販売戦略とは、自社商品やサービスなどの価値を、どのような顧客に、いくらで、どのように販売するかを決定するための戦略です。成果を得るためには、プロダクト起点ではなく、顧客起点を前提とし、ニーズを理解して、適切にアプローチすることが求められます。
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この記事では、販売戦略の立て方や役立つフレームワーク、戦略設計時の注意点などを解説しています。これから販売戦略を立てる方、販売戦略を立ててみたものの思うような成果が出ずに悩んでいる方の参考になれば幸いです。
販売戦略とは
販売戦略とは、自社の商品・サービスなどの価値を、どのような顧客に、どんな価格で、どのようにして訴求して販売すれば良いのかを定めた戦略です。
具体的には、次の6つのポイントから戦略を立てていきます。
- Who:誰に?
- What:どんなプロダクト(サービス)を?
- Why:なぜ顧客は買うの?
- When:アプローチするタイミングは?
- Where:どこで、どの媒体で?
- How:どうやってアプローチする?
つまり、販売戦略は販売活動における5W1Hだといえるでしょう。
営業戦略との違い
販売戦略と混同されがちな「営業戦略」ですが、両者の違いは目的と対象にあります。
販売戦略を立案する目的は、自社サービスを効果的に売る仕組みを作ることです。アプローチ対象は顧客で、すでに自社サービスを知っている層への訴求方法を考えます。
一方、営業戦略の目的は、現在の商品を軸に効果的に売る仕組みを作ることで、アプローチ対象は市場です。そのため、対象は既存顧客に加えて、現時点で自社サービスを知らない・関心のない潜在顧客も含まれます。
販売戦略と営業戦略では、採用する手法も異なりますので、違いを押さえておきましょう。
戦略と戦術の違い
また、販売戦略と似た用語に、「販売戦術」があります。
戦略とは、特定の目的を達成するために、対局的な視点で策定された方針です。一方、戦術は、目的を達成するための具体的な作戦や方法です。
つまり、販売戦略とは「商品・サービスをどう販売していくか」の計画や方針のことで、販売戦術は「どのような手法で販売していくか」といった方法をいいます。戦略がないまま戦術を考えても、目標達成の道筋を描けず、場当たり的な対策となる可能性が高くなるでしょう。まずは販売戦略を立て、それを達成するための具体的な販売戦術を練る、という流れを意識しましょう。
販売戦略を立てる重要性
販売戦略が重要なのは、企業の人材や資金などの限りある経営資源を効率的に活用できるからです。
販売戦略を立てずに販売活動を続けていては、その後の仮説検証ができません。経営資源を効率的に活用できないだけでなく、仮に販売成績が好調だったとしてもその要因が掴めません。勘と経験に基づいた販売活動では、再現性も低くなってしまうでしょう。
多様化した販売チャネル・タッチポイントへの対応
近年はECサイトやアプリ、SNSなどオンラインでの販売チャネルが多様化し、顧客の購買プロセスが複雑化しています。さらに、B2Bの場合は、関係者の多さや単価の高さから検討期間が長期化する傾向にあり、その分顧客とのタッチポイントも多くなります。企業にとっては、それだけチャンスが増えるということです。
もちろん、全てのチャネルをカバーできるのが理想ですが、社内リソースによっては厳しい場合もあります。自社に適した販売戦略に基づき、見込み客にいかに効率よくアプローチするかが重要です。
適切な効果測定
5W1Hに沿って立てられた販売戦略をもとに施策を実行すると、いつ・誰に・何をしたのかなどが明確に残っています。これにより、ターゲット設定は間違っていなかったか、別のアプローチはなかったか、施策に不備はなかったかなど、各ポイントに沿って効果測定を行えるようになります。
このように適切な効果測定を行うことができれば、PDCAを素早く回すことも可能になります。なぜ成功したのか、あるいは失敗したのかがわかれば、販売戦略をブラッシュアップしよりクリティカルな施策につなげられるでしょう。
販売戦略として用いられる5つの代表例
続いて、販売戦略として代表的な例を3つ紹介します。販売戦略を設計するうえで重要な考え方ですので、ぜひ参考にしてください。
1. ランチェスター戦略
