カスタマーサクセスの取り組みは、自社商品やサービスによって顧客が成功できるよう支援を行う活動です。顧客の状況に応じた支援を行うことで長期的な信頼関係が構築できるので、継続利用が前提となるSaaSビジネスとの相性が良いのが特徴です。
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SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスは、自社商品やサービスに対して顧客が価値を認識するきっかけになり、ひいてはLTV(顧客生涯価値)やロイヤルティの醸成、売上向上にもつながります。
本記事では、SaaSビジネスでカスタマーサクセスの重要な理由や業務内容、成功のポイントを解説します。参考事例もご紹介しますので、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスへの理解を深めたい方はぜひご覧ください。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスは、自社の商品やサービスによって顧客の成功を能動的に支援する取り組みです。近年、カスタマーサクセスは特にSaaSビジネスにおいて注目を集め、重要な役割を担っています。
SaaS(Software as a Service)は、従来、物理的なサーバーにインストールする必要があったソフトウェアを、クラウド上で利用できる点が特徴です。多くのケースで買い切り型ではなくサブスクリプション型の料金体系が採用されており、商品・サービスの継続利用が前提です。
SaaSビジネスで売上を上げるには、顧客の継続率を高めてLTVを向上させる必要があります。そのため、商品・サービスの利用中に顧客が抱えるであろう悩みやニーズを事前に察知し、課題解決を図ることが重要です。自社サービスが顧客に定着すれば、結果的に解約の抑制やアップセル・クロスセル率の向上などにつながります。
SaaSビジネスでカスタマーサクセスが重要な理由
SaaSビジネスでカスタマーサクセスが重要な理由として、主に次の3つがあげられます。
- 解約率(チャーンレート)の改善
- LTVの向上
- CPA(顧客創出単価)の負担軽減
解約率(チャーンレート)の改善
SaaSのカスタマーサクセスでは、オンボーディング(導入支援)、活用支援、契約更新フォロー、アップセル・クロスセル提案など、さまざまなアプローチで顧客満足度を高めていきます。これにより解約率(チャーンレート)の改善が期待できます。
また、顧客の課題や目標を理解して適切にサポートするには、カスタマーサポートや営業など他部門と連携して、多角的な支援をすることも必要です。
LTVの向上
カスタマーサクセスがSaaS企業にもたらす効果として、顧客の成功体験を後押しすることによるLTV向上があげられます。カスタマーサクセスにより顧客満足度を高めてロイヤルティを醸成できれば、継続利用につながります。
また、既存顧客へアプローチしてアップセル・クロスセルするのも効果的です。現状のプランを継続してもらうだけでなく、顧客に適した上位プランや異なるサービスを提案することで、さらにLTVの向上が期待できます。
CPA(顧客創出単価)の負担軽減
CPA(顧客創出単価)は、1件の顧客創出にかかった費用を示す指標です。営業活動の新規開拓だけでは、見込み客の創出から取り組まなければならず、CPAが高くなる傾向があります。
カスタマーサクセスに適切に取り組み既存顧客のLTVや解約率が改善されると、事業全体のCPAのバランスが取りやすくなり、コストやリソース面での負担軽減が可能です。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの業務内容
顧客を成功に導くための支援は顧客の状況によって異なります。そのため、カスタマーサクセスの業務内容は次のように多岐にわたります。
- 導入支援(オンボーディング)
- 活用支援
- アップセル・クロスセル
- 利用状況の確認
各業務の特徴を押さえて的確なタイミングで実施しましょう。
導入支援(オンボーディング)
導入支援とは、新規顧客に対してサービスの導入前後にサポートを行う業務で、「オンボーディング」とも呼ばれます。顧客が自社の商品・サービスに対して理解を深め、自走できるようにするのが目的です。
導入支援の主な取り組みは次の通りです。
- 課題特定
- ロードマップ・KPI策定
- FAQ・製品マニュアル
- ハンズオンセミナー
- プロダクトツアー実装
商品・サービスの導入前の見込み客は、自社の潜在的な課題や適切な目的を明確にできず悩んでいる可能性があります。また、導入直後は操作や設定、各種機能の使い方で不満を抱えているケースも少なくありません。
導入支援によって顧客の課題を解決しニーズを満たすことができれば、顧客は商品・サービスの価値を感じて、長期的な関係構築が可能になるでしょう。
活用支援
