クラウドサービスをユーザーに対して定額料金で提供するSaaS(Software as a Service)は、ユーザーがコストを抑えてサービスの利用を開始できるのがメリットです。
しかし、サービスの単価が低いことから、企業側の視点で考えると買い切り型の商品やサービスに比べて、開発などにかかった初期費用を回収するまでに時間がかかるのがデメリットになります。
SaaS事業を展開する企業は、健全度(ユニットエコノミクス)指標の算出が大切であり、なかでも重要な指標となるのがLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客創出コスト)です。
本記事では、LTVとCACを使った数値の算出方法や、LTVとCACが重要な理由と改善方法を解説します。
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LTV/CACはSaaS事業の健全度を測る指標
LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客創出コスト)により算出される指標は、ユニットエコノミクスと呼ばれます。
ユニットエコノミクスは、顧客あたりの経済性や採算性を把握できる指標です。サブスクリプションサービスの急成長に伴い、SaaS事業の健全度を測れる指標として重要視されています。
LTV/CACについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
LTVとは?
LTVとは「Life Time Value」の略語で、「顧客生涯価値」と訳されます。顧客が自社と取引を始めてから、終了するまでにもたらす価値を表す指標です。LTVの高い顧客は、企業やブランドに対して忠誠心や愛着心を持ってサービスを利用していると考えられます。
LTVの算出方法はいくつかありますが、一般的に「顧客単価×平均購買頻度×継続期間」で割り出されます。
例えば、顧客単価が5,000円、平均購買頻度が3か月(年4回)、継続期間が3年のケースを見てみましょう。LTVは5,000×4×3=6万円となります。
LTVを高めるには、顧客が満足する商品やサービスを通じて価値を提供することが重要です。それにより、LTVの指標に関わる顧客単価や平均購買頻度の向上、継続期間の延長などの良い影響がもたらされ、企業の収益につながります。
CACとは?
CACとは「Customer Acquisition Cost」の略語で、「顧客創出コスト」と訳されます。新規顧客を1人(1社)創出するのにかかる総コストを表す指標です。CACは、「顧客創出にかかった総コスト÷新規顧客数」により算出されます。
例えば、顧客を5社創出するのにかかったコストが300万円の場合、CACは300÷5=60万円です。
CACには、営業コストだけでなく、広告宣伝費、人件費、交通費など、顧客創出に関わるすべての費用が含まれます。
仮に、CACがLTVより高い場合、新規顧客がもたらす利益を新規顧客の創出コストが上回っているということになり、健全な事業状況とはいえないでしょう。
LTV/CACがSaaS事業で重要視される理由
SaaSはユーザーにサービスを継続利用してもらうビジネスモデルです。買い切り型の商品・サービスと異なり、開発などにかかった初期費用を回収するまでには時間がかかるため、中長期的な販売プランをもとに事業を進める必要があります。
そこで重要になるのが、LTVとCACによって算出される「ユニットエコノミクス」と呼ばれる指標です。
ユニットエコノミクスは中長期的な事業の健全性を測れるのが大きな特徴で、事業への投資状況や新規顧客創出にかけたコストの回収見込み、顧客1人あたりの採算性などを把握できます。これらは、短期間の利益計算ではわからないものです。
例えば、CACが10万円で、新規顧客1人あたりの月の利益が5,000円だとします。この数字だけを見ると赤字ですが、LTVが30万円だとするとLTV/CACは3倍です。1人あたりの顧客にかけたコストの3倍の利益が得られ、中長期的には黒字が見込めることがわかります。
LTV/CACの比率は3倍が目安
一般的に、LTV/CACの比率は3倍が目安とされています。その理由を知るためには、CAC Payback Period(顧客創出コストの回収期間)への理解が必要です。CAC Payback Periodは、「顧客創出コスト÷(1顧客あたりの平均月間売上)」により算出される指標です。
LTV/CACを式変形すると、「1÷(チャーンレート×顧客創出コストの回収期間)」となります。
SaaS事業で理想とされるCAC Payback Period は12か月といわれているため、その基準をもとに考えてみましょう。このとき、LTV/CACが3倍だと、チャーンレートは1÷36=2.777%となります。