ランチェスター戦略とは、「弱者と強者では採るべき戦略が異なる」ことを説いたマーケティング理論です。元は第一次世界大戦をきっかけとした軍事戦略でしたが、現在はマーケティング戦略として活用されています。
ランチェスター戦略では、2つのルールを定めています。
- 同じ武器を持っているなら、兵力の多いほうが勝つ。
- 遠隔戦・広域戦では、攻撃力は兵力の2乗となる。
例えば、同じ武器を持ったA軍10人とB軍8人が“接近戦で”戦ったとき、同じ数の存在を受けるので、A軍が2人生き残って勝者となります。これを「第一法則」と呼びます。
一方、同じ条件で“広域戦で”戦ったとき、攻撃力は2乗されるため、戦力100対戦力64の戦いになります。このとき、A軍は戦力36が残るため、6人が生き残ることになります。これを「第ニ法則」と呼びます。
どちらにせよ数で勝るA軍が勝利しますが、「弱者はより損害の少ない第一法則で戦え」というのがランチェスター戦略です。マーケティングにおいては、大企業が繰り広げるような大規模なマーケット(第ニ法則)では戦わず、局地的なマーケットに絞って強者との差別化を図ります。
そして、どのようなマーケットにせよ、局地的な戦いでシェア1位になることを目指します。そのとき、弱者は強者となり、そのマーケットでは大企業にも勝てるようになるでしょう。
2. バンドル効果を取り入れた戦略
バンドル効果とは、利益率の高い商品と利益率の低い商品を組み合わせて販売し、売上を向上させることをいいます。
飲食店のセットメニューが代表例です。次のハンバーガーショップの価格設定から考えてみましょう。
この店の商品のうち、利益率が一番低いのはハンバーガーで、一番高いのはドリンクです。主力商品であるハンバーガーやフライドポテトを目当てにくる顧客がほとんどのはずなので、それらの販売はある程度見込めます。しかし、ドリンクに関しては、スーパーやコンビニでより安く容量が入っているものが選ばれる可能性もあります。
そこで、これらを1つのセットにすることで、ハンバーガーとフライドポテトの合計金額に加え、実質50円でドリンクを注文できるようになります。顧客はお得感を感じて、「ドリンクもセットで注文しよう」と考えるかもしれません。
ハンバーガーとフライドポテトそれぞれを単品注文する場合の利益額は350円ですが、セットにするとドリンクの利益額が反映されて390円の利益になります。
このように、利益率の異なる複数の商品を組み合わせて売上向上を目指すのが、バンドル効果を活用した販売戦略です。
3. コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略は、価格の優位性を競争力の源泉とする販売戦略です。大量生産や物流コスト・人件費の削減、直接仕入れなどに有効です。
一般的に「規模の経済」を発揮しやすい大企業が取りうる戦略ですが、必ずしもこの戦略が大企業のものだけとは限りません。
大企業は規模が大きいが故に、設備の維持費や人件費など、多額のコストが日々発生しています。固定費の小さいスタートアップやベンチャー企業であれば、限られたニッチな領域に集中してコストリーダーシップを取れる可能性があります。
また「スピード感」というベンチャー企業の利点を活かし、先進的なテクノロジーを取り入れてコスト削減を推し進めることもできるでしょう。
4. ニッチ戦略
競合他社がまだ進出していない分野へ展開する戦略を、ニッチ戦略といいます。
事業を大きく成長させたいと考えたとき、通常はニーズの多い分野で展開しますが、そのぶん競合他社も多く競争に勝つのは難しくなります。
隙間を突くような狭い分野であれば、大きな市場となることは期待できないかもしれませんが、競合他社との競争を避けて大きなシェアを獲得できる可能性が高くなります。また、うまくいけばそれまで顕在化してこなかった隠れたニーズを引き出し、一気に市場のリーダーとなれるかもしれません。
5. サンドイッチ戦略
自社が本当に売りたい商品があったとき、その商品に注目が集まるように高価格帯・低価格帯の商品で挟むことをサンドイッチ戦略といいます。
「松竹梅の法則」ともいいますが、最もグレードの高い「松」、中間の「竹」、最も安価な「梅」があったとき、消費者の注目は真ん中の「竹」に集まりやすくなります。「竹」の商品・サービスを利益率の高い設計にする、一定の品質を保ってリピートしやすくするなど工夫すれば、売上の向上が期待できるでしょう。