顧客ライフサイクルは、導入期を経た後、活用期へと移行します。顧客が商品・サービスの扱いに慣れはじめ、より効果的な活用方法を模索するフェーズです。この段階では、導入期よりも具体的で、かつ顧客の細やかなニーズに添う情報やコンテンツ、サポートを実施します。
活用支援における主な取り組みは次の通りです。
- 新機能やアップデートに関する情報提供
- 他社の活用事例やTipsの紹介
- 1on1ミーティング
- 定期訪問・コンサルティング
- コミュニティフォーラム
活用支援によりサービスの運用効率が高まれば、顧客企業への定着化が期待できます。自社の商品・サービスが顧客にとって欠かせない存在になるため、後に続く拡大期へとスムーズに移行可能です。
アップセル・クロスセル
顧客ライフサイクルでは、活用期の次に拡大期を迎えます。顧客が自社の商品・サービスを使って事業拡大を図るフェーズであり、アップセル・クロスセルの提案に適しています。
アップセルとは、現行商品・サービスよりも上位のモデルを提案することです。また、クロスセルとは、関連商品・サービスをセットで訴求することをといいます。いずれも顧客単価の向上につながるため、SaaSビジネスにとってLTVを高める不可欠の施策です。
アップセル・クロスセルを提案する際は、契約更新に合わせた顧客へのフォローも行いましょう。目的達成に向けた進捗確認や振り返り、ROIの確認などを実施します。
利用状況の確認
顧客のサービス利用状況を定期的に確認し、把握することも大切です。解約の兆候や現状のサポートへの満足度を確認し、問題が生じていれば解消へ向けてフォローします。
利用状況を確認するには、解約率やオンボーディング完了率、セッション時間といったKPIを参考にすると良いでしょう。目標よりも実績が低い場合は、サービスの利用頻度が低下している可能性があります。また、ヒアリングなどを通じて、定性的な情報を参考にするのも有効です。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセス成功のポイント
SaaS企業がカスタマーサクセスを成功させるには、SaaSビジネスの特性を理解し、各施策に取り組むことが大切です。
- 既存のフレームワークを活用する
- 定期ミーティングを行い顧客を理解する
- 優先順位を決めて取り組む
- 他部門との密な連携体制を構築する
- カスタマーサクセス専門の部門を立ち上げる
- 社内リソースの確保とツールを活用
- 効果測定を行い施策をブラッシュアップする
それぞれの実践方法を解説します。
既存のフレームワークを活用する
カスタマーサクセスの施策は自社のSaaSビジネスに沿って一から構築するよりも、既存のフレームワークを活用するほうが効率的に実施できます。KPI、ヘルススコア、タッチモデルなどの具体的なアクションを確認し、自社に合うものを積極的に取り入れると良いでしょう。
ただし、フレームワークはすべてのビジネスにそのまま適用できるわけではありません。自社ビジネスの特性に合わせてブラッシュアップする必要があります。
カスタマーサクセスの立ち上げに役立つノウハウは次の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
定期ミーティングを行い顧客を理解する
SaaSのカスタマーサクセスでは、顧客を深く理解することが重要です。企業理念やビジョン、企業風土まで考慮した顧客の成功を定義し、適切にサポートできれば、顧客からの信頼創出や継続利用につながります。
顧客理解においては、営業担当者が一人で情報を保有しているだけでは、根本的な解決が困難です。営業、マーケティング、カスタマーサクセスの垣根を越えて定期的にミーティングを実施し、チーム全体で顧客の情報を共有して多角的な支援を行いましょう。
具体的には、顧客にどのような問題が起きているのか、課題解決に何が必要かといった点を検証し、サポートをチームで進める体制を整えます。多く発生している課題を明確にして、改善策をロードマップに組み込めば、ノウハウの蓄積にもつながります。
優先順位を決めて取り組む
SaaSビジネスでカスタマーサクセスを導入する際は、自社の成長規模に応じて多角的に進める必要があります。
顧客対応に加えてカスタマーサクセス専門の部門の立ち上げなど、業務が多岐に渡るため、必要性の高いものや大きな効果をもたらすものなど、優先順位を決めて取り組むことで効率的に進められます。優先順位を決めた取り組みは成果につながりやすく、リソースを管理しやすくなるため、業務効率化も可能となるでしょう。
他部門との密な連携体制を構築する
カスタマーサクセスの成功には、営業やマーケティング、カスタマーサポートなど他部門との密な連携が欠かせません。顧客に最適な支援を提供するには、多様なデータや顧客の意見を分析する必要があるためです。
例えば、営業やマーケティングで可視化した見込み客のインサイトやスコアなどを参考にすれば、サービス導入期にどのようなニーズを抱えているか把握できます。また、顧客からの疑問や悩みを聞く機会が多いカスタマーサポートと連携すれば、課題解決につながるヒントを見つけやすくなります。
カスタマーサクセス専門の部門を立ち上げる
