カスタマーサクセスは、顧客がどの程度のサポートを必要としているかによってハイタッチ・ロータッチ・テックタッチという3つのタッチモデルに分類できます。
なかでも、ハイタッチは最もサポートの内容が充実しており、1対1の関係で徹底してフォローを行います。それにより顧客満足度が高まり、LTV(顧客生涯価値)の向上に大きく貢献します。
本記事では、カスタマーサクセスにおけるハイタッチの特徴や具体的な施策、事例などを解説します。
カスタマーサクセスにおけるハイタッチとは
ハイタッチは、カスタマーサクセスで活用する3種類のタッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)のひとつです。
本来、カスタマーサクセスは顧客の成功を支援することで顧客満足度を高め、結果として商品・サービスの継続率やLTVの向上につなげるのが目的です。その施策の内容はタッチモデルごとに違いがあります。
ハイタッチでは、顧客と1対1できめ細かいサポートに徹するのが特徴です。
例えば、顧客から直接課題をヒアリングしてKPI策定をサポートするほか、定期ミーティングでマイルストーンを確認するような方法があります。また、現場視察できめ細かいサポートを行うのもハイタッチの施策のひとつです。
顧客が抱えている課題や悩みをじっくりと聞き出したうえで、ニーズに添った適切なアプローチができるため、顧客満足度の向上につながりやすいといえるでしょう。
3つのタッチモデルにおけるハイタッチの位置付け
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの3つのタッチモデルは、対象となる顧客の母数によって次のようなピラミッドを形成します。ピラミッドの上層ほど対応する顧客数が少なくなるのが一般的です。
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの違いは次の通りです。
- ハイタッチ:
アプローチ方法:個別の顧客に充実したサポートを行う 施策の一例:定例ミーティング、目標設定のサポート、現場視察、QBR - ロータッチ:
アプローチ方法:一度に複数の顧客をサポートする 施策の一例:研修・セミナー、勉強会、トレーニングプログラム - テックタッチ:
アプローチ方法:テクノロジーを駆使して大多数の顧客をサポートする 施策の一例:FAQ、チャットボット、チュートリアル動画、メール配信
ハイタッチは1対1で充実したフォローを実施するため、多くのリソースが必要になります。そのため、必然的に対応できる顧客数が限られてしまいます。
- 製品に対する顧客のリテラシーや習熟度によっては、ハイタッチ単体よりもロータッチやテックタッチの施策を併用するほうが、カスタマーサクセスの効率性が高まる可能性があります。
ハイタッチ領域に顧客を分類する際の基準
カスタマーサクセスでは、顧客が必要とするサポートを提供するのが基本です。顧客を3つのタッチモデルに分類し、それぞれに適した施策を実施することで、各顧客に対して最適なサポートが実施できるでしょう。
ハイタッチ領域に顧客を分類する際の基準は、「顧客の状況」と「製品の特徴」の2軸で考えることができます。複数の項目を組み合わせて分類しても良いでしょう。
顧客の状況に合わせて分類する場合、その基準は次の二通りがあります。
- 製品に対する顧客のリテラシー
例:
製品に対する顧客のリテラシーが不足している場合、初期設定方法がわからない、あるいは各種機能を最大限に活用できず不満を抱えてしまう可能性が考えられる。そこで、顧客をハイタッチに分類し、個別の質疑応答やハンズオンセミナーなどを設けてリテラシーの向上をはかる。 - 製品に対する顧客の習熟度
例:
顧客が製品の使い方に慣れていない、または慣れるのに長い時間を要している場合、何らかの問題が製品の組織への浸透を妨げているのかもしれない。そのため、顧客をハイタッチに分類し、現場視察によって実際に製品を操作するユーザーの悩みや疑問をヒアリングする。
製品の特徴に合わせて分類する場合は、次のような基準が参考になります。
- 製品の単価
例:
ハイタッチの施策は、ほかのタッチモデルに比べて多くのリソースを割く必要がある。自社製品は業界の平均価格よりも高額な部類に位置するため、ハイタッチを実施する十分な余力があると考えられる。 - 製品を使いこなすための難易度
例:
チャットツールのような機能がシンプルな製品に比べ、グループウェアのような豊富な機能を搭載している製品のほうが、使いこなすための難易度が高いといえる。自社製品は後者に分類されるため、システムの実装初期段階で悩みや疑問が発生しやすい。そこで顧客をハイタッチに分類し、充実したアフターフォローを行う。
カスタマーサクセスにおけるハイタッチの5つの施策
カスタマーサクセスのハイタッチにはどのような施策があるのでしょうか。ここでは、ハイタッチの代表的な施策を5つご紹介します。
- オンボーディングプログラム