販売戦略を設計する方法と役立つフレームワーク
販売戦略の設計では、誰に何を販売するのか、ライバルはどんな戦略で販売しているのか、自社の強みは何か、顧客のニーズは何か、などを分析し、具体性を持たせることが重要です。戦略は次の5ステップで立てていきます。
- 市場分析
- 競合・自社優位性の分析
- 顧客分析
- 自社・商品分析
- アクションプランの策定
この章では、各ステップにおける分析内容と役立つフレームワークを紹介しながら、販売戦略の立て方を解説します。
1. 市場分析
まずはターゲットとなる市場の分析です。具体的には、経済や政治、技術革新や流行などのマクロ環境を客観的データに基づき分析します。
自社商品・サービスをどのような市場にリリースするのか、ここで大枠を把握しておきましょう。
フレームワーク例:PEST分析
PEST分析はマクロ環境の分析を行うフレームワークです。「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの外部環境を分析対象とします。
人口や経済、技術革新、政治状況など自社を取り巻く外部環境を長期的なスパンで捉えます。世の中の流れやトレンドを味方につけて、時代に即したサービスをリリースするために役立つのがPEST分析です。
2. 競合分析
競合分析では、自社が参入する市場にどのような企業が参入しているのか、自社がどんな位置にいるのかを確認します。
競合企業のシェアや商品力、販売力、弱みや強みなども分析しておきましょう。
フレームワーク例:3C分析
3C分析とは、自社を取り巻く環境を可視化するフレームワークです。「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの要因を分析します。
3C分析では、自社の強みや弱み、顧客ニーズなどを客観的に把握できます。市場における自社の優位性や成功要因を特定できるため、最適な販売戦略を構築できるでしょう。
フレームワーク例:SWOT分析
SWOT分析とは、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの項目で自社の状況を整理・分析する手法です。この4項目を内部環境・外部環境に分け、さらにそれらをプラス面・マイナス面に分けて分析します。
SWOT分析により、自社の強みや弱みを発見できます。そのため、強みを生かした(弱みを克服した)販売戦略の立案が可能です。
3. 顧客分析
自社商品に対するニーズや課題などを調査・分析し、自社の強みを魅力に感じるであろう顧客層を選出します。ターゲットとなる顧客はどのような人で、何を求めているのかを明確にすることで、後の自社商品分析の確度も高まります。
フレームワーク例:STP分析
STP分析とは、業界における自社の立ち位置を把握するためのフレームワークで、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の頭文字を取ったものです。具体的には、次の順序で分析します。
- Segmentation:同質的なニーズを持った顧客グループに細分化する
- Targeting:細分化したグループの中から、自社が積極的に狙う市場を絞る
- Positioning:ターゲットに設定した市場の競合を抽出し、相対的に自社の立ち位置を決める
販売戦略を立案する際には、自社の立ち位置の把握が欠かせません。そこから将来的な立ち位置を設定することで、実現可能性の高い販売戦略となります。
フレームワーク例:ペルソナ・カスタマージャーニー
ペルソナとは、商品・サービスを必要とする具体的な顧客像のことです。年齢や性別、職業、趣味、家族構成、価値観など、実際にその人物が実在しているかのように詳細な情報を設定します。
ペルソナは「そういう人物がいたらいい」という願望で作成するのではなく、マーケット調査や自社商品・サービスの顧客のデータ、アンケート結果などから客観的に作成します。どの年代・性別・属性の人に好かれやすいかという定量的なデータはもちろん、実際の利用シーンから得られる定性的な情報も重要です。
