近年、消費者行動が変化し、購買体験を向上させてくれる商品やサービスに価値を感じる顧客が増えています。一方で、市場の成熟が進み、商品力による差異化が難しくなってきていることは企業にとって大きな課題となっているのではないでしょうか。このような事情を背景に、企業に求められているのが、顧客のニーズや課題を把握し、満足度を高めるための施策です。
CRM戦略の実施は顧客満足度を向上させ、継続的な関係構築による売上の安定化をもたらします。
本記事では、CRM戦略のメリットや策定するための手順を具体的に解説します。「マーケティングや営業活動に顧客情報を活かしきれていない」と感じているご担当者様は、ぜひ最後までご覧ください。
CRM・MA導入の事前準備チェックリスト
CRMやMAを導入する際にマーケティング施策別に準備するべきことをチェックリストにしてまとめました。
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CRM戦略とは
CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)とは、顧客や見込み客との良好な関係構築のために、顧客の属性データや行動履歴、取引情報などを一元管理するという概念です。CRMの考え方をもとに売上や利益を最大化させて経営を安定化させることを「CRM戦略」と呼びます。
CRM戦略では、新規顧客よりもリピーターの創出、つまり、既存顧客との関係構築に重点が置かれています。
例えば、同じ地域に同一ジャンルの飲食店が3軒出店しているとしましょう。駅から最も離れた位置にある自店は、必ずしも立地に恵まれているわけではありません。また、競合他店と味や品質に大きな違いがあるわけではないため差異化ができず、駅から遠い自店の売上は伸び悩んでいます。
このような環境下では、高額なコストのかかる集客活動で新規顧客を増やすよりも、来店したことのある顧客とのコミュニケーションを通じて良好な関係を築き、リピート率を高めるほうが、売上の拡大が期待できます。
飲食店に限らず、異なる業種や業態であっても、同じような境遇に立たされている企業であれば、CRM戦略を活用することで売上の安定へとつながるでしょう。
CRMをマーケティングに活用する方法を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
CRM戦略が必要とされる背景
企業にCRM戦略の実践が求められているのは、消費者行動の変化や市場の成熟化により、商品やサービスだけで差異化が難しくなった背景があります。
消費者行動が変わっている
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所がNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社と共同で行った消費者の意識調査によると、20代、30代を筆頭に、商品やサービスそのものではなく、購買体験に価値を感じる人の割合が多くを占めています。
出典:買い物における「こだわり」に関する意識調査|NTTデータ経営研究所
つまり、消費者は商品・サービス自体の価格の安さや機能の豊富さよりも、自分が納得できるものを求める傾向にあるといえるでしょう。
競合との差異化が難しくなりつつある今、顧客ニーズを把握したうえで満足度を高める施策を実施することが企業にとって重要です。従来のマーケティング手法に加えてCRM戦略にも目を向ける必要があるでしょう。
市場の成熟が進んでいる
市場が成熟化し商品力による差異化が難しくなってきたことも、CRM戦略が必要とされる背景のひとつです。
商品力で競合他社と差異化するためには、イノベーションによって革新的な商品やサービスを生み出す必要があります。テクノロジーの発達によって、既存のビジネスモデルや商品の機能性は容易に模倣できるからです。
一方で、人口減少によって労働力の確保が難しくなり縮小傾向にある日本市場において、限られた人材だけでイノベーションを起こすことは容易ではありません。
そこで、新商品の開発に加え、既存商品を活かしてリピーターを創出する重要性が高まりつつあります。商品・サービスの機能や価格で差異化することが難しい場合でも、顧客との間で培われた関係性は他社にはない強力な独自性となります。リピーターを創出し、LTV(顧客生涯価値)を向上させるために役立つのがCRM戦略です。
CRM戦略によって企業が得られるメリット