- 成功指標や目標設定のサポート
- 定例ミーティング
- 現場視察
- QBR(四半期ごとのビジネスレビュー)
1. オンボーディングプログラム
オンボーディングプログラムとは、製品導入直後に特化した支援を実施する方法です。
顧客が製品を導入した直後の段階は、「導入期」や「オンボーディングフェーズ」と呼ばれています。この段階では、初期設定を行ったり各種機能に慣れたりと、顧客が製品を使い慣れていない状態なので、悩みや疑問が生じやすい傾向があります。顧客の不満が溜まると、解約につながる可能性もあるでしょう。
とりわけ操作や機能が複雑な製品は、導入期で十分にフォローを行い、製品に対するリテラシーや習熟度を向上させることが重要です。具体的には、個別のハンズオンセミナーやWeb会議を開き、顧客の課題に添って解決策を提示する方法があります。他社の導入事例の紹介や導入代行を実施するのも良いでしょう。
2. 成功指標や目標設定のサポート
顧客に対してヒアリングを行い、ビジネスにおける成功指標や目標を設定します。KGIやKPIの設定、ロードマップの作成、ロードマップ上でのマイルストーン設置などの方法が代表的です。
顧客が自社製品を導入したとしても、目的や目標が明確になっていないケースも考えられます。目的や目標があいまいな状態では、適切な効果検証ができず、顧客に自社製品の価値を実感してもらうのが難しくなります。そのため、ときには他社の事例をあげつつ、顧客と協力しながら基準値を定めると良いでしょう。
3. 定例ミーティング
個別の定例ミーティングは、製品の使用状況を把握するのに効果的です。自社製品が顧客の組織へと定着するまでの進捗状況を確認しながら、製品に対するリテラシーや習熟度の変化を探ります。
例えば、顧客がまだ製品を使いこなせていない状態であれば、引き続きハイタッチの施策を実施すると良いでしょう。顧客が製品の使い方に慣れ、定着化に向けて順調に進行している場合は、ハイタッチからテックタッチへと徐々に移行し、課題の自己解決を促すのも方法のひとつです。
4. 現場視察
現場視察とは、実際に現場で働く従業員の意見を参考にしながら課題解決策の提案を行う方法です。特にBtoB向けの商品やサービスを提供している企業にとっては、現場視察がカスタマーサクセスを実現するための有効な手段となります。
BtoBビジネスでは、購買担当者と、購入した製品を実際に操作する現場担当者が異なるケースも珍しくありません。購買担当者と現場との間に、現状の課題に対する認識のズレが生じていることもあります。
このような状態でいくら購買担当者に支援を行っても、肝心の現場担当者が抱えている課題は解消されません。その状態が続くと、自社製品が本来の強みを発揮できなくなります。
現場担当者の意見をヒアリングすることで、製品を利用するうえで生じるリアルな悩みや疑問を把握できます。技術的な課題や悩みを抱えていることも想定し、テクニカルサポートや技術部門の担当者を同行させるのも良いでしょう。
5. QBR(四半期ごとのビジネスレビュー)
QBRは、顧客が成果指標や目標を達成したかどうかを確認するうえで効果的な方法です。四半期ごとに顧客の状況や成果を確認し、必要に応じてロードマップの調整や新たな戦略立案を行います。
QBRを実施する際は、自社製品を利用するベネフィットを顧客に再認識してもらうことが重要です。
事前に設定したKPIが一定水準を超えた顧客は、すでに製品を利用するなかで効果を実感しているはずです。その状態になったタイミングで、顧客の競合他社が得ている一般的な成果や成果達成状況といった比較的な視点を提示することで、顧客が享受しているベネフィットを客観的に理解してもらえます。
顧客が自らのベネフィットを強く意識すれば、ロイヤルティや顧客継続率の向上に寄与します。
カスタマーサクセスでハイタッチを実施する際のポイント
顧客への伴走的な支援を実現し、満足度を高めてもらうには、施策を実施する際に次のようなポイントを意識することが大切です。
自社のリソースを把握したうえで対応範囲を決める
ハイタッチでは個別の顧客に向けて施策を実施するため、ほかのタッチモデルに比べて金銭的・人的コストがかかります。そのため、自社のリソースや予算の範囲内で実現可能な施策を考えることを意識しましょう。
顧客によっては、ハイタッチほど充実したサポートは必要ないこともあります。自社のコストを抑えられるロータッチやテックタッチを採用することも検討しながら、それぞれの顧客にとって最適なサポート内容を考えることが重要です。
ハイタッチ実施に向けて適正な人材を登用する
ハイタッチは1対1で顧客に充実したサポートを行うコンサルティングのようなものです。そのため、ハイタッチ領域の担当者には、課題把握力や提案力、コミュニケーション能力など高度なスキルが求められます。
ハイタッチの担当者として有力な候補の例として、普段から顧客と接し、課題解決をサポートしているカスタマーサポートエンジニアがあげられます。また、顧客の課題解決とともにアップセルやクロスセルの提案までフォローできる営業担当者もハイタッチの担当者として適任といえます。