SaaSビジネスでは、カスタマーサクセスがLTV、解約率、CPAなど重要な指標に影響を与えるため、カスタマーサクセス専門の部門を立ち上げることがおすすめです。
一般に、顧客との接点の多い営業がカスタマーサクセスを兼任するケースは少なくありません。しかし、カスタマーサクセスのステージに応じて専門の担当者や部門を設置することでより施策の精度が向上します。また、各部門の役割を分けることで営業担当者は負担を軽減でき、コア業務に専念できるでしょう。
社内リソースの確保とツールを活用
カスタマーサクセス部門の立ち上げや追加業務への対応の課題となるのがリソースの確保です。人員を増やして教育したり、現状の人員のまま担当業務を増やしたりする場合は、個々の負担が増えてしまいます。社内リソースを確保するには、アウトソースできる業務を検討することも必要です。
また、安定した取り組みのために、ツールを活用するのも有効です。カスタマーサクセスを補助できるシステムを導入すれば、少ない人員でも大量の顧客に画一的な対応行えるようになります。問い合わせやオンボーディング、ヘルススコア管理などフェーズにあった機能を搭載したツールを選び、顧客に対してより最適な提案を実施しましょう。
HubSpotが提供している「Service Hub」にはヘルススコア管理やアンケートツールなど、カスタマーサクセス・カスタマーサポートの両軸から顧客を支援できる機能が搭載されています。顧客情報の一元管理により、顧客それぞれの状況に応じた施策実施や最適なタイミングでのアップセル・クロスセルの提案が可能になります。
無料版から使えるHubSpotのカスタマーサービスツール Service Hub
効果測定を行い施策をブラッシュアップする
カスタマーサクセスの施策は実施して終わりではありません。顧客との長期的な関係構築を想定して継続的に行うことが重要です。顧客を成功に導くために、繰り返し効果測定を行って施策をブラッシュアップしていく必要があります。
ヒアリングによるVOC(Voice Of Customer・顧客の声)の収集や利用状況、成果のモニタリングによって施策の効果を確認し、より良い効果を出せるよう改善していきましょう。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスの成功事例
カスタマーサクセスの施策は多岐に渡り、ビジネスや顧客の状況によって効果的な施策は異なります。ここからは、カスタマーサクセスを積極的に展開しているSaaS企業の成功事例をご紹介しますので、自社の施策の参考にご活用ください。
株式会社オービックビジネスコンサルタント
株式会社オービックビジネスコンサルタントは、「奉行クラウド」をはじめとする財務会計システムや在庫管理システムなど、幅広いクラウドサービスで企業のDX化を支援しています。同社のカスタマーサクセスの特徴は、サービスの導入期から拡大期までの一貫したサポートです。
具体的には、導入マニュアルやリモートでの導入支援、チャットサポート、コミュニティサイトの設置により、継続的に顧客を支援しています。施策の幅を広げることで、どのようなタイミングでも顧客が問題を解決できる環境が整っています。担当者による伴走支援と、顧客が自力解決できるWebコンテンツなどの施策を組み合わせているのもポイントです。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社はグループウェアの「kintone」を提供しています。同社では、ユーザーの自走力を高め、成功体験を促すための、導入から定着までの支援のほか、ユーザーが共創できる仕組み作りなど多様な施策を積極的に実施しています。
同社のカスタマーサクセスの特徴は、「カスタマーサクセス部・カスタマーリレーション部・カスタマーマーケティング部・CS企画推進部・ファンコミュニティ推進部」の5つの部署に分かれている点です。各部署の役割や業務を分けることで、顧客の状況やサービスへの理解度に応じた効率的な施策実施が可能です。
例えば、カスタマーサクセス部では導入から定着までの1対1のサポートを実施しています。また、カスタマーマーケティング部では、ユーザーの活用度を上げるためのセミナーや情報発信を実施して、顧客が継続的にサービスを利用できる仕組みを整えています。
カスタマーサクセスの理解を深めてSaaSビジネスを成功に導こう
サブスクリプションモデルを採用するケースが多いSaaSビジネスでは、顧客の継続利用が売上を向上させる前提条件となります。そのため、商品・サービスを導入し、事業拡大を図るためのカスタマーサクセスが不可欠です。
カスタマーサクセスの取り組みは、売上や利益といった企業側のメリットではなく、顧客の潜在ニーズや課題を把握し、顧客に寄り添い支援を行うことが重要です。カスタマーサクセスによって顧客が商品・サービスの価値を実感し満足度が向上すれば、継続率やアップセル・クロスセル率が高まり、最終的には自社のLTVや売上の向上が期待できます。
今回ご紹介したカスタマーサクセスの業務内容や施策のポイントを参考に、ぜひ自社での取り組みをご検討ください。