CRM戦略を実行に移すことで顧客との継続的な関係が構築でき、さまざまな恩恵がもたらされます。ここでは、具体的なメリットを3つご紹介します。
- 顧客満足度の向上
- LTVの向上・売上の安定化
- 顧客起点のマーケティング思想の浸透
顧客満足度・LTVの向上
CRM戦略では、顧客の属性データや行動履歴をもとにニーズを可視化できます。顧客のニーズが明らかになれば、それに合う商品開発やパーソナライズ化された提案・サポートが可能です。
例えば、購買履歴にもとづいてクーポンを配布したり、利用履歴をもとにアフターサポートを行ったりすることもCRM戦略の施策のひとつだといえるでしょう。顧客は、自分に合う商品やサービス、プランなどを選びやすくなるので満足度の向上が見込めます。
一人ひとりの顧客満足度が向上することで、企業やブランド、商品・サービスに対する信頼が高まり、長期的な関係を構築できます。顧客との取引期間や契約期間が長くなるほど、LTVの向上に寄与します。
LTV(Life Time Value)とは、契約開始から終了までの期間にもたらされる利益です。CRM戦略によって顧客との長期的な関係を形成すれば、LTVが高くなります。
顧客起点のマーケティング思想の浸透
CRM戦略は、HubSpotが提唱する「インバウンドマーケティング」と密接なかかわりがあります。インバウンドマーケティングとは、購買プロセスのあらゆる段階で顧客の課題解決をサポートし、長期的な関係性を構築する手法です。
インバウンドマーケティングを実践する際は、「フライホイール」という以下のサイクルを繰り返し回転させます。
- Attract(惹きつける):
有益なコンテンツや対話を通じてターゲットを惹きつけます。ターゲットの興味・関心を醸成し、潜在層や顕在層から見込み客を創出する段階です。 - Engage(信頼関係を築く):
相手の課題や目標に合わせた情報・ソリューションを提供します。見込み客のなかでも確度の高い対象を抽出し、取引の成約率を高める段階です。 - Delight(満足させる):
購入した製品やサービスを使い、課題解決や目標達成につながるように、必要な支援を行います。顧客に対して徹底したアフターサポートを行い、ロイヤルティの高い推奨者へとステップアップをはかる段階です。
インバウンドマーケティングはいわば顧客起点のマーケティング思想であり、CRM戦略を実践するうえで欠かせない考え方です。このような思想が組織に浸透すれば、企業の成長やマーケティングの促進につながります。
インバウンドマーケティングの実践方法を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
売上の安定化
顧客の行動履歴や購買記録を蓄積することで、顧客に対してフライホイールの各段階に応じた適切なタイミングでのアプローチが可能になります。
顧客の状態を見極めたうえでの適切なアプローチは、信頼関係を構築して顧客を満足させます。さらに、顧客自身が宣伝し、新しい顧客を呼び寄せてくれるでしょう。その結果、企業は新規顧客の創出にコストをかけずとも安定した売上を確保できるようになります。
CRM戦略を推進するには?
CRM戦略は適切な手順に沿って進めることが大切です。目標やターゲットがあいまいなまま施策を実行してしまうと、期待した成果が出ない可能性があるためです。次の手順に沿って戦略的に施策を考案・実施しましょう。
- 目標・KPIの設定
- ターゲットペルソナの設定
- カスタマージャーニーマップの作成
- CRMツールの選定・導入
- 運用・改善
1.目標・KPIの設定
CRM戦略の策定においては、最初に目標とKPIを設定します。適切なKPIを設定することで、効果検証を通じた軌道修正ができます。
KPIとは、自社の目標を達成するための評価指標です。KPIは具体的な数値や期間によって評価されるため、目標と実績をより正確に比較できます。
CRM戦略のKPIには次のような種類があります。
- 顧客維持率・解約率:継続して契約する顧客、解約した顧客の割合を示す指標
- コール数・メール数:関係強化のために行った電話やメールの件数
- アップセル率:より高額な商品やサービスに引き上げるアップセルの完了率
- クロスセル率:関連商品を勧めて顧客単価を引き上げるクロスセルの完了率
- CSI・NPS:顧客満足度やロイヤルティを測定する指標
- LTV:契約開始から終了までの利益を表す指標
適切なKPIを設定するには自社の課題から逆算して考えることが大切です。