部門間でスムーズな情報共有を行う
営業部門とカスタマーサクセス部門が分かれている場合、顧客が製品を購入・契約した段階で、顧客情報を営業担当からカスタマーサクセス担当へと引き継ぐのが一般的です。部門間での引き継ぎを行う際は、企業名や担当者名などの属性データだけではなく、達成すべき目標や現状の課題といった詳細な情報を共有する必要があります。
部門間のスムーズな情報共有を行うには、営業活動のあらゆる情報を一元管理できるSFA(営業支援システム)や、さまざまなシステムに散在する顧客情報を1か所に集約できるCRM(顧客関係管理)ツールが効果的です。
カスタマーサクセスツールを活用する
顧客の現在の状態を把握するために、カスタマーサクセスツールを活用するのも方法のひとつです。
カスタマーサクセスには、導入期・定着期・拡大期と3つのフェーズが存在します。フェーズによって顧客が抱える課題が異なるため、各段階における顧客の現状やニーズを正確に把握することがカスタマーサクセスの実現へとつながります。
カスタマーサクセスツールを活用すれば、顧客の行動プロセスに合わせて、オンボーディングプログラムの達成度や製品に対する習熟度などを可視化できます。現状、顧客がどのフェーズにいるのか、どのような支援を求めているのかなどを明らかにすることで、適切なアクションプランの策定や施策の実行が可能です。
複数のカスタマーサクセスツールを比較したい方は、こちらの記事をご覧ください。
ハイタッチを有効活用している企業事例
ハイタッチを実施している企業の事例は、自社の課題分析や具体的なアクションプランの策定に役立ちます。ここでは、ベルフェイス株式会社と株式会社マルケトの事例をご紹介します。
1. ベルフェイス株式会社|すべての顧客を対象としたハイタッチ施策
オンライン商談システム「bellFace」を提供しているベルフェイス株式会社は、「ハイタッチの対象=契約金額の大きい顧客」といった一般的な棲み分けではなく、契約したすべての顧客にハイタッチの施策を実施するというコンセプトを採用しています。
ハイタッチ領域のカスタマーサクセス担当者は6名。ベルフェイス株式会社の顧客は約1,000社存在しているため、1人あたり150社以上を担当している計算です。
すべての顧客に効率良く施策を実施できるよう、顧客を「Success・Growth・Rescue・Mogura」と4階層に分類し、顧客層に合わせて打つべき施策の比重を変えています。例えば、Success層に分類される顧客には控えめの支援を、Mogura層の顧客には徹底したフォローをというように仕組み化することで、全顧客へのハイタッチを実現させています。
参考:顧客の状況に合わせて適切なタッチ、ベルフェイスに見るカスタマーサクセスの仕組み化|ITreview Labo
2. 株式会社マルケト|カスタマーエンゲージメントの行動プロセスを体系化
株式会社マルケトは、MA(マーケティングオートメーション)の「Marketo」を販売しているSaaS企業です。同社のカスタマーサクセスは、カスタマーエンゲージメントの行動プロセスを体系化している点に特徴があります。
カスタマーエンゲージメントとは、顧客との関係を維持・強化するための一連の活動のことです。同社は、一過性の成功ではなく顧客の永続的な成功を支援できるよう、カスタマーサクセスをカスタマーエンゲージメントとして再定義しています。
ハイタッチ領域では、顧客へのアンケートや定例ミーティングで個別の課題を明確にしたうえで、目標達成に向けた進捗状況の確認や戦略の策定・実行支援を行っています。個別対応が必要な顧客に対し、質問すべき内容や課題を把握するためのチェック体制といった体系的なプロセスを構築することで、効率的な施策の実施につなげています。
参考:カスタマーサクセスでなく"カスタマーエンゲージメント"。マルケトの顧客との向き合い方と、人気のユーザーコミュニティーとは|ITreview Labo
ハイタッチ以外の施策も含んだカスタマーサクセス全般の事例は、こちらの記事で解説しています。3つのタッチモデルを組み合わせつつカスタマーサクセスを成功に導きたい場合に、ぜひ参考にしてみてください。
カスタマーサクセスでは顧客の課題解決につながるハイタッチの施策を拡充しよう
ハイタッチでは多人数の顧客を一度に相手にするのではなく、1対1で丁寧なフォローを行うため、顧客の課題を的確に捉えたうえで最適なアプローチができます。
顧客の成功は、満足度の向上や自社製品の定着につながり、結果として継続率やLTVの向上が実現できます。
ハイタッチの施策を効果的に実施するためにも、顧客が置かれている立場を十分に把握し、顧客を的確に分類することが大切です。CRMやカスタマーサクセスツールといった管理ツールを活用して顧客への理解を深め、課題やニーズに合わせて適切な施策を実施しましょう。