サブスクリプションサービスやSaaSモデルにおいて、解約率を表す「チャーンレート」は、投資家からも必ずと言って良いほどチェックされる非常に重要なメトリクスとなっています。

この記事では、チャーンレートの分析/計算方法と、チャーンレートを下げる効果的な5つの施策をご紹介します。
チャーンレートとは
チャーンレートとは、現在の契約数に対するチャーン(解約)の割合を示す数値です。
1,000人の契約者数があり、月に100人が解約した場合、その月のチャーンレートは10%となります。解約率の他に、退会率や離脱率などと呼ばれることもあります。
チャーンレートを重要するべき理由は?
それでは、なぜチャーンレートが重要視されるのでしょうか。
理由は単純で、「チャーンレートは、サブスクリプションサービスやSaaSモデルの成長性に対して、大きなインパクトを与えるため」です。
定期的な収入を得られるサブスクリプションサービスにおいて、何件の契約数が継続しているかどうかは重要となります。
チャーンレートが高くなれば、今後の契約数も減少を続け、月ごとの定期収入の額を示すMRR(月次経常収益)も減少することになります。
MMRについて詳しいことは、以下の記事もあわせてご確認ください。
では、チャーンレートが、どれほどまでに事業の成長性にインパクトを与えるのか、一例を見てみましょう。
以下のグラフは、チャーンレートが「-2.5%」「2.5%」「5%」の3つのケースで比較した、5年後のMRR(月次経常収益)を表す内容です。
なお、後の章でご紹介しますが、増収分も計算に入れる「ネットレベニューチャーンレート」では減収分より増収分が上回るとチャーンレートがマイナスになります。
画像参照:Unlocking the Path to Negative Churn — For Entrepreneurs
毎月同じチャーンレートで推移していくと仮定した場合、MRRへの影響は毎月掛け算で増えていくことが分かります。
期間が経つごとに影響は強くなっていき、チャーンレートが「-2.5%」であった場合と、チャーンレートが「5%」であった場合を比較すると、5年後に”MRRで約4倍の差”が生まれます。
低いチャーンレートを維持できれば、高い収入を維持し、サービスが成長していく可能性が高まります。
仮にスタートアップでユーザー数が少ないサービスだったとしても、チャーンレートが低ければ、サービスの成長性に対して、投資家から高い評価を得られる可能性もあるのです。

チャーンレート導入時のKPI
チャーンレートの導入時には、以下のような目標の達成度を測る「KPI」を取り入れると効果的です。
- 解約したユーザー数
- 契約更新したユーザーの割合
- 顧客からの収益
目標値はサービスの内容やターゲットで変化しますが、一般的には月3%が目安です。顧客が個人ではなく大企業の場合は、0.5%から1%前後にするといいでしょう。
目標値を上回った場合は、改善策を検討してチャーンレートの低下を目指す必要があります。KPIを取り入れなければ問題点が明確にならず、適切な改善策も見出せません。
チャーンレートとLTVの関係
LTV(Life Time Value)とは、「顧客生涯価値」のことです。具体的には「ある顧客が生涯で企業にもたらす利益」を指します。
SaaSの浸透によって「売って終わり」から「売ってからが始まり」の時代に変わりつつある現状では、LTVを意識した施策は必須と言えるでしょう。顧客は、企業の商品やサービスへの愛着(顧客ロイヤリティ)が強いほどLTVも高くなるからです。
チャーンレートの低減を狙った施策も重要ですが、顧客ロイヤリティを高める基盤が整っていなければ、期待する効果は得られません。
LTVを最大化するためのアクションについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
チャーンレートの種類
チャーンレートには大きく2つの種類、「カスタマーチャーンレート」と「レベニューチャーンレート」があり、事業の内容によりどのチャーンレートを重視するべきかが変わります。
「カスタマーチャーンレート」は、顧客数の解約率をベースにしたものです。最初にご紹介した、1,000人の契約数中100人が解約した場合にチャーンレートが10%になる例は、カスタマーチャーンレートに当たります。
一方「レベニューチャーンレート」は、解約の結果減った収入をベースに計算します。サブスクリプションサービスのプランが1つの場合はカスタマーチャーンレートと同じ数値になりますが、複数の金額のプランがある場合は差異が出てきます。
カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)
上記にて解説したとおり、解約した顧客数をベースに解約率を計算したものがカスタマーチャーンレートです。単にチャーンレートと言った場合は、こちらを指すことが多いと言えます。