カスタマージャーニーとは、ペルソナの行動や思考、感情の変化を時間軸に沿って記載し、購入までのプロセスと意思決定までのストーリーを想定するフレームワークです。
通常、これを可視化したカスタマージャーニーマップを作成し、プロジェクトチームで共有します。カスタマージャーニーマップではフェーズごとに顧客接点を想定し、ペルソナの行動や感情の変化を記します。ときにはネガティブな感情も考慮し、どのような施策を打てば顧客となるのかを考えていきます。
ペルソナとカスタマージャーニーを設定すると、どのチャネルで、どのタイミングで、どのような販売活動のアプローチをすれば良いのかが見えてきます。
4. 自社商品分析
顧客分析で作成したカスタマージャーニーに対し、自社商品分析では自社商品がフィットしているのかを客観的に評価します。市況や競合企業など外的環境も考慮し、自社商品の強みと弱みを把握しましょう。
フレームワーク例:4P分析
4P分析は外部・内部環境の分析や自社のポジショニングの結果をもとに、商品や価格、プロモーション方法などを具体的に決めるためのフレームワークです。Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の4つの視点で考えることが重要とされています。
4P分析を用いる際には、4つのPそれぞれの関係性を意識することが重要です。例えば、高価格帯の商品を低価格志向の店舗で販売したり、シニア向けの商品の販売チャネルをオンラインのみにしたりしても売れる可能性は低いでしょう。
また、4P分析は企業側の視点に立った分析手法であるため、販売戦略を立案する際は顧客側の視点である4C分析との整合性も重要です。
フレームワーク例:4C分析
4C分析とは、「Customer Value(顧客価値)」「Cost(コスト)」「Convenience(利便性)」「Communication(コミュニケーション)」の頭文字を取ったもので、顧客視点に立って販売戦略を立案する際に活用します。
顧客視点に立って自社商品やサービスを分析することで、自社の課題の発見や顧客ニーズに合った新商品や新機能の開発が可能となります。
3C分析やSWOT分析の外部環境と4P分析とのマーケティングミックスで自社製品を差異化できるポイントを明確にしましょう。
5. アクションプランの策定
ここまでの各ステップの分析から、自社の課題や劣っている点を洗い出します。さらに改善のための対策を検討し、具体的なアクションプランを作成しましょう。
販売戦略設計の注意点
再現性が高く、自社に最適な販売戦略を立てるためには、気をつけるべきポイントが2つあります。本章で紹介するポイントを意識して、販売戦略の立案に生かしていきましょう。
フレームワークや成功事例を転用しても成功するとは限らない
販売戦略の立案に役立つフレームワークや成功事例は多くありますが、それらを単に転用しても成功するとは限りません。
市場においてまったく同じターゲットの企業は少なく、企業にはそれぞれのペルソナがいます。フレームワークや成功事例をただ踏襲してばかりでは、自社の優位性が打ち出せず陳腐化してしまうでしょう。
したがって、フレームワークや事例をそのまま転用するのではなく、自社の強みや提供価値を分析したうえで、必要なエッセンスを適宜取り入れるようにしましょう。
全社的に一貫した販売戦略を策定すべし
営業部だけ、マーケティング部だけで戦略を完結させるのではなく、部門横断的に一貫したものを策定しましょう。例えば、部署ごとに異なる販売戦略を立ててしまうと、部門間の連携が取りづらくなり、効率も悪くなってしまいます。
営業部が日々の営業活動で得た生の顧客の声をマーケティングも含めた販売戦略に活用するなど、顧客とのコミュニケーションに携わるすべての部門に対して一貫性を持った販売戦略を策定する意識が重要です。
戦略を立てる段階から、部門横断的な視点を持つようにしましょう。
販売戦略は顧客起点で考える
自社商品を必要としている顧客へ届け、企業の売上向上に貢献するためにも、最適な「売り方」の道標となる販売戦略は重要です。企業側の視点ではなく、市場にどんなニーズがあるのかを理解し、顧客の視点から戦略を立てることで、より価値のあるプロダクトを生み出せるでしょう。
本記事内でご紹介したフレームワークや事例を活用しつつ、自社の顧客像を詳細に分析し、最適な販売戦略を考えていきましょう。