CX(カスタマー・エクスペリエンス)は、ある一点の満足度ではなく、サービス全体を通して買い手が経験する心理的・感覚的な価値を指す言葉です。CXを高めると、顧客ロイヤルティ向上や競合との差異化、ブランドイメージの形成が可能になります。
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本記事では、CXの概要や重要性を解説します。CXを高める方法やメリット、向上をもたらした事例もご紹介するので参考にしてください。
CX(カスタマー・エクスペリエンス)とは
多くの市場が飽和し、差異化が難しい現状において、買い手に選んでもらえる企業になるには、「カスタマーエクスペリエンス」をより良くしていく施策が不可欠です。まずは、CX(カスタマー・エクスペリエンス)の定義やその他の言葉との違いを確認しましょう。
CX=「買い手が体験する心理的・感覚的な価値」
CXとは、買い手と売り手とのすべてのタッチポイントで、「買い手が体験する心理的・感覚的な価値」のことです。商品・サービスの機能や品質、価格などの物質的・金銭的価値だけでなく、購入前の認知、検討から購入後のサポートまで、すべてが対象となります。
より良いCXを提供するためには、一時的ではなく長期に渡り良質な関係を築かなければなりません。そのためには、カスタマーサービスのような直接的なタッチポイントに限らず、広告やパッケージ、機能なども含め、提供する商品やサービスのすべての面を考慮する必要があります。
マスメディアだけでなくSNSやデジタル広告など、消費者とのタッチポイントが急増している現在においてCXは重要視され、多くの企業がCX向上を経営課題にあげています。実際に、今後5年間でCX向上を優先すると答えたビジネス専門家は45.9%(superoffice(英語))であり、ブランドの差異化要因として価格や製品の質を追い越すことが予測されています。
UX(ユーザー・エクスペリエンス)との違い
CXと類似する用語に、UX(User Experience:ユーザー・エクスペリエンス)があります。UXとは、特定のプロダクトや商品を利用したユーザー体験の向上を目指す概念です。具体的には、Webサイトやアプリの操作性や機能性を向上させたり、購入者の声を基に商品を改善したりする施策があげられます。
一方で、CXは、単一のプロダクトの体験だけではなく、広告や営業、カスタマーサポート担当など関連するすべてのタッチポイントを総合して改善を図る概念です。CXがより広範な顧客体験をカバーするのに対し、UXはその一部を専門的に取り扱う点で異なります。
CS・CSATとの違い
CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)やCSAT(Customer Satisfaction Score:顧客満足度スコア)も、CXと混同されやすい用語です。CSとは、顧客がプロダクトやサービスに対してどの程度満足したのかを計測する指標です。CSを数値化したものをCSATと呼びます。
CXが、顧客の期待を上回る価値を提供するなどのポジティブな側面が強いのに対し、CSは顧客の不満を解消するなどのマイナスをゼロにする側面も含むのが遅滞です。CSは満足度という「結果」を測るのに対し、CXは結果的な満足度を感じるに至った「プロセス」も考慮し、顧客の一連の体験を高めることを目指す点で異なります。
DXとの違い
CXと似た言葉にDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)がありますが、両者は全く別のものです。
DXとは、デジタル技術を活用してビジネスに変革をもたらし、顧客目線で新たな価値を創出することです。例えば、飲食店モバイルオーダー・セルフオーダーを導入したり、営業ツールを導入し営業活動を効率化したりするなどがあげられます。
DXの定義や事例などの詳細は、次の記事を参考にしてください。
CXの重要性
CXが重要とされる理由は、次の通りです。
- 商品・サービスだけでは差異化しにくい
- 顧客とのタッチポイントが複雑化している
- 顧客の発信力が高まっている