例えば、サービスに対する顧客の定着が進んでいない課題を抱えているなら、「3か月で顧客解約率を70%から50%に引き下げる」「NPSを60%の水準で維持する」といったKPIが想定できます。
2.ターゲットペルソナの設定
顧客との長期的な関係を構築するためのCRM戦略では、計画の立案や施策の実施段階において、常に顧客のもつ課題やニーズを意識する必要があります。その際に役立つのがペルソナ分析です。
ペルソナとは理想とする顧客像を指します。性別や年齢はもちろん、職種、年収、趣味、個人的な目標など、ターゲットの情報を詳細に絞り込んで設定する点に特徴があります。
ペルソナを設定しておくと、顧客の考え方やニーズを把握できるため、より実行性の高いCRM戦略を策定できます。また、想定したターゲットと実際の顧客との間にズレが生じた際に、よりスムーズに軌道修正できるのもメリットです。
ペルソナ分析の手順や活用事例を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
3.カスタマージャーニーマップの作成
カスタマージャーニーマップとは、顧客の購買プロセスを可視化した図です。
マップ上には、「認知や興味・関心」といった購買プロセスの各フェーズのほか、顧客の行動や思考、タッチポイント(顧客接点)、具体的な施策などを記載します。また、CRM戦略では、営業やマーケティング以外にカスタマーサポートでも活用できるよう、購買後のフェーズを加えるのも良いでしょう。
カスタマージャーニーマップを作成することで、フェーズごとに必要な施策や用意すべきタッチポイントを一目で把握できるようになります。
具体的な作り方や活用方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
4.CRMツールの選定・導入
CRM戦略を実施するためには、顧客情報の一元管理やデータ分析といった顧客管理を行うためのツールが必要です。
顧客管理にはエクセルやGoogle スプレッドシートを活用できますが、より戦略的に実施するのであれば、CRMツールの導入を検討しましょう。
CRMツールを使えば、営業活動の経緯や商談の進捗、カスタマーサポートの応対状況といった膨大な情報を、1つのダッシュボードだけで一元管理できます。さらに関数やマクロなどの専門的な知識がなくても、搭載されている機能を使って容易にデータ分析を行えます。
おすすめのCRMツールや選び方のポイントを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
5.運用・改善
カスタマージャーニーマップやCRMツールを活用しつつ、目標に沿って施策を実施しましょう。
運用中はCRMツールのダッシュボードやレポート機能を活用し、定期的にKPIの数値を検証することが大切です。事前に設定した数値目標と実績との間に差があれば、改善策を立案して軌道修正を行います。検証と改善のPDCAサイクルを繰り返し回転させることで、CRM戦略の成果向上につながります。
CRM戦略策定のための第一歩は「自社に合ったCRMツールの導入」
事業規模や従業員数にもよりますが、CRM戦略の実施にはCRMツールの活用が効果的です。顧客関係管理では、顧客の属性データだけでなく問い合わせ履歴や商談履歴、購入履歴などをひも付けて管理することが重要です。CRMツールにはダッシュボードや進捗管理、分析レポートなどの機能が搭載されているため、より効率的な顧客管理を実現できます。
CRMツールには数多くの種類が存在するため、機能や対応範囲、操作性、カスタマイズ性などのポイントをおさえて選定しましょう。また、担当者が快適に利用できるよう、導入前に無料トライアルで操作性や機能性を確認すると良いでしょう。
CRM戦略で顧客との関係を強化しよう
消費者行動の変化や市場の成熟化により、商品やサービスによる差異化が難しくなりつつある昨今、CRM戦略の重要性が高まっています。これからは新規顧客に依存するのではなく、いかに既存顧客との関係を強化できるかが重要になるでしょう。
適切なCRM戦略を策定することで、顧客との継続的な関係を構築できます。取引期間や契約期間が長くなるほど、LTVの向上や安定した売上の確保につながります。
そのためには効率的かつ効果的な顧客管理ができる環境を整えましょう。エクセルやGoogle スプレッドシートでも顧客管理を行えますが、より実効性の高いCRM戦略の策定にはCRMツールの導入がおすすめです。本記事でご紹介した考え方や手順を参考に、ぜひCRM戦略を実施してください。