カスタマーチャーンレートの亜種として、「アカウントチャーンレート」もあります。
これは1人あるいは1社で複数のアカウントを契約している場合に考慮されるもので、アカウントごとに数えて解約率を計算します。
レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)
レベニューチャーンレートは金額ベースで計算する解約率であり、増収分を含めるか含めないかで2つの種類に分かれます。
「グロスレベニューチャーンレート」は、減収分のみを考慮し、減収を前月の定額収入(MRR)で除算することで求めます。
上記にて解説したとおり、サブスクリプションサービスのプランが1つのみの場合、カスタマーチャーンレートと同じ数値になります。
「ネットレベニューチャーンレート」では、増収分も考慮して解約率を求めます。
どのくらいの解約があるかを知るには適していませんが、増収分が上回った場合にマイナスの数値となるため、利益が上回っているかどうかを知る指標となります。
チャーンレートの計算方法
ここでは、上記にてご紹介した各チャーンレートの計算方法についてご紹介します。
カスタマーチャーンレート 計算方法
顧客数ベースのチャーンレートで、全体のユーザーのうち一定期間内でサービスを解約した率を表します。
- 【計算式】カスタマーチャーンレート = 今月失った顧客数 ÷ 前月の顧客数
アカウントチャーンレート 計算方法
会社数ベースのチャーンレートで、契約している全企業アカウントのうち一定期間内でサービスを解約した率を表します。
- 【計算式】アカウントチャーンレート = 今月失った企業アカウント数 ÷ 前月の企業アカウント数
グロスレベニューチャーンレート 計算方法
解約やプランダウンにより失った金額をベースとしたチャーンレートで、月初のMRR(Monthly Recurring Revenue:月次収益)でその月に失ったMRRを割って算出します。
- 【計算式】グロスレベニューチャーンレート = 今月失ったMRR ÷ 月初のMRR
ネットレベニューチャーンレート 計算方法
解約やプランダウンにより失った金額と、プランアップやクロスセルにより拡大した金額を合算したチャーンレートで、MRRチャーンレートと呼ばれることもあります。
- 【計算式】ネットレベニューチャーンレート = (ある月に失ったMRR - アップセルなどのMRR) ÷ 月初のMRR
チャーンレートというと、一般的には「カスタマーチャーンレート」を指すことが多いですが、「レベニューチャーンレート」もしっかりと押さえておく必要があります。
なぜなら、「レベニューチャーンレート」は、サブスクリプションサービスやSaaSモデルの成長において肝となる「ネガティブチャーン」に連動する数値であるためです。
チャーンレートのケーススタディ
1つのケーススタディを想定して、それぞれのチャーンレートをどのように計算するのかを見てみましょう。
あるサブスクリプションサービスで、2つのプランがあるケースを想定します。
ここでは計算を簡略化するため、同じ企業が別のプランには申し込まないこととします。また、プランのアップグレードとダウングレードもないものとします。
カスタマーチャーンレートでは、以下の部分を参照します。
20社の契約があったところ、3社の解約があったため、「3÷20」でカスタマーチャーンレートは「15%」になります。
アカウントチャーンレートでは、以下の部分を参照します。
40ライセンスの契約があったところ、6ライセンスの解約があったため、「6÷40」でカスタマーチャーンレートは「15%」になります。
グロスレベニューチャーンレートでは、以下の部分を参照します。
月額5,000円のプランが20ライセンス、月額20,000円のプランが20ライセンスあるため、期首では500,000円の売上があります。解約にて60,000円減ったため、「60,000÷500,000」でグロスレベニューチャーンレートは「12%」になります。
ネットレベニューチャーンレートでは、以下の部分を参照します。
期首は同じく500,000円で、解約で減った売上も60,000円ですが、新規契約によって65,000円の増額があります。「(60,000-65,000)÷500,000」という計算式になり、グロスレベニューチャーンレートは「-1%」になります。
サブスクリプションサービスやSaaS型モデルの成長において肝となる「ネガティブチャーン」とは
ネットレベニューチャーンレートは、顧客がサービスをアップグレード、アップセル、クロスセルしたことにより得た収益と、解約により生じた損失を合算して導き出す数値です。
ネットレベニューチャーンレートがマイナスとなった状態をネガティブチャーンと呼びます。