それぞれ詳しく解説します。
商品・サービスだけでは差異化しにくい
インターネットの普及やIT技術の革新により、身の回りには、多くの情報・モノで溢れています。優れた商品・サービスが開発されても、機能面はすぐに模倣され、従来は価値が認められていた商品・サービスであっても、価格を下げなければ売れくなってしまう可能性があります。
こうした状況下では、商品・サービスに加えて、前後の過程に競合が模倣できない付加価値を付け、CXを高めることが重要です。
顧客とのタッチポイントが複雑化している
消費者行動の変容により、顧客とのタッチポイントが複雑化していることもCXが重要とされる要因です。
従来は、顧客が企業と接点を持つのは、実店舗や直接の問い合わせ、通信販売などに限られていました。しかし、現在は、多くの消費者がインターネットを通じて多様な情報にアクセスでき積極的に情報収集を行えます。つまり、さまざまなタッチポイントを強化してCXを高めることで、興味を持ってくれた消費者に最大の価値を提供する必要があります。
例えば、実店舗とECサイトで商品を提供する企業であれば、実店舗での接客や電話対応を強化する一方で、ECサイトへのチャットサービスの導入やSNSでの情報発信などがあげられます。
顧客の発信力が高まっている
顧客の発信力が高まっていることも、CXの重要性が増している理由です。顧客はWebサイトやSNSを通じて、自らの体験を世界に向けて容易に発信できるようになりました。良質な体験に関する口コミは企業ブランドを大きく向上させる一方で、悪い体験の拡散は企業ブランドを低下させてしまいます。
企業はCXを向上させて、ポジティブな意見が拡散されるよう力を入れることが大切です。
CXを高めるメリット
CXを高めるメリットは、次の通りです。
- 顧客ロイヤルティの向上
- 競合との差異化
- ブランドイメージの形成
それぞれ詳しく解説します。
顧客ロイヤルティの向上
良質な顧客体験を構築し、顧客への提供価値を最大化できれば、顧客ロイヤルティが向上します。顧客ロイヤルティとは、顧客の企業に対する忠誠心や愛着心をあらわす言葉です。
顧客ロイヤルティを向上できれば、自ずとリピーターの増加にもつながります。結果的に、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めることができ、企業の利益ももたらされます。
競合との差異化
情報やモノであふれている現在において、商品・サービスの品質や機能だけで競合と差異化を図ることは難しくなっています。
そこで求められるのがCXの向上です。企業やブランド独自の顧客体験を提供することで、競合との差異化が可能になるからです。
競合と同じ品質の商品・サービスを提供している場合であっても、「カスタマーサポートが丁寧である」「トラブルにすぐに対応してくれる」などの強みがあれば、顧客から選ばれやすくなるでしょう。
ブランドイメージの形成
CXを高めると、ブランドイメージを形成できる効果も期待できます。
顧客が商品やサービスに信頼と愛着を持つようになれば、ブランドへの好意も醸成されます。その結果、自社の他の商品やサービスを利用してもらえる可能性が高まるでしょう。
顧客ロイヤルティの高い顧客はブランドの良質な口コミを拡散する傾向があるため、新規顧客の創出にもつながります。
CXを向上させる方法
CXを向上させる方法は、次の通りです。
- ペルソナ・ターゲットを明確にする
- カスタマージャーニーマップを作成する
- 仮説を立て実証・検証する
- 個々の顧客状況を可視化する
それぞれの方法を詳しく解説します。
ペルソナ・ターゲットを明確にする
CXを向上させるために、まずはペルソナ・ターゲットを明確に設定しなければなりません。CXでは顧客視点を持つことが大切であり、ペルソナ・ターゲットがあいまいだと、その後の戦略がぶれてしまうからです。
ペルソナやターゲットの設定に必要な要素は、対象とする顧客やビジネスモデルにより異なりますが、一般的には次の項目が用いられます。
- 名前
- 性別
- 年齢
- 職業
- 役職
- 居住地
- 家族構成
- ライフスタイル
- 置かれている状況と課題
