要素を考えると、以下のような三次元の構成要素で表すことができます。

  • 第1軸…会社における商品やサービスの数で測れる「商品・プロダクト軸」
  • 第2軸…対象となる特定商品やサービスが担う「機能軸」
  • 第3軸…価値を提供するための「バリューチェーン軸」

 

「顧客価値」は構成要素ごとの「得点の総和」である

「顧客が企業から受け取る価値 - 企業が支払うコスト」を三次元からなる構成要素単位に細分化することができます。

その総合計が、当該企業がひとりの顧客に提供する「顧客価値」となります。

構成要素単位に「顧客価値」を分解すると、自社がどの要素で「顧客価値」を生み出しているのか、提供した価値以上のコストを支払っているのかなどがわかります。

しかし、どの構成要素でどのように顧客価値を生み出していくか、どの構成要素でコストを支払うかは個々の企業の「経営戦略」であり、どの会社にもあてはまる共通の答えはありません。

スターバックス社における「サードプレイスの提供」や、ザッポスにおける「deliver WOW through service」は、「自分たちの会社の思いを表に出した結果」です。

つまり、それぞれの会社において「どこに顧客価値を置くのか」「どのように構成要素を配分するのか」について真剣な議論が求められるという事です。

 

どこで、どのように「顧客価値」を提供するのか?

スターバックスやザッポスの事例から、顧客にとっての「顧客価値」は決して商品やサービスのみで決まるものではないことがわかります。

コーヒーは飲んでしまえば「カタチ」はなくなりますが、ザッポスの提供する靴は長い期間「カタチ」として残ります。

しかし両方とも、商品やサービスの提供前から提供後まで、長く顧客とつながり、良い関係を維持していることがわかります。

顧客とどのタイミングでどのような関係を築くのかは、設計次第で大きく変わります。

「お客様と長くつながる関係」にすることで、顧客価値を「ゆるく、ながく」提供するようにデザインすることもできるでしょうし、「商品やサービスを提供する瞬間」に最大限の「顧客価値」を提供することも可能です。

「顧客価値」をどこでどのように提供するかは、顧客が何を求めているかに耳を傾け、企業自身が決めて実行することです。

 

「高い顧客価値を提供する企業」になるために必要なこととは?

マネジメントの視点での「高い顧客価値を提供する企業」とは、最良な商品やサービスを持っていることでも、優秀な人材がいることでも、便利なITシステムを持っていることでもありません。

真の「高い顧客価値を提供する企業」は、顧客がもつ「期待内容」を正確に把握していること、そしてそれらを高い水準で満たし続けることができる企業のことを指します。

そのためには継続した「PDCAサイクル」が求められます。

スターバックスも、日本で「顧客価値が高い企業」になるまでには大変な道のりがありました。

日本になかった「カフェ文化」や「サードプレイス」といった、新しいコンセプトを持ち込むことにより、新しい価値を創造していったのです。

PDCAを回す中で、顧客から様々な声もあったはずですが、それらを乗り越えてでも「達成したいものはなんなのか?」「改善すべきものはなんなのか?」という判断を適切に行い、愚直に実行し続けたことで、今のスターバックスの日本での地位があると言えるでしょう。

 

「顧客の期待を想定通りに超える」事が重要

顧客の想定を超える顧客価値を提供することを「感動を提供する」といいます。

しかし、これは顧客の想定レベルを見越して企業側が想定通りに高い顧客価値を提供しているのか、顧客の想定を見越していない中で偶発的に高い顧客価値を提供したのかによって、意味合いが全く違ってきます。

企業側が意図せず偶発的に顧客側が商品やサービスに「感動」したとしても、それはマネジメントの視点では必ずしも優秀な活動とは言えず、再現性も担保できません。

企業は顧客価値について必ず事後検証をした上で、常に顧客の期待値を意識した顧客価値の提供ができるようにならなければなりません。

 

高い顧客価値を創出するための手順

最後に、高い顧客価値を高めるための手順を、あらためて整理します。

 

  1. 顧客価値を4段階に切り分けて把握する(顧客の声に耳を傾ける)
  2. どの構成要素で、どのような顧客価値を提供していくべきか検討する
  3. 提供すべき顧客価値を、誰にでも分かる形で言語化する
  4. 言語化した事を実現するための具体的なタスクを洗い出す
  5. タスクを実行する
  6. 事後検証を含んだPDCAサイクルを回す
  7. 成功事例を社内で共有する

 

顧客と企業間で『顧客価値』の共通認識を作ろう

ここまで顧客価値について検討してきました。

顧客価値とは、「顧客が受け取る価値」のことを指します。

もちろん目に見えるものもあれば、目に見えないものもあります。

また、一度に受け取れるものもあれば、継続的に関係を築く中で価値を提供し続けられるものもあります。

スターバックスの事例では、「自分たちがお客さまにどのような状態を提供したいか」視点を持って考えた事によって、従来のコーヒーショップとはまったく異なる「顧客価値」のに成功した事が分かります。

ザッポスの事例では、「顧客に対して、靴という物ではなく、ワオ!という感動を届ける」という考えのもと、顧客のクチコミによって、大きく事業を成長させた事が分かります(ザッポスの新規顧客開拓における43%は、クチコミによるものだそうです)。

大切なことは、企業内の限られたリソースをうまく使い「顧客価値提供に関する好循環」を生み出し、結果的に顧客が失望することなく、従業員が疲弊することなく好循環を維持し続けられるかを考え、顧客とともに動いていくことだと言えます。

そのために、「顧客と会社との間で顧客価値の共通認識をつくること」が大切です。

そして、顧客の声に基づき、「会社内で、どのように顧客価値を提供するか」について、明示的・非明示的、定量・定性両面での社内の合意を形成し、会社として顧客にプロダクトやサービスを提供することが必要なのです。

HubSpotも企業として顧客に対する理想像の行動指針をカスタマーコードで明文化しています。顧客価値創造に取り組まれる企業の方々に参考になれば幸いです。

HubSpotのカスタマーコード

顧客第一主義の実践に役立つテンプレート

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元記事発行日: 2019年10月07日、最終更新日: 2019年10月07日