これは、BtoBのSaaS事業で良好な状態とされる「チャーンレートが3%未満」を満たしています。
このように、SaaS事業における好ましい水準を満たすことから、LTV/CACは3倍が目安とされています。
LTV/CACを改善する方法
ユニットエコノミクスを向上させるためには、LTV/CACの数値を改善する必要があります。LTV/CACの数値を改善する方法は、LTVを高める方法と、CACを抑える方法の2つです。
それぞれの項目に分けてみていきましょう。
LTVを高める
LTVを高めるためには、次の方法が効果的です。
- 顧客単価を高める
- 購買頻度を増やす
- 利用継続期間を増やす
それぞれ具体例を交えながら解説します。
顧客単価を高める
顧客単価を上げると、自ずとLTVは高まります。顧客単価を高めるには、より上位の商品やサービスを顧客に提案するアップセルや、関連する商品やサービスを購入してもらうクロスセルが有効です。
このとき、自社の利益ばかりを意識するとうまくいかないので注意しましょう。大切なのは、顧客を第一に考えることです。「上位の商品やサービスを購入する価値がある」「関連する商品やサービスを購入することで利便性が向上する」と顧客が感じられ、納得したうえでお金を支払うことで顧客単価が高まるのが理想的な形といえます。
購買頻度を増やす
LTVの計算式には、購買頻度が含まれています。そのため、購買頻度を増やすことも、LTVを高めるには有効です。
購買頻度を増やすには、メルマガで顧客との接触回数を増やす、定期的にオファーをかけて購買サイクルを短くするなどの方法がおすすめです。その他、商品やサービスをアップデートし、機能・性能に優れた最新の商品・サービスの利用を提案するのも効果的でしょう。
このときも、自社の利益最大化のみを考えるのではなく、「顧客を満足させるにはどうすれば良いのか」と顧客視点を持つことを意識しましょう。
利用継続期間を増やす
顧客が商品・サービスを利用する期間が長くなれば、LTVは高まります。
アフターサポートやカスタマーサポートの内容を充実させると、顧客の企業に対する信頼感や愛着心が高まり、結果的に長期間の利用につながるでしょう。CRM(顧客関係管理)を導入して、顧客一人ひとりを深く理解し、顧客の状況に応じて最適なオファーをするのも効果的です。
また、チャーンレート(解約率)を下げる取り組みも重要です。価格の再設定や顧客が求める機能の実装などに取り組んでみましょう。
CACを抑える
CACを抑えたい場合は、次の方法に取り組んでみましょう。
- 広告の費用対効果を見直す
- 顧客管理ツールを活用する
- CVRを上げる
広告の費用対効果を見直す
CACを抑えるには、広告の費用対効果を検討する必要があります。コストがかかっている割には成果が上がっていない媒体や広告手法を見直し、より広告効果の大きい所に重きを置いた施策を取りましょう。
具体的には、媒体やターゲット選定、広告を展開する時期が適切かどうかなどを確認します。
広告と平行して、検索エンジンからの自然流入を目指すSEOによる施策も有効です。広告のような即効性はありませんが、中長期的に安定した流入が期待できます。
顧客管理ツールを活用する
CRMやSFA、MAなどの顧客管理ツールを活用すれば、CACの低減につながります。顧客情報を細かく、そして効率的に管理できるようになるためです。営業やマーケティング、顧客の購買意欲の醸成など、他部署にまたがる業務を効率化できれば人件費や広告費を含めたCACを抑えられるでしょう。
各種ツールの導入にはコストがかかりますが、導入コスト以上にCACを抑えられるのであれば、利用を検討する価値があるといえるでしょう。顧客管理ツールには数多くの種類があるため、業種や自社のビジネスモデルに合致したものを導入してください。
CVRを上げる
CVRが高まると、同じコストをかけた場合に創出できる顧客数が増えるため、結果的に1人あたりの新規顧客を創出するコストを抑えられます。
- 集客から販売までの動線設計を吟味する
- CVのハードルを下げる
- 購入プロセスをスムーズにする
CVRを高めるには、上のような施策が有効です。ぜひ取り組んでみてください。
ここまで、CACを抑える方法を具体的に解説してきましたが、CACは必ずしも低いほうが良いとは限りません。CACが極端に低い状態は、新規顧客を創出するための適切な投資が行われていない状態と言い換えられます。
「LTV/CAC比が3倍」を一つの目安に、CACを調整してみましょう。
LTVとCACからSaaS事業の健全度を見直そう
SaaS企業やサブスクリプション型のビジネスを展開する企業は、LTVとCACへの理解が欠かせません。これら2つの数値を用いてユニットエコノミクスを算出すれば、事業が良好な状態か、健全に運用できているのかを把握できます。
LTV/CACの比率は3倍程度が目安です。この範囲内に収まるように、LTVを高めつつ、CACを抑える施策に取り組んでみましょう。