より効果的なペルソナ・ターゲットを設定するには、自社に都合の良い情報ではなく、客観的なデータを用いるように留意しましょう。
ペルソナとターゲットの違いや設定方法などの詳細は、次の記事を参考にしてください。
カスタマージャーニーマップを作成する
顧客の視点や行動を把握し、タッチポイントを可視化することで、より確度の高いCX施策の立案が可能です。その際、有効なのがカスタマージャーニーマップの活用です。
カスタマージャーニーマップとは、見込み客の行動や思考、心理状況の変化、感情などを分析し、その情報をベースに適切なアプローチ方法を考え出すためのフレームワークです。
見込み客が顧客になるまでのプロセスを「認知、興味・関心、比較・検討、行動」の4つに分け、それぞれのタッチポイントや行動、思考・感情、施策などを可視化します。購入プロセスのあらゆるデータを分析、推定することで、方向性が明らかになります。現状の課題の抽出や部門間やチームメンバーとの情報共有が迅速かつ正確に行える点もメリットです。
カスタマージャーニーマップの詳細や作り方は、次の記事を参考にしてください。
仮説を立て実証・検証する
カスタマージャーニーマップで自社の課題や重点的に取り組むべき点が明らかになれば、それらを解消するために仮説を立てて実証・検証する必要があります。
例えば、ECサイトの運営において、購入プロセスが複雑なためにカート離脱率(カゴ落ち率)が高い場合、入力項目を減らしたり、商品の選択から購入までの手順を簡略化したりする施策が有効です。
施策の実施後は期間を決めて効果測定を行い、定期的にPDCAを回すことが大切です。
個々の顧客状況を可視化する
CX向上には、個々の顧客状況の可視化が欠かせません。CXにはすべての部門が関係しますが、CXを高める役割を主に担うのはカスタマーサポートやカスタマーサクセス部門です。これらの部門で、顧客情報・行動履歴・ヘルススコア・NPSやCSATなどの顧客満足度アンケートの回答状況などのデータを一元管理し、顧客の状況に合った対応をできる環境を整備する必要があります。
例えば、HubSpotが提供するService Hubでは、他部門と連携したうえでの顧客データの一元化はもちろん、ヘルススコアや使用状況の可視化、フィードバックやコミュニケーションの管理などが実施できます。顧客それぞれに最適なタイミングで一貫した対応を提供することにより、CXの向上を実現できるでしょう。
CXを向上させるためのポイント
CXを向上させるためのポイントは、次の通りです。
- 情緒的価値を高める
- ロイヤルティプログラムを導入する
- マルチチャネルでの一貫したマーケティング
- システムの導入
- 顧客視点の5要素で考える
それぞれのポイントを詳しくご紹介します。
情緒的価値を高める
CXを高めるには、心理面・感情面などの情緒的価値を高めるのが有効です。例えば、店舗運営において、「丁寧な接客を提供する」「ブランドイメージに合うBGMを流す」「内装にこだわり居心地の良い空間を作る」などの施策があげられます。
顧客の感情や価値観に働きかける体験の提供は、自社独自のブランドイメージの形成にもつながります。
ロイヤルティプログラムを導入する
顧客が自発的に企業との関わりを求めたくなるような、ロイヤルティプログラムを導入するのもCXの向上に効果的です。なぜなら、企業側で複数の顧客とのタッチポイントを設けても、CXが必ず向上するとは限らないからです。
ロイヤルティプログラムの例としては、ポイントサービスがあげられます。顧客の購買行動を促し、継続的に企業やブランドとの関わりを持つインセンティブとなりうるでしょう。
マルチチャネルでの一貫したマーケティング
CX向上は、一部の成果に着目するのではなく、プロセスのすべてにおいて取り組む必要があります。すべてのチャネル、すべてのタッチポイントで、一貫したCXを考慮した施策を検討しましょう。組織としての一貫性を保ったうえでチャネル間で連携させることが大切です。
システムの導入
CX向上には、顧客との全てのタッチポイントで提供できる価値を最大化させる必要があります。顧客の一連の行動とニーズを把握し、各部門が適切なタイミングでコミュニケーションを行うことが重要です。