ネガティブチャーンがマイナスかプラスかで収益にどれほど影響があるのか冒頭で挙げたケースを例に挙げ、詳しく見ていきましょう。
初月の新規顧客からの契約が1万ドル、その後は毎月2万ドルずつ新規顧客獲得による契約金額が増えていくと仮定します(青色の点線)。
画像参照:Unlocking the Path to Negative Churn — For Entrepreneurs
緑、黄色、赤の実線はネットレベニューチャーンレートごとの収益を表しています。黄色と赤の実線は、毎月チャーンが2.5%と5%なので、徐々に収益が減っていく様子が確認できるかと思います。
ネットレベニューチャーンレートがマイナスでネガティヴチャーン(緑)となっている場合、収益が着々と積み上がっていきます。その結果、MRRにどのような差が生じるか。5年経過時点では大きな差が生じます。
画像参照:Unlocking the Path to Negative Churn — For Entrepreneurs
上図のようにネットレベニューチャーンレートが-2.5%と5%のケースで比較すると、およそ4倍の差が生まれます。ネットレベニューチャーンレートにおける数%の差が、5年経過すると非常に大きな収益の差となります。
つまり、この方程式は、アップセル/クロスセルなどでネガティブチャーンを積極的に狙う事で、サブスクリプションサービスやSaaSモデルを加速的に成長させていく事が可能となる事を表しますので、しっかりと頭に入れておきましょう。
アップセル・クロスセルについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
チャーンに直結する原因を把握する
それでは、チャーンレートの各数値が持つ意味を理解したところで、次にチャーンが発生する要因と対策について見ていきましょう。
まず、ここでは解約に直結する主な原因を3つ挙げて詳細に説明します。
1. 価格に不満がある
価格はユーザーが最も気にするポイントのひとつです。
高いと感じた瞬間、ユーザーがサービスを解約する可能性が高いです。
また一定期間無料で使用できるよう特典を与えて加入したユーザーは、無料期間が終了すると解約してしまう傾向にあります。
2. サービス内容に不満がある
ユーザーがこれまで使っていた機能やコンテンツに飽きてしまうと、サービスの利用頻度が下がってしまいます。
これが原因でユーザーがサービスを解約するのは十分に考えられることです。
3. 競合サービスへ乗り換え
ユーザーがこれまで使っていた機能やコンテンツに飽きてしまうと、サービスの利用頻度が下がってしまいます。
これが原因でユーザーがサービスを解約するのは十分に考えられることです。
チャーン(解約)の理由を把握する方法
それでは、チャーンに至った理由を把握するためにどのようなステップが必要となるでしょうか。
チャーンに至った理由を把握するには、「利用状況の把握」「顧客へのコンタクト」の大きく2つステップを踏む事が重要です。
ステップ1. 利用状況を知る
なぜ解約を検討しているのか、その理由を特定するのが最優先です。
そもそも解約を検討中の顧客はサービスのどの機能を使用していたのか、ログデータから分析します。
実際の使用率を見ることで、顧客にとってのサービス価値が把握できます。
また「ヘルススコア」を導入することで、顧客の状況をよりクリアに把握できます。
ヘルススコアとは、顧客の健康(チャーンリスクが低い)状態を図る定量的な指標です。
例えば、顧客の健康状態を「グリーン(4点)」「イエロー(3点)」「オレンジ(2点)」「レッド(1点)」といったように定義をして、カスタマーサクセス担当が顧客の中で、誰が一番解約の危険性があるのかを判断するための指針として用いられます。
HubSpotでは、主に以下の3つの要素からヘルススコアを機械学習で算出するような仕組みを活用しています。
- ツール使用率
- カスタマーサクセス担当とのエンゲージメント
- パフォーマンス(例:Webサイトトラフィックやリード増加数)
ステップ2. 顧客へコンタクトする
顧客の現状を把握できたら、次は顧客へアプローチを行います。
この場合はメールだと返信が来ない可能性もあるので、顧客に電話することをおすすめします。
さらに過去の解約抑止実績などを踏まえて、顧客とベストコミュニケーションが取れる担当者を割り当てるようにしましょう。
その際、担当者から現状の利用状況を踏まえてサービスをより便利に使える機能や契約プランの見直しなどを顧客に提案します。
まずは、上記の2つのプロセスをしっかりと踏んでチャーンに至った理由をできるだけ正確に把握するよう努めましょう。
チャーンの理由を把握するために押さえておきたい重要な指標について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
チャーンレートを低減させる6つの施策