組織全体で顧客理解を深めるには、顧客情報を一元管理できるMAやCRM、SFAなどの各種システムの導入が有効です。
HubSpotが提供するService Hubでは、統合されたデータベースにより顧客情報やニーズを把握でき、一貫した顧客対応が実現します。また、ヘルススコアやCSATを活用することで顧客それぞれに最適な施策を実施できるため、CX向上が可能です。
顧客視点の5要素で考える
CX向上には、顧客第一主義の視点が必要です。しかし、顧客個々の情緒や価値観を明確に把握するのは難しいでしょう。
そこで、近年注目されているのが、インターブランドが提唱する「顧客が求める体験価値の5要素(Five Emotional Cues)」です。顧客視点での指標として用いられており、今後、新たな指標となりうる可能性があります。一つの視点として、参照しておくと良いでしょう。
"顧客が求める体験価値の5要素(Five Emotional Cues)"
- RELEVANCE(私向けのものだと思える)
商品に限らず、そのブランドのメッセージや企業の姿勢などが自分の考えや価値観と合っているか - EASE(私にとって意味がある)
たくさんの選択肢のなかで、自分がそのブランドを選ぶ意味や価値を示してくれているか - OPENNESS(オープンで正直である)
きれいごとではなく、顧客と真摯に向き合い、真に信頼できるブランドか - EMPATHY(私の立場で考えてくれる)
自分を理解し、共感してくれているか - EMOTIONAL REWARD(いい気分にさせてくれる)
自分のことを大切に扱い、いい気分にさせてくれるか
CXの向上をもたらした事例
ここからは、CXの向上をもたらした3つの事例をご紹介します。
- 帝国ホテル
- サイゼリヤ
- スターバックスコーヒー
帝国ホテル
インターブランドジャパンが実施した「顧客体験価値(CX)ランキング™ 2023」で1位を獲得したのが、株式会社帝国ホテルです。先述した「顧客が求める体験価値の5要素」のうち、EASEとOPENNESSで高く評価されました。
帝国ホテルでは、「顧客から感心されること」をテーマに掲げ、従来よりホスピタリティが高く評価されてきました。さらに、CXが高まるよう、歴史と伝統のある帝国ホテルスタッフとしての姿勢に力を入れており、顧客へのもてなしや気配りなどが評価されています。
サイゼリヤ
先述したインターブランドジャパンのランキングで、2位を獲得したのが、国内外でイタリア料理店をチェーン展開している株式会社サイゼリヤです。「顧客が求める体験価値の5要素」のうち、RELEVANCEが高く、「コストパフォーマンスに優れている」「店内の内装がきれい」などの点で評価されています。
また、昨今の値上げラッシュでも値上げしないことを宣言し、消費者に寄り添う企業姿勢も共感を得ています。
スターバックスコーヒー
世界最大のコーヒーチェーン店であるスターバックスコーヒージャパン株式会社も、CXに力を入れている企業の一つです。
同社は日本上陸以来、自宅でも職場でもない「サードプレイス」の概念を提唱してきました。ドリンクはもちろん、おしゃれな内装と雰囲気の良いBGM、座り心地の良いソファの設置などにより、居心地の良い空間が提供されています。また、スタッフそれぞれが独自のおもてなしを提供することで、顧客の愛着心が高まる点もCX向上につながっています。それぞれの施策がリピーターや良質な口コミの創出につながり、業績アップをもたらしているのです。
CX向上で、顧客の体験価値を最大化させよう
CXとは、サービス全体を通じた心理的・感覚的な価値を指す指標です。商品・サービスの品質や機能による差異化が難しくなり、顧客とのタッチポイントが複雑化している現在において、CXを向上させることが重要です。
CXを高める方法として、ペルソナ・ターゲットを明確にしたうえで、カスタマージャーニーマップを作成して施策に取り組むことが有効です。情緒的価値を高める、ロイヤルティプログラムを実施する、顧客情報管理を一元化するためにツールを導入するなどのポイントを意識して、向上に取り組んでみましょう。