それでは、実際にチャーンを食い止める施策としてどのような方法があるでしょうか。ここではチャーンに至りやすい原因に合わせて以下の5つの施策を順番に紹介します。
- すでに備えている機能などをわかりやすくまとめる
- 価格体系の見直しを行う
- カスタマーサクセスを立ち上げる
- SaaSビジネスを促進させるソリューションを導入する
- 解約されるサービスや顧客との関係を調べてサービス設計に反映させる
- リテンションを向上させる
施策1. すでに備えている機能などをわかりやすくまとめる
サービスが持っている機能が十分伝わらず、ユーザーが使いきれていなかったため、チャーンに至るケースは頻繁に見受けられます。
その際は、既存の便利な機能などをしっかり伝える施策が求められます。
この場合、まずは顧客が自走して課題を解決できるようなヘルプページの準備、およびサービス機能の使い方動画などを、ステップごとに送るメールなどが有効的でしょう。
施策2. 価格体系の見直しを行う
競合他社と比較した際に価格面で劣っていると見なされるケースもあります。
このような場合は月額プランだけでなく、月額費用を抑えた長期プランの提案なども有力です。
また、顧客属性(企業の大きさやニーズ)に分けて価格体系を複数準備する事も有効的です。
HubSpotがチャーンレートの改善に成功したのも価格体系を顧客属性別に分けたからでした。現在では、HubSpotのプランは3製品 × 3プラン存在しています。請求システムの再構築など、非常に大きな労力がかかりましたが、大きな成果を挙げられました。
以下、HubSpotにおけるチャーンレートの推移を実数字で公開いたします。
CAC:顧客獲得コスト
MRR CHURN:チャーンレート
AVG MRR:月次経常収益
SOFTWARE MARGIN:ソフトウェアの利益率
LTV:顧客生涯価値
価格体系などが細分化されていない場合は、是非ともトライしてみてはいかがでしょうか。
施策3. カスタマーサクセスを立ち上げる
SaaSビジネス界隈を中心に着目されているのが、カスタマーサクセスという概念です。
カスタマーサクセスは、受動的に顧客の要望を満たすためだけをサポートするのではなく、顧客の成功(事業の成果)と自社の収益とを両立させることを目指し、能動的に顧客に対して働きかけます。
カスタマーサクセスをもっと詳しく知りたい方は、下記のブログを参考にしてみてください。
施策4. SaaSビジネスを促進させるソリューションを導入する
世の中には、サービスを契約している顧客とのコミュニケーションを促進するソリューションがあります。
このソリューションを用いると、顧客との長期にわたるリレーションシップを構築し、売り上げを安定的に向上させることが期待できます。
そのソリューションのひとつが「Zuora」です。
Zuoraは世界で約800社が導入しており、請求書発行機能だけでなく、データを分析して顧客のダウングレードや解約のライフサイクルを分析して、継続に直結する提案を行えます。
このようなサブスクリプションビジネス支援プラットフォームを活用することでチャーンレートの低減が可能になるかもしれません。
施策5. 解約されるサービスや顧客との関係を調べてサービス設計に反映させる
解約されるサービスの種類や契約している顧客の企業規模や業種などの関係を調査して相関を取ることも有力な施策です。
調査を進めると中小企業が解約する割合が高いサービス、大企業であまり使われていない機能などが明らかになるかもしれません。
これらを踏まえてサービス設計することで、チャーンレートの低減に結びつきやすくなります。
施策6.リテンションを向上させる
継続利用してくれる顧客を確保するためには、顧客との関係維持を意味する「リテンション」に注目することも大切です。
効率的なリテンション施策を行い、優良顧客をロイヤルカスタマーに育成すれば、企業の継続的な成長と成果に結びつきます。
リテンションについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
また、ロイヤルカスタマーを増やすために、いかに顧客へ提供する価値を最大化させればいいのか、以下の記事でスターバックスなどの具体例を用いて解説しています。
チャーンレートはビジネスの成功に欠かせない指標
チャーンレートはSaaSの成否を大きく左右します。
新規顧客の獲得数が多くても、チャーンレートが高い数値を示せばビジネスの先細りは明白です。そのため、SaaSビジネスの成長のためにはチャーンレートの定期的なチェックは欠かせません。
チャーンレートを低くしていくには、自社が顧客の本当に求めているニーズに応え、価値を提供できているのかについて向き合う必要があります。
そうして商品やサービスをより良いものへアップデートすることで、ビジネス、ひいては企業が成長していくでしょう。

